不穏 3/5
……二人ば待ってら間、一日千秋の思いが続く。無事に戻れっか、信直様から一筆頂くことができるか。大浦家の運命がかかっちゃあ。
そったとき兼平は話っこあると、為信の書室さ参上すた。……彼の素性ば教えると、兼平氏は遠く大浦の分家より発する。名は盛純と言い、今年で四十五さなった。年頃の娘と元服済みの息子がいる。
娘の名ば久子というばって、郡代の政信さ側室とすて差す出すよう提案すてけた。兼平はしゃべる。
「まんずは殿の養女さして、そのうえで石川家さ嫁がせます。」
為信はむずがる顔っこ。兼平さ問う。
「養女どしゃべれ、一応は年下だばってろ……そったに変わらねえべ。」
兼平は、落ち着いた様子で答えた。
「家の為だ。」
……すなわち、人質だ。これで石川家は安心するべし、政信さ可愛がられたら、たんげいいびょん。子も生まれれば、石川と大浦の関係は強固なものとなる。
ばって為信の気は引ける。はたすて、そったにやらせていいべか。家来にいらね負担ば押す付けてらようだんた。兼平は察すたのか、次のようにしゃべった。
「……家来は、家の為に尽ぐすもの。存分に使ってけれ。」
為信は “これが戦国の世だべ” と、改めて感ずた。わんつか他人事のような感も受けるが、それはまだ厳すい世界ば知らねだけか。
いや、“厳すい” だけなら知っちゅう。がっぱど出来事ば経験すてきた。だが、為信さ待ち受ける運命。それは過酷で悲惨、自らの手も汚す。
……~そっから十日以上経ち、鵠沼と科尻はみごと役目ば果たすた。無事に八戸さたどり着き、信直と面会、一筆ばいただき大浦城さ帰参。次に政信さ書状は渡され、兄のしゃべる言葉さ弟は従いざるば得ねかった。大光寺は……まんだ疑っちゃあばって、口ばつぐむ。
そこへ、養女久子の縁談ば持ち掛ける。大光寺はそいだばとたんげ喜び、一周忌の法要は無事に行われることさなった。
落着すたところで気っこ緩んだか、為信はまね風邪ば引く。