妻との別れ 4/5
今度の年貢は望めねえ。ヤマセは弱く、日は高々と暑く照りつけ、作物の育ちもいかった。ばってでったらだ嵐で、がぱっとなぎ倒されてまった。
株大根のような土物はいいばって……米はまね。農民の暮らすさ直結する。この分だば田子はおろか、三戸辺りも不作だびょん。
信直は家来らさ命ずで、自らも率先すて後片付けば始めた。家ば失った者ば館に呼ばり、誰かが死んだ家さは葬儀ばだすてける。田畑も共に耕すた。これぞ為政者の鏡だ。
……救民さ明け暮れで、夏は過ぎようとすてら。そったとき、いくでね話が三戸からもたらされだ。家来の泉山早馬で、畑ば耕す信直の元さ参上すた。
彼は息ば切らし、今にも倒れそうだ。信直の泥がついてら顔っこば見るなり、そのかすれた声っこで訴えた。
「大殿、大殿が……。」
“なした。大殿がどうすたのだ”
「兵ば集めております。」
周りの者は鍬ば止め、泉山さ目ば移す。彼は続けた。
「大殿は兵ば集め、若ば討たんとしちゃあ。」
泉山は、その場で力尽きる。体は横さ倒れ、気ば失った。慌てた周りの農夫は彼ば館へと運び、気が戻るのば待った。
……南部晴政は、田子信直ば討たんと五千の兵ば集めた。“信直はまんだ離縁せず、それはきっと後継の目ば諦めてねえはんでだ” そのように九戸政実は讒言すた。
泉山はその話っこば聞き、飛んで田子さ戻ってきたのだ。
信直は憤りば隠せね。台風の被害で民が苦すんでらこったときに、何ば考えちゃあんだかと。田子と三戸も荒れ様は同ずと聞く。大殿さ、民の声っこ届かねのか。
本来だば、こちらが引き下がるいわれはね。正々堂々と戦ってもい。
すかす……民は戦ば望まぬ。特にこのたびは無益の極み。お家の内輪もめ。
……信直は隣にいたった農夫から手拭いば借り、泥っこ付いた顔ば拭いた。そすて、離れさある一室へと向かう。