こんにちは異世界
何処かで鳥の鳴き声がする。
クケーやらギャシャシャシャやら、可愛らしい小鳥の鳴き声とは違うゴツい声。
「ん――……」
パチリと目を開くと一面の緑、緑、緑。
頬にあたる葉をちぎって見れば青臭い香りが鼻をつく。
「Q、あの世ってこんなに鬱蒼とした森なんですか?」
「A、いいえ、多分違います」
起き上がり、辺りを見回す。
広がる緑はまるでジャングルのように繁っており、日が差し込まない場所は薄暗く気味が悪い。
海に落ちたのに気がつけば森の中。
どういうこっちゃ、何が何やらどうなってるの?
「一応私、生きてるのかな」
怪我もないようで手足もしっかり動くし、頬っぺたを思いっきりつねってみたら滅茶苦茶痛かった……うん、夢でもなく現実のようです。
今の状況を整理してはみるものの、結局よくわからなくなる。
あの悪寒がしたときから変だった。
黒い何かに襲われて海に落ちて溺れて……?
むしろなに、あの黒いの。
明らかに私狙ってきたよね、あれ。
お母さんは無事だろうか、あの時落ちたのは私だけだった気がする。
ざっと辺りを見回してみても、此処にいるのは私だけのようだ。
「う〜考えても仕方ないしどうするかな、あ服濡れてないや」
海に落ちる前のままだ、身一つだけで所持品は何もなし。
ここは森の中。
まずいよね、この格好サバイバル向きじゃなさ過ぎる。
「取り敢えずここから離れよう、何か薄気味悪いし」
鬱蒼とした森といえば、獣などの害獣がいないとも限らない。
襲われでもしたら手に負えない。
丸腰では危ないでしょと、傍に落ちていた野球バットサイズの木の棒を見つけ一振り。
ブンッ! ブンッ!
……よし、何とかいける。
今はまだ日が真上にあるが、暗くなったらかなりヤバそうな森だ。
早く抜け出すに限る。
期待はしてないが、人がいれば近くの家まで連れていってもらえるだろう。
そこで電話でも貸してもらえばいいか。
ザクザク、ザクザク、森を進むこと数分。
ピタリと立ち止まり前を凝視する。
「……何あれ」
『ぽよんぽよん』
半透明のつるりとした、触るとぷにぷにしていそうな物体。
某国民的RPGでは最初に戦うあのモンスター。
目と口すらないが形はあれそのもの。
それが今、目の前にいるのだ。
どうみてもスライムです、あ、こっちやって来た。
ぽよんぽよんと跳ねながら来たかと思えば、いきなり素早い動きで顔目掛けてアターック!!
避けられず、ベチン! と大きな音がしたのは言うまでもなく、その後もさんざんベチベチしたら満足したのか、スライムは去っていった。
あれ、これって……もしかしなくても私、負けてる?
乙女らしからぬ鼻血をたらしながら、呆然とスライムの去っていった方向を見る。
「何の為の木の棒やねん!!」
『……』
一人ツッコミは寂しく森に響く。
スライムにすら負ける私最弱じゃない? レベルで言ったら1(イチ)ですらなくレベル-(マイナス)1?
うーわー私弱っ! 一般人ですが弱っ! 非力すぎでしょ!
……と、ここまで考えてはっと気付く。
「ここ、日本じゃないよね」
今更だが、そう考えると納得せざるを得ない。
まさか自分が……とは転移した人皆が思う事。
これは俗に言う『異世界トリップ』ではないだろうか。
「ラノベかぁ――――――――!!!!」
今日二度目のツッコミも誰に聞かれることなく消えていった。