なかなか便利な
寝室に入ると、イリスが体を壁にぺチンとぶつけていた。
嫌な予感を感知しつつ何をしているのかと聞くと、案の定俺のマネだとプルプルしながら答えやがった。どうやらコイツも窓から覗いていたらしい。
『また一つ私の知識が増えました。今後は時々笑い話として貴方が忘れた頃に思い出させてあげます。』
「勘弁してくれよ…お前だって魔法を初めて使った時はあんな経験あっただろう?使えたらの話だけど」
『そうですねぇ…忘れてしまいましたよ、昔の事ですから。それに肉体強化魔法なんて滅多に使いませんし。』
確かにそのままでも十分に強いイリスが肉体強化魔法なんて使っていたら恐怖でしかない。
…というか使えたのか、魔法。
『そんな事よりです。今日もまた色々と私に創らせるのでしょう?でしたら魔力をください。』
「はいよ」
いつもの様に握り拳ほどの魔力の塊を出すと、イリスは直ぐに飛び付いてきた。
「…なぁ。イリスは毎日魔力食ってるけど、それは美味しいのか?というか飽きないのか?」
『貴方は水を飲む事に飽きますか?そういうことです。味はとても良いですよ…といっても、人族の貴方にはわからないでしょうが。』
所で。と、イリスは続けて文字を表示していく。
『今日はいったい何をしますか?』
「そうだな、それじゃあ今日は…あっそうだ」
####
イリスを調査していてわかったことがある。
予想通りいや、予想以上にコイツは凄いということだ。
まず、いつぞや食べさせたあの金属球。あの金属球には全ての金属が込められている、という点に嘘偽りがなかった。
その証拠に、なんとイリスの創る金属の状態に条件を指定することも出来たのだ。コイツはどうやら頭の中に食べた金属の一覧表の様なものがあるらしく、どの金属がどのような名前でどのような性質を持つのか大体わかるらしい。
金属という物は加工方法や処理の仕方によって強度がかなり変わるので、これが指定出来るというのはかなり嬉しいことだ。
次に要求した形を正確に創ることが出来る精密さ。工作機械要らずである。
また、既存の金属の形状を変化させる事も可能で、別々の金属どうしを溶接した様な跡なくくっつけることも出来た。
更にだ、金属を創る際に要求してくる魔力も俺にとっては微々たる物でしかない。
多分今のイリスが現代に居たら、資源問題が解決し金属加工技術に革命が起きるんじゃないかというレベルの凄さである。
そんな事を考えつつ作業をしていると、イリスが震えて文字を浮かび上がらせてきた。
『しかしまぁ…貴方のそのスキルは便利な物ですよね。』
「そうだな。お前の金属を創れる能力に比べたら見劣りするけど」
『そうですか?イメージした形を完璧に立体的に投影出来て、尚且つそれを改変する事も出来る。鍛冶師か設計士に最適ではないですか。』
「まあ3DCADの進化版のような物だからな…」
『すりー…なんですか?もう一度言ってください』
「っつ!?すまん、何でもない!忘れてくれ!」
口が滑ってしまった……この世界に3DCADなんて物がある訳ない。
俺のスキル、設計再現は非常に便利なスキルだ。先程言ってしまったが、3DCAD…3-dimensional Computer Aided Design system…が進化したようなものである。
3DCADとは設計や製図を行うコンピュータソフトの1つで、造形物をモニター上に立体的に表示・編集し作図する事が出来る物だ。
俺のスキルの場合、モニターはステータスを表示するウィンドウと同じような物で、編集がマウスやキーボードを使わずともイメージをするか直接触れる事によって直感的に三次元の形状を編集出来る。
更に先程イリスが言ったように、設計データを立体的に空間に投影する事も出来る。これにより、イリスに具体的な形を要求する事が可能になった。
だが、このスキルの出来るとこは脳内の設計を再現するだけでは無い。
何と、前の世界で作られた様々な物の設計図を再現できるのだ!
これのお陰で、前の世界で作られていた物の設計図を作る時にウンウン考えずとも素晴らしい参考になる。
『…何か怪しいですね。まあいいです。但し今日はいつもより多く魔力をください。そしたら今の言葉は忘れます。』
「仰せの通りに」
俺は即答した。
異世界から来ましたーなんて事を説明できる訳がないので追及されたらどうしようかと思ったが、その程度で済むならなんて事はない。
『わかりました、忘れましょう。所で今投影している物は、一体何に使う物なのですか?』
「これか?これはだな、俺が置物にならなきてもいいようにする為の秘密兵器さ」
俺はそう言うと、イリスにその投影させた物を見せた。
「今回はこれを創ってくれ」
感想、誤字報告、そしてもしよろしければ評価の方宜しく御願いします