岩木山、雪の陣 4/5
「安心せい。理右衛門のじぇんこは、あらんどさ全て平等に配る。約束だ。これで皆、へずね思いばせずにすむな。」
そう万次がしゃべると、腹の底からわったと笑った。
……正直、甘く見てらった。後悔もすてら。他国者と在来の民の話しっこなど……できるんだか。為信がそう思ってらと、面松斎は小声でしゃべってくる
「他国者とで、悪い人間ばかりではありませぬぞ。」
……んだ。んだった。ここさいる。……それにここさは他国者だけでね、在来の民でも同ずように振る舞うやつもいる。あった奴らが他国者さわったどいるだげ。
戦国の梟雄 “津軽為信” になるのは、もうわんつか先だ。
為信は途中まで面松斎と山ば下り、そこからは雪すかね原野ばあさぐ。次第に雲は薄くなり、日っこ差すてきた。雪もやんだ。地面、輝く。
陣さ戻る。白え幕ば手で上さよけ、兵士らの中さ入る。家来衆とは違い、兵士たちは為信の帰還ば素直に喜んでくれた。まんず我らの殿さまであるから。
為信は気ば取り直す、大声で叫んだ。
「和は成った。一揆勢は今夜中に引ぎ上げる。」
兵士らは歓声ばあげた。早く帰りてえ一心だった彼らは、為信の快挙さ喜んだ。誰も、こった寒びっつらく外さいたくね。
千人のその雄叫びは、家来衆ばも驚かせた。森岡などはたんげ悔すがり、“一揆勢は嘘ばづいで、こぢらば油断させるべどすていねが” ど勘繰る始末。
為信の大浦軍は、今夜は付陣すたままとし、明日の朝に岩木山の大寺ば接収。確認っこ取れ次第、引き返す運びとなった。
すかす……異変起きたのは夜。兵士らがねむりかけす始めたころだ。
大浦軍ば遥かに凌ぐ人影、東南より近づく。……あれは一揆勢か。
……いや違え。




