毘沙門堂 5/5
堂ば囲む後ろさ、信直の味方が現れる。晴政の軍勢ば挟み撃ち。火縄への恐れも重なり、兵らは逃げ惑った。丘ば下り、迫る敵ばはねのけ、元来た方さ引き返しちゃあ。
ただす晴政はふとともば撃たれたはんで、思うんた風に動けね。周りにいた兵らは仕方なすにその重え体ば支え、一時だけの隠れるところば探すた。……すると、猟師の納屋が目さ映る。急いでその中さ入る。
信直の兵はそれば見逃すていねかった。すぐさまお上さ報告す、彼はその納屋ば鉄砲隊で囲む。立場は逆転すた。
信直は、兵らにわざと壁の上側さ目標ば向けさせた。そすて乱撃ちばさせる。……実はいうと、さきた晴政の右のふとももば撃ったのは正確だった。心の臓ば狙うより、永遠の苦すみば味合わせらべという考えだ。
納屋の中は、銃声さ怯える羊ら。すでに命は敵のもの。
……信直は、笑顔だ。月の光さ照らされると、それは人間界のものでね。悪霊が乗り移ってらんた。
一刻過ぎ、大半の敵兵は逃げ去ったころ。屈強な武者が馬さ跨って、信直の方さ近づいてきた。彼は晴政の企みば教えてけた北信愛だ。
北はたんげ深刻な顔で、でったらに怒鳴る。
「何ばしちゃあんだな。」
信直は平然と“主君殺しよ” と答えた。北は続ける。
「なあば思い憚って、難がら避げていだだぐべどお教えたのに……馬鹿殿。」
そうしゃべるなり、信直の頭から兜ば奪い、力強く投げ捨てた。
「城では大殿ば救うべど、他方さ援軍ば頼んじゃあ。九戸勢はもう暇かで到着。そうなれば……こった小勢などひとだまりもね。私どで、なあば討だざるば得ねぐなる」
“ふん、妻の仇だ。魂ば救うだめだ”
北の、あぎれようは半端ね。
「なにば……翠様は生ぎちゃあ。」




