死に賜う 5/5
“わあのこどは、乳井ど呼んでけえ”
為信は、薬師乳井の馬の後ろさ乗る。……感情の起伏ば、どうせばいか。怒ればいか、叫べばいんだか、はたまた嘆けばいが。……一つ問う。
「なあは、このごど知っちゃあだか。」
乳井は否定すた。したばって己の仲間には “救民” の軍勢さ参加すてら者もいるという。
……かつて、乳井は岩木山さ住んであった。二年前の正月のこと。一揆勢さ大寺ば落とされたとき、彼らは出羽の羽黒山で修行すてあった。帰る寺ば失い、各々特技ば生かすて暮らすてら。
すばらぐすて、大浦家が軍勢ば募っちゅうと噂っこ流れたという。だばそこさ協力すて、岩木山の復興ば成すえようど仲間らは考えた。
…………
日は山さ隠れ、月昇る。為信は大浦城さ戻った。家来らはまんず喜び、急いで軍議の場へと連れだすた。
兼平や森岡ら臣は、甲冑で身ば固める。城の周りは松明で輝く。いつ出陣すてもい、万全の態勢だ。
広間にて。為信が上座さ着くと、一同はひれ伏す。
落ち着いだ声っこで、皆さ問う。
「今は、どんだ状況だ。」
兼平は答える。
「はい。大浦家ば騙る “救民” の軍勢は、堀越ば落どし、石川城ば占拠。千徳の援軍ど共に、ただいま大光寺城ば攻めでおります。」
「首謀者は誰なんず。」
森岡は大声で怒鳴った。罵った。
「あの、科尻ど鵠沼だ。はっはっ……笑えら。」
科尻ど鵠沼は大浦家の名ば使い、軍勢ば募った。かつて大光寺の “山奥で秘密裏に兵ば集めちゃあ”話は事実。
森岡はさらに声ばり上げた。
「鼎丸様ど保丸様。お二人の命は奴らの元さあり。主筋が盗られだぞ。」




