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無理ゲーオンライン  作者: IDEI
21/56

20 生産職を目指す少年

 そして、暫く歩いてから転移の魔道具でゲートの場所まで移動。ゲートをくぐってから魔導エアバイクであるビケを取り出して、それに乗ってエリア5の町まで移動した。


 「あー、そう言えば、ログインして、消耗品の補給をして直ぐに出発したんだったよなぁ」


 「ここの時間で二時間も経過してませんよねぇ。現実だと三十分程ですか」


 「現実世界の時間で四時間くらいは勘定に入れてたから、コレでログアウトするのは少しもったいない気がするな」


 「そうですねぇ」


 と言う事で、少しフィールドを回って、ポーポーにこのゲーム世界を見せる事にした。タスク処理としては、ポーポーの世界に行って、ポーポーの修理をした方がいいのは明白なんだけど、ミィの世界で過ごし、その後にポーポーの世界に行くと言うのは、さすがに頭の切り替えが追いつかない。こう言うのを続けていたら、たぶん現実世界の生活を切り捨てて行く事になりそうなので、今回はポーポーに勘弁して貰った。


 俺はアメリカンバイクの形に近い魔導バイクのビケに乗り、両肩にベアーズを張り付かせている。サヨはスクータータイプのビケに乗り、両肩にはメカバード二羽。

 特に目的地も考えずに周囲を走り回る事にした。


 だけど、途中でサヨがビケを仕舞い、俺の後ろに乗ってきた。


 なんでも、敵性の獣が出てきた時に、ビケの速度で迫れるのはいいんだけど、その後に降りて武器を構え直すのが面倒だと言う事だった。


 そんなに戦いたいのか。


 まぁ、向こうでは刀を存分に振るう事が出来なかったから、こっちで憂さ晴らしをしているんだろう。でも、ショットガンも嬉しそうにぶっ放していたんだけどねぇ。


 きっと、それを指摘したら、それはそれ、これはこれ、とか言われそうだ。


 サヨが飛び降りて、獣タイプの敵を切り裂いている時も、サヨの肩に乗ったメカバードたちは器用にバランスを取って、平然としていた。


 「これが、データで作られていて、いくらでもコピーできる遊びの中のエネミーかぁ。かなりリアルに作られているんだね」


 「俺やサヨのこの身体も、似たようなシステムで動いて、エネミーを倒したり、経験を積めば強くなっていくというデータに過ぎないんだけどね」


 「それが、ボクたちの世界や、さっきのファンタジーの世界に行くと、データが本物になったりするんだね」


 「どこまでがデータで、どこからが本物なのかは判らないんだけどねぇ」


 しきりに感心するポーポーに、俺たちが知っている事を話すが、俺たちもほとんど何も知らないという認識を再確認しただけだった。


 これって、その内はっきりするのかな? それとも『仕様です』と言う言葉で濁されたりするのかな。


 現在地はエリア5。なのでエリア4以下のフィールドを覗いてみる事にした。他のプレイヤーの進行状況が気になったからね。


 で、エリア4にはまだ誰も居なかったけど、エリア3にはチラホラとプレーヤーが居る事が判った。

 皆順調に進んでいるね。良い事だ。


 俺は、討伐報酬や単独討伐報酬でかなり稼いでいたから、魔法や武器を買うのは余裕だった。でも、他のプレイヤーは、フィールドに出てくる敵を倒して換金しないとならない。これは手間と時間が掛かるけど、後々の攻略には大きな影響が出てくるんだろうな。きっと、俺たちなんかよりも強いパラメーターを持つプレイヤーが多く現れるんだろう。


 周辺探知で調べると、皆が二、三人程度の塊で行動しているようだった。パーティ登録していなくても、複数人で強力するのは効率が上がるだろう。

 パーティを組むための条件とかも、攻略組みが調べたのかな?


 そんな中にたった一人でいるプレイヤーの存在を探知した。


 アクが強いキャラとか、プレイする時間が不定期な場合、他のプレイヤーと合わせられないという事もあるので、一人で遊んでいるのも無くは無いと思う。


 丁度いいので、そのボッチしているプレイヤーと話しをしてみる事にした。ポーポーにも、他のプレイヤーを見せるいい機会だろうしね。


 で、アメリカンバイクスタイルのビケの後ろにサヨを乗せ、時々狩りをしながらそのボッチプレイヤーに近づいて行った。

 そして草原の一角。一つだけポツンと在る岩の上で、体育座りをしているプレイヤーを見つけた。


 これは本気でボッチか?


 ビケは、魔石を使った魔道具のバイクなので、基本的にエンジン音は出さない。作られたのが魔獣が多くいる世界だし、大きな音を出して移動するなんて、自殺行為に等しいからね。


 そんなビケで、ボッチプレイヤーの後ろから近づき、数メートルの距離にまで来た所で声をかけた。


 「やあ、こんにちは、始めまして」


 いきなり声をかけたんで、そのプレイヤーは驚いて、慌て、ほとんど飛び上がるほどの反応を見せた後に、見事に岩から落っこちた。


 「見事な驚愕落ちだ。近年稀に見るほどの反応だったねぇ。これは、誰かに師事しているのかな?」


 「なんか、嫌な師弟関係ですね…」


 ビケを降り、アイテムボックスに収納してから、落っこちたボッチプレイヤーの元へと歩いて向かう。


 「おーい、大丈夫かぁ?」


 一応心配になったのでそんな声をかける。落ちた所為で死に戻り、なんて、声をかけた俺の方もゴメンだからねぇ。


 「あ、あ、だ、大丈夫、です」


 そう言って立ち上がったのは、やや背が低い感じのする、気弱な少年という感じのキャラクターだった。


 基本的に十六才以上限定のゲームだから、十五才以下はいないはず。だいたい十六ぐらいなら身長などは大人の状態に近づいている筈だから、本当に背が低いのか、あえて低身長に設定しているのかと、いろいろ考えてしまう。


 「いきなり声をかけて、驚かせてしまったようだね」


 「あ、いえ、僕もボーっとしてましたし…」


 その時、その少年の真後ろで何かが動いた。


 「ん?」


 「あっ! こ、こら!」


 少年は真後ろのモノを必死に隠したいらしい。でも、しっかりと動いている小さな物体が在る事は認識出来た。しかも、それは空中に浮かび、上下前後左右にユラユラと舞っている。


 それが、いきなり俺の目の前に飛び出してきて、俺の両肩に乗っているミィと天を食い入るように見つめてきた。


 「妖精?」


 俺の知識では、フェアリーとかいう、二十から三十センチ程度の小人で背中に蝶やトンボのような羽根を持った、あやかしの一種だったはず。見た目は、その通りの、手の平よりも若干大きいぐらいの身長で、背中にトンボの様な羽根を持った少女タイプの小人が飛んでいた。


 「ほう。このような人間型ではっきりと顕現出来ている妖精とは珍しいな」


 「我も、このような形態は初めて見たな。人間界に現れる妖精のほとんどは、光の玉か、光の玉に羽根が生えているような感じの見た目になるのがほとんどの筈だ」


 ミィと天が、その妖精を見て感心していた。


 「あ、あなたは、テディベアを愛でる者さん?」


 そこで、少年が俺の事を認識したようだった。それがテディベアを愛でる者、ってのは仕方のない事なのかなぁ。


 「俺の名はケンタ。ケンタだ。ケンタ。判ってる?」


 「は、はい、すみませんでした」


 「そして、ミィと天。あっちはサヨに、ポーポーとピーちゃんだ。君は?」


 「ぼ、僕は、ロッカクと言います。キャラ名ですが、フルだとロッカク・レンチです」


 「ロッカクだね、よろしく。で、その子は?」


 俺は俺とロッカクの間を行き来している妖精を指して聞いた。


 ロッカクによると、初めは他のプレイヤーと組んで道具製作担当で攻略を進めていたけど、アイテムが手に入るようになると邪魔だと言われて追い出されたそうだ。


 元々パーティ登録はしていなかったらしく、別行動を取ればそれで仲間認定は解消されてしまう。

 生産を極めたくてゲームを始めたので、初めの方は色々作っていたらしいけど、その分、戦闘では役に立たない状態だったという。


 エリアが進むほど金と基礎的な強さが必要になる。パーティ管理魔法を習得していれば、強さに関してはあまり負担にはならないはずだけど、そのパーティ管理魔法を習得していない状態だと非戦闘職は滅茶苦茶負担になる。

 彼をハブった連中は非人道的と言えるかも知れないけど、このエリア3まで彼と同行していたって事を考えると、一概に非道とは言えないと思う。そのぐらい、このゲームは同行者を連れて行く事が負担になるルールだ。


 そして、ハブられて、進むのも戻るのも難しくなって、一人で途方に暮れていたところ、いつの間にか現れた妖精がロッカクにまとわりついて、ロッカクの心を慰めていたそうだ。


 「すると、その妖精とは、出会ってからあまり経過していない?」


 「あ、はい。たぶん三十分ぐらいかと。あ、ゲーム内時間で」


 「で、その妖精はなんという名前なんだ?」


 「いえ、知りません。というか、会話とかは出来ませんでしたから」


 「そうか…」


 ある程度納得出来たので、サヨの意見を聞きたく振り向いてみたが、サヨは肩をすくめて『知りませーん』のポーズで返してきた。


 面倒くさいと思ったんだろうな。くそっ。


 「その妖精は俺が預かろう。君には、ショットガンとショットシェルをいくつか渡しておく。それが有れば、近くの町か、エリアを下る事も楽にできるはずだ」


 「え? 預かるって…」


 「簡単に言えば、その妖精の事は忘れて、ゲームを楽しめ。と言う事だ」


 「な、なにを言って…」


 「その妖精に関わると、ゲームを楽しめなくなるし、本当に命の危険が有ると言う事だ。かなりの苦しみ、痛みを感じる事になるだろうし、本物の恐怖も感じる事になるはずだ。それは、君にとって、ゲームを楽しむという趣旨には、全く合わない筈だろう」


 「ちょ、ちょっと待ってください! 何ですか、それ。ちゃんと説明してください!」


 「説明? そんな事は知らん。何が有るかなんて、現実でも判らないだろう? ただ判っているのは、本物の痛み、苦しみ、恐怖があり、かなりの確率で本当に死んでしまう事もあるという事だけだ」


 その説明に、サヨはしたり顔でうんうんと頷いている。


 「そ、そんな事、有るわけ無いじゃないですか! ゲームですよ?」


 「その妖精に関わると、ゲームから逸脱する。これは、本当だ」


 振り返りサヨを見ると、そのタイミングでコクリと頷く。


 「ゲームじゃ無くなる、って言われても…」


 「このヴァーチャルリアリティで構成された冒険ゲームの中で生産活動をして遊ぶつもりだったのだろう?」


 「そ、そうですけど…」


 「その妖精に関わるという事は、そのゲームを遊べなくなると言う事だ。ここでなら失敗して敗北、死んでしまっても、少しのペナルティだけで死に戻り、やり直す事が出来る。だが、その妖精に関わると、本当に死んでしまう。もし君が死んだら、残された家族はどう感じると思うかな?」


 「………」


 「生産活動も出来るかどうか判らない。場合によっては素手で命がけの戦いをする事になるかも知れない。知恵が必要かも知れない。自分が自分じゃ無くなる覚悟が必要かも知れない」


 「な、何が有ると言うんですか!」


 「それが判らない、と言ってるんだ。ただ判る事は、何が起こるか判らない、と言う事だけ。そして、何かは確実に起こる」


 「す、すみません。テディ…、ケンタさんが何を言っているのか判りません」


 「何が起こるか判らない、とだけ言っているだけだけど?」


 「そ、その、それが、なぜ、この妖精と別れなければならないのか、って事です」


 「その妖精がゲームの外の、危険な場所へ導くから。というのが理由だな。言っておくけど、その妖精は、このゲームのキャラクターでは無い。この先のエリア4,エリア5でも出てこないからな」


 「で、でも! でも!」


 「判ったのなら、その妖精の事は忘れた方が良い」


 サヨの例もあるけど、こういった異世界へのコンパニオンとの接触は、プレイヤーの心にもかなりの影響を与えるようだ。


 具体的には、離れたくない、という感情。


 俺はどうかと聞かれれば、納得の出来る状況であれば別れる事は素直に受け入れられる。実際、ミィが元の世界に戻る時に関係を絶つ準備をしていた。まぁ心の何処かで、関係を続けられるのなら続けたいと思っていた感じではあるけれど。


 ならば、納得出来ればいいのか?


 と言っても、そんな方法は思いつかない。異世界へのゲートを見せて、そこで別れさせるのはどうかと考えたけれど、俺の場合と違って、本人は納得しない可能性も大きい。


 「しょうがないな。少し強引な手を使わせてもらうか。

 異世界の妖精よ。お前の通ってきたゲートまで案内してくれ。多少場所が曖昧でも構わない。俺がお前を元の世界に戻してやろう」


 ロッカクは会話が成立しないと言っていたけど、俺の言葉はしっかりと届いたようだ。


 たぶん、名前を聞くとか、どうしてここにいるのか、とかの質問をしたんだろう。おそらく、本人にさえ判らない事を質問し続けたんじゃないだろうか。そう言う点では、俺は会話が通じるミィと出会ったことが幸運だったということだな。


 俺の言うことが理解出来たであろう妖精が、俺の差し出した腕にまとわりついてくる。


 その光景にロッカクはショックを受けたようだ。


 「じゃあな。一応、散弾銃とショットシェルは渡しておこう」


 そう言って銃と弾を取り出し、地面に置いて投棄する。これで、銃の俺の持つ所有者登録が解除される。


 「ま、待ってください! ぼ、僕も連れて行ってください!」


 俺が振り返ったタイミングでそう言ってきた。


 「連れて行ってくれ? なぜ、俺がそんな事をしなければならない?」


 「え? なぜって…」


 「それが何処にあって、そこに何が有るかも判らない所に連れて行ってくれと言われても、俺にはどうしようにもないぞ?」


 「そ、それも、そうですけど…、い、いえ! それなら、なんで、その妖精を連れて行こうとしているんですか!」


 「それは、この妖精が求めているのが、事情を少しは知っていて、妖精自身を元の世界に戻すことが出来る相手を探していたから、だな。つまり、俺が連れて行くと言うわけでは無いし、逆に俺が案内される立場だ。そして、この妖精が求めていたのは俺であり、ロッカクでは無いということだ」


 そこで、ロッカクの全身から力が抜け落ちたのが判った。


 漸く、どうしようもないと言うことを納得出来たようだ。ちょっと可哀想だったかな。でも、気軽にゲームをしていた感覚で異世界と関わるのは、ロッカクのためにもならないだろうし、この妖精にとってもマイナスになるだろう。


 俺はビケを取り出し、それに跨った。


 「おおよそで良いから、来た方向を示してくれ」


 そう言うと、エリアとエリアの境界。つまり、エリアボスの居る方向を示した。


 「やっぱり、場所はエリア5なのかな。それともエリア4か」


 そう言った所でサヨが後ろに跨ったので、俺はビケを発進させた。空中に浮かんでいた妖精も遅れずについてきている。


 「来るでしょうか?」


 かなり離れた所でサヨが聞いてきた。


 「来ない方が彼のためには良いと思うけどね」


 「でも、わざと聞こえるように方向を教えていたんですよね?」


 「俺自身も、結果は早く知りたいって思えたからね」


 「じゃあ?」


 「とりあえず、エリア5の町で彼が来るかどうか、少しは待ってみるつもりだよ」


 「私たちのログアウトとかと、すれ違いませんか?」


 「まぁ、ギルドの建物の柱にでも、はっきり判るように張り紙でもしておくつもり。俺たちが妖精の居た世界に移動するまでの間だけだけどね。それ以降だったら、諦めて貰うしかないと思ってるよ」


 そしてエリア5の町へと帰還。軽食屋で大量の食事を皿ごと買って収納したり、弾丸等を補充した。

 この町で売られていたモノは以前と比べても代わり映えのしないモノばかりだったので、俺たちが持つ武器よりも威力が高いモノは、次のエリアに行かないと手に入らないだろう、という結論に終わった。


 「エリア6以降の攻略も進めたいし、ミィ達の世界のダンジョンにも挑戦したいし、ポーポーの世界で修理と、色々な事情を知っている人と話したいし、妖精の世界にも行かなければならない……、かぁ。やることがてんこ盛りだねぇ」


 「エリア6以外は、今言った事だけじゃ無いのが、なおのこと厳しいですよねぇ」


 ミィ達の世界では、魔人のグループの存在や、ポーポーの世界との繋がりも考えておかないと、後で後悔するような気がする。ポーポーの世界では、魔石の関係や、文明についても調べたいと思っている。そして、妖精の世界は、本当に何が待ち受けているのかも判らない。


 「あー~…、そう言えば~」


 「そう言えば?」


 「このゲームって、『無理ゲーオンライン』だった~」


 「あ~、なるほど~…」


 サヨと一緒に脱力しまくった所で、紙を取り出し、そこにクマの絵とフクロウの絵と妖精っぽい姿の絵を描く。そして、次の日の日付と、ログインの予定時間を現実時間とゲーム内時間の両方で書いておく。


 それをギルドの建物の、テラスになっている所の柱に釘で打ち付けた。


 俺がログアウトしたら消えた、ってのも困るので、しっかりと所有者登録を解除しておく。

 そして、妖精を呼び寄せ、手の中にすっぽりと抱え込む。


 「それじゃ、また明日」


 「はい。お疲れ様でした~」


 俺たちはそこでログアウトした。



 次の日。俺のログインする前の日課に加わった、今日の出来事を事細かく書き残す『日記』の作業に手間取った。

 家に帰り着いてから思い返してみると、所々抜けている部分がある。まぁ、そう言う部分は、現場でも忘れたという事にしても問題無いはずだけど、前後の流れを言われた場合、本来なら『思い出す』はずの内容だった場合、本当に健忘症を疑われてしまう。

 今の内なら『思い出す』事は可能だろうけど、このまま十日ぐらい別の世界で活動するとしたら、本気で思い出せない記憶になってしまう事も考えられる。なので、必死になって思い出した。


 それでも思い出せない部分は諦めたけどね。


 それが終わったら、昨日、ログインしてからログアウトするまでの出来事を書いた『日記』を読んで、昨日までのことを思い出す作業をした。


 これが続いたら、頭の中が二分割されたような錯覚を覚える可能性が高いな。


 記憶の整理が済んだら、生理現象を一通りすませて、ベッドに横になってゲームにログインする。また今日も面倒くさい展開が待って居るんだろうな。



 ログインした場所は、昨日ログアウトしたエリア5にある町の、ギルドの建物の前だった。


 俺の両肩には、クマのぬいぐるみ状態のミィと天の二人が乗っている。


 「まだサヨは来ていないみたいだな」


 「ケンタたちの世界の時間の四倍で進む場所なのだから、合流にはタイミングが必要なのだろう」


 ミィと天が話すのは良いんだけど、俺の両肩で、俺の頭越しで話すのはどうにかならないかなぁ。と、言っても無駄な事を考えてみる。


 「まぁ、サヨが来るまで、そこの店にでも入ってお茶でもしてよう。それに、今回はあのロッカクを待ってみる、という事で、結局ここにいるわけだからね」


 そう言って手を広げると、手の中から羽根を持った小人の『妖精』が飛び出してきた。


 その後、サヨが合流し、俺だけをギルド横の軽食屋に残して、皆は町の店を冷やかしに出て行ってしまった。


 金が必要な時は呼びに来ると言っていたけど、俺のアイテムボックスに入っていた、このゲーム世界の獲物を渡して、それを金に換えろと言っておいたから、ある程度なら自分たちでどうにかするだろう。もし足りなければ、ちょっとフィールドに出て、経験値稼ぎと一緒に獲物を狩って来るだろうしね。


 俺だけは、ロッカクを待つという、必要が無いわけでは無いけど、それでも時間の無駄遣いと思える時間を過ごさなければならない。


 以前、展示会の展示物の警備というバイトをしたことがあったけど、何時人が来るか判らないため気を抜けなかった上に、人が居ない間は本気でやることが無かったので、ひたすら時計の秒針を眺めていたという経験をしたことがあった。

 人によってはそういった時間を有効に使う術を持った人や、表面的には見えないようにして他の事をしたりする技を持ったのも居るらしいけど、俺には無理だった。


 人には、向き、不向きってのが有るんだなぁ、と実感した。


 そして今、それを繰り返し経験している。


 まぁ、お茶を飲みながら、紙とペンを出して、魔法についての考察を書き出している傍らに、時々窓の外を眺めて居るだけなんだけどね。


 昼頃には、ミィと天、ポーポーとピーちゃん、そして妖精を連れたサヨが戻ってきて、スッキリした顔で昼食を摂っていた。

 ミィと天は当然なんだけど、妖精もこのゲーム世界の食事を摂ることが出来るようだった。美味しそうに苺を囓り、生クリームの付いたスポンジケーキにかぶりついていた。


 それを悔しそうに眺めるポーポー。


 クチバシで囓り取ることは出来るようだったけど、味を感じたり飲み込む事は出来ないようだった。


 「元々、そういう設計じゃないからねぇ」


 ポーポーはそう言っていたけど、クマのぬいぐるみが、口を開けてもいないのにクレープを囓る姿には思う所があるようだった。


 昼食を終えたサヨは、再び皆を連れてニマニマ顔で出て行ってしまった。あの顔はフィールドで刀を振るつもりだな。それについていったベアーズは魔法を撃ちまくるんだろうな。ポーポーと妖精は、この世界の見物って所だろう。


 再び時間を持て余す事になった。


 ただ、ぼーっと道を眺め、そこに来るかどうかも判らないロッカクを待つ。


 こんな事なら、ギルド前に張り紙を残して、妖精の世界へのゲートを探し出しておくべきだったか?


 という考えも繰り返し反芻している。それぐらい、待ち時間が負担だった。


 このゲームは、ゲーム中に寝てしまうと強制ログアウトになるので、ミィと天が居る身としては注意が必要だ。場合によっては、その所為でサヨたちにまで被害が及ぶ可能性もあるし、ポーポーが死に戻りするのかも不明なんで危険極まりない。なので、うっかりとうたた寝する事もできない。


 軽食屋でする事ではないけれど、他の客が居ないのを良いことに銃の手入れをじっくりと行う。ここの所、簡単にススを払う程度しかしていなかったけど、それほど汚れてはいなかった。

 塗った油を拭き取ってみても、やや黄色味が強くなった程度で汚れている感じがしない。

 これは、異世界を越えた所でリセットされる、とかかな? それとも、向こうの世界では、こちらの道具とかの耐久や時間が違う状態になっている? それとも、その両方か、全く別の原因か。

 そもそも、油が時間経過で少しだけ酸化って、このゲーム世界で有り得るのか? 実際にそうなるように作ってある可能性もあるけど、そこまではしないだろう、という可能性の方が大きい。


 まぁ、今の状況だと、考えるだけ無駄って感じだな。


 時間はあると言うことで、じっくりと丁寧に手入れをしていく。


 調子に乗って、予備の銃やショットガンまでしっかりと磨き上げ、この後をどうするかを真剣に考え始めた頃、日が陰り夜の時間が迫ってきた。


 このゲームは現実世界の四倍の速度で時間が進む。


 つまり、このゲーム世界で四時間過ごしても現実世界では一時間しか経過していない事になる。

 理論上は二十倍近くまで速度を上げることが出来るそうだけど、安全上の問題から四倍が限度と言うことになっている。


 まぁ、そう言うことに文句ともっともらしい意見を言う団体の所為なんだけど。


 命の危険を意識した時に、走馬燈が走るという経験をする事があるらしいが、一時的にならその速度までは加速出来るだろうと言われている。それが何倍速なのかははっきりしないが、脳の処理速度を限界まで上げたのがその速度だと仮定されている。


 それも、まぁ、本当に一時的で、その直ぐ後に脳が強制的な休眠を必要とするらしいが。


 今日は一応、約四時間はゲーム時間を想定していた。つまりゲーム時間で十六時間。ゲーム内時間での朝にログインしたんで、ゲーム内時間で夜中ぐらいまでは遊んでいられるつもりだった。


 それ以前に待つのに飽きたってのがデカイけど。


 俺は日が暮れかけた夕闇が迫る空を眺めながら、町の端に歩いて行った。そこからエリア4の方向を眺める。

 もしロッカクが来るとしたらこの方向だろう。


 ボーっと眺めている所に、ミィたちを引き連れたサヨが寄ってきた。


 「来るんでしょうか?」


 「さぁ? 実は、俺たちがここで一日待つ、という話しは伝えていないんだよね」


 「ああ、それは私も気付いていましたけど」


 「本気なら、急いでいるはず、とか、なりふり構わずに追ってくる、とかいうのは、こっちが勝手に想像したことだからねぇ」


 「着実に、というのを選んだとしたら、一度エリア1に戻るかも知れませんからねぇ」


 「ロッカクは本気で知らないだろうけど、そういう余裕は異世界に関わるとしたら致命的にタイミングを外す事になるんだけどね。だから、そういう選択をするか、しないかで、異世界との縁があるかどうかがはっきりしちゃう」


 「私も、あの時にはっきりと気付かなければ、タイミングを外していたって事ですね」


 「幸運の女神には後ろ髪がない、なんて言うからねぇ。でも、だからと言って斬りつけるは違うと思うんだ」


 「あっ、てふてふが」


 「誤魔化しとしては、かなり古典的だと思うんだけど…」


 その後は、暮れていく地平線を、ただ眺めているだけという時間が過ぎた。


 そして、もう少しで完全に日が落ちる、という時に、遠くに動く、小さな何かを見つけた。周辺探知を起動させると、それが友好的な存在だと言うことがわかる。


 「天、天の探知で、あれが誰かはわかる?」


 「探知で人間の個体識別は不可能だな。だが、この距離であれば、はっきり見えるぞ。あれは、岩の上で黄昏れていた小僧だな」


 「そうか。来たか」


 後は最後の決意確認。ここまで来て、俺に『連れて行ってくれ』とか言ったら、見捨てるだけ。何があっても、自分の意志で行動し、全ては自分の責任というのを理解した上で、死ぬ覚悟ではなく、皆で生き残る努力をし続ける覚悟を持っていないと、何があるか判らない異世界へ一緒に行くことは出来ない。


 その理由の大半は、俺に責任が来るのを避けるため、だけどね。


 そんなことを考えている内に、サヨの頭の上でくつろいでいた妖精がロッカクに気付いて飛び出していった。

 素直に俺についてきたようだけど、基本的にはロッカクのパートナーって感じなんだろうな。


 そして、銃身の曲がったショットガンを杖代わりにして、足を引きずりながら歩いてきたロッカクが俺の前に来た。


 「で? まだ、俺に連れて行って欲しいのか?」


 わざとらしく、上から目線で見下すように聞いてみた。


 「い、いえ。テディベアを愛でる者さんがどう思おうとも、僕は行きます」


 はいOK~。俺は肩の力を抜くと、アイテムボックスから基礎級HPポーションを取り出しロッカクに渡す。


 「明日は現実時間で夜の七時にログイン、約四時間の予定だ。それまでに必要そうなモノは準備しておけよ。

 じゃあ、お疲れさん。また明日」


 俺はそう言うと、ミィと天を招き寄せて、両肩に乗せるとそのままログアウトした。確認していないけど、サヨも直ぐにログアウトするだろう。

 明日の十九時に、ロッカクが来るかどうかは判らない。でも、彼は覚悟したのだから、どんな行動するのかも自由だ。

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