火は放たれた 5/5
同日、万次は科尻と鵠沼も呼ばった。稲荷の社殿で、仲間たちが談義する。外の暗闇とは別に、よけえな灯で中は明るい。
“火っこ放だれだ”
三戸での騒動は、津軽さも飛び火す。その動きば使わね手はね。誰もがそう思った。
万次は科尻と鵠沼さ問う。
「準備は進んでらが。」
二人は静かにうなずいた。がわりの者は不敵な笑みば漏らす。万次はその皺だらけの顔っこばにやつかせちゃあ。
「……我たちはがづで、相川西野ど仲間だった。彼らは石川らの軍勢ど戦った。つまり我たちの敵は石川ともいえる。」
固唾ばのむ。
「今、石川の敵は誰だ。それごそ九戸だ。……敵の敵は味方。つまり、我たちど九戸は仲間どだりえる。」
万次は講釈ば垂れだ。
「そった風に、相手も思ったらすい。あぢらより使いが来だ。」
“おおっ” と歓声が上がる。ある者が問う。
「ばってよぐまあ……わーらのような者さまで味方に付げるべど考えちゃあな。」
九戸は、何とすても津軽の牙城ば崩すたい。万次は続げだ。
「あぢら必死なんだべ。たんだ……最近になってかでた者らもいる。勝ぢ目はすでに見えでらぞ。」
破顔すた。
酒ば呑め呑め、鯨肉ば食いへ。今日は前祝いだ。自ら奥より大樽ば運ぶ。豪勢な食い物ば野郎さ運ばせる。
万次はでったらだ器ば持ち、トクトクと清酒ば注ぐ。大口ば開けで、がっぱど飲み干すた。ある者は踊り、ある者は歌う。すでに正月が来だがのようだった。
“我らが津軽ば征する”
これは、夢でね。