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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
最終章「隣の彼女は幼馴染み!?」
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第93話「抱き抑えた感情。この気持ちのゴールはどこにある?」

 木葉と歪な関係になってから、一週間が経過した。この期間はとても平和で穏やかなものだった。雅も俺が告白を断った翌日から顔を出しているし、今までと変わらない萬部だ。


 と、俺は自分に言い聞かせている。

 そう。何も変わらないのだ。何も変わらない。

 俺が雅と静夏の告白を断っても、木葉に想いを打ち明けても、そしてフラれても何も変わらないのだ。

 いや、何も変わらないように演じている。

 木葉がどう思っているかなんて分からない。けれど俺は、今のこの状況がものすごく辛い。

 自分勝手だとはわかっている。俺がフッた雅や静夏だって同じ気持ちなのだろうから。

 けれど、それでも、木葉も俺のことが好きだと言ったけれど、付き合えない。生殺しのような気分だった。

 俺はそんな晴れない想いを抱えながら、昼休みに屋上に来ていた。今日は母さんが弁当を作ってくれなかったため、購買で買ったパンを片手に木製のベンチに腰掛けている。

 普段なら木葉と一緒に教室で昼飯を食べているのだが、告白を断られたあの日以降、俺は屋上でひとりで食べている。

 俺の視界に広がるのは、青く澄んだ大空に、ゆっくりと流れる白い雲。形はバラバラだが、それらが向かう先は皆同じ。まるで、ゴールがどこなのか分かっているかのようだ。俺にはまだ到達するべきゴールなど見えていない。いや、どこに進むべきなのかすら分かっていない。

 木葉の顔色を伺い、彼女が望まないことはしないようにと日々気を遣っている。手を伸ばせは届くというのに、その手は伸ばしてはいけない。伸ばしたら、それはそれで拒否されてしまう。

 …………今までの萬部を守るために。

「きっと……木葉が正しいんだろうな……」

 俺はぽつりと呟いた。


 おそらく、木葉の言っていることは正しい。せっかく莉奈先輩から託された萬部を、俺たちの小さな恋愛関係で壊していいわけがない。萬部は今のままの安定した関係で、いずれ現れるであろう後輩に引き継いでもらわなければいけないのだ。

 それがきっと、正しい道なのだと思う。

 俺は乾燥したメロンパンを一口だけかじった。

 すると、屋上の扉が開く音が聞こえてきた。

 俺は音のした方を見やる。そこには、寒そうに自らの両腕を抱えた雅がいた。風に目を細めながら、こちらに向かって歩いてくる。

「あ、遥斗くん。こんなところで会うなんて奇遇ですね」

「おい、こんなピンポイントな奇遇があるもんか。雅、お前絶対俺がいること分かって来ただろ」

「バレました?」

 ふふふ、と笑う雅。何気なく俺の隣に腰を下ろす。何も持っていないことをから判断するに、彼女は昼飯を食べに来たのではないだろう。

「それで、どうして雅が屋上に? まさか、教室に居場所がないとか言わないだろうな?」

 からかうように言うと、雅はベーっ、と舌を出した。

「遥斗くんじゃありませんから、教室にはちゃんと友達いますよーっだ」

「んなっ。さりげなく俺をディスったなっ!」

「遥斗くんがからかうからですよ、まったくぅ」

 頬を膨らませ、俺を半眼で睨む雅。その仕草が可愛らしくて、普段の雅と同じで、俺は少しだけ安心した。彼女からの告白を断ったことで、雅がどれだけ傷ついたか心配していたが、これならば杞憂だったかもしれない。

「んで、結局どうして屋上に?」

「遥斗くんと話がしたかったからです」

「俺と?」

 こくりと頷く雅。

「と言っても、残念ながら昼休みはもうじき終わってしまうので、今日の部活の帰りに中心街のファミレスに来てください。私と花美さんと遥斗組んで話さなければいけないことがあります」

「いや、わざわざそんなところに行かなくても、ここで話してくれよ」

「遥斗くん、時計持ってないんですか? あと五分もすれば昼休み終わっちゃいますよ」

「へ?」

「もう少し暖かければ、もっと早くに屋上に行って遥斗くんと話そうとしましたけど、今日は氷点下一度で寒いですし、そんな気温の日に屋上で話したくなんてないですよ。遥斗くん、寒くないんですか?」

 訊ねられ、俺はしばし黙考する。自分のことなのによくわかっていなかった。寒いという感情自体は分かる。けれど、先ほどまでの俺が寒いという感覚を味わっていたのかどうかは自分でも不明だ。その感覚にまで意識を割いていなかった。

 しばらく待っても返事をしない俺を見かねたのか、雅がため息をひとつ。

「まあ、その点に関しても話さなくてはいけないようですね。このままだと取り返しのつかないことになりそうですし」

「取り返しのつかないこと?」

 その意味が俺にはよくわからなかった。取り返しのつかないこととは、一体なんのことだろうか。今の俺は、その取り返しのつかないこと、を回避しようとしている側だというのに。

「そうです。取り返しのつかないことです。ですから、今日部活が終わったら、木葉ちゃんに気づかれずに中心街のファミレスに来てくださいね。忘れないでくださいよ?」

「あ、ああ。分かった。絶対に行くから」

 言うと、雅はニッコリと微笑んだ。しかし、その顔は寒さに少しばかり歪んでいる。

「では、よろしくお願いしますね。あと寒いし、そろそろ昼休みも終わるんで戻りましょう、遥斗くん」

 雅はベンチから腰を上げると、俺に手を差し伸べた。

 彼女の手を取り、俺は立ち上がる。雅の手は暖かく、そして優しい柔らかさがあった。



     ***



 教室に戻ると、須藤がニヤニヤしながらやってきた。

「おいおい遥斗~。聞いてくれよ~」

 またうるさいのがきたぞ。

 と、心中で思いながら、俺は須藤の方に向き直る。

「んだよ」

「実はさ、美々香のやつが俺に誕生日プレゼントくれるってんだよ~」

 幸せを絵に描いたような顔をしている須藤。無性に殴りたくなってくる。だが、俺は高校生。れっきとした大人である。そんな感情には目をつぶり、紳士のように振舞う。

「良かったな。それだけか?」

「おいおい、冷たいなあ、遥斗は。まだ続きがあるんだよ。実はな、そのプレゼントってのが、美々香の手料理なんだよ! どーだー、良いだろうぉー」

 くっそ~、なんだよただの自慢かよ。この野郎……。殴りてぇ……。俺だって女子の手作り料理なんて食べたこと……チョコはあるけど……料理はないのに。

 非リア充には、リア充の自慢は度し難いほどに癇に障る。

 俺は高ぶる感情を抑えるために歯ぎしりをしながら、須藤の話を聞く。

「ちょっと遥斗~、何で歯ぎしりしてんだよ~。おいおい」

 そう言いながら、須藤が肘で俺の体をつついてくる。うるせぇな、俺はお前にムカついてんだよっ!

「良かったな、幸せそうで。俺も女の子から手作り料理を振舞ってもらいたいぜ」

「あ? お前なら大空さんに頼んだら作ってもらえんじゃないのか?」

 こいつはまた……。

 俺は心のなかでため息をつく。

 須藤は言い終わると、自分の言葉に小首をかしげ始めた。

「いや、待てよ。最近またお前ら何か変だよな。じゃあ、手作り料理なんて無理か」

 聞き捨てならない言葉に、俺は目を見開いた。

「ちょ、ちょっと待て。最近、俺ら変か?」

「あ、ああ。少なくとも俺はそう思うぜ? だって、ここ最近お前ら一緒に飯を食べてないどころか、互いのことを避けてないか? 話してるところも見かけないし」

 いつもどおりに振舞おうとして俺が考えたのは、木葉と距離を置くことだった。正直、普段の自分と同じことをしようと考えると、いつもの自分の行動が分からなくなってしまった。だから、とりあえず木葉との距離を離そうとしたのだ。

 けれど、そんな俺たちのことを須藤は、『変だ』と言い表した。今の俺はいつもの俺を演じきれていないのか?

「遥斗、お前何かしたのか? 大空さん、お前のことをチラ見すらしてないぞ、今」

「は?」

「いや、前も何度かお前ら変になった時だったろ? そんな時はさ、大空さん何度も何度もお前のことを横目で見たりして、随分気にかけている様子だったんだぜ。けど、今はそんなの全然ないし。相当怒らせることしたんだろうな、お前」

「べ、別に怒らせることなんて……何も……」

 泣かせることならしたけど……。

 木葉の涙が脳裏に蘇り、俺の気分は少しばかり沈む。やはり、女の子の涙というものは精神的に来るものがある。

 と、そんな時だった。須藤が何かを思い出したように声を上げた。

「そうだったそうだった。すっかり忘れたたけどさ、美々香がお前に話があるらしいぜ」

「実山さんが?」

 はて、何だろう。思考の外にいる人物のため、何のようなのかまったく見当もつかない。つか、むしろ寒気すらする。俺は実山さんに、鼻にわさびを入れられたことを忘れちゃいない。

「そうそう。まさか……浮気じゃないだろうな?」

 限界まで顔を近づけてくる須藤。そんな彼の顔は、まさに鬼だった。

 俺は体を目一杯反らして距離を取ると、全力で首を横に振った。

「ないないないないない! それは絶対にない。マジでない。つか俺、実山さん怖いし」

「そうか。なら良いんだ」

「それで、いつ実山さんと話せば良いんだ?」

「ああ、電話番号教えるからなるべく早く話してやれ。でないと、あいつキレるから」

「マジか……。キレられるのは怖いな」

 結構真面目にキレた実山さんに恐怖を感じている。てか、何で俺に話があるんだ? 俺のことは嫌いだと、この前公園で言っていたというのに。

 俺はそんな疑問を抱えながら、須藤から実山さんの電話番号を教えてもらった。おそらく、今回連絡をしたら、もう一生彼女に電話をすることはないだろう。



     ***



 放課後になり、俺は部室に向かう前に、実山さんに連絡することにした。学校が違うと言っても、放課後になる時間はどの学校もだいたい同じはずだ。

 俺は人気の少ない踊り場に足を運ぶと、スマホを操作する。

 数回のコール音のあと、実山美々香が電話に出る。

『知らない番号ですが、詐欺か何かですか? この実山美々香はそんな詐欺には引っかかりませんわ』

「おいおい、もし本当に詐欺だったら、名乗ったらダメだろ、名乗ったら」

『あら、どこかで聞いた声ですわね』

「奥仲遥斗だ。お前が俺に話があるって須藤から聞いたんだけど?」

『あら、奥仲遥斗ですの。早速電話をくれたんですのね、ありがとうございます』

「お、おう」

 俺のことが嫌いなはずなのに、随分と礼儀正しいな。つか、やっぱり俺の名前はフルネームで呼ぶのね。

「それで、話ってなんだ?」

『ええ。実は、あの日以降、どうなったのかと思いまして。それをお尋ねしたくて電話を』

 あの日、か。あの日とは、卒後祭の打ち上げの日である。打ち上げの帰りに、俺は実山さんと会った。そこで一悶着あり、俺は木葉への想いに気づくことができた。実山さんが俺の背中を押したと言っても過言ではない。

「俺、木葉以外の告白、全部断ったんだ」

『へ……? 本当ですか?』

「ああ。実山さんのおかげ――かどうかは分からないけど、木葉のことが好きだって気づいたんだ。だから、木葉以外の告白は断った。そして木葉に告白した」

『そ、それで結果は?』

「…………言いにくいけど、まあ、簡単に言えばダメだった」

『はい? な、なぜです? ちょっと話が見えないですわ。先に告白してきたのは、木葉さんなんですよね? それなのに奥仲遥斗がフラレた? 訳がわかりませんわ』

 実山さんは分かりやすく混乱している。電話口からは小声で、『なにがどうなってますの……。はて、謎ですわ』などと聞こえてくる。

「木葉は、俺が部員の誰かひとりと付き合って、部内の関係性が壊れちゃうのが嫌らしいんだ。だから、付き合えないらしい。バレンタインの日にした告白は、本心だけど、今は付き合えないって言われた」

『な、なるほど……。それで、奥仲遥斗はどうしてますの? まさか、別の女子に手を出そうとしてませんよね?』

「してねぇよ! 第一、そんなに余裕あるほどモテないし、俺が好きなのは木葉だけだ。けど今は、木葉の望む通りにしてるよ」

『ん? と、言いますと?』

 まったく、さっしの悪いお嬢様だ。

「だから、木葉が望んでるのは、今まで通りの関係性――つまり、木葉との距離もそこまでなくて、雅や静夏、みんなと普通でいられる関係だ。だから俺は、なるべく今までどおりでいるように努力してるんだよ」

『ちょ、ちょっと待ってくださいな。奥仲遥斗。はい? 今まで通りでいようとしている? それは奥仲遥斗自身の意思でですか?』

「実山さん、なにが言いたいんだ?」

 さっきから何を言わんとしているのかわからない。

『だから、あなたはどう思っているかと聞いているんです。あなたは、木葉さんとどうなりたいんですの?』

「どうなりたいって、そりゃ……付き合いたいに決まってるだろ。恥ずかしいことを言わせないでくれるか」

『何で照れてますの、気持ち悪い。それより、奥仲遥斗は木葉さんと付き合いたいと思っているのに、どうして今まで通りでいようとしますの?』

「そ、それは…………木葉が、そう望むから……」

 言った瞬間、電話口から大きなため息が聞こえてきた。

『なるほど……。重症ですわね…………。あなたたち二人』

「あ? 重症? どういうことだよ。俺だって、萬部の関係は壊したくないって思ってる。あの部活は先輩から託された大切な居場所なんだ。俺たちの些細な問題で、壊していいような場所じゃない」

『なら聞きますが、今のあなたがしている行動に、どこに自分の意思がありますの? 結局あなたは、木葉さんが望むなら、と言い訳をして自分で一歩を踏み出す勇気を出していないだけですわ』

「な、何言って……」

『やはりあなたは、ひとつ決意したくらいでは根本的なところは変わらないのですわね。あなたの選択は、見せかけの決意ですわ。それもとても重症ですわ。自らの気持ちでさえも偽ってしまうのだから。やはり私は、奥仲遥斗のことを好きにはなれそうにないですわ』

 一方的にそう言われ、俺には返す言葉が見つからない。

 彼女の言っていることも正しいからだ。自分でもわかっていた。自分の素直な気持ちを誤魔化して、木葉の望む通りに動いていることを。むしろ、自分が率先してそっちの方向に足を進めた。

 でも、俺はそれを後悔してない。自分のわがままを貫いて木葉に想いをぶつけて修復不可能な関係になるよりも、木葉の望む通りに動いて彼女と同じ時間、笑顔を共有している方が良い。逃げかもしれないが、それでも俺はそっちの方が幸せに思える。



 分かっている。


 これが歪であることくらい。


 けど、歪のなにがいけないのだろうか?



 過程や本音はどうであれ、これは俺が『選択』したものなのだから。


 こんにちは、水崎綾人です。

 今回は、遥斗くんの感情の異常が見えた回でした。自分の好きな人が望むことをして、自分の本心を抑えてしまう。はたしてそれで良いのでしょうか? 安定的な関係性はあると思いますが、その先が無いように思えます。しかし、遥斗くんはそれを選択しました。この選択は、はたして彼にとって最善の選択だったのでしょうか。最後まで読んで頂ければ嬉しいです。

 では、また次回

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