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無理ゲーオンライン  作者: IDEI
6/56

05 エリア5

ようやく 本来の物語が始まりました

ここから 異世界モノになります(たぶん)

 エリア5に入り、そのまま暫く歩く。しかし、なかなか町は見つからなかった。


 「エリア5の町の場所って、ミィは知っているか?」


 「すまない。わたしも、ここに入った頃はいっぱいいっぱいだったからな。ここが限定された空間だとか、町があるとかは考えてもいなかった」


 「まぁ、わけの判らない土地で、生き残る事に精一杯だった、ってのは判るな。そこら辺はしょうがないと思うぞ」


 エリア5も、今までと同じような草原と森の世界なんだけど、所々、丘のようになった盛り上がりがある。まぁ、山、とまでは言わないだろうけど、それでも視界が狭まられている印象はある。それが、逆に広い世界を感じさせるんだから、人間の感覚ってのも面白いモンだ。

 でも、その所為で、余計に町とかが見つけにくくなっている。当然だけど、エリアも広くなって、町までの距離も伸びているんだろう。これ以上広くなったら、地図がなければ進めなくなりそうだった。


 そして、更に厄介なのは、アクティブモンスターがかなり増えた事だ。


 今までは暫く歩かないと遭遇しなかったのに、このエリアからは複数の敵予備軍が周辺探知に引っかかっている。リンクされたら囲まれる危険も大きいけど、このエリアでは、そこまで厳しくはないだろう、というのが俺の見解だ。


 ただ、やたらと敵が多いので、連戦は必至だろうけどね。


 案の定、このエリアに入った途端に、連戦で戦う事になっていた。


 出てきたのは巨大なクマ、巨大な狼、巨大な猪だ。エリア1やエリア2のボスと同じレベルの敵だ。一応、単品で出てきたんだけど、こんなのが複数同時に攻めてくるとか、考えただけで鬱になりそうだ。


 でも、まぁ、流石はマグナム弾。手製のパイルランチャーモドキと比べても威力が違うねぇ。

 巨大な敵が出てきても、落ち着いて狙いを定めて銃弾を撃ち込む事も出来るようになっている。初めの頃なんかは、焦りとテンパった状態で、わけが判らなかったからなぁ。


 倒した後は、解体するのは諦めてそのままアイテムボックスへ収納。そのままでも、そこそこの値段で買い取ってくれるだろう。


 一応は、初めの一通りはミィに肝を提供して、その残りを収納してある。毛皮だけでも良い値段になるだろうしね。しかし、そんな事を気にする必要が無いほどエンカウントして、一々戦う事になっている。

 もし、ボス戦で消耗しきっていたなら、町に到着する前に前のエリアに死に戻りって事になっていただろうな。


 とりあえず、一番高い木がありそうな丘に登り、木にはミィに登って貰った。そこで町を探して貰ったんだけど、広い平原が有ると言う事ぐらいしか判らなかった。一応、手がかりは全くない状態なんで、その平原を目指す。

 まぁ、平原に入った途端に、町を見つけたんだけどね。


 漸く町に入った時には、かなり疲弊していた。


 ユニークモンスターとエリアボスとの戦闘、その後に暫く土地勘もない初めてのエリアを彷徨ったんだから仕方ないかぁ。


 戦闘は無理でも町中の散策は出来ると言う事で、例によって武器屋や魔法屋、道具屋などを巡ってみた。


 武器屋ではなんとショットガンを選ぶ事が出来た。そこで、銃身が短い、アメリカの警官が持っているようなタイプを選んだ。レミントンのM870とかいうモノだ。店主は散弾をお薦めしてきたんだけど、俺は単発のスラッグ弾を大量購入。まぁ、三百発なんだけどね。

 銃身の短いソードオフを選んだのにスラッグ弾を選ぶとか、ちょっとわけ判らん、とか言われちゃったよ。

 銃身が短いと、室内なんかでは取り回しが利いて便利なんだけど、その分、命中精度が下がるんだそうだ。そのため、散弾で広い範囲をカバー出来るタイプを選んだ方が効率的って事だった。


 俺としては、取り回しや携帯に便利なので短い方が良いんだけど、さらに長距離での有効性も捨てきれないんだよなぁ。少なくとも、拳銃で狙うよりも命中精度は高いんじゃないかと考えている。

 一応、散弾も百発入りのを一箱購入しておいた。


 他には、革製品を扱っている所で前が開くポンチョを購入。両脇の長さが手首までになっているため、そのままでも銃を抜く事が出来る。普段は前を開いてポンチョ自体を後ろに束ねた状態にしてから戦闘って事になりそうだけどね。

 ついでに、ポンチョと同じ色合いの、キャメル色のテンガロンハットも購入。


 これで、何処からどう見ても『ガンマン』のできあがりだ。


 ファンタジー系のゲームをやっているという意識がドンドン消えていくのは気のせいかな。まぁ、ゾンビ殲滅ゲームじゃないだけマシかな? ああ! リッチもスケルトンも居たっけ。なら、次の武器はチェーンソーだな。


 そんな事を考えつつ、フィールドに出て、ミィが来たという場所を探し始めた。


 普通は、初めての場所だと、考える起点になる場所が無い所為で迷子になったりする。迷わなくても、後から地図を書けと言われても、辻褄の合わないモノになったりする。

 目印になるような物があれば別だけど、同じような木々がひしめく森の中だと、見ている現場の景色でさえ辻褄の合わない認識になったりもする。


 ミィもその状態だったらしく、ただ森の中だったとしか覚えていないそうだ。そして、暫く歩いたら森から出て、平原を歩き、いつしか魔法の効かない鎧戦士と遭遇したという事だった。


 平原に接した森。エリア5には、そう言った場所が無数に存在する。ってか、ありすぎる。とりあえず、今日は近場の森をいくつか散策するだけにしておこう。


 そして、案の定というか、当然の帰結というか、町の近くの森には何も無かった。何かのイベントに関係するような特殊アイテムも無く、ただ、木々が生い茂っていると言うだけの森だった。まぁ、かなり敏捷な猿には手こずらされたという事はあったけどね。


 結局、何の手がかりも得られないまま、今日の探索は終了となった。ミィも直ぐに帰れるとは思っていなかったと言って、仕方のない事だと納得して貰ったし、これで今日は心おきなくログアウト出来る。


 「また四日間ほど間が開くけどどうする? 俺にくっついてると、そのまま収納されるみたいだけど、別行動してみるか?」


 「収納されるというのは怖いのだが、ここでわたしがすべき事も無いしな。ならば、一瞬で四日間が過ぎる収納をされた方が楽は楽だと思うんだが…」


 「少し、気になる事もあるし、ここは一度別行動してもらって、四日間を過ごして貰った方がいいかも」


 「気になる事?」


 「うん。実は、この『遊び』にはいろいろルールがあって、アイテムの受け渡しが簡単には出来ないようになっているんだ。簡単に言えば、どんな受け渡しでも『取引き』になって、対価の交換という形をとるんだ。でも、ミィとの間に、そう言うのはなかったよな?」


 「ふむ。確かに。ナイフやガラス瓶もお前から貰ったし、わたしも魔石を渡したよな。ごく普通に。それがおかしいというわけか」


 「そうなんだよ。『ごく普通』にやり取りしてたんだよなぁ。だから気にならなかったけど、後で思い返してみるとおかしかった、というわけなんだ」


 「そのルールというモノの存在理由はなんだ?」


 「ああ、一応、この世界が作られた物、で、作った連中はしっかりと遊んで貰いたいと思っているわけだ。例えば、エリア5では、フィールドに出てくる敵になる獣もエリア1よりも強くなっている。当然、エリア5で手に入る武器は、エリア5で戦うのに合った物になっている。エリア5で遊ぶためには、そんな武器が必要になるわけだけど、それをエリア1に持っていって、まだエリア1を突破していない者に渡したらどうなるか? って考えれば判りやすいよな」


 「なるほど。いきなりエリア1からエリア5へと進める力を手に入れてしまうわけだな。すると、途中のエリア2からエリア4までが無駄になってしまうわけか」


 「うん。まぁ、そこまで単純じゃ無いし、途中を飛ばした弊害もしっかりとあるようだけど、苦労して力を蓄える、という作業が少なくなる事は確かだよな。それは、苦労して力を蓄えるための物語や仕組みを考えて、わざわざ配置してある作り手にとっては悲しい事だよな」


 「ふむ。要は、一歩ずつ進めと作り手が言っているわけか。まぁ、お前も結構途中を飛ばしてきたように見えたがな」


 「ああ。俺も、ミィを送り届けたら、エリア3からやり直すつもりだしな」


 「それは…。お前には手間をかけさせてしまったな」


 「それは言わない約束よ!」


 「そんな約束したか?」


 「いや、何というか、言葉のあやだ。それで、どうする? 別行動とってみるか?」


 「そうだな。四日間、特にやる事もないが、一度別行動してみる必要もあるんだろう」


 「たのむな。それと、出来ればこの町を出ないでくれると助かる」


 「ああ、わたしも、約束の時間に会えないとかは勘弁して欲しいからな」


 肩から飛び降りたミィに手を振って、俺はログアウトした。さっさと寝てしまおう。


 次の日も超特急で用事を終わらせて、早い夕食と風呂も済ませた。ログインする前に、一度ネット情報の方を確認して、無理ゲーオンラインがどんな状況になっているか様子を見てみようと思った。


 ネットの掲示板には、エリア1でくすぶっている連中が、エリアボスを突破するためにはチート技術が必要なんじゃないかと盛り上がっているようだった。

 それと、俺以外のエリア1のボスを突破したプレイヤーが二人居る事も判った。

 どんな方法で突破したんだろう? でも、ショップの裏メニューには気付いていないようで、エリア2のボスには苦労しているらしい。ミィの用事が済んだら、この二人のプレイヤーに会ってみたいな。

 それに、エリア1の連中に、俺の方法を教えるのも考えている。掲示板で書き込むよりも、実際にエリア1に行って、この装備を見せるのが一番手っ取り早いとも思っている。


 まぁ、時期的にも、ミィの用事が終わった後ぐらいなら丁度いいだろう。


 そんな事を考えつつ、いつものようにログインした。


 ログイン後のキャラ選択画面には、相変わらずミィが肩に乗っている。もう、そういう設定になっているのかな? でも、服装も装備も新しいガンマンスタイルになっているから、一応更新はされているらしいんだけどねぇ。


 そして、俺のキャラとの合体を経て、俺はゲームの中へと入っていった。


 目の前にはミィが居る。前に別れた時と同じ状態だ。そのミィが俺を見て首を傾げている。


 「どうした? 忘れ物か?」


 「え?」


 どうやら、ミィには違和感がなかったようだけど、一緒にログアウトして、その間の時間が停止していたような感じだったらしい。

 おそらくだけど、ミィが俺の装備品とか所持アイテムとかと同じ扱いになって居るんだと思う。この状態を解消するためには、俺がアイテムとしてのミィを投棄すればいいとは思うけど、その時に破棄アイテムとして消滅してしまったら問題だよな。


 そこで、一度テストを行う事にした。


 俺の所持アイテムである、HP回復用のポーションと、ハンドメイド品を工房に改造して貰ったパイルランチャー、そして、雑草を引き抜いて綯って縄にしたロープを地面に置いて、アイテム欄で『投棄』のボタンを押してみた。


 うん。消えなかった。試しに拾ってみたら、そのまま所持アイテムになった。


 なんてこったい。アイテムの譲渡が出来ないとかいうシステムの筈なのに、その場に置いて『投棄』すれば、誰にでも譲る事が出来るんじゃないか。


 もう一度、試しにという事で、今度はアイテム欄の中でアイテムを選択後にボタンを押してみようと思ったら、『投棄』じゃなく、『破棄』になってたよ。


 なんという罠!


 一応、取引相手以外に人の居ない場所、っていう環境が必要そうだけど、この方法なら高威力武装とかの譲渡も出来そうだよな。

 まぁ、このゲームの場合、いくら鋭い切れ味の剣を貰っても、それを振り回す力や技が無ければほとんど意味がない、という作りなんで、ゲームバランスが大きく狂う事も無さそうだけどね。

 実際、俺の使っている銃も、腕力や器用さが必要みたいで、それが無ければ当たらないどころか、反動でノックバックを自分に喰らう事になる。それを考えると、譲渡出来る事が基本で、『無償譲渡出来ない』という思わせが罠って事になるんだろうな。


 兎に角、ミィは俺の所持アイテム扱いになっている。でもこれは、ミィを外に置いたまま『投棄』すれば良いだけの話しだよな。それが無理なら、ミィの世界に行って、そこで『投棄』してみるという最後の手段もある。まぁ、その時に考えよう。今は、この状態でも不都合はないし、別キャラじゃないので攻撃対象にもならないって事の方が重要だよな。おそらく、俺が死んでもミィには影響ないだろう。しかし、俺がログアウト中にキャラを削除してしまうと危ないだろう。あと、運営によってアカウントが停止や削除される事の方が怖いな。


 そんな事をミィと話しながら森の探索は続いた。もちろん、クマも狼も猪も猿もワラワラと出てくる。手を抜くとこちらが死ぬ事になりそうだから、それぞれを丁寧に打ち倒していくのは変わらない。そのため、一つの森を調べるのにかなりの時間が掛かってしまった。町からの距離が開くと、その移動だけでも時間が掛かるので、このVR世界での一日に一つの森しかしっかりと調べる事ができない状態だった。


 移動のためのバイクとか欲しいな。このゲームなら、自分で簡単なエンジンを作れば、店でバイクとかも手に入るようになるのかも知れないけど。


 そして、今日の探索は終了。ミィには悪いけど、また俺にとっては明日、この世界にとっては四日後、という事になる。

 一応、次回はどの辺りを探索するかを決めて、ログアウトした。


 当然ミィも俺のアバターと一緒に収納されたらしく、ログアウトの後にキャラ選択画面を見たら、しっかりと肩に乗っていた。


 もし俺だったら? と考えると、かなり怖い感じになるな。たぶん、アカウント削除とか、データ損失とかの事故を『知らない』からこそ、ちょっと怖いという程度で済んで居るんだと思う。まぁ、早いとこ帰り道を探して送り出してやるのが一番確実な方法なんだろうな。


 明日は普通の日常が待っているが、明後日は休日という事で、次のログインでは長い時間を取れる。それでミィの方が解決してくれたらいいんだけどな。


 そんな事を考えながらベッドに潜り込んで眠った。


 次の日。


 今回のログインでは、様子を見て、いつもの内部時間の一日で切り上げ、次の日に長時間ログインしっぱなしにするか、それとも、今日のログインを長くするかを考えたが、状況を見て判断、という事にした。


 早速ログイン。


 ミィを肩に乗せたガンマンのアバターが迫って来て、俺の視界と重なった。


 「よう。大丈夫だったか?」


 俺からミィに聞いてみる。


 「う? うむ。もう四日経ったのか。本当に一瞬だな」


 ある意味、未来への跳躍だな。冷凍睡眠よりも簡単だけど、リスクは絶大って感じで。


 とりあえず、昨日打ち合わせた方向へと進む事にした。前回消耗したのは銃弾と魔法力のみだから、特に補給するモノは無い。このエリアでしか手に入らない装備というのも有りそうなんだけど、それはミィの用事が済んでからって事になるな。


 そして、一々律儀に襲ってくる獣を打ち倒しつつ森へと向かった。


 いわゆる、穏形とか、スニーキングとか、ステルスとか、光学迷彩とか、姿や気配を隠すワザを取得しないと、この百メートルで二件のエンカウントとかとは決別出来ないだろうな。

 元々銃が爆音を発するため、近くの敵を呼び寄せやすいという特性もあるしな。戦闘に時間は掛からないんだけど、実際にとんでも無い程の爆音をまき散らしている、それは魔法も同じなんだけどね。


 普通に歩けば小一時間という道のりを、二時間半かけて目的の森に到着。


 時間があれば、ここを調べた後に隣の森も調べたい所だけど、町から離れるのがネックだな。帰りが遅くなると、フィールドが夜間モードになって、敵の種類や攻撃が変わるはず。一応周辺探知は従魔が居るから判るけど、暗い中での銃撃戦は未経験だ。もし暗くなるようなら探索は中止して町に戻った方がいいだろう。


 そんな計画を立てつつ、森へと侵入。


 そこでミィがいち早く反応した。


 「ここだ!」


 「え?」


 「す、すまん。まだ確証があるというわけじゃないんだが、ここが目的の森だと思う」


 「つまり、この森の何処かに、ミィの世界へと通じる『何か』が有るというわけか」


 「またもすまん、としか言えないのだが。その『何か』とやらが、今も有るという保証もないんだがな…」


 「ああ、それは俺も考えてた。何かの自然現象とかの類だと、もう二度と現れないという場合もある、っていう可能性もあるしな」


 「もう、二度と…」


 「最悪、場所さえ判っていれば、運営に訳を話して調べて貰う、っていう手段もあるしな。まだはっきりしないうちに行動や考えを止めるのは無しという事にしよう」


 「う、うむ」


 実はここじゃなかった、なんて場合も考えて、それほど気合いを入れずに、だけど見落としは無しで行こう、という事にした。

 気持ちを入れすぎる事って、良い場合と悪い場合があるから使い分けが重要だよな。


 でも、まぁ、ミィの言っていた場所は直ぐに見つかった。


 森の奥。木と木の間が五メートル程度はある、林程度の密度だけど、規模が大きいから森と表現出来る場所の奥。丁度森の中心付近にある、そこだけ木々が密林状態になっている場所がそれだった。

 木々が簡単なトンネルを形成していて、平和な日本であれば格好の遊び場になりそうだけど、このゲームの中だと、前後を簡単に挟まれてしまう隘路になっている短い通路だった。


 よく、ネコ系のハンター的な動物が、身を隠して潜んでいるような、中からは外が見やすいけれど、外からは中が見にくい場所、という感じだ。


 その小さなトンネルの中が、靄のようなモノで暗く、中を見通せない状態になっていた。


 「どうだ? 機能していそうか?」


 「判らんが、完全に消えて無くなっているわけでは無さそうだ」


 そこで、実際にミィが入ってみる事になった。それは、ミィとのお別れという意味がある。


 まず、ミィにはアイテムボックスの中身を確認して貰う。当初の目的の、魔法を使わない動物の肝、エリクサー、この世界のHPポーションとMPポーション、サバイバルナイフ。

 その場で、餞別に俺の使わなくなったリボルバーと予備弾丸も渡して、アイテムボックスに入れて貰う。


 確認が終わった所で、ミィの所有権を投棄するためにステータス画面を開く。


 ステータス画面には特に無かったのでアイテムボックスの画面を開くと、別枠になっている所にミィの画像があった。それを押すと、『収納』『販売』『投棄』という文字が並んでいた。


 『投棄』を選んで押すと、本当に良いですか? という確認が出る。それに『はい』を選ぶとミィの画像が消えた。


 でも、当のミィは目の前に居る。


 「無事に、俺の所有物という扱いは消せたようだ」


 「そうか、ならば、これでお別れだな」


 「ああ。俺のこの『遊び場』のために作られた中途半端な身体じゃ、ミィの世界には行けそうも無いからなぁ」


 「わたしは、行けそうな感じはするんだがな」


 「もしもの場合、あんまり見たくない光景が展開する可能性もあるからな。俺の本体は大丈夫だろうが、この身体は耐えられそうもない」


 「そうか……」


 ちょっとしんみりした。


 そう長い付き合いでは無かったんだけど、色々話し込んだりして、互いの事が判ると、少し感情移入するモノがあるな。


 「まぁ、コレが上手くいけば、もう二度と会う事も無いだろうし、会おうとしない方が良いんじゃないかと思う。お互いに存在が消される可能性があったわけだしな。今回だけ、運が良かったと思う事にしておこう」


 「そうだ、な…」


 「後は、ミィの世界に行った後で、アイテムボックスの中身が変化していない事を祈るだけか」


 「それは、もう、そういうモノだと諦めるしかないと思っている。その…、いろいろ世話になった」


 「俺も面白かったよ」


 「……」


 「……」


 「じゃぁ」


 「ああ」


 そして、ミィはトンネルに向かって歩き出した。

 そして、ミィは靄の中に入って行った。

 そして、ミィは靄を突き抜け、向こう側へと突き抜けた。


 「「アレ?」」


 今度は向こう側から靄の中に入るが、当然のように靄を突き抜けて出てきた。


 「こ、コレは、き、機能していないのか?」


 ミィが狼狽えている。クマの人形がコミカルに頭を抱えている姿は何となく和むんだけど、俺だけ和んでいて良い訳じゃないよな。


 「まぁ、落ち着こう。ミィ、機能している時は、どんな状態だったか覚えているか?」


 「う、うむ。うん、そうだな。あー、あの時は……、ああ、そう言えば、何となく、向こう側が透けて見えていたな。それで、特に躊躇う事もなく入ったんだった」


 「今は……、真っ暗で、透けて見えるとかは無い様だな。という事は、休眠期なのか、条件があるのか、って感じかな」


 定期的に、何時から何時まで、とか、三日に一度、とか、年に一度とか言う場合もあるな。そして、アイテムを持っているか、とか、何処かのスイッチを押してからじゃないと転移しない、とかの可能性もある。


 「う、うむ。わたしがこちらに来た時は、わたし自身は特に何もしていなかったと思う。わたし以外の誰かが、偶然にでも何かをしていた、とかいう可能性も考えると、もう、訳が判らん事になるな」


 「まぁ、向こうでの事は、とりあえず放っておこう。今は、ここの周りで、それらしいモノがないか調べてみるしかないかな」


 「あ、ああ。そうだな」


 そして、ミィと二人、手分けして小さなトンネルの周りを調べてみたが、特に何も無いという事だけが判った。魔法的なモノが有るかも知れないけど、微妙な魔法力の検知能力なんてミィも俺も持っていない。たぶん、このゲームのプレイヤー全員に当たってみても、所持者はいないだろう。


 「もう、後は、時間によって開くとかを考えた方が良いのかもなぁ」


 「そうかもな。だとしたら、ここから先はわたし一人で待つべきだろう」


 「そうすると、ここに来た時みたいに、ミィが襲われるという事になるんだろうな」


 「そ、そうか…」


 「やっぱ、俺も付き合おう。中途半端に放り出すのも、気分が悪いしな」


 「す、すまない」


 俺が手を伸ばす。するとミィは俺の腕に掴まり、肩まで登っていった。その時、前方が少しだけ明るくなったような気がした。


 「あれ?」


 見ると、トンネルの中の靄が、うっすらと透けていて、向こう側の広々とした草原が見えている。


 「おお、道が開けたか!」


 ミィが喜んで俺から飛び降りる。


 「ちょい、待って! 今の接触で俺の所有物扱いになっているから、また投棄するから」


 「あ、ああ。早いとこ頼む!」


 焦っているなぁ。まぁ、無理もない。俺は先ほどと同じ作業でミィを『投棄』して、確認のボタンも押した。


 「良し終了」


 「おう、…って、あれ?」


 ミィがトンネルの中を見つめながら呆然としている。俺も覗き込んでみると、透けていた先の光景が消えていた。


 「閉じちゃった?」


 「う、うむ」


 今回だけ、一瞬の接続だったのかな? 暫く様子を見ていたが、再び繋がる様子は見られなかった。


 「今回は出直そう。ちょっと町で野営とか出来そうな道具も買いに行こう」


 「うむ、そうだな。繋がる事は判ったんだ。諦めなければ良いだけだな」


 「そう言う事」


 そして、俺は再びミィに腕を差し出した。そして、俺に触れた瞬間、トンネルの奥がうっすらと明るくなった。


 「コレって…」


 「ああ…。そうかも」


 「じゃあ、念のため、一度下りてくれ。また、ミィの所有権を『投棄』してみる」


 「ああ、頼む」


 三度、ミィの所有権を『投棄』する選択をした。そして、やっぱり閉じる靄の道。


 「これは、確実だねぇ」


 「そのようだな」


 「仕方ない。行くか」


 「い、いいのか?」


 「リスクはありそうだけど、俺とミィが居なければ通路が通じない、ってのは、何か理由があると思うんだよな。だから、行っただけで俺が消え去るとかは無いと思う。まぁ、変質するとかはあるかも知れないけど」


 「う、うむ、だが…」


 「いいさ、行ってみよう。ミィの世界へ。さぁ」

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