売却先
家に戻り、清彦とルルは交代で風呂に入り着替えを済ませた。
そのあと清彦は傷の手当をして仕事を手伝おうとするが、全力で断られた挙句強制的に安静になった。
ルルは何も言わず、ララも詮索しなかった。
ただ一言、
「ありがとう」
とララは清彦に言った。
そして三人が仕事に行ったあと、清彦はこっそり豚人間・・・オークというらしい・・・の解体をしていた。
ひょっとしたら売れる部位があるかも?と思ったからである。
「そういやまえの狼・・・ウルフだっけ?はどうしたんだろう」
まさかまだルルの部屋にあるのだろうか。
「っていうか・・・どこに売りに行くんだ?」
この村にそんな施設があるのだろうか。しかし利用させてはくれないだろうし・・・。
そこまで考えて、清彦は作業の手を止めた。
「・・・・・・・・・?」
今なにかが、こちらを見ていた?
こういった勘はたまにある。当たることもあればまったくの大ハズレなこともある。
しかし今は・・・。
「・・・まぁいいか」
いちいち確認するの面倒だし、もういないだろう。
清彦は一応警戒はしつつ、作業を再開した。
いや、しようとした。
「清彦っっ!」
「!」
顔をあげると、ルルがこちらにやってきていた。
「な、なぜっ!・・・仕事は?」
「もしかしてと思って様子見にきたの!」
なんか凄い元気になってるな・・・どこか安心しながら、清彦はふと思った。
「いやリルの様子見はしないのに俺の様子見はするのか?」
「うん!」
「うんって・・・」
あっさり頷くルルに軽い疲労感を覚え、清彦はいろいろと諦めた。
「あぁでもちょっと待ってくれ、もうちょいだから」
そんな清彦に、ムッとしながらも
「分かった・・・っていうか作業早くない?」
と、ルルは了承してくれた。
なんて話をしている内に、解体が終了した。
「で・・・これも売れるのか?」
先程思った疑問をルルに訊いてみる。
「うん。あんまり高くはないけど」
「ふーん・・・で、どこに売りにいくんだ?」
「冒険者ギルド」
初めて聞いた単語に清彦は首をかしげた。
「もしかして・・・知らないの?」
「ああ。俺のいたところにはそんなものはなかった・・・はずだ」
「?」
実際人と接してこなかった清彦は現代日本の社会について詳しくない。だから少し自信がなかったが、ルルがそんなこと知るはずもなく。
ルルは清彦に過去についてあまり訊かない方がいいと思っていたため詮索はしなかった。
「冒険者ギルドっていうのは・・・って、その前に冒険者って・・・?」
「悪い。分からない」
清彦はゲームや小説の類に費やす時間がなかったため空想の世界に関してはまったくの無知だった。
「えーっと・・・」
どう説明したものか、ルルは悩んだ。
もとから本など読んでこなかったため語彙力は高くないし、そもそも冒険者についても一般的に知られているくらいの知識しかない。
このどうしようもない空気を消したのは、ルルよりも人生経験の長い清彦だった。
「とにかく・・・そこに売るんだな?」
今大事なのは『冒険者ギルドについて』ではなく『どこに売るのか?』だ。
ルルもそれに気が付いたのか、『冒険者の定義』について考えるのをやめた。
「うん」
「それはこの村にもあるのか?」
「ある・・・にはあるけど・・・」
そこでルルは言葉につまった。
「利用させてくれない?」
「うん・・・」
理由を訊く必要はない。そう結論づけた清彦は話を進めた。
「じゃあどうする?」
「・・・隣街に売りに行く」
「それってどのくらい遠い?」
ルルの表情がさらに暗くなる。
「・・・馬で、一日くらい・・・」
「・・・・・・・・・なるほど」
それでは売りに行けない・・・。
「まぁ・・・多分いつか、売りに行ける機会がある・・・と思う」
その、限りなく低い可能性の話を聞いて。
「・・・そうだな」
としか言えない清彦だった。
その時は知る由もなかった。
まさか、その機会がすぐにくるとは・・・。
はい、できました。
ルルもなにか吹っ切れたのかもしれません。
そろそろつぎの話にいかなきゃな・・・。