妻との別れ 3/5
夜さなり、風っこたんげ強くなる。信直は外付けの廊下ば歩き、離れにある一室さ向かった。そこさは妻の翠姫と娘の美が住まう。
襖ば開けると、翠姫は幼えわが子ば抱いで、ゆったりとあやすてら。妻は信直さ気付くと、“そろそろ木戸も閉めて、備えねばまいねじゃ” と、にこやかな表情でしゃべってく。
信直は襖ばすめる。翠は赤子ばつぐらのゆりかごに移すた。すやすやと眠っちゃあ。
信直はその様ば見で、わんつか安心すた。同ずくすて、心の中さ何かが込み上げてくる。おもむろに傍さ座す、次に妻の両肩ばつかんだ。翠は不思議そうな顔で見つめてく。
「どうしたんべか。」
信直は肩から腰さ手ば移す、|かが(妻)ば抱きすめだ。
静かだばって、力強くしゃべった。
「守るはんで、絶対に守りぎる。」
翠は何も知ね。改めて主人の顔っこば見ると、どこか寂すそうだんた。
……すばらく、そのまま互いの体は動かね。翠は口ば開いた。
「……何かあったんだが。」
信直は、ちっちぇえ声で返すた。
「おめは、知らねんでい。」
外では風のみならず、横なぶりの雨も加わった。台風は、南よりこちらへ迫ってく。いつものように、夜のうちに抜けるかも知れねばって。
……木戸ば閉ずると、ガタガタと音っこ鳴る。そった中、二人は布団さ揃って眠りについだ。信直の心は外とは違い、だいぶ落ち着きば取り戻せであった。
朝。雨風は止む。木戸ば開けると、庭先には割れた瓦がわったとあった。苦した信直は、むったとの簡素な青い直垂ば身に着け、館より下さ見回りに出た。
田子の田畑は荒れ果て、木々の小枝がいたるところさ落ちてら。屋根ごと潰されでら家もあった。