英知の結晶
ミリア達に知恵の輪を教えて数日後。
魔術の授業を終えた俺は遂に計画を実行に移そうと、寝室に篭ってイリスとともに作業を行っていた。
スキル『設計再現』のモニターを弄り作成した撃鉄を投影、イリスがそれに合わせて金属を創り出していく。
『いつになく細かい物ばかりですね。これらを組み立てて作るというその"銃"という魔具は、一体どの様な物なのですか?』
「ん、そうだな。細かく説明すると長くなるが、大雑把には……」
銃というのはとても便利な道具だ。
なんせ引き金を引くだけで、身に迫る危険を容易く排除する事が出来てしまう。
老若男女問わず銃を手にすれば、肉体的なハンデをほぼ全て無くし同じ土俵に立てるようになるのだ。
ここで少し、銃の歴史について簡単に振り返ってみよう。
銃の起源、火薬を使った飛び道具は1350年頃に中国で造られた、黒色火薬を用いる『手把鋼銃』が起源と言われている。
そこからしばらくして1400年代には今の銃の原型とも言える個人携帯火器、アーケバスがヨーロッパで登場。コイツは木製の肩当てを付け、火種に火縄を使う物だった。
このアーケバスを更に進化させ、S字型の火縄留め…つまり火鋏と、引き金を兼ねるパーツが取り付けられると、火縄銃の最も古い型であるS型サーペンティンが登場する事になる。
これらの登場によって、当時の騎士たちが纏っていた鎧が役に立たなくなり、戦法や戦場はすっかり様変わりしてしまった。
そこから銃は長い年月を経て先込め式/前装式から元込め式/後装式へ移行していく。
先込め式とは銃器が発明された初期の装填方法で、ラムロッドという突き棒で火薬と弾丸を銃身の先から押し込み装填する…この形式は発砲までに時間と手間がかかった。こうした銃は発射薬への点火方法が大きく分けて4つあり、細かく分けると約10種類の方法が発展の経過で生まれた。
一方元込め式は銃身後尾から弾丸と火薬を込める方法の事だ。この形式では少なくとも弾丸をラムロッドで押し込む手間が省けることとなった。
しかし発砲する際にどうしても銃身後尾から高圧のガスが漏れ、それは威力の高い銃ほど射手に危険を及ぼす物であった。
そこでこのガスを何とかしてやろうと天才たちは考えた。
考えた結果最終的に生まれた物が、弾丸と発射薬を頑丈な筒に押し込める金属薬莢だ。
こいつの底に起爆剤の雷管が埋め込まれた四身一体型の物、つまり弾薬が19世紀に生まれたことによって弾丸の大きさ等で銃の威力を変えることが出来るようになり、銃の種類も細分化していった。リボルバー、オートマチック・ピストル(自動拳銃)、ライフル、マシンガン(機関銃)、ショットガン(散弾銃)、サブマシンガン、PDW。それぞれの銃に用途があり、使い分けられている。
そして現代…前の世界に俺がいた頃には製造者、設計者が威力や性能の向上に対する努力をとめどなく突き進めていった結果、それぞれの銃にも様々なタイプ、アクション、作動機構が生まれていた。
そんな人類の英知のの積み重ねである道具をこの世界で再現し生き残る……これが、俺がこの世界に生まれて最初に考えた計画だった。
では始めにどんな銃を作ろうかと考えて、思い浮かんだ物が二つある。
一つ目は拳銃。S&W製の、『M&P R8』というリボルバーだ。
あの次元大介の愛銃、S&W M19の問題点であった耐久性を向上させたモデル『M27』の派生型で、.38special弾、または火薬を増量したパワーのある.357Magnum弾を使用する事ができる。
装弾数は8発で、一般的なリボルバーに多く見られる6発のシリンダー(弾薬を入れる部分)より1発分の回転角度が60度から45度と小さくなる為、ダブルアクション(引き金を引くだけで弾が発射される)時の|引き金の重さ≪トリガープル≫が理論上軽くなる。
リボルバーというのはオートマチック拳銃(撃つと自動で次弾が装填される銃)よりも構造が単純で壊れにくく、信頼性が高い。
更にメンテナンスがオートマチック拳銃と較べて少ない頻度で済むので、初めて作成し扱うのに適していると俺は判断した。
そしてもう一つ。幾ら何でもリボルバー1丁だけというのは不安なので、壊れにくく様々な弾丸を撃つことが出来る散弾銃……上下二連式散弾銃のベレッタ DT11を作るつもりでいる。
上下二連式はその名の通り、上下に銃身が2本連なった中折れ式の銃だ。勿論、撃針(雷管を打つための針)も2本、撃鉄(撃針を打つための部品)も2つだ。
それを1本の引き金で1発づつ撃つように作動させる訳なので、コイツはリボルバーよりも少々複雑な機構を備えている。
銃身の真後ろに位置するトップレバーを反時計回りに少し回すことによりフックが外れ、機関部から銃身をへの字型に折れる中折れ式であるこの銃の面白い所は、なんと銃の中に振り子を内蔵しているのだ!
例えば、上下の銃身に弾薬を装填して引き金を引いたとする。
この時振り子は撃鉄を固定しているシアというパーツ(これも二つある)の片方をロックしている。引き金を引くとどちらかの銃身に入った弾丸が発射され、振り子には反動が伝わる。
すると振り子が動きシアのロックが解除され、もう一つの撃鉄を落とせるようになるのだ。
この方式では撃鉄が外から見えないが、そのような銃は無鶏頭と呼ばれている。
もう少しシンプルな機構の水平二連式の散弾銃もあるが、上下二連式の方が照準がしやすく堅牢な構造なのでこちらを採用した。
という内容を、圧縮と省略を多用しわかり易く矛盾無く懇切丁寧にイリスに説明する。
「…って感じだな。わかったか?」
『……凄いですね。魔法を使えない者であっても、魔術師並の力を得ることが出来るのですか。』
「攻撃面だけだけどな。まあ、それ以外のことは頑張ればなんとか出来るだろ」
漠然とした考えだけれどな。
そう会話(?)しつつ次のパーツに取り掛かろうとすると…
「レンくん!」
「うなぁっ?!」
寝室の戸が勢いよく開く。
俺は即座にイリスを身体の後ろに隠し声の出どころを見ると、そこにはひょっこりと顔を覗かせたミリアの姿があった。
ビビった…!
「なんだミリアか……驚かせないでくれよな」
「えー?ちゃんとコンコンってやったよ?って、それよりもレンくん!マリー先生がよんでるよ!」
「マリー先生が?どうして?」
「なんかねー、おはなしがあるんだって。先生のへやに来てっていってたよ!」
おはなし。
マリー先生のお話にはあまりいい思い出がないからな……何だろ一体。
俺はパーツとイリスを木箱に隠し、ひとまずミリアの言う通りにマリー先生の部屋…執務室へ向かう事にした。
感想、誤字報告、そして宜しければ評価の方を宜しくお願いします