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脱兎の如く

 森に入って数分後、俺は早速トレーニングを開始する。


 森に入る前にした、確固たる決意を背負って。


 …がしかし、決意だけじゃどうしようもできないことがあった。

 いくら同世代の子供よりステータスが高くても、Level1はLevel1だ。

 冒険者のLevel1というのは、家を出た14歳位の子供でも成れるのだ。

 そんなLevel1の平均が50。それより少し数値が高くても、大体同じ様なものなのだろう。

 そんなLevel1平均値のステータスではすぐに限界が来てしまう。

 全速力で走り回っていれば15分程で息は切れ、腕立て伏せなんてのは自分の体重に腕が耐えきれず、すぐにへばってしまう。腹筋も同じだ。


 全く、何が自衛隊方式だ。何が漫画の様な鍛え方だ。


 そんなの夢のまた夢じゃないか。


 いやほら、自衛隊員だって3歳位からトレーニングやってた訳じゃないよ?

 ただ、せっかく決心したのにこんなのじゃ、行く末が知れる。

 どれだけ死なない為に死ぬ気で頑張っても、限界が自分を止めてしまう。


 …まあ、元が唯のメカオタインドア派高校生なんだ。だからすぐに限界を感じてしまうのだろう。

 折角ファンタジーの世界に来たんだし、本当の肉体の限界で止める様な、それこそフィクション、漫画の様なトレーニングをしたいが、今の俺には出来そうにない。


 …詰んだか。


 残念、レンの冒険はここで終わってしまうのか。





 …いや、まだだ。まだ行ける。


 どうせ此処はフィクションみたいなファンタジーの世界なんだ。どうせ諦めるなら、最後に今の自分でも出来るフィクションみたいなトレーニングをしようじゃないか。

 死ぬ気でやる?よーしならとことん死ぬ気でやろう。やってやろう。













 …待った。一回孤児院に帰ろう。腹減った。腹が減っては戦はできぬって諺もあるし、それにもう夕暮れだ。これ以上遅くなるとミリアがうるさいかもしれん。


 うん、フィクショントレーニングは明日からやろう。




「しっかし、随分と暗くなるな…前の世界っつか前世とは大違いだ」


 1、2歳の頃は孤児院に籠りっきりで本を読んでたから外に出る事なんて忘れてた…ああ、街灯の灯りが懐かしい…なんか寂しくなってきた。


「グルルルルルゥ…」


「そうかそうか、お前も慰めてくれるか…






 なぁ、スフィンスウルフ?」


 スフィンスウルフとは:森などのダンジョンによく生息している、火の粉を纏った狼型の下級の魔獣。

 狼と同じように獰猛で人を襲うが、狼と違い群れではなく単体で襲って来る。

 また、この魔物は稀に火の玉を口から出して攻撃して来るため注意が必要。


 たしか『ダンジョンに棲む獣大百科』にはこう書いてあったと思う。


 …うん、魔獣。森から出る時に着いて来られちゃったかな?



「落ち着け慌てるなそうだ目を逸らすな背を向けるな肉食獣に背を向けたら殺られるって日本の教育番組で言ってたなさあさあ如何する今は武器どころか白旗も持ってないぞ」



 ヤバいヤバい落ち着けそうだクールだクールになれ、いや目の前にいる魔獣の火の粉で若干暑いけど落ち着け、落ち着くんだ俺。


 ふぅ。


 さて、どうしようか。


 目の前にいるスフィンスウルフは俺を凝視している。まるで獲物を品定めするかの如く俺を見詰める魔獣は、チラチラと火の粉を纏い、鋭く尖った牙を見せ、涎を垂らしながら唸っている。


 俺はこいつが思っている事が容易に想像出来た。

 いや、こんなの前にしたら誰だって瞬時に察せるだろう。


 こいつ、俺を食べる気だ。


 できる事なら瞬時に逃げ出したいが、残念ながら足が恐怖に竦んで動こうに動けない。


 ヤバい。コレが絶対絶命か。


 こんな事を考えている間にも狼はジリジリと距離を詰めて来る。


 頼む、動いてくれ。足。


 今にも飛びかかってきそうなスフィンスウルフを前にして、俺が天に祈っていると、奴の足が乾いた大きめな枝を踏み付けた。



 パキィ!!


 そんな音が静かになった森に響き渡り、奴が一瞬俺から視線を外す。


 今だ!!


 奴が作った一瞬の隙を認識した瞬間、俺の足は弾かれたように動いた。


 走れ!!


 脱兎の如く走る。走る!とにかく奴から離れないと!孤児院まで残り300メートル。あそこまで逃げて誰かに助けを求めよう。幸いマリー先生はエルフ、魔法の扱いが得意な種族だ、彼女ならなんとかしてくれる筈!


 ふと振り返るとスフィンスウルフは、絶対に逃すかとばかりに目を爛々と輝かせて追ってくる。速い!なんて速さだ、このままじゃ追いつかれる!


「クソっ!なら最後の悪足掻きだ!」


 俺は走りながらさっきまでしていたトレーニングの中で見つけた、身体を巡る魔力の流れに集中する。


 なにもトレーニングは肉体的な事ばかりしていた訳ではない。よくある小説の主人公の様に、魔力だって鍛えようとして見た。そしてわかった事が、魔力は固形化させる事が出来ると言う事だ。無色無臭、形は自由自在で球体から正方形、正十二面体などにも出来る。固さはスーパーボールくらいだ。ちなみにこれを作る事による魔力消費量は少なめで、テニスボールを20個作ったところでステータスの数値が1449/1450となった。まあ、これをこんな事に使うとは思ってもいなかったが。


 俺は魔力を右手に集め、球体型を形成する。大きさは野球ボールくらいだ。


 俺は右手に形成されたそれを握りしめそして…奴に向かって投げる。


「ッオラァ!」


「ギャン!」


 投げた魔力球はどうやら命中したらしい。一瞬だけ奴が怯む。


 だが、それだけだった。てか、もっと奴を怒らせた。凄いよー火の粉が奴の体からバンバン出てるよ。もう真っ赤っかだよ。よく周りの草木が燃えないな。


 そんな現実逃避をしていると、なんだか奴の口に火の粉が集まっている。あれーなんか嫌な予感。


 ボンっ!


「ああやばい、あれが噂の火の玉攻撃か!」


 嫌な予感というのはよく当たるものらしい。スフィンスウルフがこれまた野球ボールほどの火の玉を吐いてきた。火の玉は地面をバウンドしながら此方に迫っつてくる。


「クソっ!追尾系じゃ無けりゃ良いけど」


 俺は地面をジグザグに走る事で、それを回避。がしかし、何回もやられると疲労でぶっ倒れてしまう。奴との差は縮まるばかりだ。孤児院はもう目の前だというのに。


「あぁもう!当たれ当たれ当たれ当たれ!!」


 俺はもうヤケクソになり魔力球をジャンジャカ投げる。


 すると、その内の一個が偶然奴の口目掛けて飛んで行き…


 バァァン!!!


 奴が吐き出したばかりの火の玉にぶつかり、大きな音と共に爆破した!爆破や奴を巻き込み、衝撃が俺を吹き飛ばそうとする。くっなんなんだいったい!!


「キャン!キャン!」


 奴はどうやら爆破に巻き込まれ顔に怪我を負ったらしい、流石に顔を傷付けてまで食らう獲物では俺はないようで、一目散に森へ帰っていった。一体なんだ?今の爆発は。あとで調べないと。


「何ですか今の音は!」


 爆破の音を聞きつけてマリー先生やその他の生徒が此方に出てくる。


「マリーせんせーいまのなーに?」


「うぅ…こわいよう…」


「あぁ!レンくんこんなところにいた!なにしてたの?しんぱいしたんだよ?」


 おっと、ミリアに気付かれてしまった、急いで撤退しないと。


「大丈夫、ちょっとその辺を散歩してだけだから。さ、もう戻ろu「そうですね。皆さん、院の中に戻ってください、もう寝る時間です。ただ、レンくん。あなたは少し残ってください」…おぅ…」


 マリー先生につかまった。何故ばれた。マリー先生はなにが起きたか知らない筈…


「この辺りがファイアボールのあとだらけです。それに、あなたから森の匂いがします。なにが起きたのか、説明してくださいね?」


「あのー…一応聞きますけど拒否権は…?」


「随分と難しい言葉を知っていますね?関心です。そして、そんな物は玩具箱を探してもありませんよ?」


 Ou…凄いにこやかな、そんでもって目がマジな顔で言われちゃったよ。


 なんてこった、どう説明しよう。





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