温泉
突然目の前が真っ暗になった。
何も見えない、何も聞こえない
どうしようかと少し悩んでいると遠くに小さな光が見えた
何1つ見えない世界の中でただそれだけを頼りに歩き始めた。
*****
転移先で初めて見たものは俺だった。
うん、自分でも何言ってるのかよくわからない、でもやっぱり正面に写っているのは俺だ。
つまり正面には鏡がある。
まずは…所持品確認。
……………特になし
おい!えっ?裸?それは流石にきつくないか?
せめて洋服くらいは一緒に転移させてくれてもいいと思ったんだが…。
今まで見てきたどんな異世界転移系ラノベでも初期装備なしの裸はなかった。
予想外すぎてヤバい。
それとも…転生だと間違えて洋服なしでいいとでも思ったのだろうか?確かに服を着た赤ん坊が生まれてきても怖い………いや、それはないだろう。
たぶん…嫌がらせにすぎない。ひどいよ…
どうしよう…
裸じゃ変態じゃないか…
いや、もしかしたら俺の考えで服を着るのが常識なだけで、こっちの人はオープンな人達なのかもしれない。うん。そう考えよう。決して神さまの嫌がらせではない。
と、いろいろなことを考えて思考をある1つのものから遠ざけようとしていた。しかし、現実は俺にしっかりとそれを突きつけてくる。
うん。しっかりくっついてる。本当にしっかりと
俺の腹に願った道具がバッチリと
所持品はゼロというわけではなかった。腹に道具?ポケットだから…服の一部ではあると思う。
引っ張って取ろうとしても体が悲鳴をあげるだけである。
今の俺の外観は、某有名アニメ青いタヌキ型ロボットのポケットが全裸の高校生男子にくっついてると言った感じである。誠に嘆かわしいです。
裸を見せる機会はそんなに無いと思うが、見られたらヤバいことだけはわかる。普通の人間ではない。それと、もう一つ重要なのはポケットの中身が入ってるか入ってないかということだ。
もし、入っていなかったらヤバい。ヤバすぎ
ヤバいを連呼しすぎてヤバい。
俺が恐る恐る自分のポケットには手を入れようとした時。
カッポーン。
その聞き覚えのある気持ち良い音を聞いて俺は自意識の中から戻ってきた。この聞き覚えのある音はたしか、銭湯の桶を置いたり落としたりした時になる音だ。とっさに周りを確認すると…ここは脱衣所?
みたいな部屋になってる。
近くの一つの籠の中には高級な洋服のようなものが何枚かある。
それを見て絶望。
やっぱり洋服あったんだ。嫌がらせだったのか…
その後、またパコーン、ガラガラガラッと何か物音が外から。
ドアを開けると…そこは
薄い霧があった。そして視界いっぱいに広がるのは、とても綺麗な緑と青が混ざった空のような色を発している濁り湯と思われる温泉。
凄く気持ち良さそうだ。
絶対入ったら気持ちいい!
効能とかも異世界産だから凄そう、俺は裸だったのでなおさら入りたい。
てか、神さまが裸で転移させたんだから温泉に入れとの天啓だろう。
ケンカ別れしたからじゃない裸にしたんじゃない、温泉に入られるためのはず………はず…
温泉にはいろうと少し手を入れて湯加減を確かめていると
「イテテ、なんなんだ?あいつらは、ちょっとくらいは良いではないか!」
中年の少しぽっちゃりとしたおっさんが全裸で腰を痛めて倒れている。
温泉の周りにある柵の方に桶を積んで台にした跡があり、その台の奥からは若い女の声が聞こえる。
うん。
これはアウトだ。完全に覗きだ。
たぶん隣を覗こうとして顔を出したら気がついた女子に桶でヘッドショットされてあの綺麗な音がなったのだろう。おっさんの頭にできた傷がそれを物語っている。
気持ちはわかるが温泉ではマナーを守りたいと思う。
「おい、そこの兄ちゃん、ちょっ手を貸してくれよ。」
おっさんが何か言っているが無視が一番。
触らぬおっさんに祟りなし。
「おい!おーい。聞こえてるかー?おい!」
ついに桶を投げてきやがった。
俺はそれを間一髪に避ける。
「なんですか?てか、いい大人になってまで何してるんですか?まったくもって羨ましい!」
少し煩悩が混じったが、まぁ言いたいことは言ってやった
「転んだ拍子にギックリ腰になっちゃって立てないんだよ!助けてくれよ!」
まぁこのくらいなら
「はぁ、はい。」
「ありがとさん。君は私に勘違いしているかもしれない、私は変態ではない。安全確認のために隣をのぞいたのだ!私は紳士だ!」
こいつっ!どんだけ下手な言い訳なんだ!
しかも腰に手をあてて、お粗末なものブラブラさせながら堂々と言い切りやがった。
「はぁ、まぁ俺的にはどっちでもいいですけど」
「いや、私には重要なことだ!私のプライドが許さない!」
じゃあんなことしなけりゃいいのに…
「ちなみに、少ししか見えなかったが柵の向こう側には2つのグループで女子がいたんだが、そちらの片方がえらいべっぴんさんだったぞ!それはそれは凄かった!」
「いや、もう確信犯じゃないですか。」
「まぁまぁ堅いことは知らん。それより強力してくれないか?その様子だと君のエクスカリバーは未だ新品、一度でも、女子の裸を見て見たいとは思わんか?」
「いや、マナーは守りましょうよ……てか、失礼だな。」
「お前さん、協力してくれたら何でも君の言うことを聞こう!だから頼むから!」
おっさんが俺の前で土下座している。
次に入ってくる人がいるかわからないが、この場面を他の人に見られるといろいろめんどくさいのと、この世界のことを何一つもわからない俺としてはこの世界の情報が欲しい。
だから受け入れることにした。
決して煩悩は混じっていない。男がここまで頼んでいるのにそれを否定するのは俺自身のマナーに反する!
知らない温泉のマナーより大切なのは確実!
「よし!そこまでするならわかった。その条件でのもう。でも…
俺にもその景色見させてくれよ!」
「もちろん!さすがだ相棒!」
いつのまにか友達を飛び越えて相棒になっていた…
ガシッと2人の全裸の男が握手を交わした。
その光景はまるで絵画のようだったと思う。(嘘)
*****
と言ったものの、それが難しいことがわかった。
肩車をしようとすると相手のエクスカリバーを首に突きつけてしまうことになる。
グニャっと首にあたる感触が気持ち悪いので男2人全裸での肩車はとても高難易度であり、肩車を維持するのが難しく長くは保たない。
ちなみに俺は肩車している方だ。
バレないようにおっさんがゆっくり覗こうとしている。
……………。
俺は異世界転移してきた実感が、腹以外に全く無い。
異世界転移して早々俺は何やってるだろう…。
そろそろヒロイン出てきます。