第三話~ドラゴンキラー
『第三話~ドラゴンキラー』
ゴン!
まるで爆発だ。
というより、フォワードの椿波雲{つばき・なぐも}氏の握る拳銃の発砲は文字通りの爆発で、ななめ後ろに位置するセンターのオレにも衝撃波が伝わり、イヤーピース(耳栓)越しに鼓膜を激しく叩く。
そんなファーストアタックで遠方に陣取る岩竜の右前足は弾け、ドス黒い血が辺りにばら撒かれる。あの強固な岩皮膚も同じく欠片となって飛び散り、遅れて岩竜が姿勢を崩す。
そこにセカンドアタック。
ゴン!
再びの爆裂音で、岩竜の左足の先端が爪と共にバラバラにはじける。
忘れていた呼吸を再開して波雲氏を見ると、両手に銃を握りつつ器用に紫煙を吹いていた。
波雲氏の拳銃は特注で、オレやバックアップ役のアヤ、他のギルドの連中が持つものとも全く違う。何が違うかといえば、まずはその威力だ。
ドラゴンでなくとも体長八メートルもの生物を、たったの二発でほぼ無力にしてしまう、これがとんでもないことだとは説明不要だろう。
誰かから聞いた話だと、波雲氏の握る拳銃は、正確には拳銃サイズにコンバートした対戦車ライフルなのだとか。
戦車を相手にする武器ならば先の威力も納得といったところだが、それを女性の細腕で自在に、それも両手で操る波雲氏となると、こちらのほうがインパクトは大きいかもしれない。
念の為に補則しておくと、椿波雲氏はいかにも二十四歳女性という風貌で、マッチョとは正反対、線の細いロングヘアのお方で、あのぶっきらぼうな態度を知らなければ相当にモテるだろう、という感じの方である。
いやいや、だからといってオレやアヤに格別に冷たかったりするわけではなく、何というのか、他人との接点を一切持たない、そんな感じなのだ。
そこがまた魅力的だ、と思えるほどオレは大人じゃあないが、ギルドのオヤジ連中にウケがいいのはそういう部分なのかもしれない。
そんな、可憐という言葉が似合いそうな波雲氏とハンドガンサイズの対戦車ライフル……リボルバー式の五十口径ナントカという拳銃は、うむ、これはさすがにミスマッチだろう。何せ岩竜を二発で動けなくしてしまうのだから。
ともあれこれで当面の脅威は去り、ついでにフォワードである波雲氏の出番も一旦終わりで、オレとアヤの出番だ。何をするかというとまず……これはあまり気持ちのいい作業ではないのだが、とどめを刺す。
動けなくなったといっても近寄れば噛み付くだろうし、野ざらしにしておくにはやはり危険なので仕方がない。
ギルドから支給されるアサルトライフルで頭部を狙い、十発ほど打ち込む。徹甲弾という硬いものを貫通する弾丸で穴だらけになった岩竜の頭は、あちこちから血を吹き出す岩の塊となり、ほどなくして静まる。
次はアヤの出番だ。死骸から組織サンプルを採取したり、体長を測ったり謎の計測装置であれこれ測定したり、まあ、オレからは何をやってるのかサッパリなことを一通りで、最後に死骸を焼却する。
この瞬間だけは未だに慣れない。単にオレがガキなのかもしれないが。
ドラゴンといっても生き物で、存在するだけで脅威だ、とは随分と人間勝手な言い分だが、生物には縄張り、テリトリーというものがある、アヤはそう説明して割り切っているようだが、オレはガキな上にアヤほどのインテリでもないので、罪悪感という言葉で合っているかどうか不明だが、そんな気分になる、毎回。
ドラゴンフォール現象と言うのは実は、ドラゴンにとっても事故か天災みたいなものなんじゃあないか? とは考えすぎだろうか。
もしくは、オレでもそう思うくらいだから、偉い連中にそんな考えの人間がいるのかも、とか何とか……ああ、煮え切らねぇな、全く。