火は放たれた 3/5
日っこ暮れて、丸い月が上がる。火の勢いは弱まり、遠けからは黒い塊にすか見えね。
為信は火が収まったのち、早急な住居再建ば命ずた。暮らしちゅう村人の為であるし、これは野戦時の陣地構築の訓練さもなる。夜だはんでとしゃべっても、戦は待ってくれね。
計画すてから今日までに整えた材木は、大浦城より運び出された。元から城さ蓄えてら分もあったはんで、不足はね。
為信は、本陣より金槌の響く音ば聴く。村民の住処は木の小屋がたんげで、総出でかかれば二日三日で終うびょん。雪降る前にすべてが済む。
来るべき戦さ備える。今回の訓練は、でったらだ収穫だ。
……兵らの中さ、科尻と鵠沼もいた。材木ば運ぶ手伝いばすてら。二人の心には一抹の不安。果たすて、企みは良くいくのかどうが……。山の向こうで起こった “屋裏の変” にかって、時期は早まった。
絶対に漏れてなんね。大浦家ば乗っ取り、万次党が決起するために。
為信と親すい他国者は……小笠原だば我たちで何とかなる。問題は……面松斎。万次様とも親すい彼から為信さ話ば伝われば、なんもまねくなる。
“面松斎を捕まえよう”
二人の意見は一致すた。ずっと万次様の傍より離さね。
……すばらくすて、ドカ雪っこ降った。そった時、二人は面松斎ば呼ばる。“我たち二人のことば占ってけれ” と高山稲荷で落ち合うことさすた。
夜、地面ば駆けてら動物たちはねぐらさ帰る。その足跡にはちっけえ物やでけえ物がある。月明かりは辺りの白原ば照らし、その窪みの黒ば一層際立たせた。
新たに人の足が加わる。面松斎は久すぶりに高山稲荷さ戻るべと、ひたすら歩ぐ。輝がすい光が遠けに見えてきた……もうわんつかでつく。
この人物、偽占い師だとこで、己の運命ば見ることはできね。




