「私のお腹にはボタンがついている。」
人間にはへそがある。
私のへそは無く、かわりにボタンがある。
私はロボットだから。
このボタンを押すとどうなるのか?
目からレーザー光線が発射されるのか?
金属探知レーダーが作動するのか?
実はどちらでもない。
・・・おかしな趣味かもしれないが
私はこのボタンを押した時の『カチッ』という音が好きだ。
「アーサー!」
ご主人様が呼んでいる。私の事を。
黒いピカピカのボディ。
四角い頭。丸い目。身長1メートル50センチ。
重量70キロ。充電式家事手伝いロボット。
それがアーサーⅡ号。つまり私の事。
「お呼びですか、ご主人さま。」
「コーヒーをいれてくれないかな。」
「かしこまりました。」
ご主人さまのためにコーヒーを作ることになった。
まずアーサーはウォーターサーバーのほうへ移動し
左手部分にあるドリンク専用の水注ぎ口に水を注ぐ。
コーヒ豆は胸部正面の入れ口から投入する。
ヴー ヴヴ― ンンン
豆を挽いていく。
私はコーヒー豆をすでに挽いた粉から作ることもできるが
ご主人様は豆から煎れたほうが美味しいと言う。
美味しいとはどういう意味なのか私には理解できない。
が、ご主人様がにっこり笑って「美味しい。」と言う姿はとても好きだ。
トクトクトクトク……
左腕に注いだ水が沸かされ胸にある挽きたての粉へと注がれる。
私の不便な所は、フィルターを自動で補充できないという所だ。
こればっかりはご主人様にやって頂かないといけないのだが
前にもフィルターが無いままコーヒーを作ってしまったことがあり
機体からコーヒーの粉とお湯の混ざった物が、あふれ出てきて
床を水浸しに・・・いえお湯浸しにしてしまった事がある。
最新式のアーサーⅢ号では、フィルター切れを知らせる機能が搭載されていて
そのようなことは無いのだという。うらやましいものだ。
ピッピッピ
コーヒーが出来たようなのでご主人様の愛用のティーカップに
右手の注ぎ口をあてる。
「コーヒーが出来ました。」
「うむ。」
『カチッ』
ご主人様がお腹のボタンを押すとコーヒーが注ぎ口から注がれる。
ボタンから手を離すと止まった。
「どうもありがとう。」
ごくっとコーヒーを飲むご主人様。
その顔は、にっこりとしていて私の好きな顔だ。
私は1度に3杯分のコーヒーを煎れることが出来る。
今日のコーヒーはあと2杯分残っている。
だからあと2回あの『カチッ』という音が聞けるわけだ。




