帰路にて
――――プロスの街からの帰り道。
あの後、エンガに散々叱られた。
伝言があるからと安心していたがそんなのは無かったらしい。
色々言われたが、心配してくれてたからこその物言いなので素直に謝った。
というかクルーガさんの従者のひと、伝言してくれるって言ってたのにエンガの事わからなかったのかな。
そりゃ伝言もないまま急に居なくなったら私でも焦るはず。
薬を全て売ってから戻ってみると、私の姿が見当たらない。
露店の方を探してみたがいない、入れ違いになってはいけないからと中央にある噴水が見える場所で待っていたらしい。
「本当に心配かけてごめんね」
「はぁ……お前はもう少し危機感を持った方がいい。 善人面していても中身は真っ黒な奴なんでごろごろいるんだ」
「うん、そうだよね、これからは気を付ける」
まったく……と、まだ小言は聞こえてくるがそれよりもエンガに伝えることがあった。
クルーガさんから言われた私の腕のアザの事だ。
アザがある事はエンガには話していない、しかしこうなっては包み隠さず言った方が良いだろう。
アザの事、そして出会ったマシロ教のクルーガさんの事。
「それでね、話があるんだけど――――」
村に帰りつくまでまだ時間がある、私はゆっくりと話始めた。
「そうか……」
話終えた後、エンガは何か考えるように黙りこんでしまった。
無言の時間が過ぎていく。
「…………」
「……ねぇ、エンガはどう思ってる?」
「ん――――……」
難しい顔をしている。
暫く考えこんだ後、先程とはうって変わってスッキリした表情でこう言った。
「うん、 わからん!」
おい、いい笑顔でいうことですか、それ。
何かあっさり言われて気が抜けたというかなんというか……。
もっと深刻に何か言われるんじゃないかと思っていたが、杞憂だった。
「まあ、それについても師匠に話せばいい。 今、俺にはなんとも言えん」
エリステルさんの事だ。
確かに今どうこうというわけではないので、エンガの言う事はもっともだ。
「あ、けどな……」
途中で言い淀む。
「お前に……ほら、その……アザがあるのは知ってたんだ」
なんですと!?
わからないように隠してたのになんで??
動揺する私は思わず声をあげた。
「な、なんで知ってるの? 私、見せたこと無かったよね」
「……朝、見えたんだよ」
朝って…………
……
あああああああ!!!!
思い出した。
今『私の忘れたい思い出No.1』 朝の大事件の事だ。
確かにあれなら見えていてもおかしくない、うわあああー! もうなんであのまま寝ちゃったかな私。
「ほら……その、あれだ、一応お前も女性だろ? そういうのって気にするだろうし……だからあえてふれないようにしてた」
エンガなりに気を使ってくれていたらしい。
一応、は余計だけどたまにフェミニストっぽいこと言うよね。
「そ、そう……ありがとう」
「お、おう……」
「…………」
まただ、また気まずい空気が……
えーい、空気飛んでけー気まずい空気飛んでけ――――!!
「これからも隠しておくからエンガも言わないでね」
エリステルさん以外には。
「ああ、分かってる」
「それで……話は変わるけどお薬、売れたの? お布団買ってくれているから大丈夫だったんだと思うけど」
エンガの背にはコンパクトに丸められた布団セットが背負われている。
コンパクトといってもそれなりの大きさなので重そうだ。
「重くない? 大丈夫?」
「これくらいは問題ないさ、で、薬はな……まあ、いつもの事なんだが店の偏屈爺と値段の交渉で少々手こずった」
エンガが薬を売りにいく所はそれなりに高級な店らしく、専門の店員が交渉にあたるそうだ。
それが中々の偏屈爺で、気を抜けばあれやこれや難癖つけられ安く買い叩かれるそう。
「今回はまあ、それなりだな。 おまけを倍取られたのは痛かったが」
あはは……私には無理そうだ、上手く丸め込まれて安く売ってしまいそうだわ。
「大変だったんだね、お疲れさま」
「ほんとにな! (いろんな意味で)」
頭をぼむぼむ叩くのは止めてください、心配させたのは悪かったからー!
そんなこんなで村に帰って来ました。
……あ、やっぱりいる。
遠くから見えていたがあえて見なかったことにしていた。
私達を確認すると小走りで近寄ってくる一人の男性。
「探したぞー何だよ出掛けるなら俺も誘えよな!」
明るく話しかけてくるのは昨日会ったトウタさんだ。
「お前朝弱いだろうが、寝起き最悪だし」
「いや、そこをなんとか」
「な、ら、な、い!」
「手厳しー!」
エンガにいいようにあしらわれているが、それはそれで楽しそうにしている。
私の中でトウタさんはお調子者っぽいキャラとして登録された。
「で、その子? お前が拾ったっていう昨日の子」
「ああ」
視線がこちらに向いたので挨拶をする。 昨日のように隠れる理由はない。
一歩前に出てお辞儀をし、トウタさんに微笑んだ。
「初めましてリンです。 エンガには昨日拾われてお世話になっています」
「…………」
「……トウタさん?」
笑顔で挨拶すればホケッとした顔で見つめられる。
あれ、なんか間違った?
「おい、トウタ」
エンガが声を掛けると我に戻ったらしく、あわあわと手をばたつかせている。
「い、いやすまん、俺は地の狼族のトウタだ。
エンガとは幼なじみでよくつるんでる」
「そうですか、これから宜しくお願いしますねトウタさん」
「……ああ! こちらこそ宜しくなリンちゃん」
手をぎゅっと握られブンブン振り回された。
ちょ、トウタさんテンション高過ぎ! しかも心なしか顔赤くない? いや、気のせいか。
「トウタ落ち着けよ、尻尾そんなに振って……恥ずかしい奴」
呆れたエンガの声に見てみれば、本当だトウタさん尻尾ブンブンしてる。 なんか可愛い。
くすりと笑ったら目があって更に顔が赤くなっている。
あれ、トウタさんって結構照れ屋さん?
「いらんこと言うなエンガ! ったく……」
そっぽを向いたトウタさんだが私には好印象だった、良い友達がいていいねエンガ。
「じゃ、挨拶も済ませたし一緒に飯にしようぜ! ミナが昼御飯作ってくれてんだ」
あ、それで探してたのかと納得する。
気になるのは私の分なのだが……。
「心配いらないぜ、リンちゃんの分もあるからな。 昨日ミナにも伝えておいたんだ」
ぐっじょぶ! トウタさん!
ミナさんにはまだ会っていないがきっと料理が得意な人なんだろう、昨日も何かを作っていたと話してた。
とりあえず買った荷物を家に置く為トウタさんと一時別れる。 それから後でミナさんの家で合流するというはこびとなった。
「あいつもしかして……いや、それは」
エンガがひとり何やらゴニョゴニョ呟いている。
話し掛けても耳に入ってないのか返答がない。
「エンガーねぇ、エンガってば!」
家に戻ってからずっとこうなので思わず詰め寄ってしまった。
ずいっと顔を近づければ驚いた緑の瞳が私を映している。
「な、なんだ?」
「なんだ、じゃないよ荷物置いてミナさんの所に行くんでしょう? お昼ご飯食べに行こうよ!」
「……ほんと食い意地だけは一人前だなお前」
調子が戻ったのはいいんだけど、一言多いです。
「じゃ行くか。 荷物開けるのは飯食ってからだ」
「はーい!」
わーい、ご飯! ご飯!
村での初ご飯、楽しみで胸がドキドキしますね! うふふ。
そこで新たに出会うであろう人にも期待をしながら、私とエンガは家を後にした。