計画終了?
マリー先生が普段いる執務室の前に着いた俺は、さっさと用件を聞き戻って作業の続きしようと部屋の戸をノックした。
「失礼します」
「ああレンくん、意外とすぐに来てくれましたね。さ、そこに座ってください」
中に入るとマリー先生が、微笑みながら椅子に座っていた。
俺は言われた通りに先生と机を挟んで、向かい側の椅子に座る。
「ミリアに言われて来たんです……それで、用件はなんですか?」
「これですよ」
そう言って先生がポケットから取り出したのは…俺が最初にミリア達に渡した知恵の輪だった。
「何故それをマリー先生が?」
思わず疑問が口から零れる。
「ミリアちゃん達が持っていたのを貸してもらったんです。確か知恵の輪でしたか、なかなか難しい物ですね。解き方を教えてもらうまではこれをどう解くかさっぱり分かりませんでした…よく出来た玩具です。これ、レンくんが作ったんでしたよね?」
「ええ、そうですけど」
「どうやって作ったんですか?」
「え?」
「レンくん、貴方はこれをどの様にして作ったのですか?と聞いています」
…あ。
「え、いや、その…自分が作ったというのは嘘で、実は拾ったんです!」
上手い答えが思い付かなかった俺は、動揺の所為か思わず咄嗟に小学生でも使わないような言い訳をしてしまう。
なんてこった…なんて迂闊だったんだ!このままじゃイリスの事がバレる、バレたら計画は全部パーだ!
何とかしてここから先生を納得させないと…!
「そうですか…何処で拾ったんですか?」
先生がじっとこちらを見つめながら聞いてくる。
「森です!森の方で拾って来たんです…きっと誰かが落として行ったんですよ!」
「ふーむ…森に誰かが落としていったのですか。それをレンくんが拾ってきたと」
「はい!」
迫真の演技。これはもうゴリ押せたろう。
「ふーん、そうですか……でも森で拾ってきたにしては、随分と綺麗ですね」
「井戸で洗ったんですよ」
「錆も無いですね」
「最近出来たものを誰かが落としたんでしょう…先生、そろそろ戻っていいですか?やりたい事があるんです」
そろそろ話を切り上げにかかる。これで諦めてくれ…
「では何故レンくんは拾ってきた一見すると唯の鉄の棒切れをどの様に扱うかが分かったんですか?」
「あー……」
言われてみれば確かにそうだ。知らない人から見れば知恵の輪は唯の鉄の棒だ、それをわざわざ拾う奴は普通居ないだろう。
「それに、落ちていたとしても数が多過ぎます。こんな物を沢山持ち歩きながら森に入る冒険者を私は見た事がありません」
そうですね。今では孤児院の子1人につき2つくらい作っていましたからね。確かに。
「……」
詰んだ。
「……レンくん。貴方は賢い子です。先生は貴方が正直に答えてくれる事を望みます」
うわぁ……もう駄目だ。全部水の泡だ。イリスは殺され、俺は孤児院を追い出されるんだ。
あぁ、なんてこった……いや待て。
案外、何とかなるんじゃないか?
イリスには知能がある。言葉を理解出来るほどの高い知能が。
その事を先生にアピールし、危険な魔物では無いと説得すれば良いのではないか?
やってみる価値はある。
「……わかりました。正直に話します。取り敢えず、付いてきてもらえますか?」
「?、此処で説明するのは駄目なのですか?」
「はい。いや、別に逃げやしませんから」
「……いいでしょう」
疑惑の目を俺に向けながらも、立ち上がるマリー先生。
ひとまず、先生を寝室に連れていく。そっからが正念場だ。
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「それで?寝室に何かあるのですか?」
「ええ、そうです」
俺はそう言うと、ベットの下に隠した木箱を引っ張り出す。
「お願いですから、今から見せるものを見ても驚かないでくださいね?」
「…いいでしょう。わかりました」
その言葉を確認した俺は、ゆっくりと箱の蓋を開けた。
『む、結構早く帰ってきましたね。何をしてきたんで……おや?』
「マリー先生、紹介します。鉄スライムの…"知能を持った"鉄スライムのイリスです」
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