他国者とは 5/5
小笠原さけた屋敷は、かつて逃げたんた農民が住んでらったとこだ。年貢ば払いきれねえで、どこかさ消えた。そったあばら屋の庭先。
……彼は標的の藁巻きばめがけ、ひたすら槍ば前さどん突く。"えいやえいや" とも掛け声ば発せず、寡黙な様ば際立ってら。
その姿の横さ、屋敷の中で科尻と鵠沼がしゃべってら。両人とも同ず信州の出で、このたび小笠原ば支えるという名目で大浦家さもぐりこんだ。
科尻はしゃべる。
「……次の戦は、羽州の鹿角と聞く。」
鵠沼は応える。
「ああ。安東が南部から土地を奪った。その仕返しだ。」
「ここで小笠原殿が目立つように活躍してくださらんと、企みは潰える。」
……二人は、万次の手駒。
小笠原の戦働きと誠実さで、周りの信頼ば勝ち取る。その裏っこで科尻と鵠沼は企みば進める。
本来だば、かつての一揆は勝ててらんだ。二人の中さはその自負はある。
相川西野の乱。他国者の相川と西野という二人の大将ば中心に蜂起すた事件。万次も裏で協力すてらった。勢力が外ヶ浜より津軽西浜さ及んだとき、こちらでも決起する約束だった。
だばってまんず簡単に郡代ば討つことができたはんで、敵ば甘く見るようさなった。そこさ気のゆるみっこ生まれる。ほんずねえばって、相川と西野は主導権争いば始めたのだ。
その隙ばついて、今の郡代である石川高信は大軍ば率いて攻めてきた。なるべぐすて、負けたのだ。
だはんで、仲間割れがおきてねかったら十分に勝ててら。相手は大軍だばってろ、前郡代ば寡兵で討った経緯がある。
二人は、木窓より小笠原ば覗いだ。彼は真剣そのものだ。
鵠沼はわんつか静かめに訊ねた。
「小笠原殿は、どうする。」
科尻は答える。
「奴は、知らない方が幸せさ。戦のみ考えていればいい。」