毘沙門堂 3/5
「“見放され”どはなんなんだば。」
信直は鋭い眼光ば放つ。使いは答えた。
「んだば。娘の翠様は大殿ど喧嘩ばなさり、城ばお出になられだ。その後は行方知れず、自害すたど伺っちゃあばって。」
信直の家来らは慌ててまった。中でも泉山は額さ手ばあて、“なんちゅうことば……”と戸惑いば隠せね。信直には妻のことば秘密にすてたのに。
信直は初めて聞く。愛する妻が死んだこと。たんげ冷静でいられねかった。ほかのことだっきゃ…動ずねえびょん。
心ばできるだけ落ち着かせるべと、目ば瞑り心さ手ば当てる。……鬼は、姿っこ見せた。
信直はいきり立つ。その場で宣言ばすた。
「晴政ば討づ。」
家来で止める者はいねがった。まんず止められるわけね。使いの者は急いで帰ってく。
"……毘沙門堂か。林に囲まれた丘の上さあり、石段は百もある。私は三戸さ参上するどき、むったど泊まっちゃあ。晴政はぎっと、そごば囲んで一網打尽にするづもりだべ"
……逆手に取る。
信直は家来のいる部屋ば後に、館にある倉庫さ向かった。その中でも奥、たんげ奥。
長え木箱が十ある。そのうちの一つのふたば開けると、布さ何重にも覆われた長え筒。
“晴政は、火縄の威力ば軽く見ている”
信直には先見の明がある。前々から蓄えてきた代物……。家来のえりすぐりば集め、訓練ば重ねてきた。初めで役に立つときが、まんず主君殺しとはな……と、己の不思議な運命ば想う。
数日後、信直一行は田子より三戸さ出発。三戸城より川ば挟んだ向かい側、毘沙門堂さ入った。
戦の火蓋、切って下される。