最後の鷹狩り 4/5
長え太刀ば持ち、左腕には縄ばつりさげる。鹿は目の前さ迫る。間近さく。もうわんつか、わんつかだけ……今だ。太刀は、鹿の首根っこば刺す。
“おおっ” と皆々歓声ばあげる。さて縄で縛って仕舞いと、武者は太刀ば鞘さ戻す。
……すると、鹿は突然暴れ出すた。足ば高く上げ、今にも武者さ襲い掛かるべとする。
固唾ばのむ。武者は何とか踏み切って逃げるべと|すたばって、縄が鹿の体と絡まってまり、思い通りにはいかね。周りの者も助けに行くべと走った、その時。
辺りに爆音が響く。
ここは田舎者の集まり。初めて聞く者も多く、慌てて耳ばふさいだ。
……為信は鹿さ向かって撃ったのだ。獣は、心の臓ばやったはんで、動きはねくなる。武者は間一髪で命拾いばすた。
為信は皆から称賛ば受けた。その筒は何なんずと、触らせてけれと大勢寄ってく。為信は次の火薬と弾ば込め、もう一度遠けさ撃つ。まんだ爆音とともに、生い茂る草ば颯爽と通り抜けた。自然と拍手が起きる。
席さ座ったまま遠目で、石川高信も見てらった。隣の政信さ耳打ちする。“信直だんたな” と。政信は “んだ、津軽さも扱える者がおるどは” とたんげ驚いちゃあ。
……わんつか経ち、田子信直も到着すた。最初に遅れたことば釈明す、父さ許すば乞うた。父高信は “よい、よい” と優すくなだめた。彼の奥方は肌触りのいいちゃっこい布ば、高信の額さ当てる。とめどなく出る汗ば丁寧にふき取ってあった。
信直は、神妙な顔つきになる。そすて、父さしゃべった。
「わっきゃ……大殿の子が男だば、家督ば辞退すます。」
父は息ば一つ出す。“んだな” といった感ずで、信直さしゃべった。
「戦国の世は、生ぎでごその大事だ。」
父は傍らに置いてら水筒ば、息子さ渡すた。信直はその蓋ば開け、ぐいっと飲む。そすて兄は弟さ残りば渡す、弟も同ずようにぐいっと飲んだ。奥方はその様ば見で、微笑む。
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津軽弁MC たろっく@青森盛り上げ請負人
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