行動開始
食堂に着くと、猫耳の男の子が席を確保していてくれた。ありがたい。
「きょうはまにあったみたいだな!」
「レンくんきょうはおこられないね」
「ギリギリだったけど、ミリアが呼んでくれたからだよ。ありがとう」
「つぎからはじぶんできなよー?」
解ったよ、ミリア。そう返事しながら、俺は配膳されたシチューを口にする。うん、うまい。さすが食堂のおばちゃん、いい腕だ。なんでも、火を操る魔法が得意で、絶妙な火加減と独自のレシピが美味しさの秘訣なんだとか。レストランレベルだよこれ。
しかし、絶妙な火加減ねぇ…やっぱ細かい操作が必要なのかな?おばちゃんの魔術師ランクどのくらいなんだろう。
あ、そうだ。もう一回ランクについて復習しておこうか。
この世界にゼノスは魔法を伝えた。しかし、それを使うには才能が要る。生まれついての才能が。
俺や和紗達はこの世界に召喚される際、神様に才能を貰えた(俺は魔力のみだけど)が、この世界産まれの人達は運頼みである。
五大陸の勇者達が全員強力な魔法を使えていたのと、魔法の便利性により、魔術師の社会的な立場は結構高い。…また和紗達のチートが増えたな。
まあ、それは置いといて。
魔術師にも上から下まで様々な物がいる。俺の様に魔力があっても魔力才能が無かったり、その逆もいたりする。複数の才能があっても魔力が無いタイプだ。
だか、それを示す為のステータスを表示するための能力はこの世界には無い様だ。その為、この世界では今現在腕にマークが付いているのは俺一人という事になる。
しかし、魔術師の能力を確かめる為に一々その場で魔法を使うのは面倒だ。
そこで作られたのが魔術師ランクである。
ランクは高ければ高いほど、社会的な影響力も高い。
それじゃあランクを高い物から書いていこう。
EX(extra)級
3S級
2S級
S級
3A級
2A級
A級
3B級
2B級
B級
3C級
2C級
C級
D級
普通の家の産まれで一般的な才能だと、どんなに足掻こうと3B級が限界。
A〜3A級は所謂名のある魔術師の家の産まれか、天才の部類である。
S〜3S級は化け物、人外、そして中級の魔物、魔人がそれに含まれる。
EX級は、魔王、神様、この世の物では無いだろうというまさに異次元の領域だ。
一般的に、魔術師の才能が有るといえるのはB級からである。しかし、一生懸命に努力をして、魔物などを倒すと、才能次第ではA級、上手く行けばS級にまでなるそうだ。
俺は恐らく、この現象はレベルアップしたということだと思っている。ステータスという概念がこの世界には無い為、レベルアップは俺や和紗達召喚組だけでこの世界の住人には無いのかは判らないが。
しっかし、魔法ってあったらあったで厄介なんだな…産まれた時から勝ち組か負け組か決まるなんて、嫌になっちゃうよ。
ハリー・ポ○ターの世界みたいに、魔法の使えない一般人と世界が別に分かれているならいざ知らず、周りの友達がバンバン魔法を使っている中で自分だけ魔法が使えないなんて、俺が何も知らないただの人間としてこの世界に生きていたら軽くヒッキーになる自信があるね。
それでもって魔術師の才能の無い奴は、魔術師の才能の在る人と結婚して地位を上げるってことも難しい。
なぜなら、魔術師の才能の持ち主同士が結婚して出来た子供の方が、親と同等がそれ以上の才能を持って産まれる確率が高いからだ。
それにより、子供には魔術師の才能を持って産まれて欲しいという事で、魔術師の才能が無い者と結婚をしないのだ。
更に、たとえ才能のある者と無い者が愛し合っていたとしても、親が結婚を認めないという事もある。相手が貴族だった場合は尚更だ。
ヒェー…シンデレラなんてこの世界ではあり得ないんだよ。なんてロマンスっつーか夢の無い世界だ。
まあ俺には関係の無い話だが。
それより、トレーニングの内容を考えないと。やはりココは自衛隊方式で行くか。いや、少しずつ体を鍛えるべきか?漫画の様な無茶苦茶に鍛えるのも憧れるし…
うーむ悩むな…
「おいレン、さっきからなにむずかしそーなかおしてるんだ?はやくたべないとスープがさめるぞ?」
「おお、悪いなウィル。少し考え事してた」
「おまえ、いつもかんがえごとしすぎだぞー?」
…まぁ、確かにそうかもしれんが。
ウィルは俺と同じ週にここに預けられた、少し小柄な茶髪の猫族の男の子。イタズラ好きですばしっこく、ちょくちょくマリー先生に叱られている。猫耳と尻尾を触りたい。愛でたい!
…またか。また暴走が入ったか。俺。ウィルは男だ、自重しろ。
それはともかく。
初めて会った時は、食堂から小魚をくすねてたっけ。俺が何をしてたんだと尋ねると、おまえもいるか?と、小魚を渡してきた。
流石に遠慮しておいて、とっ捕まえてマリー先生に引き渡したら、なぜかライバル認定され、逃げる捕まえるを繰り返すうちに今じゃ親しい仲なのだ。
あ、そうだ。ちょっとウィルに訊きたい事があった。
「なあウィル。孤児院から森まで、誰にもバレずに行く方式はあるか?」
と、声を潜めて尋ねる。
「…もりにいくのか?ないことはないけど…いまのもりにはちかよらないほうがいいぞ?」
「それまたどうして?」
「なんかさいきん、すごく"やなかんじ"がするんだよ。あそこから。」
…嫌な感じか。まぁ、恐らくは大丈夫だろう。今の俺はこの世界の同世代からすれば中々チートなステータス、あの白い空間で貰った平均的なレベル1の冒険者とほぼ同じステータスだからだ。
3歳の平均値がスキル"解析"を使って分析したところ平均が5くらいなのに対して50はじゅーぶんチートである。
レベル1でも冒険者の平均値だ、雑魚くらいなら倒せる筈。
「それでも、どうしても行かなきゃならないんだ」
「…そこまでいうならしょうがないなー。でも、きをつけてくれよ?ここでゆいいつおれをまほうなしでつかまられるおまえがいなくなったら、なんだかつまらなくなっちゃうから」
「わかったよ」
ありがとな、ウィル。心配してくれて。
さて、後は行動あるのみだ。
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こうしてウィルに行き方を教えてもらい、Now、森。このフレーズは三年ぶりである。久々に使ったよ、Nowって。
んでもって今居る森なんだが…
凄く…大きくて深いんです。
いや、想像してたよりも規模が大きいぞこの森。富士の樹海なんて目じゃないよ。植物の匂いも凄い。こりゃ 魔物が出るのも当たり前だね。きっとそこら辺にも潜んでいるんだろう。
さてと…始めますか。
この世界で後々勇者を呼ばなきゃいけない程の事が起きた時に死なない為に。
俺を突き飛ばした奴に復讐する為に。
彼奴らを見返してやる為に。
ステータスがクズ?肉壁にもならない?いいだろう。あの時の事を思い出したらイライラしてきた。よーしやってやる。千里の道も一歩から、今からコツコツやっていけば多少はマシになる筈だ。それじゃあ先ずは…
俺は、行動を開始した。
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