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インテリスライム

「ねえレンくん、だれとおはなしてるの?」


 ミリアが首を傾げながら近づいてくる。

 あばばばばば……もしもミリアに俺が一般的に危ないと言われている魔物を連れているなんてバレたら、即座にマリー先生にチクられてしまうだろう。そうなったらもう…孤児院追い出されるかも知れない。


「ミっ、ミミミミリア、まだ夕食の時間だろう?なんで寝る部屋に?」


 スライムを背後に隠すように両腕を広げつつ、俺はミリアに話しかけた。なんとか気を逸らさねば!


「マリーせんせーがレンくんはよるごはんぬきです!っていってたから、しんぱいになってはやくたべてきたんだよ!それよりねーねー、だれとおはなししてるのってばー」


 ミリアはずいずいと迫って来ると、頻りに俺の後ろを覗こうとしてきた。


「あれだ、ほら、独り言だよ!何にもないし俺は大丈夫だからウィル達とお喋りしてきなよ!」


「うそだっ!レンくんはうそつくのへただからすぐわかるんだよ!それっ!」


「んなっ!?」


 俺の渾身のブロックにも関わらず、ミリアは見かけによらぬ素早い動きで後ろに回り込んでしまった。なんてこった!


「わっ!」


 驚く声。


 振り向くとミリアは案の定、ベットの上の鉄スライムを凝視している。


 ああ……お前も少し隠れるとかしろよ……


「……レンくん、コレって…スライムだよね?」


「あ、あのだなミリア、これはなんというかその…あの…」


 いっそここでミリアを何かで気絶させれば夢と勘違いしてくれるかもしれない。


 そんな危ない考えが頭を過ぎったその時。


「かわいい!」


「へ?」


「かわいいよ!このスライム!」


「え、ああ…そうなの?」


「うん、すっごく!ほんもののスライムってこんなだったんだ……ねえねえ、このこどこにいたの!?」


「えーっと…外で、ちょっとな」


 予想外の反応が返ってきた。


 かわいい?コイツが?尻尾をぶんぶんさせてるあたり、本当に可愛いという認識なんだろうが……女の子の美的センスはよくわからない。


 しかし…なんでこんな反応に?普通子供なら魔物なんて見たらすぐ逃げるかするんじゃないのか?


 …ミリアはまだ魔物がどんな物なのか知らないのか!だからこういう反応なのか…そりゃそうか、まだ3歳だ。魔物も人を殺さない平和なおとぎ話の本は読み聞かせてもらっても、魔物に関して専門的に書かれた本なんて普通の3歳児は読まないし、マリー先生も読み聞かせない……助かった…!


「ねえレンくん、さっきレンくんはこのスライムとおはなししてたの?てことはこのスライム……しゃべれるの!?」


 ミリアが今にも飛び掛らんばかりの勢いで聞いてくる。


「いや、コイツは喋れない。その代わりに…」


 スライムが体を震わせてから、文字を浮かび上がらせる。


『こんなふうに文字を浮かび上がらせて、会話ができます。』


「わ、もじがでてきた!えーと……もじを……レンくん、これなんてよむの?」


 ああそうか、まだ読めないのか。


「こんなふうに文字を浮かび上がらせて会話ができます、ってコイツは言ってる」


「へぇー、レンくんすごいね!むずかしいじもよめるんだ!」


「むしろその歳で"文字"が読めたミリアも凄いよ。…所でさ、ミリア」


「なーに?」


「コイツのこと、マリー先生には話さないでくれないか?もしコイツの事がマリー先生に知れたら…俺はコイツと一緒に孤児院を追い出されるかもしれないんだ」


 念の為ミリアに頼んでおく。多分この反応ならOKな筈なんだが。


「なんで?まものだから?でもこんなにかわいいこだったら、せんせーもきっとおこらないよ!」


「いやでもほら、マリー先生厳しいから、外に逃がしてきなさいって言うかもしれないからさ」


 俺も一緒にポイっと。


「うーん…そうだね、わかった!じゃあこのこのことはマリーせんせーにはひみつね!あ、そうだ!ねぇレンくん?」


 よし…一先ず危機は乗り切ったか。


「なんだ?」


「このこ、なまえはなんていうの?」


「ああ……そういえば聞いてなかったな、コイツの名前」


 ずっと"お前"とか"コイツ"で呼んでたな。名前か……そもそも魔物に個別の名前などあるのだろうか。


「なぁ、お前って自分の名前持ってたりする?」


 鉄スライムに尋ねる。するとほんの少しの間の後、スライムは文字を浮かべ始めた。


『私にあなた方のような名前は今はありませんよ。そうだ、良ければ今決めて貰えませんか?』


 やっぱり無かったか。


「なんてかいてるの?」


「無いから今決めて欲しいんだと。そうだな……」


 名前か。犬の名前感覚で付けるにはコイツは特殊過ぎるしな……ふーむ、どうしたものか。


「なまえかー、じゃあスライムだから『スーちゃん』なんてどうかな!」


「…ちょっと単純過ぎやしないか?」


「えー、そうかなぁ」


『そうですね、候補には入れておきましょう。貴方は何か案はありませんか?』


「そうだなぁ……うーむむむむ」


 これから長い間世話になるであろうコイツに何か良い名前はないものか。

 スライム…鉄スライム…創る……頭が良い……インテリ…お?おお?いいんじゃないかこれ。


「そうだ、『イリス』なんてのはどうだ?」

『その由来は?』

「インテリスライム、略してイリス」


 響きもなんとなく良いし、これでいいんじゃないだろうか。


『貴方も大概ではないですか。しかし……イリス、イリスですか。成程、気に入りました。これからは私はイリスと名乗ります。』


「そうか、気に入ってくれた様で何よりだ」

「どっちにするって?」


 ミリアがわくわくしながら訪ねてきたので、俺はスライムの文字を読んでやる。


「そっか、スーちゃんもいいとおもったんだけどなー。じゃあよろしくね、イリスちゃん!」

『ええ、よろしくお願いします』


 心無しか嬉しそうに震えるスライム…イリス。名前で呼んでもらうという事が嬉しいのだろうか。


「俺が言えたことじゃないけど、スーちゃんは流石にちょっと単純過ぎたんだろうな」

「なまえつけってむずかしいんだねー…あ、そうだ!」


 何か閃いたらしい。キラキラした瞳でミリアが俺を見てきた、何だろう。


「レンくんレンくん、私にもじをおしえてよ!レンくんた〜くさんもじをよめるでしょ?」


「も、文字をか?その歳で?」


「うん!イリスちゃんとお話したいから!」


 元気に答えるミリア。成程、イリスと話したいからか。うーん…これから色々試したい事があるんだがなぁ……


「…レンくん、だめ?」


 俺が選択に迷っていると、ミリアが上目遣いで訪ねてきた。


 う、そんな上目遣いなんて何処で学んだんだ…まだ3歳だろう!


「……いいよ、わかった。でも俺は上手に教えられるかわからないぞ?」


「わぁ!ありがとう!」


 無理です耐えきれません。折れました。


 俺が承諾すると、嬉しそうに尻尾を振り、満面の無邪気な笑みを見せてくるミリア。

 ああ、可愛い…でもこの笑顔タダじゃない……!


 俺はニコニコしているミリアを横目に和みつつ、ちょいと忙しくなるであろう今後の予定を考える事にした。


感想、誤字報告、よろしくお願いします

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