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無理ゲーオンライン  作者: IDEI
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 40 世界とマナの関係

 女性陣を送り出し、二階の書斎からミスターの隠れ家に転移する。


 洞窟の一本道を行きミスターの部屋に。すると、奥の方の部屋から喧騒が聞こえてきた。まぁ、ロッカクたちしか居ないからそれだろうと見当をつけて移動。かなり広めの部屋でロッカクが資材を持って走り、天と地竜が顔を付き合わせて魔法陣の設計図らしきものを睨み、ミスターの作業端末ロボットが行き交い、ポーポーがミスターとなにやら相談しているところだった。


 「お疲れ。進展はどんな感じ?」


 俺は比較的会話が成立しそうな天と地竜の所に行った。


 「うむ。それなんだが、空気を生み出す魔法具で問題が発生してな」


 天が少しだけ気落ちした感じで言ってきた。


 「ボクが説明するよ。ボクが精霊界の世界樹の枝の上で周辺の空気の真似を魔法に落とし込んだんだけど、それを再現するとトンでもなく魔力を消費する事が判ったんだ」


 「空気の真似って、周辺の空気の情報を複写って感じかな。なんで魔力が消費されるかは判ったの?」


 「うん。どうやら世界樹が生み出すマナも真似して生み出そうとしているみたいなんだよね。だから、このマナを生み出す量を少なく出来無いか考えてたんだ」


 「マナって、生み出さなければならないモノなのかな?」


 「え? そのために態々精霊界に行ったようなものなんだよ? 生み出されたマナと浄化された空気が相まって、それは素晴らしい空間になってるんだよ」


 「そうなの?」


 地竜の力説を天に確認してみた。


 「我は見た事はあるのだが、その空気と言うのを堪能していないのでなんとも言えんが、噂に聞く所ではそう言うものらしい」


 「うーん。でも、そんな空気が屋敷からあふれ出しているとかなったら、それはそれで騒がしい事にもなりそうだなぁ」


 「うむ。それゆえに、この空気の真似の所からマナの量を減らせないかと考えていた」


 「出来そう?」


 「マナというのは単純であり、難しいモノでな。有るか無いかでしか推し量れぬのだ。もっと広い空間でなら濃い、薄いが関わってくるがな」


 「ああ、発生源である世界樹で採集して来た情報だから、濃いマナという一つの情報になっちゃったんだ?」


 「その解釈はかなり的を得ていると思われるな」


 天の返答に地竜も頷いている。


 「なら仕方ないから、マナ有りの魔道具とマナ無しの魔道具の両方を作っちゃえば? 普段はマナ無しの方を常用するとして、任意でマナ有りの方を追加起動させる感じで」


 「なるほど。魔道具であるのに、我らは一つの完成形しか目指していなかったな」


 「そうだねー。ボクたちが魔法で使用する書式を作るって感じで考えてたね」


 「はは。それが高い知恵と長い命を持つドラゴンと、短命な人間との違いかもね。で、別々であればどのくらいで出来そう?」


 「それなら書式は出来ているのと同じだからな。形を決めて彫り込めばいいから直ぐにできるぞ」


 それから、定期的にエネルギー源としての魔石を追加する仕組みを追加し、金属製の壷の形に似た容器に入れて完成した。


 「金属製だと錆が沸き易いかなぁ?」


 「え? なんで?」


 「錆って酸化……つまり、空気の中の成分と金属が反応して起こる現象だから、普通に置いてあっても錆びる事になるけど、空気が発生して出てくる場所に直接触れていれば、普通に置いてあるよりも反応し易いかなと思ってね。まぁ、多少は、ってレベルだから今の所は考えなくてもいいよ」


 「へー。そうなんだ。そう言うのを防ぐってのはどうすればいいの?」


 「色々有るけど、簡単なのは錆び難い金属を使う事かな。アルミ、プラチナ、金とかかな」


 「聞いた事があるのは金だけかな。金って、人間たちには貴重なんだよね?」


 「うん。錆びないから朽ちない、という存在が約束されているようなものだからね。って、いっぱいあるじゃん」


 つい今さっき納入された賠償金、文字通り『金』の事を思い出した。なので早速天と地竜を伴って屋敷の一階に移動。客間の控え室に積み上げた袋の束を見せた。


 「うわぁ。なるほどねぇ。でも、これだけあれば色々作れそうだねぇ……って、ちょっと待った! これって」


 そう言って地竜が指し示したのは金で出来たワイングラスらしきもの。どちらかと言えば小さめの優勝トロフィーという方がしっくり繰るようなモノだった。


 「これが?」


 取り出して見せるが、天と地竜は頭を傾げるばかりでハッキリしにない。


 「うーむ。コレが何か大きな力に関わっているのは判るのだが、それ以上が判らぬ」


 「ボクも。まぁ、こう言う事は良くあるから、判らないって事は珍しくは無いんだけどねぇ」


 「なれど、関わった力の大きさが気になるか」


 「だねー」


 「えっと、つまりどう言う事?」


 「うむ。コレだけは分けて保管しておくべきだろう、と言う程度か。その内手放さなければならない事情があれば、手放しても構わない」


 「うん。手に入ったのが縁か偶然かは判らないけど、縁があれば何かしらの事が起こるかもね」


 「俺たちにとって、必要なモノか、厄介ごとの種か、それともただ通過するだけの運命かは、過ぎてみないと判らないけど、何処かで誰かの何かになる可能性の塊って感じか」


 「言ってしまえば、そこにある金貨一枚でさえも、同じ事なんだけどねぇ」


 「まぁ、いいや。とりあえず取って置こう」


 そう言い俺の寝室として使っていた客間のテーブルに置いた。


 そして、天と地竜に見て貰いながら、潰しても問題の無い金の短剣や王冠モドキ、金の置物などを皮袋に入れて確保し、元のミスターの作業室へと戻った。


 そこで、天と地竜は協力し合い、空中に金製品を浮かべると熱を加え、溶けた金が空中で無重力の玉になる魔法現象を顕現させ、それを誘導して魔法回路を組み込んだ小さな壷を作り出していった。


 四角く感じる壷がマナ抜きの空気を生み出す魔道具で。丸く感じる壷がマナを含んだ空気を生み出すらしい。それを各五個の十個を作り出して終了した。


 次は結界の魔道具。これも金を使ってプレートを作り、そこに魔法回路を刻み込んで完了した。本体自体はカメラに使う三脚の様なモノに乗っかった形で、コレは交換できるらしい。結界はほぼ球形のドームなので、設置場所には気をつける必要がある。


 その基礎的な結界装置を六つ頼み、それが終わったら俺たち専用の転移の魔道具も頼んだ。


 六つのうちの二つは城に献上。この屋敷だけが入れない聖域となるよりも、城でも同じものがある、という状況の方が安心できるはず。

 城の暗部が勝手な事をしでかさない、という安全装置の役割だね。


 俺たち専用の転移の魔道具は、今有る転移の魔道具の脆弱性を将来発見されても、ここと俺たちには影響が無い様に形式を変えたいという事で頼んだ。


 あとは、出来上がった魔道具を設置して、動きを確認するだけだが、サヨたちが買い物から帰った後になるだろう。


 と言う事で、装備品のほとんどをアイテムボックスに収納して、雑巾に出来る布切れと水を出す魔道具、そしてバケツのような容器を出して掃除に取り掛かる。アイテムボックスを確認した所、ポーポーの世界から持って来た洗剤らしきパッケージとブラシ各種を見つけたのは僥倖だね。一応サヨを仲間にしているので俺にもコレの文字は読めた。


 まずは水周り。


 洗面所の水受けは石造りの横長の箱だった。底に排水用の穴が四箇所開いている。水平を取るとか、かすかな傾斜で排水を行うとかの意識が無かったんだろう。まぁ、約三百年前の技術だしね。最近は違うのかも知れない。


 穴の底から配管を見てみると、しっかりと外へと通じている。今朝使った時にも流したけど、水漏れは無いようだ。

 床は一応石のブロックが敷き詰められているけど、角が取れて、表面は風化した跡が見える。砂になった所は自動クリーニングで吸い出されたんだろう。逆にそれが劣化を早めたかな? なら家自体の木材とかは?


 駄目だなぁ。


 後でミスターに詳しく聞いてリフォームしなければならないかも。


 俺は諦め、洗剤を軽くつけて洗面台だけを撫で回して終了させた。


 リフォームが終わるまでは手をつけないほうがいい所が多すぎるので、天と地竜の所へと向かった。しかし、あらかたの作業は終わっており、何処に設置するかと言う問題になっていた。

 そこで、ビケを使って上空から屋敷を観察し、庭も範囲に入れたいので玄関ホールが適当という事に。なので玄関ホールに有った無駄な説明用オブジェクトをアイテムボックス経由で片付け、結界の魔道具を設置した。

 後々、この結界の魔道具の周りに置物とか観葉植物とか置いて、魔道具自体を隠した方がいいかな、と考える。


 さらに、転移の魔道具の片割れを置いて、俺たちの仲間がここに転移で戻って来れるようにしておく。なので設置する転移の魔道具は八つ。俺の手持ちの転移の魔道具は使いきってしまった。サヨたちがどのくらい買って来れるかが問題だな。


 まぁ、実は天と地竜が俺たち用に形式の違う転移の魔道具を作ってくれたから問題ないんだけどね。


 それらもここに設置して、一つが駄目だった時の予備にする。


 階段を上がった所に空気を発生させる魔道具を設置して起動。マナを生み出さない空気のみのはずだけど気持ちのいい風を感じる。


 「これはいいねぇ。この空気だけでも売り物に出来そうだなぁ」


 「我らには理解出来ぬが、そのようなものか?」


 「俺たちの世界は、結構空気が汚れている場所が多いからね。だから敏感なのかも知れない。

 さて、コレはコレでいいとして、ついでにマナも生み出す方も試してみようか?」


 「予想ではかなりの魔力を使う様だが、どうする? 一応、あの大きな魔石が十個程度は同時に入れられるが」


 「うん。まぁ、十個でどのくらい保つのか試してみたいし、それで行こうか」


 金で出来た小さな壷にダンジョンで得た大きな魔石を十個入れ、壷につけられたプレートを引っこ抜いて、裏表をひっくり返してもとの位置に差し込む。これで魔道具として起動する。


 そして、先ほどと同じような美味しい空気があふれ出し、同時に強い力も感じる。何か、体の奥から満たされるような圧力。それがどんどん高まり、言いようも無い幸福感で俺の全身が喜ぶ。さらに、それがはち切れんばかりに高まり…………俺は気を失った。




 気がついたのは、俺が寝床に使っていた部屋だった。


 俺はベッドに寝かされ、そこに全員が集まっていた。


 「あ、あれ? ど」


 前後関係が思い出せない。なんで俺は寝ていて、皆が心配しているんだ?


 「あ、あつつ」


 起きようと思ったけど体が上手く動かない。


 「もうしばらく寝ておれ」


 「俺、どうして…」


 そこで、俺がマナ有りの空気を生み出す魔道具を起動させた直後に気を失って倒れた事を知らされた。


 「あ、ああ、思い出した。あ、あれって」


 「言い方が正しいのかは疑問が残るが、言ってみれば極度のマナ酔いと言える」


 「なるほど。あれがマナか。あれが俺の体の奥から全てを満たして、溢れたと思ったら、次の瞬間がここだった」


 「満たした、と言うのは正しいかもな。我が見たところ、ケンタの魔力量とでも言うようなモノが強く、大きくなっている」


 「あれを経験すれば、魔力量の増強が出来るってことかな?」


 「まさかな。あれに耐えられるモノはそう多くは無いだろう。元々精霊界に住むモノか、それ以上の界に住まうモノでなければ、何らかの障害を残す事になっていたかも知れん」


 「ホント、ゴメン。僕たちにとっては、それこそ空気と同じ様なモノだったから、それが人間にどんな影響を与えるか考えてなかった」


 「あ、ああ。それは俺も考えてなかった。普段から魔法も使っているわけだし、マナと言われても、いくら多くても取り込まなければいいだろう、って感覚だった」


 そこで、もう一度からだの調子を確かめてから起き上がった。


 「無理は勧められないぞ?」


 「普通に動かしておいた方が回復し易いと感じたんだけどね」


 「まぁ、無理をしなければいいだろう」


 俺たちの世界でも、足と脳の手術以外でなら翌日以降に歩く練習からのリハビリが始まるから、病気でも無ければ動いたほうがいいだろう。

 マナ関連がどんな部類に入るかは謎だけどね。


 「歩いた感触では、肉体的には問題は無さそうだ。意識的にはまだ少し、寝ぼけているような感じが残っているような気がする。だけど、このボヤけがずっと残るようだと戦闘では戦力外になりそうだ」


 反射神経と的確な状況判断と未来予測に最適解の選択。どれもが必要で、今までも成長途中だったけど、それが平穏な生活レベルに落ちてしまっては、この過酷な世界では生きていけない。


 もしも現実の体にも影響を与えているとしたら、日常生活でさえ支障を来たす怖れがある。ゲームやスポーツ、車の運転なども制限されるかも知れない。


 とか心配していたら、少しずつハッキリしてきたんだけどね。


 「ん。ああ、回復してきている。寝ぼけみたいなモノは一時的だった感じだな」


 そこで、皆の緊張が緩んだ。


 「ケンタさん! いつも一人で無茶し過ぎですよ!」

 「無茶するならするで一言言ってもらいたいですね」

 「目が覚めなかったとしたら、どうしようかと思いましたぁ」


 何故かお説教になっていった。いや? 無茶とかじゃなく、不可抗力だからね? 無茶と思って無茶したわけじゃないよ?


 どんな言い訳しようとか考えながら部屋を見回すと、取り分けておいた金の杯を見つけた。何故か中に液体が八分目ぐらい入っている。


 「あれ? 誰か、この金のカップに水入れた?」


 俺の看病のために水を用意したのかなと思って聞いてみたが、誰も知らないそうだ。まぁ、いわれも判らない金で出来た杯を看病に使うのもおかしいか。


 じゃあ、誰が? とか思いながら杯を取り上げてみて判った。


 「この水、マナの塊だ」


 塊と言うのはおかしいけど、すんなり出た言葉だった。正確に言うなら濃いマナを液状にしたモノという表現だろう。


 直ぐに天と地竜が俺が差し出した杯を覗き込む。


 「む。確かに。これほどのモノがこれほど近くに有って判らぬとは」


 「あ、この杯。コレがマナを集めてるんだ。だからマナが外に出なかったんだね」


 「先ほどの、ケンタが倒れるほどのマナの噴出で集めることが出来たという所か」


 「で、コレってどんな使い方をするのかな?」


 「そのまま飲んでも魔力の回復に役立つ………のはケンタぐらいか。我も地竜もそのままだと核になっている魔石が保たない可能性がある」


 「じゃあ、ホンの一滴、ポーションに加えてみる、とか?」


 「モノに因ると思うが、そんな所だろう」


 「この世界の普通の人間やサヨ、ロッカク、トーイとかが飲んだらどうなる?」


 「サヨたちならばケンタと同じように魔力拡大で済む可能性は高いが、この世界の単なる人間では二度と魔法を使えなくなるか、己で制御出来無い魔法の所為で自滅するか」


 「うん。ボクもそう思う。肉体強化とかがいきなり起動して、驚いている内に自壊してぐちゃぐちゃなんてなりそう。もし治癒魔法を馴染むほど習得している状態だと、際限なく再生が繰り返されて肉の塊になっちゃうかもね」


 「とんでもない毒じゃないか」


 「ケンタにしても、飲めるのはせいぜい舐めるぐらいだろう。先ほど倒れたのもその程度だったはずだ。もししっかりと飲めばまた倒れる事になるだろうし、その結果は同じように魔力増強で済むのか、今度こそ壊れるか判らない。なのでもう試すなよ」


 「あれ? さっき、天と地竜も直接は飲めないって言ってたよね? でも、マナ付き空気を生み出す魔道具では平気だった?」


 「あれは世界樹のマナを模倣したものだったからな。我らには馴染みが強いし、今の状態でも受け流すのは息をするよりも簡単だ。だが、このマナの水は、純粋なマナ過ぎるのだ。それを飲むなど、受け流す事を放棄するようなものだからな」


 ああ、空気なら『飲まない』という選択肢はあるけど、飲んでしまえば『飲まない』どころじゃ無いよねぇ。


 「まぁ、ケンタの魔力の量、質共に格段の増強が出来たと言う事で良しとすべき事だな。たまたま生き残ったのだから、あまり欲はかかない事だ」


 「そうだね。そうしよう。あ、あの魔道具の方はどうなった?」


 「あの一瞬で魔石を使い果たして機能を止めている。まだあの場所に残っているぞ」


 「あの一瞬、って、ダンジョンの大きな魔石が十個あったでしょう?」


 「うむ。ケンタが倒れるまでの、およそ、三ぐらいまで数えるほどの間だったな」


 「うわ、短か。って、それだけ濃いマナが一気に噴出したってことかぁ」


 「精霊界の世界樹はマナを生み出し、それを世界中に送り出しているという話を聞いたことがあったが、それを今日、実感したな」


 「まぁ、マナを生み出す魔道具は、マナを効率良く収集する為の道具として、慎重に扱わなければならないって事だね」


 そこでマナ付き空気発生魔道具についての話は終わった。


 そして、全員がいると言う事で結界の試験運転を行う事に。


 全員に転移の魔道具を二種類ずつ渡して、ロッカクと地竜と妖精はミスターの隠れ家に、サヨとポーポーたち、そしてトーイと月光は歩いて屋敷の敷地外へ。俺は天と一緒に結界の魔道具を屋敷の中から起動する事に。


 パーティチャットを起動。


 「これから結界の魔道具を起動させるよ。各自、観測を頼むね。

 じゃあ、起動!」


 いつもの、天の結界で守られている時の様な圧迫感があるかな、と思ったけど特に何も感じなかった。


 「結界は起動したはずだけど、サヨ、トーイ、普通に歩いて入れるか試して」


 『あ、あれ? もっと硬いと思ったけど、そうでも無い?』


 『フワフワですねぇ。でもぉしっかりと入る事は出来無いようです』


 「サヨ、トーイ、一度攻撃してみてくれないか?」


 『はい、行きます!』


 『わたくしもぉ』


 そして、しばらく返答は無くなった。とりあえずこちらからも声を出さないで結果を待った。


 『はぁ。けっこう本気でやってみましたけど、クッションに打ち込んでいるみたいで効果を感じられません』


 『わたくしもぉ。柔らかいサンドバッグみたいでしたぁ。拳を傷めないで良いのですけれどぉ、逆に練習にはなりそうもありませんねぇ』


 『あ~、判るぅ。刀の刃こぼれとか心配せずに叩きつける練習に出来るかと思ったけど、感触が違うんですよねぇ』


 「そう言う練習なら巻き藁作ってやって。それ、結界だからね」


 困ったものだ。けっかーい、とか叫んで体当たりを繰り返すとかは止めて欲しい。


 「じゃあ、サヨとトーイは個別に転移の魔道具を使ってここに来てくれ」


 『『はーい』』


 返事から五秒ほどで俺の目の前に二人が現れた。


 「お疲れ。転移の入りや途中、終了時、そして今、なにか変化を感じたかな?」


 「特には何も。たぶん、いつもの移動と変わりなかったはずです」


 「わたくしもそうですねぇ」


 「判った。じゃあ、ロッカク。ミスターの転移門でこっちに来てみてくれ」


 『判りました。今からくぐります』


 程なくして、二階の書斎からロッカクが地竜と妖精をつれて現れた。


 「お疲れ。ロッカクの方の変化は?」


 「はい。いつもの移動と変わりありませんでした」


 「じゃあ、今度は俺がゲートの所までここから転移して、また戻ってくる」


 そう言い、既に用意してある転移の魔道具に魔力を注いで起動させた。


 そしていつもの感じでゲートに到着。このままゲーム世界に、とかも想像したけど、皆と時間軸がずれそうで止めた。


 「問題なくゲートに到着。今から戻るよ」


 今度は天たちが作ってくた転移の魔道具で転移して戻った。


 「お疲れ。パーティチャット終了。皆、しつこい様だけど、体調に変化は?」


 「ありません」「大丈夫ですねぇ」「問題ありません」


 「それじゃあ、最後の実験。皆で一度結界の外へ歩いて出てみよう」


 と言う事で、皆でゾロゾロと歩いて外に。結界も難なく越えた。振り返ってみるとボロボロだったミスターの屋敷が生き返ったような感じに見える。やはり、家とは人が住まないと駄目なんだなぁ。


 確認が終わったので戻ることに。それぞれが魔道具を使って屋敷のエントランスに転移で移動した。


 「これで、表面的な検証は出来たかな。後は緊急用の停止装置を付けるか付けないか、とか本当に入れないのか、とかの徹底的な検証だけど、まぁ、時間のある時にでもしようか、って程度かな」


 「この後はどうします?」


 「一応ミスターの手伝いかな。ミスターの作業端末がこの屋敷に来られるようにしておきたい、ってのがねぇ」


 「ああ、ミスターにリフォーム業者を頼むんですね」


 「俺たちはまたしばらく、こっちに来れないだろうしね。

 サヨとトーイは、一応仮だけど、一階の客間を自分の部屋にして整えていて。じゃ、ロッカク、行こうか」


 「あ、すみません、ここでの僕の部屋って何処になります?」


 「俺の所は知ってるよね。サヨとトーイに確認して貰って、一階の客間を適当に選んでいいよ。二階の方が使えるようになったら、そっちに個室を作る事になるだろうけどね」


 「判りました。じゃ、ちょっと確認してから行きますんで、先に行っていてください」


 ロッカクも個室を欲しがるお年頃なのねぇ。などと思いながら先に二階にある転移ゲートからミスターの隠れ家に。


 「結界と転移の魔道具の設置は完了したよ。で、これがミスターの分ね」


 そう言って市販の転移の魔道具の片割れと、天と地竜が作った転移の魔道具の片割れを作業台の上に乗せる。


 『結界は上手く作動したのか?』


 「細かい検証はしてないけど、一通りは思ったとおりに出来たよ。後は、ミスターの作業端末が向こうと行き来できるか、ってだけな感じかな。

 あ、ああ、あと、ミスターの転移ゲートがどのくらい持続するのか、とかの確認と対応があるか」


 『私の端末では転移の魔道具を使いこなせる可能性は低いからな。転移のゲートは新たに作り直して、新しい魔石をセットする必要があるか。なに、直ぐに出来るので待ってくれるか』


 「ああ、それぐらいならね。あと、作業端末ってのはどうなのかな?」


 『新しいゲートが出来たら、今使っている物を移動させてみよう』


 「そうだね。俺たちはそろそろ、アレンストに戻って懸念の解消をしてみようと思ってる。それが終わったらロッカクの妖精の世界を調べたいし、しばらくは戻れないかも」


 『その間、私も出来る事をやっていよう。移動などが出来なければ現状維持にしかならんがな。まぁ、ケンタたちが使わないのであれば、そのまま朽ちればいいだけだろう』


 「あ~、それなんだよねぇ。この世界の誰かに託すってのも手なんだけど…」


 『なに気にするな。ケンタたちはゲーム攻略のためにここに立ち寄った、と言うだけの事だと割り切ればいい』


 「そのつもりでいたい、けど、って所なんだよね」


 『ふふふ。私も初めは新たに生きるかを考えた。だが、心が年を取ったのだろう。いつしか、それは私の役割では無いと考えるようになった。きっと、私の代わりにそれを感じてくれる者がいるのだろう、と。私はそれを陰から支えようと思ったのだ。正確に言うと、支えようと思った事に大いに納得したのだ。それが、今いる私の役割なのだとな』


 「そういうもの、なのかな?」


 『私の場合だけかもな。だが、私はそれで納得できたのだ。だからそれでいい』


 「まぁ、心変わりしたら相談して欲しい、ってのを覚えておいて」


 『ケンタよ』


 「何?」


 『ありがとう』


 「………」


 それから直ぐに転移ゲートが出来上がり、作業用ロボットという風体のミスターの端末が持って来た。車輪つきの箱の上に腕が数本とカメラらしき頭を持ったロボットだ。


 俺、そして天と地竜で、転移ゲートを持つ端末ロボットについて行き、ここに来た時に利用した転移ゲートの場所に移動して転移した。


 俺より先に転移した端末ロボットは変わりなく動き、新しい転移ゲートを今使った転移ゲートの横に設置した。そしてそのゲートをくぐり、元のミスターの隠れ家に移動していった。


 俺もその新設のゲートをくぐってミスターの隠れ家に移動。


 出た場所はミスターの本体がある部屋の隣にある作業場だった。そこからミスターの部屋に行き、ゲートが問題なく作動したことを報告する。


 「ロボット端末の方はどうだった?」


 『結界で仕切られているとは言っても同一空間でしかないからだろう。なんの問題も無かった。ここから随時、直接制御が可能だ』


 確か、結界は空間の質を変えるモノと空間を重ねるモノが有って、天は二つを同時並行で使っているらしい。屋敷に使った魔道具もそれに倣っている。なので質的にはそこに壁があるのと同じだし、空間的にはとんでもない距離の隔たりがあるのと同じようなものだ。どのくらいの壁の厚さか、とか、どのくらいの距離なのかは術者のレベルに依存するらしいが、今回のは魔道具として作った物なので人間の熟練魔道士ぐらいだとか。


 いや、それって結構凄いよね。


 ちなみに、結界と同じような効果を持つものに『障壁』というのがあり、その魔法も存在する。こちらは透明、不透明などは様々で、術者の力量や好みで土の壁、風の壁、水の壁などの性質を持つものが多いらしい。結界よりも難しいらしいんだけど、結界よりも人気らしい。たぶん、小さく細かく展開できるからだろうと思うけどね。


 「良かった。なら、悪いんだけど、屋敷の部屋の整理をお願いできるかな? 出来れば二階の研究室のどれかを俺たちの個室にしたいと思ってね」


 『ああ、そう言えば、屋敷の中の事は気にしたことが無かったな。実際、今、どうなっているのか想像もつかん』


 「今は一階の客間を仮の個室にしているけど、二階はほとんど個別の研究室みたいになってたね。一つか二つの研究に対して一部屋って感じで。だから、片付けて空き部屋に出来る場所を個室にしたいんだ」


 『確か、晩年はそんな感じだったな。まぁ、部屋が余っていたからそう言う使い方をしたんだった。大事な物はこちらに持ってきてしまったから、基本的には全ての部屋を片付けてもいいのだがな』


 「そこら辺はまかせるよ。っと、ロッカクたちはどうしたのかな」


 俺は天と地竜を伴って屋敷の書斎に向かい、そのまま階段のあるホールに出た。


 そこで、倒れているサヨ、ロッカク、トーイを発見した。


 「どうした? サヨ! ロッカク! トーイ!」


 駆け寄り名を呼んでみる。


 こういった場合、揺り動かすのは愚の骨頂。まずは名前を呼んで反応するのかを見る。名前に反応しなかったら大声で反応するかを見るんだけど、三人とも名前に少し反応した。


 そこで俺も少し落ち着いたようだ。近くにポーポーとピーちゃん、ロッカクの妖精も倒れているのを発見した。こちらは声には反応しない。


 「一体何が?」


 トーイを見ると月光が首に掛かっている。


 「月光? 聞こえるか? 月光!」


 月光もまた反応が無かった。


 「天! 地竜! 何があったっか判るか?」


 「落ち着けケンタ。これはお前と同じだ」


 「俺と?」


 そこで、その場所。玄関ホールで階段を上がった場所だと気付く。ここは、空気を生み出す装置を置いてある場所で、マナ付きの空気を生み出した際に俺がマナに酔って気絶した場所だった。


 「あ! あ、あ、あれを皆が試したのか?」


 「おそらくそうだろう」

 「ボクもそう思うよ」


 「一体何故? 下手をしたら魔法を使えなくなるどころか、死ぬ可能性もあったのに」


 「まぁ、簡単な話だとは思うがな」


 「え?」


 「皆はケンタが一人で突出したようになったのが耐えられなかったのだろう」


 「突出? なにが?」


 「ケンタは、他の人間から見ても魔法の力が大幅に上昇しているのだ。魔法を使う者ならハッキリと判るほどにな。例えるのならデミドラゴンとドラゴンぐらいの差がある」


 「え? そんなに?」


 「うん。普通のここの世界の人間をデミドラゴンとするのなら、ケンタは水竜、とまでは言わないけど、風竜ぐらいはある感じかな」


 それが天と地竜の俺に対する分析だった。


 「サヨもまた同じ程度の力を持つが、風竜の力の上にサヨの力が乗っている状態と言える。つまり、サヨ自身の力とは言えないわけだ」


 「でも、使いこなせていない俺と違って、サヨは限定的とは言え使いこなせているよね?」


 「そうでは無い。ケンタ。お前は皆より、一人だけ大きく上を行っているのだ。一体のドラゴンにデミドラゴンがついて行っているのと同じ状況になるのだ。それに対して皆が

力量的に置いて行かれると感じているのだろう」


 「いや、別に、置いて行くとか、行かないとかじゃなくて、一応それぞれ自分の意思で行動しているってつもりだったけど…」


 「我には人間の考え方はハッキリとは判らぬがな。それでも、ケンタ、お前が皆を引っ張って来た事だけは判る。ケンタが皆の中心なのだ。そして、ケンタが魔力の底上げを行ったことで、中心であるケンタが皆の中心では無い位置に来てしまった。それが皆をこうした原因であろう」


 「俺と並んだって、ろくな事にならないだろうに……」


 「まぁ、その事は追々考えれば良いだろう。まずはこの連中を下に運んだ方が良いのではないか?」


 「俺としてはお仕置きの意味も含めて放置でもいいんじゃないか、とかも思ったけど、まぁ、仕方ないか」


 結果、四往復して三人とポーポーたちを運ぶ事になった。俺の体がゲームのパラメーターどおりに作られているらしいので、三人を同時に運ぶのも楽そうだったけど、一応一人ずつ運んだ。


 ロッカクのベッドはロッカクが収納して持っているので、客間の長椅子に寝かせたのは仕方ないよね。


 「ポーポーたちや妖精、それに月光は大丈夫なのかな?」


 「反応は無かったようだが、我が見たところ、中の魔石にも破損は見られなかったと思うが」

 「うん。ボクもそう思った。三人と同じようにマナの量に驚いて気を失っているのと同じような状態じゃないかな」


 「ならいいんだけどね」


 俺はホールに戻り、二階の空気を生み出す魔法具の隣に置いた、マナ付きで空気を生み出す魔法具をアイテムボックスに収納した。


 「魔石をマナに変換して、それを液体として利用できる便利な道具だと思ったけど、取り扱い注意だね」


 「実際にマナを液体として利用したければ、マナを液体に変換する杯を世界樹の元に持って行った方が安全ではあるかもな」


 この魔道具を使うと、問答無用で濃いマナの奔流に巻き込まれるが、世界樹になら耐えられる場所までしか近づけないという利点はあるな、と天がつぶやく。


 それを聞き流しながら、俺はホールの階段に座って俺自身のことを考えた。


 皆が俺について来ている。


 皆の中心というか、リーダー的な状態になるのは男としての自尊心をくすぐられる。

 でもそれは、同時に責任というものがのしかかってくる。当然だけど、皆には自己責任と言ってあるし、俺も強く要請する事は無い。逆に誰かの失敗を俺が『責任』を感じて背負う事を嫌がるだろう。皆との付き合いでそれはなんとなく判る。


 でも、そう言った表面的な『責任』では無く、俺の判断が皆を『本当の死』に近づける場合の『責任』だ。


 そう思うと、躊躇してしまう。


 責任を怖れて、皆を止め、異世界への移動を制限してしまう愚行を行う恐れがある。

 おそらく、そうなれば皆は個別に移動するだろう。そしてそれは、皆に本当の死が迫る可能性も高くなる。


 単純な話。俺が皆を正確に導けば良いだけなんだけど、到底、そんな事は不可能だ。


 今までも間違いだらけで、辻褄合わせがなんとかなっている様に見えるだけだ。


 その辻褄合わせも、この先、上手くいくとは限らない。いや、いつかは失敗するだろう。その時、皆の命を奪う事になってしまう可能性を考えると、俺は…。


 俺は命がけの戦いのリーダーとしての重責に、耐える心に鍛える必要があるんだろうか?

 いや。

 耐えた先に、仲間の死を気にしないようになるのは最悪だ。


 ならば?


 良い所取りするという結論は簡単だけど、実際にそれが許される状況の方が少ないだろう。

 せいぜい、仲間の命を一番に、守りたいと思った他人の命を二番目に、と言うのを、人としては卑怯ではあるけれど、基本的な行動指針にするべきなんだろうな。


 冒険者と言うゲームプレイだと、『勇者』というのが主人公キャラの設定ってのが多いけど、俺には『卑怯者』というキャラしか合わないようだしねぇ。


 「ケンタ? ケンタ? どうした?」


 天が、やや焦ったように声を掛けてきた。


 「天? なにがあった?」


 「あ、いや。ケンタがじっとして動かなくなったのでな。マナの件も有り、憂慮してしまった」


 「あ。ああ、ゴメン。考え事してた。みんなのリーダーとして責任重大だなぁ、ってね」


 「それならば良いのだがな。何らかの体調に変化があった場合は、言ってくれると対処が良好に進むと考えられるからな」


 「ああ、うん。ありがと」


 俺は立ち上がり、皆が目覚めるまでの時間をミスターのところで過ごすことにした。


 ミスターは屋敷に置く端末としての人型ロボットを製作中だった。


 『基本は私が自らの体として動かす事になるが、ゆくゆくは自律行動も考えている』


 「自律行動だと、魔石の暴走が心配じゃないのかな?」


 『魔道具の魔石が暴走してゴーレム化という懸念もあったな』


 「自律してなお暴走しないゴーレム。それだけでも結構理想形だよねぇ」


 『かつて、私が冒険者以前の放浪者であった時、古代遺跡を見つけた。そこにあった魔道具を解析することで、その後に色々作り上げることが出来るようになったのだが、そこに長時間稼動していたと思われるゴーレムがあったのだ。残念だが、その時には既に動かぬ物になっていたが、アレの仕組みを今一度紐解くのも一興だろう』


 「他の世界にも拠点を作りたいから、もし実現できたらよろしく」


 それから無駄な話をして時間を潰し、頃合いを見て屋敷の方に戻った。


 ミスターの秘密基地から屋敷の書斎に戻り、エントランスにある階段で一階に下りようとした時、階段手前の床が嫌な軋み方をした。

 少し危険を感じたので直ぐに下がったけど、どうやら二階の階段前の廊下兼広場になっている部分の床がかなり劣化しているようだ。


 「ん? さっきまではこんな感じではなかったけど、急に朽ちてきたって感じだなぁ」


 「ああ、ケンタ。それはすまない。おそらく我らの考えが至らぬ為の結果だろう」


 俺のつぶやきに肩に乗っている天が答えてくれた。


 「天が何かしたって事?」


 「結果的にはそうなるな。あの、マナを生み出す魔法具で濃いマナがこの辺りに流れ出したせいで、ここの木の床が劣化したのだろう。石造りの部分も同じように劣化している可能性もある」


 「え? マナって周囲の物を劣化させるの?」


 「劣化なのだが、本質はマナに溶かされるという感じか」


 「え? え? え? どう言う事?」


 天と地竜に詳しく聞いた所、この世界の全ての物質は元々マナから作られていると言う事だった。竜や天使たちの間で聞かされる神話では、神は初めに大量のマナを生み出し、それを原材料にして『世界』を創っていったそうだ。

 つまり、この世界の大地も水も空気も、そして全ての生き物たちの大元もマナで作られているという。だから、純粋なマナでその構成が解けてしまうらしい。石油由来の塗料やプラスチック製品などが、石油由来の溶剤で溶けてしまうのと似たような印象を受けた。

 まぁ、だからこそ、マナを使った魔法で色々な影響を与えることが出来るんだろう。


 魔法で火を発生させる事も、水を生み出すことも、大地に穴を開ける事も、全てマナで出来た世界だから出来る事と言う事だ。


 「あ、すると、俺が使ったアトミッククラッシュ改めエレメントクラッシュって、実際はマナクラッシュだった?」


 「ケンタたちの言うあとみっくとかが良く判らぬが、確か根源にして最小の単位とかだったか? ならば似たようなモノだと思ったが?」


 「あ、ああ、やっぱり、かなり違うと思う。まぁ、基本的な勘違いだけどね。でもやっぱりマナの構成を破壊するからこその、あの威力だったんだろうな」


 「うむ。マナの破壊と言うなら、それが正解に近いだろう。ケンタがアレを使う時は、属性は乗せていなかったのだな?」


 「うん。純粋に魔法の力を放出、って感じで使ってた」


 「ならば、マナ破壊で間違い無さそうだ」


 「ここの床が劣化したのは、俺のマナクラッシュと同じような効果があったというわけか」


 それから一度ミスターの所に戻り、二階の階段広場の状況やマナの事を、俺の知る限り報告した。

 結果としてミスターによるリフォームはかなり徹底的になる方向に修正されたそうだ。


 「屋敷の地下に秘密基地とか?」


 『その方向性も捨てがたいな』


 余計な一言を言ってしまったようだ。よ、世の中が平和でありますように。


 一応、俺の信仰する神様に祈っておいた方がいいかな? 名前を伏せなければならないと感じさせる古い神様、俺の買った宝くじが当たりますように。俺の応募した懸賞が当たりますように。あ、後ついでに、ミスターがあんまり暴走しないといいなー。


 よし。この祈りが聞き届けられたら、この世の中が少しは良くなる可能性があるのかも、無いのかも、まあ、いいか。


 とりあえず納得した所でサヨ、ロッカク、トーイを叩き起こした。


 既に半分は覚醒していたようなので、比較的あっさり起きたので、さっさと移動することにした。

 皆も俺も、色々と言いたい事があったけど、今、そこら辺の事を掘り下げたら感情的になって、いらない対立とかも生まれるかも、という不安から、必要最小限の言葉だけでゲーム世界に戻ることを告げて移動を開始した。


 転移の魔道具やそれぞれの荷物を再確認して、ゲートへと転移。そしてゲートをくぐってからゲーム内のクランハウスへと転移した。


 クランハウスに戻ったら、地竜の所持権利を投棄するためにアイテム欄を操作。


 このゲーム世界の中ではアイテム扱いされている地竜に触れると、再び所有権が出来てしまう。すると所有者がログアウトした時に所有者のキャラクター情報と一緒にゲーム情報として格納され、次に所有者がログインするまで停止状態になってしまうので、地竜だけがこのゲーム世界に残りたい時は所有権が無い状態にしなければならない。


 地竜は俺たちがログアウトしている間に、単独でこのゲーム世界に残り、ネット接続環境を使っていろいろ調べたいそうだ。


 俺たちがログアウトして、現実世界で一日過ごし、再びログインすると、このゲーム世界では四日経過する。四倍の時間速度で動いているゲーム世界ならではの現象だが、その時間を利用しての情報収集という一石二鳥の空き時間利用法だ。


 その地竜に天も付き添い、今回は人口知能を持つ機械の鳥型のポーポーと、兵士のための視界補助機能と人工知能を持つゴーグルの月光が知識習得に参加すると言う事だった。


 クランハウス内に外部のネットへと接続する環境は課金アイテムとして買ってあるし、クランハウスには登録した俺たち以外には入ることが出来無いので、クランハウスから出ないという条件で許可した。

 天や地竜たちが問題を起こすという心配は無いが、他のプレイヤーに変な気持ちを起こさせるのは全てにとって良い事では無いからね。


 「と、言うわけで、俺たちにとっては明日、天たちにとっては約四日後にまた会おう」

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