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お久しぶりです。

『あの時は本当にどうしたのかと驚きましたよ。見つかってはいけないと言われていたのに、まさか自ら私を差し出すとは思ってもいませんでした。』


 俺がネジを締めながらイリスと話していると、少し昔の話に話題が移った。


「あの時はああするしか無かったんだ、マリー先生を説得出来たのは奇跡だよ。でも、あれでもう隠れずに済むようになったんだから良かったじゃないか?」


『ええそうですね。しかし、検査の為と魔法やら何やらを掛けられなければなお良かったです。』


 角度を調整し、的として木に縛り付けられた鉄板へ狙いを定める。


「それは高望みってやつだろう、お前一応魔物だし。……よし、こんなものかな」


 鉄製の重いテーブルにはレストマシン(銃自体の性能を見るための固定具)が2つ。そしてその上には、独特の角張った八角形の銃身が特徴的なマットブラックのS&W M&P R8と、ハンドガードとストックを本来なら木製の所を軽くて丈夫なアルミ合金に挿げ替えたBERETTA DT11がそれぞれ固定されている。


 マリー先生にイリスのことを打ち明け、必死の説得により何とか孤児院においてもらえる事になって数年後。


 俺はようやく完成した銃のテストをする為に、イリスを連れてまたあの森にいた。


 ここまでの道程はとても長かった。

 まず銃本体は作れたものの、弾薬…特に発射薬の再現に手間取った。


 最初は発射薬の代わりになるような都合の良い無属性魔法があるだろうと、イリスと共に図書室の分厚い魔術本を隅々まで探し回った。

 が、出てくる物は爆発系の魔法ばかり。発射薬の爆燃(勢いよく急激に燃えること)と爆発は違う。そんな物を使ったら一気に銃諸共爆発する。だから発射薬は爆発に比べゆっくりと燃えるように粒状に固められているのだ。そして燃焼時に出るガスの圧力で銃弾は発射される。そもそもこれは火属性魔法だ、自分には使えない!


 では何か代わりになる素材は…と探してみても、出てくるのはどれも高価かつ爆薬のような物ばかり。


 俺がどうしたものかとウンウン唸っていると、イリスが机に積み重なった書物を眺めるのをやめて魔力を求めてきた。

 いつもの様に俺は拳大の魔力の塊を出す。


 閃いたのはその時だ。


 そういえば…これをアイツ(スフィンスウルフ)に投げつけた時、これはアイツの出した火の玉に当たって爆発したよな?

 発射薬の調合なんてのは今は無理だが、魔力の塊はイメージによって色々調整が出来る。

 ではこれを使えば、発射薬の再現が可能なのではないか?


 そこで魔力が一気に爆発しないように細い粒状にし、少量盛った物をミリアに火をつけてもらう実験してみた。


 結果、これが大成功。


 魔法というのは、イメージや属性才能等よって身体の中にある魔力を変換する事によって発動させることが出来る。

 その才能がない俺には、この通り魔力の塊しか出せない訳だ。


 塊はまだ魔法に変化していない純粋な魔力なので、一定の魔力の濃度の塊に何か属性魔法による刺激を与えると一気に連鎖反応を起こす。例えば水属性の魔法として生成された水に魔力の塊が触れれば、塊は水と化す。火属性の火に触れたなら燃料のように燃える。


 後はこれが燃焼ガスを出していてくれるといいんだが。


 さて、過去を振り返るのはこれくらいにしてさっそく銃を撃ってみよう。


 まずは|S&W M&P R8(リボルバー)から。使用弾薬は.38special…の弱装弾になるのだろうか。事故が怖いので発射薬の量を少なめにした。


 というのもこの試作弾薬、雷管をちょっとおっかない物で代用しているのである。


 その名も火鉄石。コイツが鉱山から見つかってしまったら、即刻閉山しなくてはならない程の危険物である。


 火鉄石はごく稀に見つかる危険な鉱物で、悪魔の瞳の様に紅く、鈍い光沢を放っている。この忌々しい紅は、鉄と堆積した火属性の魔力が混ざった結果によるものと考えられている。この鉱物の恐ろしい点は、一点に強い衝撃を加えると火を吹き爆発を起こす点だ。爆発の規模は鉱物の大きさと付近の埋蔵量に比例し、国内でも有数の銀の産出量を誇ったインフェリス鉱山はこの鉱石によって全体の3分の2を消失させた。


 …と、『鉱物と岩石〜読む鉱山〜』には書いてあった。


 衝撃を加えると火を吹いて爆発…しかもその火は魔力によるものと書いてある。

 コイツは雷管にもってこいではないか!


 と、俺はウキウキしながらイリスに創らせた小さなソレを組み込んだ訳だが…


 いくら小さくても場合によっては山を半分以上消し飛ばすような物を組み込んでも大丈夫だろうか、と今になって不安になってきた。


 まぁ…まぁ大丈夫だろう。よーし準備完了。さあ撃つぞ。


 俺はランサムレストのレバーに手を掛け…おっと。忘れてた事が一つ。


 耳栓を付けなくては。


 銃声による耳へのダメージというのはかなり大きい。瞬間的な大音量が衝撃波となり耳を襲ってくる。人の耳は90dB以上の音にさらされ続けると聴覚障害が起こる。小さな22口径弾でさえ140dBもあるのだ、ジェットエンジンの轟音が120dBと考えると相当な物だ。


 魔力を練り物のような硬さにして耳に詰める。ある一定の濃度以下だと反応は早々に起きなかったから、事故が起きても誘爆で耳が吹き飛ぶことはない。


 あっそうだ。イリスの分も作ってやらねば……?


「なぁイリス、お前って耳はどこにあるんだ?」


『耳、ですか?そうですね…全身耳のような物ですが。』


「えぇ…」


 全身が耳とは予想外だ。

 一先ずイリスに銃声の恐ろしさを説明した後、その銀色の全身を魔力で覆う。


「食うなよ、絶対に食うなよ」


『よく聞こえないですね。もっと大きな声で…』


「まだ全部覆ってないだろう!」


『冗談ですよ、解ってます。』


 イリスを完全に包み終わると、今度こそ本当に準備完了。 さぁいよいよだ。


 引き金に繋がるレストマシンのレバーに手を掛け…下ろす。


 次の瞬間耳栓越しに飛び込んでくるくぐもった音。


 鉄板を見てみると、気持ちいいくらいド真ん中に弾痕が出来ていた。


 実験は…実験は、成功した。恐らくこの世界で初めて、実用できる銃が産声を上げた瞬間だった。


次は戦闘回を予定しています。

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