非科学的だ
「私ね」
「うん」
真夜中にて、清彦はルルの話を聞いていた。
清彦の部屋で・・・。
そういうわけで、清彦はこの年齢にありがちなことを警戒していたのだが・・・どうやら杞憂に終わったようだ。
「私ね・・・一緒に清彦と街に行くの、ちょっと不安なんだ」
「・・・?それはどういう意味で?」
(年頃の男女が(以下略)なら何の心配もいらないと断言できる)
その話題になったらそう言おう・・・しかしルルが不安を感じていたのはそんな不純なことではなく。
「私、魔物に狙われてるでしょ?」
「・・・そうだな」
もうこればっかりは仕方ない。ルルも魔物に狙われてるのは知っているんだし、認めて話を進めた方がいい。
「だから、私といると・・・清彦も巻き込んじゃう」
「・・・」
そういう不安か・・・清彦は心の中でため息をついた。
「それなら大丈夫。あの程度の奴らいくら束になってかかってきてもなんてことはない」
ウルフやオークよりもずっとたちの悪い敵と戦ってきた清彦は余裕そうに言うが、ルルは安心してくれない。
「だって、怪我してるもん」
「・・・うっ・・・」
清彦は生身で戦うことがほとんど無かった。人智を越えた力をもつ連中に、人間の身体能力では勝ることなどできないからだ。
清彦の切り札が使えるようになるには、まだ時間がかかるだろう。
とりあえずの目標は傷の治癒とクリアエネルギーの回復だ。
「大丈夫だって。あの時は本調子じゃ無かっただけだから」
あながち嘘ではない。しかしルルはさらに心配そうな顔をする。
「じゃあ今も調子悪いの?」
(そうきたか・・・)
良いか悪いかで言ったら、悪い決まっている。クリアエネルギーは回復しきっていないどころかほとんどない。故障している可能性もある。
それでも、清彦は笑った。
「大丈夫だ」
この足の傷が完治するのに三日はかかるだろう。三日あればクリアエネルギーは充分なほどに回復する。
無論、何も起きずに順調に回復すればの話だが・・・。
「そういえばルル」
「?」
あの時、どうやってオークを吹き飛ばしたんだ?
物に触れずに動かす能力・・・たとえ生物でも。
それは清彦の知らない能力だった。
(ひょっとしたら・・・あいつらがらみかもしれない)
清彦が長年戦ってきた悪の組織も、そうした能力を開発していた。清彦自身もそうだ。
この知らない場所でも奴らは何かしていたのかも知れない。もしそうならそれを止めるのは自分の役目だ・・・再びそう決意する清彦だったが、返事は意外なものだった。
「魔力を飛ばしてたんだけど」
「・・・魔力?」
そういえば悪の組織の幹部がそのようなことを言っていたような・・・いや、これとは無関係か。
「その魔力ってなんだ?」
何気なく訊いた清彦にルルは目を丸くした。
「・・・知らないの?」
「ああ」
こういう場合、ゲームや漫画などの知識が役に立つのだが、いままでそういった類のものとは無縁だった清彦には予想もできない。
「ええっと・・・魔力っていうのは、自然や生物が持つ力?みたいなもの」
「・・・うん、それで?」
実際は何も理解できていなかったが、全部説明を聞いた方が分かりやすいことも多い。そう思った清彦は先を促した。
「で、えっと・・・それを使って魔法を使うの」
「・・・魔法?」
「え、もしかして魔法も知らない?」
「あ、いやそのくらいは・・・」
さすがの清彦も、ふわっとだけなら知っている。
「何もないところから火を出したり水を出したりするんだろ?」
やや自信なさげな清彦の話に、ルルは大きく頷いた。
「まぁ、大体そんな感じ」
と、するとだ。
「・・・ここには、魔法があるのか?」
「うん」
それに、清彦は殴られたかのような衝撃を覚えた。
もしそういった魔法のようなものが確立されているとしたら、自分など・・・自分が戦ってきたものなどとるに足らない存在ではないか。
「・・・ルルは、魔法が使えるのか?」
清彦の質問に、ルルは笑う。
「いくら魔力を持ってても、魔法の勉強をしていないとできないよ」
つまり修得にはそれなりの修練がいる・・・そう清彦は理解した。
「私も魔法を使えたらいいなとは思うけど・・・」
そこでルルは間をおき、大きなあくびをした。
考えてみればもう真夜中だ。
「ルル、もう寝よう。おやすみ」
清彦が言うと、ルルは小さく頷いた。
「うん・・・おやすみ。また明日」
その夜、清彦は魔法のことを考えていてよく眠れなかった。