戦いの始まり
女性が少女にすがりついて泣いている。
「お母さん・・・」
「本当によかった・・・帰ってきてくれて」
青年は少女に連れられてやってきた家で、寝ずに待っていた彼女の母親と出会った。母親は青年に目もくれず、少女を見るなり泣いてしまったのだ。
実に心暖まる光景である。ここは親子水入らず、部外者はさっさと立ち去ったほうがいいだろう。
そう結論付けた青年は、気配を消して家から出ようとした。青年はそのくらいたやすいと油断していた。
だから、突然話かけられて驚いてしまった。
「ねぇ」
「えっ」
振り返ると、目の前に白髪の少女・・・恐らく15歳くらい・・・がこちらを見ていた。
「誰?」
「ええっと・・・。」
初対面でいきなり誰とはなんだとか、いやでもこんな深夜に知らない人がいたら自然とそんなセリフがででくるかとか、青年がいろいろ考えているうちに母親が顔を上げた。
「すみません、娘がご迷惑をおかけしたようで」
「あ、いえいえそんな」
母親に頭を下げられ、青年はあわててかしこまる。
「ねぇ、誰なの?」
焦る青年に白髪の少女は無愛想に質問を重ねた。
「いや、誰って・・・」
この場合なんと答えればいいのか。今自分のおかれた状況が理解できていないので、青年は返答に困ってしまう。
「その人はね、さっきそこで会ったの」
出会った方向を指差しながら、黙っている青年の代わりに一生懸命少女は説明をする。
「・・・名前は?」
少女の説明を訊いたあと、白髪の少女は表情を変えずに質問を繰り返す。
ようやく答えられそうな質問がきたので、青年はとりあえず名前を名乗った。
「一文字清彦といいます」
「イチモンジ・・・?変わった名前。それよりも怪我してるの?」
それよりも、というなら何故真っ先に指摘してくれなかったのか?そんなことを考えたのを青年はおくびにもださず、
「いえ、大丈夫ですので」
そう笑顔で言いながらさっさと家から出ようとするが、白髪の少女がそれを許さない。
「待って。なんでそんな怪我したの?」
「ええと、それは・・・」
どうせ本当のこと言っても信じてもらえないだろうし、どうしようかと青年が悩んでいると、
「もしかして、この辺にも魔物がでるようになったの?」
なんてことを白髪の少女が言い出した。
「魔物?」
聞き慣れない単語に青年・・・清彦は首をかしげた。
これが、新たな戦いの始まりだとは・・・このときの清彦は、思ってもいなかった。