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タァちゃんのママは、さげまんかもしれない(第一話)

 タァちゃんは小さな女の子。パパとママとお兄ちゃんと、そしてタァちゃんの四人で暮らしています。端から見ると、ごくごく普通の平凡な家庭でしたが、実は、タァちゃんのママは、さげまんかもしれませんでした。

 タァちゃんは、ママよりもパパに似ていました。タァちゃんのママは自分にそっくりのお兄ちゃんと違って、自分よりもずーっと若くて、学校の勉強もそこそこ出来て、自分が子供の頃よりも進学しやすい環境で育っているタァちゃんが、妬ましくてたまりません。そんなこんなで、事あるごとに、タァちゃんをけなす機会をうかがっていました。

 タァちゃんのパパは、お兄ちゃんがごゆっくりさんのため、タァちゃんにものすごい期待を寄せていました。ママもパパのそんな気持ちに気が付いていました。そのため、ママ自身もタァちゃんが優秀な子供である事を要求してきました。ただし、大人として必要なアドバイスやサポートを与えることはなく、小さいタァちゃんにプレッシャーをかけ続けるだけなのでした。

 タァちゃんのママは、タァちゃんが楽しそうにしていたりニコニコ笑っていたりすると、突然、機嫌が悪くなったりしました。タァちゃんが自分より幸せそうなのが許せなかったのでした。それは正当な理由のない怒り、八つ当たりであったため、タァちゃんはいつも、ママの顔色をうかがっていなければなりませんでした。

 タァちゃんは何故だか、ママが美人であると小さい頃から信じていました。確かに、目が大きくはっきりした顔立ちではありましたが、手足は太短く、スタイルはあまり良くない女性だったのです。そして、ほとんど化粧はせず、大してお洒落もしません。幼い頃からまんまとそういう女性を美人と信じ込まされたタァちゃんは、大人になってから自身もそういう女性になっていくのですが、この頃は、それを知る由もありませんでした。

 タァちゃんはごく小さい頃から、エレクトーンを習っていました。これは長く続き、結果として高校を卒業するまで、タァちゃんは音楽教室に通い続けました。タァちゃんは、音楽は嫌いではなかったのですが、いかんせん才能がありませんでした。パパやママにも音楽の素養は全くなく、家庭で音楽が流れることも、音楽の事が話題に登ることもめったにありません。どんなに努力しても中の上位の実力しか発揮できない自分に、タァちゃんは早くから気が付いていましたが、ママがそうすることを望んでいるのを知っていたため、時間を割いていたのでした。実はタァちゃんのママは自分が子供の頃、ずーっとピアノを習いたかったのですが、それが叶いませんでした。娘のタァちゃんに習わせる事で、自身が音楽教室に通っている気分を味わっていました。ただし子供だったタァちゃんには、そこまではわかりせん。ただただ自分の将来に結びつかない事に、貴重な時間を費やしてしまったのでした。

 タァちゃんは、ごく小さい頃から絵を描くのが大好きでした。TVのアニメも大ファンで、新聞広告のウラ紙に、よくアニメのキャラクターをマネして描いていました。タァちゃんのママは、そんなタァちゃんを見ると、いつもバカにするのでした。

「また、でくのぼうを書いて!!」

と、吐き捨てる様に言うと、冷たい視線を送ってきました。実は、タァちゃんのママは、絵を描くことに全く興味がなく、自身にその才能もありませんでした。自分の理解出来ない世界で楽しそうにしているタァちゃんを見ると、イライラして当たり散らすのでした。いつの頃からか、タァちゃんは隠れて絵を描くようになっていました。

 タァちゃんが大好きだったTVアニメの最終回。ずっと母親を探していた主人公が、やっとの思いで再会を果たしたが、すぐに永遠の別れを迎えるシーン。家族と一緒に居間でじっと見ていたタァちゃんは、とても悲しくなってしまいました。ちょっと恥ずかしかったので、隣りの部屋に行ってもらい泣きしていると、タァちゃんのママが様子をのぞきに来ました。ママはタァちゃんが涙をぬぐっているのに気がつくと、

「ちょっと、この子、泣いてるわよ!」

居間の方に向かって、大声で笑いながら叫んだのでした。タァちゃんの涙は止まりました。その後、他の三人がTVを楽しんでいる中で、タァちゃんは暗い部屋でしばらく座り続けていたのでした。

 ある時タァちゃんは、ママにフィギュア人形を買ってもらえることになりました。夕飯の買い物が終わって、オモチャ売り場に行き、たくさん並んだ人形を前に、タァちゃんはウキウキしました。その中で、サラサラのロングヘアーの少し大人っぽい女の子の人形が目に止まりました。タァちゃんが、そのうちの一つに手を伸ばそうとしたその時、ママがその横に置かれていた、カールした髪のもっと幼い女の子の人形の箱を一つつかみました。その箱をタァちゃんの手に押し付けると、

「これで、いいよね?」

と、強い口調で言い渡しました。タァちゃんは反射的にうなずいていました。小さいタァちゃんには分かりませんでしたが、ママが選んだ人形は、その店で一番安い商品だったのでした。せっかく買ってもらった人形の箱を手に、どこか沈んだ気持ちで帰宅したタァちゃんでした。

 タァちゃんにとってパパは、どこか縁の薄い人でした。そんなパパはタァちゃんが幼い頃にウツ病を患ったことがありました。小さいタァちゃんには分かりませんでしたが、不平不満いっぱいのママが、毎日のようにパパに当り散らしたのが原因でした。専業主婦だったママは、さすがに生活費を稼いでくれるパパが倒れるのは大変な事だと悟りました。とはいえ、自分のストレスを発散させる必要があったので、それ以降の攻撃対象はタァちゃんになっていったのでした。そしてお兄ちゃんとタァちゃんには、

「お父さんは疲れてるんだから、邪魔しちゃダメ」

と言い渡し、遠ざけるように仕向けました。パパと子供たちがスクラムを組まないように、コントロールするためでした。


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