四角いところを丸くする
『秘密兵器ですか?兵器にしては随分と小さく、変わった形をしていますね。』
「兵器と言っても玩具のことだからな。俺はもうただ置物になる存在ではないぞ…さ、こいつを頼む。材質は…そうだな、適当なチタン合金でいい」
わかりました。そう文字を浮かび上がらせたイリスは、投影させた形に重ね合わせる様に金属を創り出していく。
前の世界で作られていた有名な知恵の輪は鋳造の亜鉛合金で出来ていたはずだが、チタンなら錆びにくくアレルギーになる心配も無いだろうという理由で素材を変えた。長持ちするしな。
大きさが小さい為か割と直ぐに出来上がった物を手に取り、少し動かしてみて目的の物が出来上がったと確信する。
『それが玩具なのですか?それでどの様にして遊ぶのか、私には検討もつきません。』
「その気になれば簡単に誰でも遊べる物だよ。さて、コイツで置物役を回避しに行こう、ついでにお前にも遊び方を教えるから袖から覗いているといい」
差し出した手に飛び乗ってきたイリスを袖の下に隠すと、俺は遊戯室へ向かった。
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遊戯室の戸を開け中に入ると、ミリアが早速話し掛けてきた。
「あ、レンくん!ちょうどいまよびに行こうと思ってたところだよ!今日の役はねぇ〜」
昨日は胸像の役だった。日に日にミリア達のおままごとは本格性が増してきて、小麦粉で顔を白く塗られるのを必死で回避しようとしていたらウィルに笑われた。
長らくミリア達の遊びに付き合ってきたが、パントマイムはもうウンザリだ。
「待った。今回はミリアがこれを解けたら俺は置物役をやる」
俺はついさっき創られたばかりで出来立てほやほやの、先端部が折れ曲がって輪になった金属棒2本をミリアに見せる。
「なーに、それ?」
「こいつは"知恵の輪"といってな…」
知恵の輪。前の世界ではこの名を知らない日本人は多分居ないだろう。
基本的には組み合わさった2つ以上から構成されるパーツを分解し、また組み直す事を目的としたパズルだ。
様々な種類があるが、今回は割と簡単な物を創ってもらった。
ミリアに簡単な概要を説明した後、実演をする。二つのパーツを組み合わせ分解し、そしてまた元に戻す。
「ふ〜ん、なんだかかんたんそうだね。かして!パパッとといて、レンくんには置物やくをやってもらうからね!」
「おう、頑張って。解けたら何だってやってあげるから。但し解けなかったら俺はもう置物役はやらないよ」
「よゆーだよ、こんなの!」
どうやら興味は出たらしい。
俺が知恵の輪を手渡すと、ミリアは自信満々に知恵の輪を弄り始めた。
が、数分後。
そこにはウンウンと悩むミリアと、未だに解けていない知恵の輪があった。
「どうするミリア。諦める?」
「……ねえレンくん。これさ、ほかのお友だちといっしょにといてもいい?」
「別にいいよ」
と、俺は快諾する。
ミリアはそれを聞くと、スタタと友人達の元へと走っていった。
「ミリアちゃん、なーにそれ?」
「これはねーレンくんがねー…」
皆で考えれば解けると考えたのだろう。
しかしだ、あれは知恵の輪の中では簡単な方とはいえ、初めて触ってすぐに解けるものを作った訳ではないつもりだ。何人集まろうが結果は同じである。
部屋の隅に集まり、あーでもないこーでもないと輪を弄るミリア達。
そういえばウィルの姿が見当たらないな。何処に行った?…まあいいか。
くくく……悩め悩め!脳を活性化させ、柔らかくするんだ!そして置物の事など忘れてしまうがいいさ!
「あ、はずれた!」
「ふぁ!?」
思わず変な声が出た。
ミリア達が駆け寄ってくる。
見るとその手には、確かに二つに分かれたパーツがあった。
「もう解けたのか?」
「ふふーん、どうだ!さあ、これでレンくんには置物やくをやってもらうよ!」
得意げに言うミリア。尻尾もぶんぶん振れている。
まさかこんなに早く解けるとは考えてもいなかった…だがしかし。
「いや、まだだよミリア。その輪を外しただけじゃ解けたとは言えない。それをまた元に戻さないと」
「え〜?ちゃんと二つに分けたのに〜」
「偶然解けたって事もあるからさ。ほら、きちんと外せたなら戻すのは簡単に出来るだろ?」
「うーん…そうだね!わかった!」
「つぎはあたしにもやらせてよー」
「もちろん!」
うーん…簡単だっただろうか。俺ちっちゃい時はあれ苦労して解いたんだがなぁ…
まあいい。知恵の輪は元に戻すのもかなり難しいのだ。きちんと解き方を理解していない限りは。多分ミリア達がさっき解けたのも、偶然なのだろう。
その証拠に、また皆であーだこーだと試行錯誤しあっている。
「ギブアップしたかったら何時でも言ってくれよ〜」
「「「ぜったいにあきらめなんてしないもん!」」」
さいですか。挑戦者全員仲のよろしいことで。でもその強気はいつまで続くかな?
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「諦めたの?」
「うう…はずれたのにぃ…」
またまた数分後。
そこには悔しそうな顔をしたミリア達がいた。尻尾も今はだらーんと垂れ下がってしまっている。
やっぱり解けなかったか。…これで俺は置物役から開放される……イリスの研究に専念出来る…!
「そうかー解けなかったかー。残念だけど、それじゃあ仕方ないね。置物役はウィルにでもやって貰いなさい」
とりあえずウィルを生け贄にして、寝室に戻る事にしよう。
「むー…レンくんじゃないといみないのに…」
「まてよ、俺はおきものなんてやりたくないぞ!」
すると、いつの間にやら部屋に入ってきたウィルに肩をつかまれた。くそう。
「あれ?ウィル、戻ってきてたのか。どこ行ってたんだ?」
「トイレだよ、それよりなんで俺がおきものなんだよ!」
「いやぁ、実はだな……」
仕方なくウィルに事情を説明する。
「と、いう訳た。頑張ってくれ」
「やだよ!俺かんけい無いじゃないか!でもその"ちえのわ"っていうのはおもしろそうだな、ちょっと見せてくれよ」
「ミリアが持ってる」
どうやらウィルも知恵の輪に興味を持ったらしい。
ミリアから知恵の輪を渡されると、カチャカチャと弄り始める。
「どう?むずかしいでしょ、それ」
「ここがこうでこうなってて……あ、なんだこういうことか!」
すると、なんとあっさりと二つのパーツを組み合わせてしまったではないか!
「えー!ウィルくんこれわかったの?」
「わ、すごい!どうやったの?!」
「え、嘘だろ?解けたのか?」
思わず騒めく俺を含めた観客達。
「かんたんだよ!外すときもこうすれば…ほら、できたろ?」
ウィルはまた知恵の輪を弄り、さも当然といった様子で外しては組合せてを数回繰り返す。
「わー…ウィルくんすごい!ミリアたちじゃとけなかったのに!」
「お前って案外頭よかったのか…」
「へっへーん、どうだ!スゴイいだろ!」
胸を張って自慢するウィル。嬉しさの表れなのか、耳がピンと立っている。
俺はウィルがこれを完璧に解いたことに驚きを隠せなかった。
まだ4歳だってのにこんなにもあっさりと…
「なぁレン、これおもしろいな!ほかにも無いのか?」
「他にも?あるにはあるけど…やりたいのか?」
「もちろん!とかせてくれよ!」
「ねえ、ウィルくん!わたしたちにもやりかたおしえてよ!」
「いいぜ!これはなー…」
ウィル達は知恵の輪の話題で盛り上がっている。
すると、その中の1人が話し掛けてきた。
「ね、レンくん。わたしにもあれつくってよ」
知恵の輪に興味が出たらしい。他の面々も次々と作ってくれと言ってきた。
俺はウィルに別の物を作るついでにと、快くこれを承諾。
しばらく孤児院内で知恵の輪はブームとなり、ミリア達も知恵の輪を解くことに夢中で俺の置物役は回避されたのだが……これが如何に考え無しな行動だったか、この時の俺は気付いていなかった。
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