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くろくろ異世界+わん  作者: 吉恵理多
2章 新しい生活のはじまり
8/13

プロスの街で

「うわぁ……凄く賑わってるー!」


エンガに連れてきて貰ったプロスと言う名のここは、商業に特化した街で見た目も華やかで活気がある。

食べるものから日常品、更には魔術用具など生活する上で必要なものから、珍品名品多々揃うというのがこの街の自慢らしい。


安価な物や普段使う物等は主に露店で、値が張るものになってくると奥の高級店などで買う事ができる。

奥の店は主に貴族専用らしく使いのものが買いに来たり、お忍びで本人が来ることもある。

……私には縁がなさそうだけど。


「おい、あんまりキョロキョロするな、はぐれるぞ」

「子供じゃないんだから大丈夫だよ」


エンガはやたら私を子供扱いするが、もしかしてホントに子供だと思ってる……?


「エンガ、この際だからちゃんと言うけど、私二十歳だからね?」

「ん? ああ、はいはいわかったって」


頭をポンポンされる、駄目だ全然分かってない。

不満そうな私をよそに傍の露店で何やら話をしているエンガ。

見れば服飾の店で、色とりどりの生地で織られた服はどれもシンプルだが着やすそうだ。


「これなんかはどうかねぇ? 可愛いお嬢ちゃんの髪色にきっと合うよ〜」


店のおばちゃんが服を何点か見繕って見せてくれた。

あまり派手なものは遠慮したいが、おばちゃんが選んでくれたのは私の好みにもあうシンプルイズベストなもの。

特にこの淡い水色のワンピースは気に入った、値段を聞けばそこそこお買い得だ。


「じゃあ、その青いのと……あとこの服を頼む」

「え、二着も買ってくれるの? 」


有難いがお金は大丈夫なんだろうか、薬草はまだ売ってないから手持ちのお金あんまりないと思うけど。

そんな思いが顔に出ていたのか心配するなと声をかけられる。


「俺だってそこそこ稼いでるんだ、これくらいは問題ない」


ヒュー! エンガさん太っ腹ー!


「だからってあれもこれもはなしだぞ」


あ、読まれてる。


「ち、ちち、違うってば! 服はこれで全然いいよ! 私はただ買い食いとか楽しいだろーなーと思っただけ!」


食べ物の露店から漂ってくる、肉を焼いた匂いが私を誘ってるだけなんです!

その横のパンに何かを挟んだサンドイッチのようなものも凄く美味しそう。

朝ごはんは食べたがこれは別腹です、露店のものってなんであんなに美味しそうに見えるんだろ?


服の会計を済ませたエンガが財布からコインを五枚手渡してくれる。


「え、これは?」


小さな銅のコインはしめて500ディア。

ディア、はこの世界の共通の通貨だ。

一枚が100ディア、大体日本円で100円。

つまり500円が手の平にある。

この世界の通貨についてはここに来る道中に教えて貰った。

異界の通貨なので難しく考えていたが、日本円とほぼ価値も変わらず金額も同じだったのですぐに覚えられた。


「これから薬草を奥の店で売ってくる、お前はここで買い食いでもして待っててくれ」

「ついていっちゃ駄目なの?」

「店のやつと少々込み入った話があるからな」

「なるほど、わかった。 ここで何か食べて待ってる」


商談についていっても私にはよく分からない、ならここにいるのが正解だろう。

500ディアあれば小腹を満たすのに充分なくらいの金額だ。

露店だから物も安いしね。


「じゃ、行ってくる、あんまり遠くに行くなよ」

「りょーかい!」


私の目は既に露店に向けられている。

やはりお肉の串焼きは食べないといけないだろう、ボリュームもあって一本100ディアとお得だ。

それからクレープのような薄い生地に野菜とソーセージを挟んだ物も捨てがたい。

飲み物と甘いものも食べたい、うーん迷うな……


ぶつぶつと独り言をいいながら露店を見てまわる、見れば見る程目移りしてしまう、それくらい美味しそうな物が揃っていた。



散々迷った結果、お肉の串焼き、柑橘系の冷たいジュース、砂糖がたっぷりまぶされた揚げパンのようなものを購入した。

お金はまだ残っているが先ずはこの戦利品を頂くとしよう!





街の中央には大きな噴水があり、そこは休憩のできるベンチが置かれている。

露店からはそう離れていないのでここで食べることにした。


ベンチに座り周りを見ると自分以外も結構物を食べている。

カップルや親子、はてはお酒が入っているのか顔の赤いおじさんまで。

自分だけだと少し躊躇してしまうがこれなら遠慮しないでいい。


「では、いっただっきまーす!」


ぱんと手を合わせ最初の得物を手に取る。

大きく口を開けて串焼きにかぶりつくと口一杯にジューシィな肉汁が広がる。

牛肉に似た味のそれはとても美味しかった、後で追加で買ってこようと思う程。

口直しに飲んだ果物のジュースは絞りたてで酸味と甘味が丁度良かった、これも選んで正解だ。


残る揚げパンに手を伸ばした時、辺りが何やら騒がしくなる。

ざわざわと人の声が大きくなっていく。

何があったんだろう? 見てみるがよく分からない。

疑問に思っていると、隣で物を食べていたカップルの話し声が聞こえた。


「あれ、マシロ教の人達じゃない? ほらあの姿、服ってそうだし」

「ああ本当だ、珍しいなこの街まで来るとは……何か買いに来たのかな」

「どうなのかしらね、あの国から来るほどだから奥の高級店にでも行くんじゃない?」

「そうだな、たまに掘り出し物の名品がでたりするから、それを買いにでも来たんだろう」


ふむふむ、なるほどーこの世界にも宗教があるんだ。

揚げパンをかじりながらその話の人物達を探し見てみた。


うわっ白っ!

素直な感想はそれだ。

身に付けている衣装はもちろんの事、髪の色から肌の色までやたら白い。

アルビノといったような感じだ。

それが一人ではなく五人もいたのだ目を引かないわけがない。

その人本来の色なのかはわからないが、凄く場違いな感じがする。


世界には珍しい人達がいるものだと思いつつ、揚げパン最後のひとくちを口に放りいれた。


もぐもぐもぐ……ごちそう様でした。


「さて、まだエンガ戻って来ないしどうしようかな」


まだ差ほど時間はたっていない、もう一度串焼きでも買いにいこうかそれとも別の物にしようか……。


残ったお金を数えているとふいに誰かに声をかけられた。


「きみ……大丈夫なのかい?」

「へ?」


心配そうなその声の主を見て一瞬固まってしまった。


薄い金色の髪はさらさらと風になびき、私を見つめる蒼い瞳は憂いがかっていてやけに艶っぽい。

一般人とは明らかに違う、襟のきっちりとした純白の服装もよく似合っていて……


お、王子様――――っ!!

よくいう、白馬に乗った王子様を体現したかのような完璧な姿に思わず見とれてしまう。

うわー睫毛ながーい、ほんとイケメンさんって目の保養になるね……こっちきてからイケメン率上がりすぎじゃない?


「ねぇ、きみ」

「あ、はい」


は! 凝視しすぎてしまったすいません。


「もう一回言うけど、きみ、大丈夫?」


はて、大丈夫とは?


「腕のアザ、尋常じゃないよね?」


…………え。


あの気持ち悪いアザは見えていないはずだ、ショールで隠してあるから。 それなのに彼はまるで見えているかのように言い放った。

おかしい、何故ばれたのだろう。

私が不審がっていると、安心させるかのように微笑まれる。


「ごめんねびっくりしたよね、そういうの僕は視えるんだ」

「視える……?」


彼はそう言うとまた、優しく微笑んだ。








「ええ!? その歳で大神官なんですか、凄い」


私は驚きと共に彼を見つめる。


ここは露店から更に奥に行った所にある店。

お茶の良い香りに包まれたカフェのような場所だ。


あの後、有無を言わせずここに連れてこられてしまった。

待ってる連れがいるからと断ったのだが、聞く耳持たれずどうしてもとあまりにいうので折れてしまった。

彼の従者がここにいると伝言してくれるそうなので、しぶしぶだが納得する。

正直あまり心配はさせたくない、出会って間もないエンガだが、不思議と一緒にいて悪い気はしないのだ。

私について色々世話を焼いてくれるお兄ちゃんのような感じだろうか。

口は悪いけど。


そんな事を考えていると金髪の彼が自己紹介を始めた。

名は『クルーガ=フォン=ラーゼス』 歳は十八歳

マシロ教の大神官で、ここにはとある物を譲り受けに来たそうである。

彼の年齢の若さと大神官という凄い役職に驚いて出たのが先程の言葉だ。

しかもさっきのアルビノさん達と同じ宗教でかつその中でも一番偉い人!

驚かないわけがない。 彼は笑っていたが本当に凄い人なのだろう。


――――彼、クルーガがいうには腕のアザはとても濃い魔力を放出していて、ただの人間ならば一日ともたず体内の魔力が尽きて死んでしまう。

大神官という高い魔力を持つ自分だからこそ、その異常さに気付いたという。


死ぬという物騒な言葉に驚きクルーガをマジマジと見つめる。


「死ぬって……本当に? でも私なんともないですよ?」

「うん、そこがよくわからないんだ、生きてるのが不思議なくらいなのにきみは平然としているだろう?」

「はい、別に気持ち悪いとか痛いとかないです」

「うーん……何なんだろうね……」






――――クルーガは思案する。

見つけた当初なんだこいつはと驚愕した。

あのような魔力の放出、通常の人間に出来るはずがない。

それが何事もなく存在している、原因が何なのかまではわからないが普通ではないことは確かだ。

目の前にいる娘は、何か秘密があるのではないか。

この娘の魔力は黒の女神達のモノに何処か近しい。

もしやマシロ教の深層に近づく重大な何かと縁があるのやも……


そこまで考えて、流石に深読みしすぎだと自分を諌める。


しかしこんな貴重な人材、みすみす逃すてはない。


「体に問題がないならいいんだ、ただ今は良いけどこの先異常がないとも言えないよね、よければ僕の国に来てみないかい?」


原因がわかるかもしれないし、それについて対策が出来るかもしれない、と念を押し誘いをかけた。


しかし彼女は首を横に振る、連れがいるからと。

申し訳なさそうに謝る彼女に、表向き残念そうな顔を浮かべて言う。


「そっか、じゃあもし何かあれば僕の国においでね、この国よりかはずっと人間が住みやすい所だよ」


「はい、お気遣い有難う御座います」


彼女は嬉しそうに微笑んだ。


「あの、そろそろ戻りたいんですけどいいですか?」


彼女が時間を気にしながらそわそわし始める。

話始めて幾分か時が過ぎた、今日はここまでにしておくか。

自分もまだ用を済ませてはいない。


「そうだね、じゃあ途中まで送るよ」

「大丈夫ですよ、道真っ直ぐだったので一人でも戻れます」

「そう? わかった、それじゃ、またね」



『また、ね』


彼女の手をぎゅっと握り、別れの挨拶を終えた。

扉から足早に去っていく彼女を見ていると近くに控えていた従者が話し掛けてくる。


「宜しかったのですか? クルーガ様なら娘の返答なしに連れて帰る事も出来たでしょうに」

「んー僕も最初はそう思ったんだけど、今日はそれより優先させる用事があるからね」

「そうですか、しかし惜しい娘でしたね……」

「大丈夫、彼女には目印つけたから。 いずれ迎いに行くしそれまでは放っておけばいいさ」


静かに笑みを浮かべるクルーガのそれは暗く、先程までの優しい笑みとは似ても似つかないものだった。











「うわー緊張した! 正統派イケメンに緊張した!」


帰り道を足早に駆け抜ける。

何か大変な話だった、これはエンガに話しておくべきだろう。

二日後にはエリステルさんに会えるしその時にこのアザも視てもらおう。



それにしても凄くイケメンさんだった……あれは大神官ではなく王子様すべきだと思う。

それくらい格好よかったのだ。

笑いかけられると辺りにキラキラとしたオーラが見えるようだった……!!

自分の話よりそっちに頭がいって申し訳なかった程だ。


凄く親身になってくれたし、しかも国に誘われるって……何か照れる。

年頃の娘なんです、ときめかない訳がない。

最後に手を握られたし……うあ――――照れるっ! 恥ずかしいっ!


でも残念だけどほんとーに残念だけど丁重にお断りしました。


だってエンガがいてくれるし。

拾ってもらって感謝しているのは本当なのだ。

今日ここにいるのも彼が私の服とか、布団とか買いに連れてきてくれたお陰だしね。

はい、さようならっていくわけがないのだ。



露店のある場所まで後少し、という所でエンガの姿が見える。

大きな荷物を脇に置き、壁に背を向け座り込んでいた。

私の姿が見えたのか、立ち上がる。


「エンガー! ごめんねー遅くなっちゃったー!」


声を上げながら駆け寄っていくと、顔が明らかに怒っている。

あ、これ絶対叱られるパターンだ……。


「おーまーえーなぁぁぁぁ――――!!!!」



私の予想は勿論外れることなく、見事に当たったのだった。

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