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くろくろ異世界+わん  作者: 吉恵理多
1章 森からの脱出
5/13

黒い、ということ

「本物の黒」


彼はそう言った。

顔を凝視されたあとも上から下までまじまじと見つめられ、何だか居心地が悪い。

そんなに見つめるほど珍しいのだろうか?

日本人が? それとも私が?


どちらかと言えば彼の方が容姿端麗で見るのに申し分ない。

目の保養になるイケメンさんなのだが、離れてよくよく見てみると人間ではなかった。

『耳』があるのだ、人の耳ではなく獣耳が。 それから尻尾も。 赤い髪から生えているのは茶色の獣耳で狼のそれによく似ている。

フサフサの尻尾はゆらゆらと揺れていた。


ついついガン見してしまったがここで人、会話が出来る人に出会ったのは良かった。 これで森を脱出できるかもしれないのだ。

この人の機嫌を悪くしないように慎重に話し掛ける。


「あの……すいません、この森から出ることって出来ますか? 私ちょっと迷ったようで……近くの町か何かに連れていって欲しいのですが」


「…………」


返答はない。


「あの……」


「…………」


――――は!! もしや異世界だから言葉が通じないなんてことは……いやさっきこの人の言葉は聞き取れたよね、いやしかし向こうの言葉は聞き取れるけど、私の言葉は通じないとか?!

冗談じゃないですよ? 翻訳機能仕事しろ!!


半ばパニクりながらどうしようか考えていると彼が我に返ったようで話し掛けてきた。


「や、わりぃわりぃ! あまりに珍しかったからついガン見しちまった」


普通に話せるやないかーい!


……というツッコミは置いといて会話は問題なくできそうだ。



――――それから彼と話し、この世界について少々教えて貰った。

ここは大陸中、3番目に広い国土を持つ『イランシア』国。

緑が豊かで住んでいるのは人間、獣人、エルフ等多種多様に富んでいる。 国王が獣人であり、獣に属する物達は比較的住み心地が良いのだそうだ。

その中の一角にあるこの森は『イオ』の森、別名『初心者の森』冒険者が一番最初に立ち寄る森で、ここで魔物との戦いを学ぶのだ。

スライムしかいないそうで、まずここで死ぬことはない、といわれる場所だ。

と、ここまで聞いて疑問が出てくる。

(あの蛇はなんだったんだろう?)

明らかに初心者が戦える魔物ではない、と思う。

あの森の主か何かかと聞いてみるが、そんなのは見たことも聞いたこともない、と。 謎は尽きないが仕方ないまた遭遇するのだけは御免だ。


彼についても話してくれた。

彼は焔狼(ホムラオオカミ)属の『エンガ』

狼の獣人で、あの大きい狼は『ルヒカ』

小さい頃から一緒に育った大事な相棒とのこと。

あわてて私も自己紹介する。


久居凛(ひさいりん)です、ちょっと迷ったようで出口を探して彷徨いてました!」


「ぶはっ! ここで迷うってどんなだよ! ある意味才能じゃね?」


そこまで笑わなくていいじゃない、と膨れていると笑いつつも核心をつく質問を投げ掛けられる。


「で、お前、何なんだ? その『黒』は生まれつきの物か?」


笑い顔は消え、スゥと目を細め真顔で見てくる。


「黒を纏うのはこの世界で只二人、創造主の女神『アルヴィラ』と深淵の純黒龍『リドヴィラ』だけだ」


……はい? またよくわからない単語でましたー!

大層な名前の御方達のようですが、私はごくごく普通の一般人ですよー。


「そう言われても、日本人みんなこうだし……」

「ニホンジン?」


聞き返されてはっとする。

私がこの世界の住人ではないという事実は伝えて良いものだろうか? ややこしくなったりしないだろうか?

……暫く考えて伏せておくことにする。 期があればいうこともあるかもしれない。


「私は生まれつきこうだし、難しい事言われてもわからないよ、気がついたらここで迷ってたんだし……」


嘘は言っていない。

適当に流すが、エンガは疑いの眼差しで見つめてくる。

じっと目を見詰めているとふいと視線が外された。


「まぁ……お前からは何も感じないしな、弱っちいひょろひょろの体だし」


失敬な!

思わず抗議の目でみるが笑ってかわされた。


「で、お前、ヒサィリ……えーと、なんだったっけ?」


「名字が久居(ひさい)で名前は(りん)……リンでいいよ」


名前が聞き取りづらいようなので、下の名前だけでよんでもらうようにする。


「リン、は『気がついたらここにいた』と言っていたな、人拐いにでもあったのか? それだけ珍しい色を持っていたら良い値になるだろうし」


横で静かに伏せをして佇むルヒカを撫でながらニヤリと笑う。


「は……?」


何言ってるのこの人。


「だってそうだろう? 世界にまたとない色した人間がいるんだ狙うやつらなら五万といる、特に人間のお貴族さま達はこぞって手にいれようとするだろうよ」


何それ……ここで初めて危機感が募ってくる。

森を脱出したらなんとかなると思っていた。

町を見つけそこで情報収集して帰る方法を探す……だがそれが安易な考えだと気づかされた。 日本人のありきたりな姿、黒髪に黒い瞳がこの世界では貴重なものだとは夢にも思わなかった。


愕然とする私をよそに、エンガは腰の布袋から何やら取りだすとルヒカと半分に分けてかじり始める。 見た目ビーフジャーキーみたいなもののようだ。

ぼーっとその様子を見ながらこれからどうしようか考える。

ここにいても仕方がないが出たら出たで身の危険があるのだ、まさに八方塞がりだ。


『ぐううううううう――――――――――っ』


ここで空気の読めないやつ来た――――!

なんで今鳴るかなー恥ずかしい……。

顔を赤く染め顔をそらすと、鼻先にずいと押し付けられるものがある。

さっきのジャーキーだ。


「食うか? もうこれしか残ってないけどな」


エンガとルヒカは食べ終わったらしく、水の入った布袋を口につけ水分補給している。


ジャーキーは有り難く頂く事にした。 お腹が空いては戦もできぬだからね!

噛みごたえ充分のジャーキーを四苦八苦しながら食べ終わる頃には、エンガも広げていた荷物を片付け終わっていた。

ここには薬草を集めに来ていたようで、様々な薬草が荷物に詰められていた。 聞けばこの森は薬草を集めるにはもってこいの場所らしく普段使いの薬草ならほぼ集められるそうだ。

貴重な薬草等はまた別の森にあるそうで、そこには危険な魔物がいてなかなか採取出来ないとのこと。


「さて、とこれだけ集まれば充分だし帰るか。 ……で、お前はどうするんだ? 行く宛てないなら来るか? 一緒に」


『一緒に』


何てことのないこの言葉がこんなに嬉しいと思ったことはなかった。

この世界で初めて出会った人。

悪い人のようではない……と思いたい、まだ出会って間もないけど。


「あ、ありがと……」


お礼を言おうとするが、


「ま、金に困ったら売り飛ばしたらいいか」


ニヤリ(悪い顔)


前言撤回!!!

こいつ、良いのは顔だけだ――――!!!!






プリプリ怒る私をよそに、エンガとルヒカは森を真っ直ぐ進んでいく。 笑いながら冗談だと言うが怪しい……いざとなったら逃げるしかない、背後からこう……木の棒でボグッ! として……。

そんな私の考えをよんでいるのか、尚も笑いながら言う。


「俺はそんな『人でなし』じゃあないぜ? それに……お前よりかはずっと強いからな」


ああそうですか、強くて顔も良い、何この不平等。

神様はいないのか!! 私だって美少女に生まれたかったわ!!


斜め上の八つ当たりをしながらエンガについて森を進んでいくと開けた場所が見えてくる。

光の差し込むその先は……見えた、出口だ!

出口が近くなったところでバサッと何かかが頭に被せられる。


「うわっ、な、何?!」


慌てる私にエンガは何てことない顔でさらりと言う。


「それ被っとけ。 髪の毛は纏めて結ぶかしないと見えるぞ、お前髪長いからな、黒いのがバレたらヤバいだろ?」


……確かに。

私の髪は腰の辺りまでのびていて、今はポニーテールにしている。

そのままだと布を被ってもはみ出してしまうだろう。

急いで髪を纏め直しお団子にする。 その後で大きい布を深く被り胸の辺りで解けないようにしめた。


「これで…よし、と。エンガ、どう? 見えてない?」

「ん? いいんじゃねぇか? 」

『ワウ!』


あはは、ルヒカも答えてくれた。

ルヒカは話し掛けると、言葉は話さないものの言ってることは理解しているようで返事をしてくれる。

姿こそ立派な狼だが反応は大きな犬のようで可愛らしい。


「すっかり慣れてるな、ルヒカが会って直ぐになつくのは珍しいぞ」

「そうなの? いきなりべろべろに舐められたときはどうしようかと思ったけどね」


まあそのお陰(?)でエンガにも出会えたんだけど。


「さ、出口だ」


森の外れ、一足踏み出すと赤い日の光が沈みかけている。

もう夕暮れだ。

森で一夜を過ごす事にならなくて良かったとしみじみ思う。

これからの事は明日考えよう。 今はこの人、エンガについていくしかない。

この選択が良かったと思えるよう、後悔しないように……



私は歩き出した。



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