カフェにて
その日も、町の中心は賑わっていた。
極彩色の町並みは、いつもと同じように人々を楽しませるよう太陽に光を目一杯受けている。
ガラス並木の内側ではなめし皮のバックが飾られ、その反対には純白のドレスがキラキラと輝いている。
街路樹は青々と葉を茂らせ、足元のベンチを木陰に隠している。
そんな町並みを見回すように、一軒のカフェがあった。
これといって特徴のない、白い壁にオープンテラスのあるどこにでもある小さなカフェであった。
常に程々の人がいるが喧騒は遠く、誰も彼も思い思いに時間が過ごせる、そんな場所でもあった。
新聞を片手にコーヒーカップを持つサラリーマン。
分厚い表紙に紙製のカバーをかけた本を読む学生。
紅茶のカップとケーキを交互に口に運ぶ女性達。
大きめの雑誌をパラパラと捲る者など数多くの人がいた。
誰も平穏に、彼もゆっくりと流れるその時間を楽しんでいる。
そのカフェは、流れる時間が優雅に、そして静かに流れている。
しかし、その場所だけが優雅なだけである。
新聞には戦争で多くの人が死んだと書いてある。
学生の持つ本は人が生み出した毒についての警鐘が延々と述べられている。
近くで事件があったそうよと女性達は口々に不安を募らせる。
新型兵器が各地で作られていると淡々と報告しているのは人が持つ週刊誌だ。
誰も彼も、平穏な時間が永遠と感じているが、その奥ですべての人が感じているのはいつかその時が終わる予感。
しかし、それを口に出すのも可笑しなほど、世界はただただ平穏であった。
明日もカフェはそこにある。
人々の平和な日々と一抹の不安を取り揃えて。