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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
最終章「隣の彼女は幼馴染み!?」
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第91話「君想う。今は一体何思う」

「おにーちゃーん、ご飯だよぉー。……って! どうしたのお兄ちゃん!」

 帰宅した俺の部屋に、妹の楓が夕飯ができたことを知らせにやってきた。部屋に入るなりいきなり大声を出す俺の妹。まったく、騒がしいったらありゃしない。

「別にどーもしてないぞ」

「いやいや、すっごいしてるよお兄ちゃん! もうどうしちゃったの! 何でゴミ箱に頭突っ込んでんの!?」

「いやあ、まあ、なんとなく」

「なんとなくなの!?」

 正直な話、なんとなくと言えばなんとなくなのだが、一応の理由はある。雅の告白を断り、泣きながら帰宅したあと、俺は自分でも名状しがたい気持ちになった。二人の女の子の告白を蹴り、泣かせてしまったからだ。そんな俺はゴミも同然。なら、ゴミはゴミ箱に行くべきではないだろうか。

 と、そんなことを考えながらゴミ箱を覗き込んでいた。気づけば、俺はゴミ箱に顔を突っ込んでいたのだ。覗いていたところまでは記憶があるのだが、顔を突っ込む瞬間の記憶はない。きっと衝動というやつだろう。


 今日一日でえらく色々なことが起きたせいか、ところどころおかしくなっている気がする。だって、ゴミ箱に顔を突っ込んでいるこの状況に、若干の落ち着きを感じているのだから。

「俺のことは気にするな、楓」

「気にするよ! 楓のお兄ちゃんがゴミ箱に頭を突っ込んでリラックスしてるんだよ? この世の終わりだよ!」

「この世の終わりか。それも悪くないかもな」

「悪くないの!?」

 実際、今のこの感情をそのまま抱いているよりも、世界を一度終わらせてしまった方が楽な気がする。好きな女の子が出来ただけで、これほどまで精神的に辛いとは思わなかった。正しくは、好きな女の子に気持ちを告げる前の段階なのだが。

「冗談だよ、冗談。俺だってまだ世界を終わらせたくないしな」

 いくら辛くてもここまできたのだ。木葉に思いを告げるまでは、終わらせてなるものか。でなければ、雅や静夏の涙は無駄になってしまう。それだけは絶対にしてはならない。

「なんだぁ、びっくりしたよ、お兄ちゃん。でも、やっぱり何か変だよ、お兄ちゃん。何かあった?」

 楓が俺の背中に優しく手を当てた。

 普段はふざけた妹だが、こういう時は女神のように優しい。まったく……。俺にシスコンの気はないが、あまりに弱っている時に優しくされると、シスコンでも悪くないと思えてしまう。

 俺はゴミ箱から顔を出す。

 たとえシスコンでも悪くないと思えても、妹に情けない姿を晒すわけにはいかない。兄としてのせめてものプライドだ。ましてや、女の子を泣かせたことを妹に相談なんてできない。

 だから俺は、少しだけ強がった。

「大丈夫だ。何もない。心配するなって」

「お兄ちゃん。…………でも、ゴミ箱に顔を入れてるのは変だと思うの」

 ……まあ、そうですよね。

「い、いや、これはあれだ。たまにあるだろ? 何かゴミ箱に突っ込みたい日がさ」

 俺は苦しく言い訳をするが、楓の頭の上には疑問符が次々と乱立していく。いくら心の中で格好つけたって、ゴミ箱の中に頭を突っ込んでいる時点で、もう兄のプライドとかないか……。そんなことを思いながら、俺は半泣きで言い訳を続けた。

 今日の俺は、今までの人生の中で一番最低なことをした。女の子の二人も泣かせた。だから、彼女たちの涙を無駄にはできない。

 明日、木葉に俺の気持ちを伝えよう。



 ――告白をしよう。



     ***



 なんてことを考えてたんだけど、いざ意識したらそんなすぐにできねぇよ!

 結局、頃合を見計らっているうちに放課後になり、しかもその放課後ですら終わりを告げようとしている。

 おいおい俺。

 雅とか静夏の涙が無駄になるとか、偉そうなこと言ってたくせに、告白のまでの一歩を踏み出せてないじゃんか。ほんと、情けないぜ。

 俺は自らに呆れながらため息を吐いた。

「結局、今日みやびん来なかったね」

 紅茶の入ったティーカップをソーサーの上に置いた木葉が、誰に言うわけでもなく呟いた。

 そう。今日は雅は萬部の活動に来ていないのだ。まあ、活動と言っても、いつもどおり各々が好きなことをしたり、お茶をしたりなど、相変わらず適当なことしかしていないのだが。依頼がないときの萬部などこんなものだ。


 しかしながら、普段の雅ならこんな活動でも必ず顔を出していた。けど、今日は出していない。それは雅が通常の状態とは異なっていることを意味している。

 俺にはその原因に心当たりがある。というより、俺がその原因そのものだ。俺が、雅からの告白を断ったから……。

 俺はちらりと斜め左を見やる。

 そこには、大人しそうな表情で文庫本のページをめくる静夏の姿があった。いつもと変わらない花美静夏そのものだ。今の彼女からは、到底昨日の泣き顔なんて想像できないだろう。

「何かしら、遥斗?」

 見つめていたことがバレ、静夏が怪訝そうな顔で首をかしげる。

 俺は咄嗟にてできた言い訳を吐いた。

「あ、いや、えっと、夕日が眩しくてさ、ちょっと目線をずらしてたんだよ」

「はい? この時間の夕日が眩しいの? もうほとんど地平線の向こうに沈みかけているのだけれど。あなたの目、どれだけ光に敏感なの?」

「うぐ…………」

 相変わらず辛辣な言葉である。俺がフッたからか、と一瞬考えたが、よくよく思い返してみれば、静夏はいつもこんな感じだった。

「みやびん、大丈夫かな……」

 いつになく心配そうな木葉。

 それを見かねたのか、静夏が口を動かす。

「ああ、そういえば言いそびれていたわ、大空さん」

「静夏? なに、どうしたの?」

 静夏は文庫本をパタンと閉じ、自らの首筋を優しくなでる。

「小野さん、今日は私情から部活を休むそうよ。昼休みにそう聞いていたわ。伝えるのをすっかり忘れてしまっていたわ」

「何でそんな大事なことを言い忘れんのよ」

 ジト目で睨めつける木葉。

 静夏は持っていた本の表紙を木葉に見せる。

「この本が面白くて、つい小野さんの話を忘れてしまってたのよ。この、『空に消えゆく熟れた想い』とう失恋小説が面白くてね」

 おいおい、何でタイトル言うときにこっち見た。それはあれか。俺に対する当てつけか? マジですみませんでした! 許してください!

「それにしても私情ねぇ。私にも言ってくれれば良かったのに」

「たまたま最初に会ったのが私だったということだけなのではなくて? そこまで深く考える必要は無いように思えるのだけれど」

「まあ、それもそうよね。私の考えすぎだわ」

 木葉が他人のことを考えるのは昔からよくあることだ。そのせいで、卒後祭準備のときもちょっとしたいざこざがあった。けれど、今の木葉は他人のことも心配しているが、もっと大きなことも心配しているように見えた。

 いや、俺も考え過ぎか。ちょっとばかり過敏になっているのかもしれないな。

 木葉が、静夏の説明に納得すると、急に静夏が本を置いて椅子から立ち上がった。

「大空さん。ちょっとばかり遥斗を借りても良いかしら?」

「へ? 遥斗を? ええ、どうぞ。てか、なんであたしに聞くのよ」

「まあ、そうね。確かに変な質問だったわ」

 そこで言葉を区切ると、静夏は俺の方に向き直った。そして俺の腕を掴み、ぐいぐいと廊下へ引っ張っていく。


 踊り場まで連れてこられると、静夏はようやく俺の腕から手を離した。

「ちょ、静夏。何すんだよ」

「ちょっと黙っていなさい。いくら平気な顔をしていても、私はつい昨日あなたにフられたばかりなのよ。傷だって本当はまだ癒えていないわ」

「…………っ。静夏」

「けれど、そんなことは今はどうで良い。教えてくれるかしら、遥斗。あなた、小野さんからの告白、一体どんな返事をしたの? いえ、実際予想はついているのだけれど、真実を聞かせて」

 俺は静夏に両肩を押さえつけられ、身動きが取れない。

「こ、断ったよ。俺は、木葉のことが好きだからって…………」

「やっぱり、そうなのね」

 静夏は顎に手を当て、頷く。

「俺が断ったから、雅が部活を休んだって言いたいんだろう?」

「へ? ああ、まあ確かにそれはあると思うわ。でも、私が今考えているのはそこじゃない。小野さんは、本当に用事があるそうなのよ。たぶん、フられたショックもあるとは思うけれど、彼女はそれだけの理由で莉奈先輩から託された部活を捨てるような弱い女じゃないわ」

「え、じゃあ、静夏は何を心配してるんだ……?」

 雅のことでもないとすると、いよいよ誰のことを心配しているのかわからないぞ。

 聞くと、静夏は伏せていた目を上げ、俺を見やる。そして、小さなため息をひとつ。

「何って、あなたね……。ところで遥斗、大空さんに告白するつもりはあるの? 想いを心に秘めずに打ち明けるつもりはある?」

「ああ、一応そのつもりだけど……」

 どうも静夏の言わんとしていることがわからない。こんなことを聞いてどうなるというのだろう。

「そう。なら、遅くても今日中にすることをおすすめするわ。もしかしたら、手遅れかもしれないけれど、なるべく早いうちにしなさい」

「ちょ、どういう意味だよ」

 静夏は俺の肩から手を離すと、俺に背中を向ける。

「そのままの意味よ。気持ちを打ち明けるのは、早いに越したことがないってこと。これ以上、遥斗と二人きりでいると、怪しまれそうだし、私の心的にもあれだから戻るわよ」

「いや、だから、その理由を――」

 呼び止めるように訊ねたが、結局静夏はその言葉の意味を教えてくれなかった。



     ***



 部活が終了し、神ケ谷駅で静夏と別れたあと、俺と木葉は帰路についた。家が隣同士と

いうこともあり、帰り道はほとんど一緒だ。

 道中、俺は静夏の言っていた言葉を何度も脳内でリピートしていた。

 遅くても今日中に告白、か。

 俺も今日のうちに告白をしようと思ってはいたが、それは俺の精神が、あまりに長い期間我慢するのが困難だとわかっていたからだ。けれど、静夏はそんな情報なしに、俺に今日中に告白するように促してきた。


 どうして彼女はそんなことを言ったのだろうか。わからない。

 などとあれこれ考えているうちに、自宅の玄関の門が見えてきた。

 手前にある玄関が木葉の家に続くもので、奥の方に見える玄関がつながっているのが俺の家へとつながるものだ。


 このままでは、本当に告白しようと思っているだけで実行に移せなくなってしまう。それに、家についてしまったら、今日中に告白することはできなくなってしまう。

 告白しなければ、雅や静夏の流した涙も意味がなくなってしまう。

 木葉が自宅の門に手をかけた時だった。

 俺は咄嗟に彼女を呼び止める。

「木葉っ!」

 呼ばれた木葉は、驚いたように肩をビクンと震わせ、こちらに向き直る。

「なによ、どうしたのよ、遥斗」

 俺はドキドキと高鳴る心臓の鼓動を無視して、口を開こうとする。しかし、緊張によって口は乾いており、思うように言葉が出ない。

 言え。言うんだ。

 俺が木葉のことをどう思っているか。その素直な気持ちを。

 俺は大きく深呼吸すると、木葉の綺麗な瞳をしっかりと見つめる。

「木葉。バレンタインの日の告白の答え、今返すよ」

 まあ、バレンタインとは言っても、バレンタイン当日からは二日ほど過ぎていたが。

「返事……」

「ああ。俺は、俺は……大空木葉のことが好きです。俺と、付き合ってください」

 言い終えると、俺は深々と頭を下げた。

 言った。

 言ってしまった。

 ああああああああああ、どうしよう。告白するのは中学生ぶりということもあり、久々に味わう甘酸っぱい感情に酔いそうになる。

 一瞬、木葉が悲しそうに微笑したのが見えた。



「ごめん、遥斗。私、遥斗とは付き合えない」


 こんにちは、水崎綾人です。

 休日に更新できなくてすみませんでした。

 さて、今回のお話でしたが、彼女が告白を退けましたね。それは一体どんな理由からなのでしょうか。

 来週も見ていただけたら嬉しいです。

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