12 ギルドへの報告とミィの死
次の日の朝、ゾロゾロと連れだって王都へと帰還する事になった。ビケを使えば半日もかからないのに使用禁止だそうだ。
ギルドとしては、この移動中にも人員の把握や報酬について決めるらしく、皆は大人しく従っている。
もちろん、往路の時も人員確認はしてあるけど、途中で逃げたのとか、戦闘で死亡したとかの確認のためだ。今回は死者は出ていないけど、通例としてやらなければならない、ってのは何処の世界でも共通なのかもね。
そして途中で一泊。次の日の昼過ぎになって、ようやく王都に着いた。既にギルドでは連絡と準備が終わっていて、一人一人に報酬が配られている。それが終われば、ほとんどの冒険者が酒場や食事処に繰り出すそうだ。今回の報酬では、色買い出来るほどは儲からなかった、ってのも言ってたしね。
もっとも、俺だけは後でギルドで話しがある、って事で、一人待ちぼうけを喰らった。
それから一時間ほど待たされて、やっと報酬の受け渡しが終わった。これでも、通常の緊急招集に比べて早く終わった方だそうだ。
俺はギルドの対応室、つまり応接室の様な所に呼ばれ、ギルドマスターやサブマスター、更には引退して役員ポストに就いている三人の元ギルマスたちに囲まれている。
「さて、君にだけ特別に残って貰いましたのは、君には確認したい事が色々ありましてね。いくつか質問致しますが、お答え願えますかな?」
ギルドマスターがいつもの調子で聞いてきた。
「ええ、答えられる事なら。ただ、城の中での事とかは聞かないでください」
俺のその答えに、重鎮達がボソボソと話し合う。はっきり言って欲しいんだけどねぇ。
「まぁ、それは仕方のない事として、まず、オーガの討伐に赴いたときのことをお聞きします。
君はそこでエルフと関わりを持ちましたね?」
「簡単に言えば、オーガが一時的な寝床とした場所に生きている三人を見つけました。そのうちの一人がエルフの娘だったと言う事です。城にもエルフの言葉がわかる者は居なかったので、一番懐いている俺が送り届ける事になりました。そして、エルフの集落を見つけ、無事、親元へ送り届けました」
うん。嘘は言っていない。大幅に端折ったけど嘘はついていないよね。
「そのエルフの集落で何がありましたか?」
「? というと?」
エルフの情けない実情は言わない方が良いと思うんだ。だから、ちょっとだけすっとぼけたよ。
「調べでは、そこでドラゴンと戦ったとありますが」
あぁ、そっちかぁ。そっちなら、まぁ、いいかな。
「細かく言えば、エルフの集落から更に西の奥の山にいるドラゴンですね。そこで、エルフの精鋭と一緒にドラゴンを倒しに行きました」
そこで、どよめきが広がった。エルフと一緒に、と言う所が驚きになったのだろう。
「ドラゴンとは、そんなに簡単に倒せるモノでしょうか?」
「そのドラゴンは魔法を封じられていました。ブレスさえ満足に出せない状態でしたので、何とか倒せた、と言う所です」
「封じられていた? 何故です?」
「さぁ? 何か理由があったんでしょう。でも、そう言う状態でもなかったら、人がいくら集まっても、あのドラゴンは倒せなかったでしょう。ちなみに、エルフの集落にドラゴンを運び込んだので、交渉次第で素材を譲って貰えるかも知れません。まぁ、信用を勝ち取れば、ですが」
正直な話し、今なら人間に対して警戒心が薄くなっているとは思うんだけど、それは言わない方が良いと思う。
「え、えっと、次ですが、君は東の湖で発生している異変を調査するために赴きましたね?」
「ええ。ビケに乗って行ったので、片道、一日半ほどで到着しました」
「そこで、水竜と出会ったとか?」
「はい。初めは静かで、何の変哲もない綺麗な湖だったんですが、途中で水竜が現れ、暴れ始めました。水竜は俺を見つけると、俺を狙って攻撃をしかけてきました。まぁ、ブレスで直接狙われたんですが。これを何とか避け、攻撃を加えると、水竜は自分からそれに当たりに行きました。上手く気絶させる事に成功したので調べていくと、首筋に一本の剣が突き刺さっているのを見つけました。それを取り除いた事により、水竜は正気を取り戻しました」
「水竜が自分から当たりに行った?」
「あまりの痛さが常に攻め続けていたわけで、それにより水竜が疲弊していたようです。その痛みから逃れるために、自殺願望もあったのかも知れません。何しろ、突き刺さってから五百年ぐらいだそうですから」
「ご、五百年。そ、その剣は?」
「昨日の魔人との戦いに使いました。詳しい事は後で箝口令が出てきそうな内容なので話さない方が良いと考えています。しかし、その剣は魔人と一緒に消滅したというのは、一緒にいた兵士の方々も見ていました」
「あ~、魔人に関しては、こちらでも箝口令を考えていたので、黙っていて貰えるのなら有り難い事です」
「そうですか。俺の方からは以上です」
「有り難うございました。こちらも一通り聞きたい事は聞けました。大変申し訳ありませんが、一度控え室の方でお待ち戴きたい」
そこで一旦その部屋を出された。まぁ、待たされた部屋にお茶とクッキーモドキが置いてあったので、文句もないけどね。
いや、文句は有るな。このクッキーモドキは、ほとんど味が付いていない。形も不揃いだし、少し甘味を入れただけの小麦粉の塊を固く焼いただけって代物だ。
おそらく、お茶に浸してふやけさせてから食べる、とか言うモノだろう。
たぶん、新鮮な卵が手に入らないのが原因かも知れない。それに、食事以外に食材を使って腹の足しにもならないお菓子を作る、っていう考え方が無いんだろうな。有ったとしても、王宮とか貴族とかの特別な文化でしかないのかも。
ああ、飯テロの重要性がこんな所にも。
まぁ、面倒くさいんでやらないけどね。
その後、また対応室に呼ばれた。
「手間をかけてしまい、申し訳ないね。我々は協議の結果、君を銀の冒険者と認定する事を決めた。実績的には金の冒険者でも良いのではないかという意見もあったが、十日ほど前に登録したばかりで、いきなり金というのも、納得出来ない冒険者も居るだろうと言う事で、今回は銀という事になった。君なら、直ぐにでも金に昇格出来ると思うが、これからも良き仕事を期待している」
「有り難うございます。それで、東の湖の調査と、緊急招集の報酬はどうなりますか?」
「はい。湖の調査の方は、竜が絡みますので金貨五枚となります」
え? 金貨一枚で一千万~二千万円、って換算してたんだけど、五枚って一億円相当?
まぁ、この世界的には五百万ぐらいが正しい換算だと思う。
「緊急招集の件は、ギルド規定で大銅貨三枚となります、これは、どの冒険者も一律での報酬です。ですが、今回は兵部より特別報奨金が出るという事ですので、それらは後ほど通達が有るということです」
「判りました」
「金貨五枚、大銅貨三枚の報酬は、受付にてお受け取り下さい。本日は以上です」
そうして、やっと解放された。
受付に行くと、木の冒険者のカードは取られて、新たに銀のカードを渡された。そして報酬。さらに、ギルド創設者の屋敷の見学許可が下りた事も教えられた。
予定日は明後日の昼過ぎ。その時間にギルドに来れば、係の者が案内してくれると言っていた。
これで本当にやっと解放だ。早めに宿に行って、食事をたっぷり摂りたい。でも、まぁ、その前にやる事が残っていたんだけどね。
宿に行く前に、布を扱っている店に行く。ここは服を注文出来るし、布製の鞄や布団なんかも扱っている。
そこには、当然のようにクマのぬいぐるみが沢山置いてあった。そのどれもが似たような感じだ。やっぱ、ミィ効果って事だろうな。
クマ以外のぬいぐるみが無いか探してみたんだけど、一つも無い。いいのか?
試しに聞いてみた所、注文なら受け付けるそうだ。ドラゴンのぬいぐるみが出来るか聞いてみたんだけど、特別注文になりそうだと言っていた。まぁ、そこまでする事もないかな。とりあえず、ミィにそっくりなクマのぬいぐるみを二つ買った。片方に赤、もう片方に青のバンダナを付けて貰う。これで、ミィと天が一緒にいても区別がつくだろう。
ついでに、手間賃をはずむからと、ぬいぐるみの中に魔玉を入れてくれと頼んだ。縫製とか、やっぱ、慣れている人がやった方がいいからねぇ。
ということで完成したぬいぐるみと、一緒に買ったタオルなどをアイテムボックスに放り込んで、俺は宿屋に到着した。えっと、六日ぶりになるのかな…。
宿屋では一人部屋を頼み、同時に身体を拭くお湯も頼んだ。夕食は日が沈みかけた頃から始まるそうだ。あと、一~二時間と言う所か。
そして身体を拭いてさっぱりした所で、買ったぬいぐるみと天のぬいぐるみを取り出す。
「天?」
「うむ。なんだ?」
「何かずっと静かだったのが気になってね」
「あ、ああ。我も、魔人の存在には驚かされたのだ。アレは拙い。我が天竜であった頃でさえ、もしかしたら敗れていたかも知れない」
「まぁ、一昨日は、完全に油断を誘い出して、その隙に倒しちゃった、って感じだったしねぇ」
「本当にアレは幸運だった。あの時は、我が全力を出しても、勝てなかっただろう」
「ああ、まぁ、天には力以外で役に立って貰っているから、俺としては問題無いんだけどね」
「我の天竜だという矜持も、空しいモノだ」
「まぁまぁ、水竜に貰った魔玉を入れてみたから、こっちに移ってみないか? 少しは力も上がるんだろう?」
そして、ついに移動、と言う事になった。まぁ、あっという間で、特に変化も見られなかったんだけどね。
だけど、移動が終わったと思った次の瞬間、古い方のクマのぬいぐるみがバキバキと不気味な音を立てた。
暫く経過を見ていたが変わりなく、勇気をふるってぬいぐるみを持ち上げた時に、音の正体がわかった。
「中の魔石が粉々になっている」
「なに? すると、そのぬいぐるみはもう使えないと言う事か?」
「たぶん、魔石を交換すれば大丈夫だと思うけど、魔石の方は駄目だろうな」
ナイフで俺が繕った部分を切り開いてみると、粉々になった魔石の成れの果てが出てきた。
「これでは、魔石としての力は全く期待出来ないな。まぁ、人はこの粉を使って魔法具に利用しているらしいので、持っておく事を勧めるが」
「判った。まぁ、無いよりはマシっていう程度で見ておくよ。それより、新しい身体はどうだ?」
「ふむ。竜の作った魔玉だからか、これは我の力と馴染むな」
クマのぬいぐるみが、自分の手足の動きを確認している動きって、けっこう和む。
「どうした? ニヤニヤして」
「ああ、いや。所で、クマのぬいぐるみになったけど、クマ以外が良いとかは無いのかな?」
「店で、ドラゴンのぬいぐるみが無いか、とか聞いていたヤツか? 逆に、ドラゴンのぬいぐるみだと、惨めさが際だつような気がしてなぁ」
「人間だと、人間の身体を失ったからと言って、猿のぬいぐるみに入るようなモノか。そう言う状況だったら、俺もクマのぬいぐるみを選ぶかもな」
「その言葉が、たとえ話として的を得ているのかが判らんが…」
「ああ、そう言えば、天はアイテムボックスは持って無いのか?」
「無いな。今まで、特に物について拘った事など無いからなぁ。だが、空間魔法なら少しだけ心得があるので、似たような事は出来ると思うが」
「空間魔法かぁ。それって、下手に失敗したら、この町自体が無くなる事になるとかは?」
「う? うむ。無い事もないな」
「やっぱ、他の手を考えよう。もしくは、周りに何も無い場所を探してからにしよう」
「他の手? ダンジョンに潜って、スキルカードでも手に入れるつもりか?」
ダンジョンって所に食い付いてしまった。
天によると、ダンジョンは狭すぎてドラゴンの身では入る事が出来なかったそうだ。でも、他のモノ達の話しから大抵の事は推測出来たと言っていた。
曰く、元は魔獣が居る遺跡だったモノが、何らかの力で生物ではない魔獣になったのではないか、とか、神々が戯れに作った遊技場ではないか、とか、人の魂を狩る者たちによる罠なのではないか、などなど。
ダンジョンを構成しているのは魔核と呼ばれる魔石の上位版で、魔玉と似たような特性を持つという。
魔玉の特性? 聞いた所、魔玉は周りの自然の魔力を取り込んで、対象に提供する性質があるそうだ。魔力を提供する対象が生物なので、生物から魔力を吸収しないようになっている。地脈や気流の流れ、水の流れなどから、微量の魔力を吸い上げて、一番近い生物に渡すらしい。
基本的に対象は竜の卵って事になるから、その魔力量もハンパ無い。卵から孵った竜が、かなり成長するまで魔玉は魔力を供給して竜を養うんだそうだ。
じゃあ、魔核は? 魔核も地脈などから力を吸い上げるのは同じだけど、同時にダンジョン内の生物の魔力も吸い上げるそうだ。でも、あまり負担になるほどは吸われない。ただし、ダンジョン内で死んだ場合は、その身体全てが吸収されて、魔力に変換されてしまうらしい。
そして、吸収された魔力はダンジョン維持に使われていると考えられるそうだ。
そのせいか、魔核はダンジョンに合わせた性質を持つために、他への応用が効かない。
魔核で魔道具を作っても、性質が合わないと作動しなかったり、魔道具の使用者を喰ってしまったりする事もあるんだそうだ。
だから、冒険者は、魔核を壊さないで、ダンジョンが生成するアイテムを狙って潜るんだそうだ。
で、結局は、何処の誰かが、どうやって作ったか謎の魔核で出来たダンジョンに、珍しいアイテムを持つ魔獣が現れ、それを倒す事で得る事が出来るが、全ては謎のまま。というのが実状らしい。
「ほとんどは、前にダンジョンで死んだ冒険者が持っていた装備品などだが、稀に存在しないはずのスキルカードというモノが出る事もあるという」
「存在しないはず?」
「うむ。使用すればスキルが身に付くアイテムなど、人間には作れない筈だからな。まぁ、天界に住む者たちや巨人族あたりなら作れるかも知れんが、わざわざ、そのような者たちが、そのような手間をかけるとも思えん。実際、我が天界に居た頃でも、そのような事をしている者の話しなどは聞いた事もない」
「なるほど。だから、存在しないはず、っと言うわけか」
そして、一番近くのダンジョンというのを聞いてみたら、王都の近くに在るはずだという。何しろ、冒険者ギルドの発祥がダンジョンがらみと言う事で、ダンジョンのある所にはギルドが出来るのだそうだ。
なら、ギルドで詳しい事を聞いた方が良さそうだね。
と、そこまで話した所で、夕食が出来たとお呼びがかかった。夕食が出来たら呼んでくれ、と言っておいた甲斐があったってモンだね。
夕食。そして就寝。
次の日は、一応報告しておいた方が良いだろうと言う事で城に登る事にした。基本的には城の兵部が報告しているだろうから、その当事者として証言する、っていう程度だけどね。
で、城に行ってみたのだけど、なんか慌ただしい。
一応、城門で馬車を手配してもらい、それで王族用の屋敷の方に行ったんだけど、屋敷の前は色んな人が忙しなく出入りしている。
そこに、知った顔を見つけた。確か、魔法省のなんとかさん。…名前は忘れた。
「なにか慌てているようですが、どうしました?」
「おお、あなたは! 丁度良かった。呼びに行かせようと考えていた所です」
「俺を?」
「は、はい。詳しくはこちらに」
そう言って中に案内してくれた。そして、今まで泊まった事のある部屋のある場所とは反対側の一室に案内された。
そこでは、女王陛下が号泣していた。おそらく王女と思しき二人の少女も。そして、他に何人もの人間が伏せったり顔を背けたりして、泣いていた。
ああ、ミィがアレをやったんだな。
「どうしました?」
一応、知らない振りをして聞いてみよう。
「ミィちゃんが! ミィちゃんが!」
女王陛下が俺を見つけると、そう叫んで縋ってきた。
「落ち着いてください陛下。ミィがどうしました?」
「ミィちゃんが! ミィちゃんがー!」
とうとう俺の胸元で号泣しだした。おいおい。
困って周りに目を向けると、陛下の旦那さんが説明してくれた。
やっぱり、ミィがアイテムボックスの中身をぶちまけて、その場に倒れていて動かなくなったと言う事だった。
少し前から、「疲れた様な気がする」とか言っていたとか、ボーっとする事が多くなったとかも言っていた。そして動かなくなったミィ。これは、誰もが思っただろう。
ミィの死。
「陛下。俺がミィに協力する時に、ミィ自身が言っていた言葉があります」
「ふぇ?」
目を赤くし、瞼も腫れている。美人が台無しだよ。
「ミィは言っていました。おそらく、これが最後のお勤めになるだろう、と」
そこで陛下が崩れた。床に直接アヒル座りして呆然としている。そして、盛大に泣き出した。
「なんで! なんで! なんで!」
そう言って俺をポカポカ叩いている。たぶん、なんでミィちゃんを救えなかったのか、なんでそう言う事を言ってくれなかったのか、なんでミィちゃんが力尽きたのか、などなどの『なんで』なんだろう。
しばらく叩かれるがままにしておいたが、その内うずくまってシクシクとし始めた。それを狙って、俺はその場をあとにする。旦那やその周りにいた人たちは俺にすまなそうな顔を向けていたけど、俺は手を上げて、黙っていて貰う事にした。
そして俺は急いで宿に帰る。
部屋に入ると、アイテムボックスから魔法具を取り出して部屋に備え付けの小さなテーブルに置いた。そして、少し離れたベッドで、天と一緒に待つ事にした。
暫く待って、魔法具が反応した。
魔法具が光ったと思った瞬間にはミィが現れていた。しかも真新しいクマのぬいぐるみでだ。
「ん? 待たせたか?」
それがミィの第一声だった。
「そうでもない。で、今更なんだけど、もし、この拠点用の魔法具をアイテムボックスに入れたままだったら、ミィはどうなってたんだ?」
「うん…、確か、魔力を込めても何も起こらなかった、と言う話しだったな」
「そっか。まぁ、それはいいや。それで、向こうはもういいのか?」
「良い機会だし、実際、乗り換えの事が判らなかったら、本当に終わってた事だしなぁ」
その後は、ミィと天の自己紹介。
「天?」
「ああ、天竜だったけど、竜じゃ無くなっちゃったから、天」
「なんと安易な。しかし、天竜? 普通のコモンドラゴン程度の力しか見せなかったような気がするが」
「天は天使達に魔力コントロールを封じられていて、ブレスも満足に出せない状態だったそうだよ」
「ああ、所詮は我の驕りが招いた結果だ。恥ずかしい限りだが、まぁ、後悔はしていない」
「何をすれば、天界追放などになるのだ?」
「まぁ、神様に一戦申し込みに行ったらしいけど…」
「な、なるほど…、で、神には会ったのか?」
「会ったぞ。まぁ、認識は出来なかったがな。神にとって我なぞ、人にとっての蟻のごとくよ。蟻が人を見て、その言葉を理解出来ぬのと変わらぬかったぞ」
「て、天竜にして、そこまで言わしめるとは。それが神という事か」
「で、天はほとんど覚えていないんだけど、俺と関わっていれば、神ともう一度会える可能性がありそうだ、ってのは何となく感じるそうで、暫く俺と行動を共にするって事になってる」
「そうか。わたしも、このケンタには世話になっているからな。ケンタの手助けをするのはもちろんだが、ケンタの世界に拠点を移す事も視野に入れている」
「と、言う事で、まぁ、暫く、この三人でやっていこう」
「うむ。暫く頼む」
「わたしの方こそよろしくお願いする」
その後は、俺の世界の事や、今後の事など、無駄話をしている内に日が暮れた。
次の日、本来ならギルド創設者の屋敷の見学許可が下りた日なんだけど、町は全てが喪に服するという感じになっている。当然、見学許可も先に伸ばしてくれと言われたし、ダンジョンもしばらくは新規の登録は出来ないと言う事だった。
賑やかに酒を飲んで騒ぐ、と言う事が自粛され、決して飲んではいけないというわけでは無いけれど、『喪に服す』と言う期間は大人しくならざるを得ない、ってわけだ。
「ここでミィが、うっそぴょ~ん、とか言って飛び出したら面白そうだな」
「お、恐ろしい事を言うな。この状況は、わたしが一番申し訳ないと思っているのだぞ」
「ではどうする? 人の声を拾ってみたが、この状況はあと七日七晩続くようだぞ?」
「う、ううぅ」
「なら、一度、俺の世界に戻ってみたいんだが?」
正直、俺がどうなっているのかが心配だ。まぁ、こっちに来ている間、向こうの時間がほとんど流れていない、という可能性に、大いに賭けているわけなんだけどね。
「互いの時間経過が全く異なるという世界か? だが、そこへ行って、帰ってきても、今日なのではないのか?」
俺の世界で数日過ごしていても、こちらの時間が進んでいないと言う事があったからねぇ。
「まぁ、あの転移門の所まで行って帰ってくるまでの時間もあるし、なんだったら、そこから別の町に進んでも良いわけだしね」
「ふむ。ケンタの世界で気分を変え、そして別の国に、かぁ。それも良いかもな」
と言う事で、俺は宿を引き払い、ビケに乗って転移門のある場所にまで走った。
王都を出たら、あとは森と草原と荒野ばかりの道のりだったからねぇ。一応、馬車の轍が残っているので、それを目印にビケを飛ばしたよ。
そして、三時間ほどで到着。なんか、ビケの調子が良くなっているような気がする。
「ほう。これが転移門か。なるほど、向こうの世界がうっすらと見えているな」
「一応、ここにも転移の魔法具の片割れを置いて行こうと思う。それと、向こう側の出口にも。まぁ、世界を跨いでその効果が現れるとは思わないけど、置いておいても損は無いと思うしね」
一応、人の目につかない場所に転移魔法の片割れを、半分ほど地面に突き刺して接地した。
いよいよ元の世界に戻るために、再び転移の門をくぐる。
「何をしている? 置いて行くぞ?」
「ああ、今行く」
覚悟も何も要らないようだった。




