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タァちゃんのママは、さげまんかもしれない(第八話)

 タァちゃんはこの頃、微熱に悩まされるようになっていました。とくに定期テスト近くに根をつめて勉強を続けた時、顕著になりました。絵の道をあきらめていたタァちゃんは、動物についての学問の道を志したのですが、結局、就職に有利な、手に職をつけられるようにと、さらなる妥協の選択をしてしまいました。魂の奥底で、選んだ進路に合わないものを感じていたタァちゃんは、日々ストレスがたまり、消耗していきました。

 そんなある日、ママはタァちゃんにこう言いました。

「留年なんかしたら、絶対、許さないから」

ママのその言葉は、タァちゃんの心に黒いシミの様に広がっていきました。タァちゃんは純粋に勉強を楽しむことが出来なくなりました。そんな時、タァちゃんは一科目だけ追試を受ける事になってしまいました。半数以上の学生が追試となった科目でしたが、タァちゃんの受けたプレッシャーは半端なものではありませんでした。夜寝ていても、うなされて起きてしまいます。それでもタァちゃんは何とか、このピンチを乗り越えたのでした。

 タァちゃんは優秀な成績を修め、大学を卒業することになりました。でも、タァちゃんは自分の卒業式にパパやママを呼ぼうとはしませんでした。とくにママが心から祝福してくれないことを、分かっていたからです。

 就職するまでの短い春休みをタァちゃんは楽しんでいました。四月一日まであと数日のある日、帰宅したタァちゃんは、近所のママ友の一人が遊びに来ているのに出会いました。ママがタァちゃんに言いました。

「あんた、就職したら、生命保険に入りなさい!」

実は、そのママ友は、生命保険のセールスレディーでした。

「えーっ、そんなの嫌だよ」

タァちゃんは即座に反論しましたが、

「いいから、入りなさいよ。皆、そうしてるんだからね」

ママは厳しい口調で言い渡しました。ママに逆らえなかったタァちゃんは無理矢理、生命保険の契約を結ばされたのでした。ママは、タァちゃんがまだもらってもいないお給料をあてにして、自分の友人にいいカッコをして見せたのでした。おかげでタァちゃんは、人生で最初のお給料を、満額で受け取ることが出来ませんでした。

 それからしばらくして、パパやお兄ちゃんもいる夕食の席、いろいろと不満のたまっていたタァちゃんが、保険のことについてママに文句を言いました。

「無駄なことにお金を使わせて!」

「そんな事言っても、役に立つんだから・・・・・・」

「私が働いたお金でしょ!?」

どなったタァちゃんに、ママは反論出来ず、口をつぐみました。パパはタァちゃんの向かいの席でだまって聞いていました。

 その出来事から何日かたって、仕事から帰ったタァちゃんの元に、慌てた様子でママが話しかけました。

「保険のことだけど、途中でやめてもいいんだよ」

それだけ言うと、キョトンとするタァちゃんを置いて、サッとその場を立ち去りました。実は、相談もなしにパパを受取人にした保険に加入させたことを、パパがママに叱っていたのでした。

 ともすれば家庭を崩壊させる方向にエネルギーを消費するママと違い、タァちゃんのパパは、家族をまとめる方向に労力を使い、気を配り続けていました。タァちゃんがそれを認識するのは、パパが亡くなった後のことになるのですが・・・・・・・。

 ある時、タァちゃんのママは大きな手術をすることになりました。長時間に及ぶ手術です。当然、生命の危険もありました。手術の当日、タァちゃんは仕事を休んで立ち会いました。パパと親戚のおば達も見守ってくれました。お兄ちゃんの立ち会いはなかったのですが、それはママが来なくても良いと伝えたからでした。

「こんな手術で、仕事を休む必要はないと思うのよね」

手術の直前、おば達にそう語るママを見て、さすがにカチンときたタァちゃんは、こう言いました。

「そんなこと言って、来なかったら来なかったで、後で文句を言うクセに!」

タァちゃんの批判に、ママは口をつぐみました。この時タァちゃんは、傍でうなずくパパの姿に気が付きました。それにしても自分の母親が死ぬかもしれない手術を、とても軽く考えているお兄ちゃんに対し、腹が立って仕方のないタァちゃんなのでした。

 夕方から開始した手術は、終わるのは夜中になることも覚悟していたのですが、不思議な程、順調に終わりました。

 手術後、タァちゃんのママには、きちんとした体調管理が必要となりました。特に冬場にキズ跡が痛むママのために、タァちゃんは絹製のあったか下着を買い、プレゼントしました。ところが返ってきた言葉はお礼ではありませんでした。

「そんなモノ、いらないのに」

時間もお金もかけて、プレゼントを選んだタァちゃんはガッカリしました。それでもママは、品物はしっかり受け取ったのでした。

 しばらくして、タァちゃんにママがこう言いました。

「あの下着、もっと買ってくれない?」

前に言ったことをすっかり忘れたかの様に、タァちゃんのママは要求してきました。タァちゃんは、こう返事しました。

「いらないって、言ってなかったっけ?」

ママはそれ以上、何も言いませんでした。タァちゃんがママに贈り物をすることは、二度とありませんでした。


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