不穏 5/5
薬師は脈ばとり、額さ手ば当てた。なんぼか質問し、それさ基づいて有り合わせの漢方より薬ば作る。
……見だところ優秀らすく、あっちゅう間に一つこすらえてまった。薬師はしゃべる。
「殿は若えはんで、自力で治すてまった。たんだ……もうわんつか養生はいるんた。それまではこれば飲んでけえ。」
為信からは、笑みがこぼれた。そったふうにできる余裕も生まれてら。薬師も表情ばやわらげ、侍女も安心しちゃあ。ここで薬師は目くばせばすた。
「こっからは女子のいね方がいいんだばって……。」
侍女は男性特有の話っこかと思い、その場から退いだ。薬師はだまって足音の離れるのば聴いてら。そったにも慎重なんだか。
すると、急に改まった。そすて口ば開く。
「面松斎殿のごどだばって。」
面松斎……。ある時からぱったりと会わねくなった。なすてその名ば出す。
「わーも、彼の占いば頼る身だ。」
今は鯵ヶ沢から高山稲荷さ戻ったという。先日、占ってもらったそうだ。なすて移ったかと問うと、そこまでは教えてもらえねがった。ただ……。
「何が起ごるがもど、におわせでおいでですた。」
起こったのは確かだ。裏切りば疑われ、家来二人の八戸まで密行。さらには兼平の娘ばも差す出すた。
「薬師にでぎるごどどしちゃあ……こんきぐれえな物。」
そうしゃべると、白えちゃっこい包みば差す出すた。
為信は問う。なんなんだばと。
薬師は答えた。
「毒消すの薬だ。」
……いざというとき、使ってけれ。