戦闘準備
「グルッ!」
庭に浸入してきた狼は、家を出た瞬間こちらに気がつき、仲間に敵の出現を知らせた。
仲間からの警告を受けた二匹の狼は、敵を認識し、三匹で敵を包囲した。
この状況で、囲まれた敵はというと、
「ま、こうなるよなぁ・・・」
と、気の抜けた口調で他人事のように呟いた。
「グルルルルルル・・・」
狼たちは、敵の台詞の意味が分かったわけではなかったが、敵の態度からただの獲物ではないと知り、さらに警戒心を高める。
狼の目には、敵がまるで動揺していないように写っていたが、実際は違う。
(くそっ・・・。こいつらやっぱりただの狼じゃねぇな・・・)
実は、清彦はちょっとだけ期待していたのだ。
この世界の魔物とやらは、見た目や習性が少し違うだけで、清彦がいた世界の動物たちとたいして変わらないことを。
しかし実際、こうして間近で見ると自分の考えが甘かったと痛感する。そもそも、背後に回られてしまっているのに、その間動くことができなかった。
下手に動いて、刺激したら不味い・・・なんて思ってしまった結果である。
(回復した《クリアエネルギー》は、傷の治療に使いたかったんだが・・・)
「ッ!」
一瞬考え事をして隙ができた瞬間、背後に回っていた狼が、首筋を噛み切ろうととびかかってくる。
清彦は反射的に身を反らし、狼のとびかかりをなんとか回避、そして残りの狼には目もくれず、近くにあった小屋にとびこんだ。
「ウアアアウ!グアアアア!!」
狼が唸り声を上げ、全力で小屋を破壊しようと突進する。
大分年期の入ったボロい小屋は、いまにも崩れそうな悲鳴を上げた。これはそうもたないだろう。
小屋の中の清彦は、なにか道具はないかと小屋を物色していた。
「これは・・・」
手に取ったのは、これまたボロいクワだった。
(いまの残量じゃ、ソードは無理だな。)
クワを握り、集中する。
【使用意志を確認変換――――システム発動】
【システム対象を確認――――完了】
【変換可能範囲を表示————選択完了】
【システム異常————無し】
【クリアエネルギーの放出・変換————完了】
清彦の握っていたクワが、青色の金属のような光沢を放つ槍に変化した。
「よし、行くか。」
小さく呟き、清彦は自ら小屋を破った。