06 王都ゼナス
このお話はフィクションです
ここの文言を書くのに手間取って 更新が遅れた事は秘密です
俺は今、猛烈に後悔している。
ゲームの世界の中から、おそらくは『異世界』へと転移した反動だろう。この異世界に到着した途端に俺の全身を激しい痛みが襲った。
例えるのなら、皮膚の内側の肉や内臓の全てが挽肉にされているのを感じているような痛みだ。
いや。自分の肉を挽肉にされた事なんて無いんだけどね。
ただ、他に表現のしようが無い程、その表現通りの痛みが全身を駆けめぐっている。もう、うずくまって、冷や汗をかきながら、ただひたすらに耐えるしかない状態だ。のたうち回れるのって、それだけ余裕がある状態なんだなぁ、なんて心の片隅で考えたりもしていた。
「おい! 大丈夫か? しっかりしろ!」
ミィが焦りまくっている。一言言っておかないと、エリクサーでも使われかねないな。
「たぶん、世界を越えた事による、身体の作り直しなんだと思う。しばらくは、このまま耐えるしかないな…。それまでは、ちょっと、待っててくれ…」
漸く、それだけは絞り出せた。
後は、この痛みが退くのを待つだけ。そんな事を考えながら耐えていたけど、暫くして意識が無くなったようだ。気が付くと、『目を覚ました』状態だった。
「う…、あ~…」
全身が強ばっているが、あの痛みは無くなったようだ。
「気が付いたか? 痛みはどうだ?」
ミィが心配して声をかけてきた。間髪入れずに言ってきた所を見ると、ずっと付き添っていたようだ。
「あ~、大丈夫。痛みは無くなったよ。でも、身体全体が重い感じだ」
そこで漸く起き上がる事が出来た。
「痛みが引いたのなら……、って、誰だお前は!」
なんだ? ミィが脅えている。
「どうした? なにか変か?」
「お、お、お、お前は、ケンタ、なのか?」
「え?」
何だろう? なにか、別のモノに変化してしまったのだろうか? 見える所だと、俺の両手も、ポンチョも俺の記憶にある姿と変わらない。武器である自動拳銃も、一度引き抜いて再びホルスターに収めてみるも、いつもと変わらなかったと思う。
でも、妙に生々しい感触ではある。
何というか、今までの事が夢だったかのように、今がリアルに感じられるんだ。手に付いた砂の感触も、一粒一粒がしっかりと感じられる。
え?
今更ながらに、ここがゲーム世界じゃ無いってことに気が付いた。
もしかしたら、現実なんじゃないのだろうか?
俺は、ブーツの側面にベルトで縛り付けてあるナイフを引き抜いて、その側面を覗き込んだ。
できれば、鏡とかが有れば良かったんだけどな。
で、ナイフの側面に俺の顔が映った。
俺だった。
まごう事なき俺だった。
「え? え? なんで? なんで、現実の、俺の本当の姿になってるんだ?」
「現実の、本当の姿? それが、ケンタの本当の身体なのか?」
「ほ、本当の身体かどうかは判らないけど、この姿は、あの遊び場用に作った身体じゃなくなっているようだ。でも、装備品はあの遊び場の物なんだよなぁ」
一応、ミィの許可を取って、近場の木に向かって銃を撃ってみた。
うん、しっかりと反動を感じたし、木の幹にも穴が開いた。でも、いくらマグナム弾とはいえ、直径四十センチは有りそうな木が真っ二つになるのはおかしくないか? しかも生木だよ?
「威力が強すぎるような…」
「確かに、向こうで見た威力の数倍はありそうだな」
魔法も試してみる事に。案の定、向こうの魔法は使えなかったが、ミィから教わったこちらの魔法は使えた。一応、試しにと、魔石を仕込んだ手袋を外してみたが、その状態だと魔法自体が発動しなかった。
「この身体でも、魔石は持っていないって事かぁ。この身体が現実の俺の身体って言う可能性が、少しだけ増えた感じだな」
「あっちの世界では、代理の身体を使って遊んでいたんだよな。それで、死ぬ事もなく戦えていたって話しだが、もしかしたら、その身体だと、普通に死んでしまうのか?」
「その可能性が少し増えただけ、って事で、真実は判らない。まさか、試してみるって訳にもいかないしな。まぁ、死ななければいい、ってだけだけど」
「死ななければ、ってのは、当たり前の話しではあるが。なんというか、お前にはすまない事をしてしまったようだ」
「まぁ、まぁ。アレを見てみろよ」
俺が俺の後ろにある、異世界への出入り口を指差す。そこには、微かにだけど向こう側が見えていた。
「帰れる可能性は充分にある。って事で良いと思うよ。まぁ、あの痛みを伴う可能性があるから、頻繁には試したくないけど」
「う、うむ。だが…」
「それよりも、ミィの方の用事を済ませよう。誰か、助けたい人がいるんじゃないのか?」
そう言って、俺はミィに手を差し出した。ミィもその腕によじ登り、定位置である俺の肩に跨った。
そして、俺の異世界での旅が始まった。
まぁ、直ぐに町に着いて、そこから馬車に乗り込んだんだけどね。
お金はミィがたっぷり持っていたようで、馬車の中でミィに金銭価値の講義を受けた。
まぁ、良くある異世界モノの定番だけど、一般庶民は鉄貨、大鉄貨、銅貨、大銅貨を主に使っているそうだ。お金の単位も余り浸透していないようで、ほとんどが大鉄貨何枚などという扱いになっている。物価は、握り拳程度の丸いパンで、鉄貨三枚から五枚程度。相場や店によって変動するらしい。鉄貨十枚で大鉄貨になり、大鉄貨十枚で銅貨になる。銅貨十枚で大銅貨で、基本的に大銅貨十枚で銀貨になるけど、一般庶民の間では余り使われないそうだ。
握り拳ほどの丸いパンを百円程度で換算すると、大鉄貨が二百円、銅貨が二千円、大銅貨が二万円相当という事になる。すると、銀貨は二十万円相当って事で、その単位の金は、両替するのも苦労するとか言う話しだった。
まぁ、貴族御用達とかの大店なら、銀貨以上の金を使うそうだけどね。
一応、それ以上の金についても聞いてみた。
銀貨十枚で大銀貨。大銀貨十枚で金貨。金貨十枚で大金貨。そして、大金貨十枚以上だと、額縁のような金の板になるそうだ。二十億円相当、って何円? って聞きたくなるような単位だな。俺には縁が無い数字だし、普通の貴族でも見た事がないって人の方が多いらしい。基本的に、国と国の取引に使われる事があるらしいが、ほとんどが大金貨で済ませるのが通例になっているそうだ。
そして財布。
大銅貨までは、皆革袋に入れて持ち歩いているそうだが、銀貨以上になると箱を使うそうだ。
銀貨と大銀貨なら角を金具で補強した、ボックスティッシュ程度の大きさの木の箱で持ち歩くらしい。まぁ、執事とか付き人とかが命がけで持ち歩くらしいけど。
金貨や大金貨だと、一枚一枚が教科書サイズの金属の箱に入っているらしい。まぁ、二千万、二億とかの金だから、宝石並みの扱いってのは当然か。
俺には縁のない桁の話しよりも、一般庶民の生活レベルの方が気になるな。
俺はパン一個を百円相当と勘定したけれど、生産量や流通、製造の関係で、俺の知っているパンとは価値が全く異なる。
簡単に言えば、小麦生産農家の一人が、年間にどのくらいの量の小麦を作り出せるかで価格が変わるわけだ。
ミィに確認した所、やっぱり完全に手作業だった。すると、農薬などの生産技術や作業の機械化で百倍以上の差が付いていると想像出来る。
その生産された小麦を運ぶのも、道路やトラックが無いと、数十倍の差が出るわけだ。
そして製造は、個人のベーカリーがパンを焼いて販売する場合を比較しても、バターや塩の入手や、かまどの燃料を考えると、やっぱり数十倍の差が出ると予想される。
全部を掛け合わせると、数万倍の差が出る事になる。
俺の世界だと、パンは食パン一斤、菓子パン一つが百円程度で買えるが、同じ基準で考えると、菓子パン一つが百万円とかにもなってしまう。
これは、何処かで、誰かが割を食っているって事になるな。
まぁ、ミィに詳しく聞いてみた所、荷運びはアイテムボックスの簡易版が有り、馬車一台分で一般の家が二軒は入る様なモノもあるらしい。大型の鳥形従魔を使役していれば、山越えも簡単だという事だった。馬型の従魔の背に乗せるタイプのアイテムボックスも有り、途中で魔物に襲われても、荷物を失わずに逃げる事も可能だと言う事だった。
農作業自体も、畑の護衛兼、重労働担当の牛型従魔が居て、手作業ではあるけれど、結構な収穫量を確保出来ていると言う事だった。
パンを焼くかまどだけど、火は個人の魔法や、火の魔獣を使役したりして、パン以外にも便利に使っているそうだ。
なんか、俺の考えた素朴な農作業とはかなり違ったようだ。そうか、魔法や魔獣が居る世界なんだよな。
パンが三~五鉄貨。スープが三~五鉄貨。シチューが五~十二鉄貨、大鉄貨一枚と二鉄貨。コレに、肉を焼いたモノが大鉄貨一枚~二枚程度。
パン、シチュー、肉のコンボで、大鉄貨四枚。パン一個が百円相当だと、八千円とかになっちゃうな。だとすると、丸パン一個が十円から二十円ぐらいなのかも?
結論としては、円換算は意味がない、って事だな。
宿屋が、個室があるタイプで最低一泊銅貨一枚。上はキリがないとして、銅貨二枚もあれば充分に休める部屋が取れるそうだ。
銅製の鍋とかは大銅貨一枚から二枚。鉄製の剣だと、銀貨相当になる事もあるとか。まぁ、鉄の武器や鎧関係は、鉄そのものを多く使うし、個人の魔法力じゃ賄いきれないほどの火力が必要で、燃料として薪や炭を使うので高くつくそうだ。
服は、古着は大鉄貨で買えるモノもあるけど、新品だと大銅貨になるのが基本だそうだ。
結婚式の衣装とか祭りの衣装とかはレンタルが有り、それでも銅貨数枚から大銅貨ぐらいはすると言う事だった。
まぁ、下着関係は鉄貨から大鉄貨ぐらいの間である、らしい。
後、大きな町での『色買い』についても説明をするかと聞かれたけど、夜の女性とお金で遊ぶ事だと気付いて、途中で遮った。
実際はミィ自身も現場を見た事は無いそうだけど、相場は知っているから無駄に損する事は無いぞ? とか言われたんだけど、この世界のこの身体でそう言う事が出来るのかは謎だし、最悪、この世界に縛られる原因になるかも知れない。
さすがに、この世界に骨を埋める覚悟は出来ていない。
基本的に、用事が終わったら元の世界に戻りたいしね。
馬車は、途中の中継所で一泊し、翌日には王都に到着した。
馬車を降りて、ミィの案内で進むと、なぜか王城の前まで来ていた。
馬車は町の外周に近い位置にある広場で下りたんだけど、その後、町中を走る乗合馬車に飛び乗り、約二十分程度揺られて到着したのがここだ。
位置は町のほぼ中央。小さな町ならすっぽりと入ってしまうほどの敷地で、城前の広場だけでもサッカーのフィールドが入るぐらいの面積は充分にある。
その広場をテクテクと歩き、城門の前に到着した。
後で知った事だけど、貴族とかは家紋入りの専用の馬車を使い、商人とかは側面に当たる『御用門』と呼ばれる出入り口を使うそうだ。
つまり、城とは全く関係のない俺が、この広い空間を歩いて正門に近づく、って事自体が要警戒の不審人物ってわけだ。
おいおい……。
案の定、俺を見つけた門番の兵士が、仲間に声をかけつつ、槍を構えて俺の到着を待っている。
なんか、胃が痛くなりそうだ。
そして、門の前、十メートルほどの所に到着。
なんか、綺麗な房飾りの付いた制服を着た隊長さんらしき人物が、一歩前に出てきて綺麗な礼をした。
「ようこそお客人。ここは、アルアナ大陸において花も麗しき都と謳われたゼンチェス王国が都、ゼナスに相成ります。本日は、ゼンチェス王国が王城に、如何様な御用となりましょうか?」
この文言は、貴族ではないけれど、要人と思しき人物に使用する定型文だそうだ。貴族に対しては本人確認のための文言を使うし、商人や出入りの業者はこの門を使わないけど、もし来た場合は名前と要件を言えと簡潔に命令するそうだ。
という事で、俺は不審者だけど、念のため要人扱いされたって事だな。
そこで、俺の肩に乗っていたミィが片手をあげて挨拶した。
「よう、ごくろうさん」
「こ、これはミィ殿! 気付かずに大変失礼致しました!」
隊長さんだけじゃなく、他の兵士も全員、畏まって頭を下げている。
「構わない。あ、それと、この男は重要な協力者で、身元はわたしが保証するから、制限無しで通してやってくれ。それと、アリーシャにも連絡を」
「はっ! 畏まりました。ただいま馬車を用意致しますので、暫くお待ち下さい」
そう言うと、他の兵士も含めて、皆があたふたと動き出した。
「ミィは国のお偉いさんだったわけか?」
「わたしが偉いんじゃなくて、リーシアの血筋が偉いって感じなんだけどな」
「えっと、百二十年ぐらい前に、ミィが助けた女の子だったっけ?」
「おお、良く覚えていたな。その通りだ」
馬車が来るまでに聞いた話しによると、そのリーシアという女の子から数えて六代目のアリーシャという女王の娘を助けたいという事だった。
七代目? って聞いてみたけど、七代目は姉の方が才覚を現しているので、あくまで予備になるそうだ。まぁ、お年頃になったら、誰か好きな人とか、関係の深い貴族とかに嫁に出す事になるだろう、って言ってた。
でも、ミィにとっては、妹の方が思い入れが強く、どんな人生だとしても幸せになって欲しいそうだ。
聞く所によると、ミィが助けたリーシアに面影が似ているらしい。
それに、そろそろミィ自身が、ここの王族との繋がりを絶とうという予定もあったそうだ。ぬいぐるみのクマというのは仮の姿であり、実質は魔獣だというのはミィ自身が判っている。そんな化け物が、由緒正しい王族に関わってて良いとは思えない、という事だった。
「それぞれの子の幸せを確認していくうちに百二十年だからなぁ。もう、わたしなぞに関わりがあるというのも負担でしかないからな」
「何かあったのか?」
「まぁ、今は裏でそう噂されている程度だがな」
城では多くの人が働いている。それだけ人の出入りがあり、新参者の方が古株よりも多いのが現状だそうだ。すると、ミィの存在自体を疑問にする存在も常に増えていく計算になる。いくら王族が全幅の信頼を寄せていたとしても。いや、信頼されているからこそ、有りもしない疑問を持つようになるという事だった。
俺から見ると、単に妬みってだけなんだけどな。
だけど、それが一番恐ろしいそうだ。『妬み』は積み重ねれば立派に『恨み』になり、それは『恨み』を持った者を中心に周りを歪めていく。
その歪みが王族に降り掛かるのが怖いという事だった。
「それは判らないでもないけど、別に『ミィ』が居なくても、別口で同じような事が起こるんじゃないのか? それはいいのか?」
「まぁ、そこまで言ったらキリがないしな。そもそも、それ自体が人が克服すべき課題の一つであろう。それがわたし自身が原因だと、一度克服したとしても教訓にし難いみたいでなぁ」
「人間であれば、直ぐに『過去の話』って事にできるってわけか」
「まぁなぁ」
最後はあまり身の入った返事ではなかった。すると、別の思惑があるのか? よくミィを観察してみようと思ったけど、ここで城内専用の馬車が到着してしまった。
「早速ですがお乗り下さい。すでに陛下がお待ちになっています」
黒塗りだけど、金での飾り付けが上品にあしらわれた馬車に乗り込む。一応は四人乗りの馬車みたいだけど、大きさ的には六人ぐらいは乗れそうだ。
そこにミィを肩に乗せた俺が座り、その対面に文官らしき職員が座る。
馬車の周りには騎士の馬が四騎併走し、さらに全速力で走る歩兵らしき者も数人居る。
なんか、護衛というよりも護送という感じがしないでもない。
そして到着したのは、城の敷地の中でも端の方にある、三階建てのお屋敷の前だった。
部屋数だけで百近くは在りそうな立派な屋敷なんだけど、ミィはしきりにキョロキョロと周りを騎にしている。
「どういう事だ? ここは宰相殿の私邸ではないのか?」
そのミィの言葉が合図のように、ワラワラと全身鎧を着た兵士が走り出してきた。その数三十。元から居た騎士と合わせて三十四。他に軽鎧の兵士が五十ほど居る。
「どうやら、最後の手段に出たようだな」
ミィのつぶやきが聞こえた。つまり、王女を助けようとするミィが邪魔だと考えるヤツが居るってわけだ。それが、ミィが帰ってきたので焦って実力行使に出た、という所か。
騎士達は綺麗に俺たちを取り囲み、何か装飾のついた長い杖を取り出していた。その数は十二本。そして、十二本全てを、俺たちの周りに配置して地面に突き刺した。
そして地面に十二の頂点を持つ魔法陣らしきモノが現れる。
いや、立派な魔法陣なんだろう。でも、どんな効果があるのかが判らない。このままここに居ていいものだろうか?
「ふふふ。どうですかな? 魔法阻害陣の効力は?」
「ぬ? お主、ベラファルト公爵か! これはどういう事か説明してもらおう」
「なに、簡単な事です。城内に一匹の魔物が入り込んだので、それを退治すると言うだけですよ」
余裕を持って黒幕登場。なんか、寸劇を見ているみたいだ。でも、魔法阻害の魔法陣? だとすると、ミィだけだったらやばかったわけだ。周りも剣を持った騎士で取り囲んでいるし、隙間を作らないように軽鎧の兵士も詰めているし。
「ミィ? 殺しちゃってもいいのかな?」
「基本はそれで良い。だが、数人は裏をとるために生かしておいてくれ。特にあの公爵は、手足は全部吹き飛ばしてもいいが、証言出来ればそれでいいからな」
ミィの容赦のないセリフに公爵がびびって居る。現場を知らないお坊ちゃんが年取ったって感じだなぁ。
「ええい! さっさとやってしまえ! その陣の中では魔法は使えんのだ!」
ついに戦いの火ぶたが切って落とされた。
ってセリフは、火縄銃の誤射防止のための蓋が開けられた、っていう事から来た慣用句なんだよなぁ。今の場合、銃を持っているのは俺だけだし、火縄も使っていないけど、引き金の安全装置を外す事と同じ意味を持つよね。
で、俺はポンチョを捲りあげて背中側に束ね、両手で銃を引き抜いてまずは公爵の足を打ち砕いた。
ババーン!
という大音響と共に、公爵の足が弾け飛ぶ様は、周りには異様に見えたようだ。
「ま、魔法は使えないはずじゃないのか?」
誰かのつぶやきが聞こえる。まぁ、弓以外の飛び道具ってモノに縁が無さそうだし、長距離射撃は魔法しか知らない連中だしな。
弓矢やナイフや剣を『突き刺す』という攻撃じゃなく、足を爆ぜさせる攻撃となると、魔法しか思いつかないだろうしね。
ついでとばかりに、俺は十二本の魔法の杖にも射撃を行う。
かなり外れたけど、一発でも当たれば弾け飛ぶから問題ないよな。そして、三本ぐらい壊した所で魔法陣が消えた。
その間、騎士や兵士は脅えて突っ立っているだけだった。ああ、こいつらも、実戦の厳しさを知らないお坊ちゃんたちだったかぁ。
全員で取りかかられたら俺もやばかったんだけどね。魔法陣を壊した今なら、もう、烏合の衆でしかない。
あとは、ミィが雷魔法で弾き飛ばしながら、俺が反対側をファイアーボールで吹き飛ばすという攻撃であっさり終わってしまった。
倒れたままのたうち回っている騎士が多いけど、アレって、鎧の中で大やけどしているって事だろうな。哀れだ。まぁ、成仏してくれ。
ああ、この世界の神とか、死生観とかはまだ聞いてなかったな。
「で、コレ、どうする?」
倒れている元兵士達を見下ろしながら聞いてみた。
「とりあえず、このまま放っておこう。他にも仲間が居るのなら、そいつらが片付けるだろうし、居なかったのなら、ここで死ぬまで苦しみ続けるというだけの事だ」
ミィの辛辣な意見に、うめき声が泣き声に変わったような気がしたけど、きっと気のせいだよな。
俺はミィを肩にあげ、ミィの案内で歩き出した。ミィには馬を使えと言われたんだけど、乗り方なんて知らないし、ここで訓練とかするわけにもいかないし、で、テクテクと歩く事にした。
とても城内とは思えない敷地の中を歩き、漸く城が見えてきた。
ミィによると、謁見や公式行事、書類仕事が主な中央の城と、王族専用の生活のための屋敷があるそうだ。
その王族専用の屋敷も、俺から見たら城にしか見えなかったけどね。
城は戦争の時の本丸になるため、防衛力重視で設計されているらしい。まぁ、一時的な寝泊まりのための私室も用意されているけど、あくまで代用で、仕事の合間の休憩以外にはほとんど使われる事もないそうだ。
俺たちは王族専用の屋敷の方に到着していた。
屋敷の入り口を守る兵士にミィが片手をあげて声をかけると、例によって慌てて連絡をとりに走っていた。
本来なら、ゆっくり歩いて確認の連絡をとるのだそうだけど、今はその余裕もないという話しだった。
で、屋敷の中に通された。
エントランス部分だけで学校の教室が三つは入りそうな広さがある。装飾的には大人しい感じだけど、それでも品があるモノが並べられている。
案内の執事らしき男性が「こちらです」と言っていたが、それらは一人の声に遮られた。
「ミィちゃん!」
見ると、二十代半ばぐらいの女性が階段を下りて走り寄ってくる。
ドレスでは無いようだけど、上品な作りのジャケットとフレアスカートのようだ。似たような格好は町でも見かけたけど、使われている生地や色合いなどが段違いだ。
その女性が近づくと、ひったくるようにミィを奪い去り、抱きしめ、座り込み、そしてシクシクと泣き始めた。
ミィも、初めの挨拶ぐらいの時間はそのままにしておいたが、直ぐに諦めて行動に出たようだ。
「アリーシャ! しっかりしろ! で、どうなんだ? 様子は?」
「リリィは、リリィは、もう、もう、……え~ん」
「ええい! さっさと案内しろ! アーノルド!」
「はっ。こちらに」
執事さんはアーノルドというのかぁ。セバスチャンじゃないのは残念だねぇ。
で、アーノルドさんの案内で二階の一室に到着した。
屋敷の規模から見てもかなり奥まった場所で、エントランスから結構歩かされた。まぁ、外を歩く事に比べたら微々たるモノなんだけど、『屋敷』の中という概念で考えるとちょっと舐めてました、って反省したくなるほどだ。
案内された部屋の扉は他の部屋と比べても変わりはなかった。たぶん、俺一人だと他の部屋との区別もつかなくて迷子になりそうだな。
そして中に入る。アレ? ノックは? とか思ったけど、中に入ってその必要がない事が判った。
中には天蓋付きの大きなベットが一つだけ有り、天蓋から垂れるカーテンで中が仕切られている。
アーノルドと一緒に付いてきたメイドさんが天蓋のカーテンを束ねていく。そして見えた、ベットの主。
たぶん、女の子だったのだろう。でも、その面影は微塵もない。とりあえず人型というのが判る程度だった。
それは、バラの刺がびっしりと生えた溶岩石に木が生えているとしか表現の出来ないオブジェクトだった。
ミィ達の会話から、この物体がかつては人間だったらしい、というのは判別出来るのだけど、何も知らずに見たら、豪華なベットに汚い岩を乗せて汚している、としか判断出来ないだろう。
「むぅ、ここまで進行していたのか」
「ミィちゃんが旅に出て一週間だけど、その間に急にこうなったの…」
「なに? 一週間だと?」
変だよねぇ。俺がミィと出会ったのは、俺の現実世界でも三日前。ゲーム内時間だけでも十日以上は経過しているはず。俺と出会った後の三日を、そのまま計算するにしても、城からあの森までの往復だけでも四~五日かかっているので、何処かで時間経過がおかしくなっている事になる。
「わたしがあの遊び場に行っていた時間が、まるで無かった事になっているのか?」
あ、どうやら、あの出入り口に入る前までに五日はかかっていたらしい。そして、あっちに行って居る間の時間がほぼゼロになっている、という事らしかった。
「まぁ、その事は後でいい。それで、魔法省のローナスはなんと言っている?」
「未だ、有効な魔法薬は作れていないそうです。提示のあった魔石を持たない獣の肝というのも、有ったとしても、有効な薬になるかどうか、と言う事でした。しかし、現在は、飲ませる事も不可能になりましたので、薬以外の手段を模索しているという状況です」
シクシクと泣いているアリーシャに代わって、アーノルドが説明してくれた。まぁ、この状況じゃ、薬を飲ませるとかは無理そうだよねぇ。
「そうか、すると、あの方法しかないな」
ミィがこちらを見てくる。つまりエリクサーを使うと言う事なんだろう。それほど、あの薬は重い意味を持つんだろうな。
一応俺も、その意味をくんで頷く。
が、よく見たら、ミィはまだアリーシャに羽交い締めにされたままだった。
ミィは動けそうもないので、俺が一歩出て、ミィからエリクサーの瓶を受け取る。
「それは、如何様な品なのでしょうか?」
アーノルドが怪訝そうに聞いてきた。それには、俺じゃなく、ミィが説明した方がいいだろう。
「まぁ、ちょっとした薬、だな。コレが効かなければ、また一から出直しだ。だが、おそらくだが、これ以上の薬は無いと思うぞ」
「ミィ殿がそこまで自信がございますれば…」
そう言ったアーノルドが、俺に向かって腕を突き出してきた。その動作は流れるようであり、礼儀作法の一種と言われても直ぐに納得してしまうような自然な動きだった。
そして、アーノルドの服の袖に仕込まれた刃が飛び出し、俺の胸に突き刺さった。
「アーノルド!」
ミィが叫んで飛び出そうとするが、アリーシャがミィを抱きしめたまま驚きで固まっている。
そして俺は、刃で胸を押された所為で後ろに後退していた。
さらに、自然な動作でエリクサーをアイテムボックスへと収納する。
うん。ポンチョがあって見えなかっただろうけど、胸にはショルダーホルスターに銃が収納されているんだよね。
手応えで突き刺さっていない事を察したアーノルドが、今度はターゲットをミィにした雰囲気が伝わってきた。
たぶんだけど。
でも、それを許してはいけないと判断した俺は、姿勢を直してミィに斬りかかろうとしたアーノルドに向かって銃を発射した。
寝室に爆音が響いた。
そして、爆ぜた腕を抱えてうずくまるアーノルド。
「まさか、アーノルドまでがベラファルト公爵側の間者だったとはなぁ」
「え? ベラファルト公爵って?」
「わたしたちが城門に着いて、馬車で案内されたのが宰相の屋敷でな、そこにベラファルト公爵がわたしたちを殺すための罠を張っていたのだ。まぁ、そこにいるケンタが、今と同じように打ち砕いてしまったがな」
「そう、ベラファルト公爵が…」
あ、今、アリーシャからもの凄い負のオーラが立ち上ったように感じた。そう言えば、アリーシャって女王陛下だったんだよねぇ。ベラファルト公爵、というより、その一族郎党がどうなるか、は、知らない方が心の安寧のためには良さそうだよな。
そこに爆音を聞きつけた兵士達がワラワラとやって来た。
アリーシャはそこにテキパキと指示を出して、うずくまって悶えているアーノルドを連れて行かせる。行き先は地下牢だそうだ。さらにメイド達に部屋の片付けを命じ、メイドたち自身に、メイドの中の反乱分子をあぶり出すように命じている。
一見、メイドが結託すれば意味がないような気もするけど、どうせ、裏で別組織に調べさせるんだろうから、辻褄が合わない事をすれば自分たちの首を絞めかねない、という訳だ。なかなかえげつない。
後で聞いた事だけど、メイドの半分以上は貴族の次女、三女や、妾の子や、貴族に縁がある遠縁の親戚の子などだそうだ。王家に仕えるメイドだからこその人材と言う事で、貴族がしっかりと仕事を仕込んで送り込んでくる。ベラファルト公爵関係のメイドも居そうだけど、今回の事でしっかりあぶり出されて放逐されるか、一族と一緒に処罰を受けるだろうという事だった。
まだアーノルドの血が残っていて、それを拭き取るメイド達が忙しそうに出入りしているが、俺はさっさと終わらせるべく、ミィにアイコンタクトを送る。
ミィも察したらしく、アリーシャの腕の中でしっかりと頷いてくれた。そして再びベットの脇に立ち、アイテムボックスからエリクサーを取り出すと、かけられていた布団を捲りあげる。
うん、色気も何も無い、岩と木のオブジェクトだねぇ。
俺はエリクサーの瓶の蓋を取り、ゆっくりと振りかけていく。振りかけながら感じた事は、このエリクサーは一瓶全部を使う必要がある、と言う事だった。
なぜ、そんな感覚を感じたのかは不明だけど、ちょっと残しておこうかな、なんて貧乏根性を出さない方がいい、という感触は感じた。
ゆっくりとかけていくと、岩の塊が人間に変わってきた。
顔もはっきりして、口が開いているのも判った所で、残りのエリクサーを口の中に流し込んだ。
エリクサーの瓶が空になると、瓶が光に変わって消えてしまった。ゲーム中なら便利な仕様だね。
患者が人間の姿を取り戻してきた事で、俺は慌てて掛け布団を直し、ゆっくりとベットから離れ、ベットに寝る少女をじっと見つめるアリーシャとミィに場所を譲った。
その様はメイド達も見ていたようで、少女の姿が元に戻るのを確認したメイド達が慌てて外に走り出した。
そして、暫くして、メイド達が湯浴みの道具や着替えなどを抱えて戻ってきた。なかなか良く仕込まれている。
アリーシャとミィは泣きながら少女にすがっている。確かリリィとか言ってたかな? まぁ、正式に紹介されるまでは名前は知らないと言う事にしておこう。
あ、そう言えばアリーシャの事も紹介されていなかったな。
まぁ、あの場にいた全員がいっぱいいっぱいの状態だったからなぁ。
俺は開けっ放しの扉を出て、廊下に置かれていた椅子に座った。
この王城について、馬車を降りてからかなり経っているが、漸く座る事が出来たよ。
少し経った後、メイドが周りをキョロキョロ見ながら扉を閉めに来た。身体を拭いて着替えをさせるんだろうな。
その後も、メイド達が入れ替わり立ち替わり出入りしていた。
ボーっとその様子を見ていたが、そのまま俺だけ帰っても良くね? なんて考えが浮かび上がってきた頃に、数人の男達が廊下を小走りにやってきた。
先頭に立つのはアリーシャと年が近そうな、成年からおじさんと呼ばれる微妙な年代の身なりの良い男。その後ろにはおじさんを越えて爺さんとも呼べるような年代の、落ち着いた身なりの連中だった。
そして扉の前で中のメイドと交渉した結果、先頭にいたおじさんだけが中に入っていき、他の取り巻きは扉の前で待つ事になった。
様子から見て、先頭にいたのがアリーシャさんの旦那さんなんだろう。女王制を敷いている国だから、旦那の立場はどうなるんだろうな。まぁ、基本的にはケースバイケースになるんだろうけど。
ボーっと、そんな事を考えていたら、取り巻きの爺さんに目をつけられたようだ。
そのうちの一人が近寄ってきて、俺に声をかけてきた。
「ワシは魔法省を預かるローナスという者です。そちらは、どのような関係者でありましょうか?」
どっかで名前が出てきた人物だ。どこだったっけ?
「俺は、ミィと共に薬を届けに来た………、冒険者です」
コレが一番無難な自己紹介だと思った。
「おお、リリアンティーヌ様を元に戻したという薬ですな」
「他にも、ミィと協力して、魔法を使わない獣の肝も持ってくる手伝いをしたんだけどな」
「おお。そ、それは何処にございますかな?」
「ミィのアイテムボックスに全部入っているぞ? 魔法を使わない獣も、狼、クマ、猪、鹿とかがいて、一応全部取ってきておいた。バラしてないので良いのなら、クマとか鹿とかが丸のまんま俺のアイテムボックスに入っているけどな」
「なんと。それは是非にともお譲り頂きたい。この度は殿下の治療には間に合わない事になり申したが、これからの事を考えると備えは必要と思われますのでな」
「それなんだが、あれは本当に病気か? 俺には呪いの様に見えたんだが」
「あ………、それは…」
「言いにくいのか? あんた、ベラファルト公爵に通じているのか?」
「いいや、それは無いのじゃが…」
「一応言っておくと、ここに来る前にベラファルト公爵が直接俺とミィを殺しに来たが、返り討ちにして両足を吹き飛ばしておいた。その事は陛下にもしっかりと伝わっているぞ。ついでに、ここの執事のアーノルドも似たような一派だったらしくてな。今は地下牢に押し込められているはずだ」
「そうか…」
ローナスと名乗った爺さんが呟くようにそう言うと、大きいため息をついた。
果たして、どっちだ? っと悩んだが、スッキリした顔をしているし、俺の勘が大丈夫だと告げているので、俺は握っていた銃のグリップから手を放した。
「そう、お主の言う通り、アレはたちの悪い呪いだ。おそらくだが、悪魔との契約も成されているかも知れん」
「うわ。悪魔との契約なんて、目的のためなら自分自身も破滅するようなのじゃないのか?」
「なかなか博識ですな。そのとおり。おそらくだが、純粋な者を偽の情報と少量の薬で騙し、義勇心を起こさせてやらせているのだろう」
本当に悪いヤツってのは、自分の手は汚さない、ってモノらしいからなぁ。
「だが、悪魔の呪いを薬だけで振り払う事など、不可能なはずだが」
俺もそう思う。けど、場合によっては不老不死の妙薬とまで言われたモノなら、可能性は大きいよな。
「特別製の薬だからな」
「そこを、是非ともお聞きしたい。それは、何なのかと言う所を」
いつの間にか、爺さんの周りに、他の取り巻き全員が集まっていた。ベラファルト公爵の話し辺りから集まってきてたんだよなぁ。
「俺も悪魔の呪い、という程のモノを、単なる薬で治せるわけがないと言うのはわかっている。でも、まぁ、今回使ったモノなら、その可能性は充分に有ると思うぞ」
「して?」
「今回使った薬は」
「薬は?」
「エリクサーだ」
「!!…………」
その場にいた、俺以外の全員が固まった。目もいっぱいに見開かれている。
「そ、そんな。あれは、文献の中にだけ出てくる、伝説というよりは、おとぎ話の中の薬のはず」
そうだよなぁ。まぁ、ゲームだからこそ、ひょいひょい出てきたけど、伝説級というモノがそう簡単に手に入るほど、世界は都合良くできていないのが現実ってやつだよなぁ。
「まぁ、俺も、アレが本当のエリクサーかどうかは自信を持って言えない、ってのはあるんだが、一応、俺とミィのアイテムボックスでの表示ではエリクサーだったぞ?」
「して、その、エリクサーの入っていた容器はどうなりましたか?」
「半分以上は振りかけて、残りを飲ませて、全部無くなった途端に、瓶が光になって消えちゃったな」
「うむ。ならば、それは本物かも知れませんな」
「そうなの?」
「はい。エリクサーは、月の光の中でしか存在出来ない、などという記述もあります。ならば、月の光を固めて瓶にしていたと考えると辻褄があいます」
「俺が作った訳じゃ無いんで、そこら辺は判らないんだけど、一応、エリクサーを振りかけ、飲ませ、瓶が消えて、殿下が治っていく様は、陛下やミィ、その場にいたメイド達がしっかり見ていたけどな。
その後は、身体を拭いたり着替えさせるって流れになったんで、俺は外に出て待っている、というのが現状だ」
「そうでしたか。どうやら、あなたは殿下の命の恩人のようだ。今までの対応に失礼がありました事をお詫び申し上げます。
それと、殿下の身に代わりまして、お礼申し上げます」
「いや、いや。俺は単に、ミィの捜し物に少しだけ手を貸しただけでしかないから」
その後は、爺さん達に椅子を譲って、この世界の魔法について色々説明して貰った。
俺が適当な呪文で火の魔法を繰り出した所では、普通は魔法が発動しないはずなのに、なぜ、威力の上がった魔法が出たかなどの考察が、周りを巻き込んで始まってしまったり、風や水にも、そう言った短絡的なワードが有るんじゃないのか、などという研究まで始まったのには正直まいった。
それは、部屋からミィを連れた陛下達が出てくるまで続いた。
俺以外は一斉に頭を下げている。俺は構わずに、ミィに状況を聞く事にした。
「ミィ、状況は?」
「うむ。身体は全て正常。一応疲労が残っているようだが、ぐっすり寝て、たっぷりと食べれば直ぐに日常に戻れるだろう」
「やっぱり、呪いだったのか?」
「おそらくな。だが、さすがはエリクサーだ。呪いの影など一切残っておらん。再び呪いをかけられる事には警戒が必要だが、今は完全に払えたと思っていいだろう」
「そうか、良かったな」
「う、うむ…」
ここで、ミィを抱きしめていたアリーシャ陛下が俺に声をかけてきた。
「自己紹介もせずに、大変失礼をいたしました。私は、ゼンチェス王国を治めるアリーシャ・マコナム・アー・レイシャス・十四代・七世と申します。
この度は我が娘リリーシャ・マコナム・イー・レイシャスを助けて頂き、感謝の極みでございます。
更には、我が一族全ての盟友であるミィを助けてくれた上に、我が領内の内紛にも巻き込まれたとか、重ね重ね感謝と謝罪を行いたいと思います」
そう言って、女王陛下が頭を下げた。
俺にはイマイチピンと来ないんだが、一国の王が一般人に頭を下げるなんて、とんでも無い事何じゃないだろうか?
案の定、爺さん達が驚愕しているけど、その事に触れるというのは無いみたいだ。
「俺はケンタと言います。冒険者をしています。今回は、単にミィの行動の手伝いをしただけに過ぎません。礼を言うのならミィにお願いします」
その後は、陛下の指示で色々と連絡係が走り回る事になった。その様子は、なかなかの指導者っぷりだったけど、大事そうにクマのぬいぐるみを抱えているのが台無しだった。