不信と詮索
「あいつらはなんなんだ?」
重い空気を清彦の低い声が破った。
「「・・・」」
姉妹は顔を見合わせた。
話していいのだろうか・・・それが二人の心境だった。
先程あの大人たちを倒した清彦に、強い恐怖を感じ、それご嫌だと心から思った。
だから言わないことにした。
「・・・なんでもない」
「・・・そうか」
意外にも清彦は追及してこなかった。だが、その後はほとんど会話がなく、その日は終了した。
「・・・ふぅ」
ルルはベッドに倒れこんだ。
清彦が手伝ってくれたので仕事は楽になっていたはずなのに、ルルは疲れきっていた。
「・・・疲れた」
胸の中にある重いものを吐き出すようにもう一度呟く。
「・・・疲れた」
なぜこんな気分になるのか・・・たかが昨日知り合ったばかりの人間に。
「・・・はぁ」
もう寝てしまおう。そう思って布団に潜り込むが眠気は一向にやってこない。
むしろ目が覚めてしまって。
もうこれは駄目だと布団から這い出した。
「・・・はぁ」
もう一度ため息をついてから、清彦についてよく考えてみる。
会ったときはただの変わり者と思っていた。名前も変だし、なによりルルを見たときなんの反応も示さなかったから。
まるでそこにいるのが当然のように。
「・・・何でだろ?」
ルルは自分の白髪をつまんだ。
この雪のような白髪と、血のように赤い目のせいですごく苦労してきた。
なのに・・・。
「・・・いいや、この話題は・・・」
自分のことは今関係ない。
問題は清彦がどんな人間なのか、だ。
「清彦・一文字・・・」
名前を言ってみる。不思議な感じだ。
この感覚は・・・。
・・・駄目だ。話がどんどん脱線する。
ルルは寝返りをうち、うつぶせになった。
とにかく、清彦のおかしなところは理解できない戦闘能力だ。
昨夜のウルフといい、昼間の三人といい、なぜあんなに強いのか・・・。
「・・・もしかして冒険者?でも・・・」
それならわざわざこんな家にいるわけがない。
「・・・本人に直接聞くのがいいんだろうけど・・・」
はたして喋ってくれるか。
というか、そこは他人が踏み込んじゃいけないような領域のような気がする。
「・・・う?」
あれ、なんかいま・・・。
胸が、痛くなった・・・。
「・・・はぁ・・・」
ルルは大きくため息をついた。
「・・・はぁ」
清彦はベッドに座り込み、頭を抱えた。
「やっちまったなぁ~・・・」
ついいつものノリで拷問をしてしまった。あれではルルやリルが怯えてしまっても仕方ない。
「もうここにいられないかもなぁ・・・」
まぁ別にそれでも困らないけど、と清彦は思った。
一人にはなれてる。例え知らない場所でもやることはいつもと変わらない。
俺のやるべきことはいつだって・・・。
「・・・は?」
何を言ってるんだ俺は?
「やることは・・・変わらない?」
そこで清彦は大切なことを忘れていた。
「俺は・・・ここで、何をすべきなんだ?」
この世界に、悪の組織なんてあるのだろうか。
やることがない。目標がない。
「・・・・・・」
なんのために自分がいるのか。なんのためになにと戦っているのか・・・。
いままでは簡単に分かっていた。
しかし今は・・・。
「俺の居場所は、どこだ?」
清彦の問いに、返事をする者はいなかった。