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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
最終章「隣の彼女は幼馴染み!?」
94/100

第94話「俺の気持ちはどこにある」

 今日も木葉と微妙な空気感を保ちながらの部活が終了し、俺は約束通り中心街のファミレスに向かった。


 平日の夕方ということもあり、店内はすいていた。


 木葉に気づかれないように来いとのことだったので、雅たちが既に席に座っている。俺は彼女らの席まで足を運び、ソファーに腰掛ける。


 ウェイトレスさんが水を置いてどこかに行ったことを確認したのち、俺は雅たちに向かって口を開いた。

「それで、話ってなんだよ」

 聞くと、雅がこほん、と咳払いをひとつ。

「単刀直入に聞きます、遥斗くん。木葉ちゃんに告白、したんですか?」

 なんだ、話ってそのことか。俺は若干面倒くさくなりながらも、正直に答える。

「ああ、告白したよ。そんでフラレた」

「フラレた?」

 雅が驚いたように目を見開いた。

「まあ、正しくはフラレたってよりかは、今のままの友達関係でいたいって言われたっていうか」

「そ、それはどうして?」

 雅が聞くと、静夏が口を割って入ってきた。

「そんなの簡単な話じゃない、小野さん。あの子の考えていることくらい、誰だって予想がつくわ。どうせ、遥斗と自分がくっついたことで、萬部の空気が悪くなって関係が壊れてしまう、とか考えているのでしょう」

 探偵かよ、静夏は。

 俺は、静夏の予測が正解であることを示すために頷いた。

「そう、静夏の言ったとおりだ」

「なるほど。だから木葉ちゃんは遥斗くんの告白を断ったんですか。これでここ最近の変な空気感にも納得がいきました」

「そうね。私も合点がいったわ」

 雅と静夏が口を揃えてそう言った。

「おいおい、なんだよ二人して。一体どうしたんだよ」

「いえ、今日遥斗くんを呼んだ理由のひとつが解決しただけです」

「理由のひとつ?」

 俺は雅の言葉に疑問を覚える。

「はい。木葉ちゃんと遥斗くんの不自然な関係の理由を知ることが、今日遥斗くんを呼んだ理由のひとつでした」

「ひとつってことは、まだあるんだよな?」

 俺は水をぐいっと飲み、雅と静夏を交互に見つめた。俺の質問に答えたのは、静夏だった。

 彼女は髪を耳にかけると、僅かに顔をこちらに向け、俺を見つめる。

「私たちが聞きたいのは、あなた自身のことよ、遥斗」

「俺自身?」

「そう。遥斗、あなたは一体なにがしたいのかしら? 大空さんの顔色を見て不自然に話しだしたり、かと思えばものすごく距離を置いたり。それに、最近の部室でのあなたの笑顔は、すべて作り物のように見える。あなたは一体なにがしたいの?」

「い、いや……俺は別に何がしたいってわけでも……」

 プラスティックで出来たコップを握る手に力が入る。

 何がしたいのか自分で考えてみる。しかし、これといって何か明確なものが出てくるわけではない。出てくるのは、木葉の望む通りの行動をしなければという強迫観念のみ。

 木葉の望むことをすることで、木葉は満足し、その喜びを俺も共有できる。木葉に触れられない今、それだけが俺の喜びになりつつある。

 いつまでも答えない俺を見かねたのか、静夏は言葉を続ける。

「今のままの萬部だと、とても居心地が悪いのだけれど」

「そ、それは…………」

「作り物の笑顔と作り物の会話。そんなものが満ちた空間が、居心地の良いものだと思う?」

 静夏の問いに、俺はゆっくりと首を振った。作り物で満ちた空間が居心地が良いわけない。普段の俺なら、そんな場所にはいたくない。でも、今は俺自体がその原因である。

「私はね、遥斗。少しでも萬部を居心地の良い場所にしたいのよ。それを乱すものがあるなら、原因を突き止めて元に戻そうと努力するわ。今、あなたがその原因になってる。遥斗、あなたは何がしたいの?」

 俺の目をじっと見つめる静夏の瞳は、逃げることを許さない。俺は開けたくない口を仕方なく開け、心中で思っていることを口にする。

「お、俺は……木葉の望むとおりに動いて、あいつと同じ気持ちを共有したい。たぶん、俺が今まで通りの関係を保っていれば、木葉も安心する。萬部がバラバラにならなくて済むって。俺は、木葉を安心させて、一緒の時間を共有して、一緒に笑いたいだけなんだ」

「遥斗…………。それが、あなたの意思なの? だとしたら、ひどく歪んでいる気がするのだけれど」

「歪んでる、か。でも、歪んでいることの何が悪いんだ? たとえ歪んでいたって、好きな奴を喜ばせたり、同じ気持ちを共有したりしたいって思うだろう?」

 言うと、雅と静夏は哀しげな表情でため息を吐いた。

「これは……実山さんから連絡があったとおり、重症ね。遥斗」

「実山さん? 実山さんってあの須藤の彼女の実山さんか? 何で、いつ連絡が?」

 俺は食い気味に訊ねる。


「ついさっきよ。部活が終わって、ファミレスについたときくらいかしら。実山さんから電話があったのよ。『奥仲遥斗が重症だ』ってね」

「重症って……。俺は別に重症じゃない。ただ……」

「ただ?」

「ただ…………木葉の望む通りにしてあげたいって思ってるだけだ」

「大空さんの望みのために自分の気持ちを押さえつけて、無理やり今の自分を作っているのでしょう」

「ち、違う。こ、これは俺の意思で――」

 そう。これは俺が決めたことだ。木葉に触れられないなら、せめて木葉の望むことをしてあげたい。そうすれば、たとえ触れられなくとも、同じ気持ちを味わい、笑い合うことができるから。不純な動機かもしれないが、好きな相手にできることといったら、俺にはこれしかない。

「はっきり言わせてもらうわ、遥斗。今のあなたは痛々しくて見ていられない。疲労しきったその顔を見るだけでわかるわ。あなたが自分の気持ちを偽り、疲れきっていることが」

「べ、別に疲れきってなんて…………」

 俺は咄嗟に目線を逸らす。

「目、逸らしてるわ。遥斗。前も言ったけれど、あなたが何かを誤魔化すときって、決まって目線をそらすわよね。今のも何かの誤魔化しかしら?」

「そういうわけじゃ」

「きつい言い方かもしれないけどね、遥斗。部内の空気が気持ち悪くなっている原因の一つは、あなたよ。今のままの萬部なのなら、私はこれ以上続けていける自信がないわ」

 静夏は腕を組み、そう言い切った。

「ちょ、ちょっと待ってくれ。なんだよ、それ。それじゃ……意味ないじゃないか。俺は、部内の関係性とか空気が壊れないようにこうしてるってのに、それじゃ何も意味が……」

「そうね。意味ないわね。あなたのしてきたことは、これっぽっちも、本当に毛ほどの意味もなかったわ」

「ちょっと……花美さん言い過ぎでは?」

 雅が小声で静夏を制す。しかし、静夏はそんな雅の言葉など聞く耳を持たない。

「別に言い過ぎではないと思うのだけれど。現に、今の遥斗の行動は意味不明だし、見ていて苛立ちを覚えるわ。今までも優柔不断な面はあったけれど、今回はそれ以上よ。彼自身が何をしていいのか、ゴールはどこなのかすら分かっていないのだから」

「そ、そうですけど……」

 静夏の言葉に言いくるめられた雅は、それ以上言い返すことはなかった。

 俺は俯いたまま、静夏に訊ねる。

「じゃあさ……どうしたらいいんだよ、俺。俺だって、お前らとバラバラになるのは嫌なんだよ。けど、それと同じくらい木葉と一緒にいたいんだよ。俺はさ……どうすれば良いんだよ。教えてくれよ……」

「そんなこと、自分で考えなさい。あなた、他人のことになると人一倍解決に向かって努力するくせに、自分のことになるとめっぽう弱いわね」

「…………まあ、その通りだな」

 静夏の言葉に、俺も何も言いかせなかった。


 それを見かねたのか、静夏は鼻から息を吐いて脱力した。

「しょうがないから、ひとつだけ前に進める助言をしてあげるわ」

「助言?」

「大空木葉からしっかりとした答えを貰いなさい」

 しっかりとした答え? どういうことだ。

 俺は小首をかしげ、頭上に疑問符を浮かべる。

「要は、今は曖昧にされている大空木葉からの告白の返事を、しっかりと明確な形でもらうこと。付き合えるのか、付き合えないのか。そのどちらかなのかをはっきりとさせること。でないと、一生このまま腐っていくだけよ」

「腐る、か……」

「ええ。部活のためにも、あなた自身のためにも、答えははっきりさせておいたほうが良いわ」

「そうか……そうかもな」

 このままではダメなことは薄々わかっていた。

 もしかしたら、ここらが潮時なのかもしれない。

 俺が静夏や雅をフッたように、俺もフラれるのかもしれない。

 怖い。正直、怖い。

 けど、このまま腐るのもゴメンだ。




「まあ、もうひとりの重症患者の方もなんとかしないといけないんだけど……」

 と、静夏が小声でつぶやいたのが、かすかに俺の耳に入った。


 こんにちは、水崎綾人です。

 他人のことになると解を見つけようと頑張る遥斗くんですが、自分のことになるとどうしようもなく弱くなってしまいます。そんな遥斗くんはこれからどう動くのでしょうか。そして、彼女の方にはどういう展開が待っているのでしょうか。お楽しみに。

 では、また次回

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