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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
最終章「隣の彼女は幼馴染み!?」
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第89話「告げるとき。あの日の恋心にお別れを」

 俺は木葉のことが好きだ。


 その解を出したあの夜から二日が経過した。


 俺はいつものように学校に行く。けれど、いざ木葉と会うことを考えると、心臓の鼓動が今まで以上に早くなり、思考回路がショートしそうになる。考えるだけでもこんなにやばいのに、実際に会ったらどうなることやら。


 そんなことを頭の片隅で考えながら、俺は教室の自分の机の上にカバンを置いた。


 卒業式・卒後祭も終わり、三学期も残すところあと十日程度だ。もうすぐ高校二年生も終わってしまう。何だかんだ言って、あっという間の一年だった。それもこれも、すべて木葉(あいつ)が転校してきたからだ。


 ほんと、要所要所で木葉が絡んでるんだな、俺ってば。


 と、その時だった。

 俺の背中が、誰かにぽんと叩かれた。びくっと一度体を震わせると、俺はすぐさま後ろを振り返る。



「何で今日は先に行ったのよ。おかげでひとりぼっちの登校になったじゃない!」

 目線の先にいたのは、綺麗な茶髪を肩のあたりまで伸ばし、イマドキ女子のような風貌の幼なじみ――木葉だった。カバンを右手に携え、俺のことを半眼で睨んでいる。


「ああ、悪か――」

 そこまで言いかけて、俺は言葉に詰まった。


 いざ、木葉のことが好きだと自覚してしまったせいか、見慣れている彼女の顔を見るだけで熱くなってしまったのだ。なんだ、なんだこの感覚。


 相手は木葉だ、あの大空木葉だぞ。見た目だけではリア充の人見知りで友達の少ない残念な幼なじみの木葉だぞ! 何を恐れることがある、奥仲遥斗! いつもどおりだ。いつもどおり行け!


 そう心の中で自分を鼓舞し、俺は再び口を開く。

「わ、悪かったって。ちょっと色々あって早く家を出たんだよ」


 木葉は腑に落ちないような表情をし、唇を尖らせる。

「色々って何よー。早く行くなら早く行くってメールでもしなさいよ、まったくぅ」


「ごめんごめん」

 適当に返すと、木葉はぶつぶつと文句を垂れながら自分の席へと戻っていった。



 うわああああ。なんだよ、何でこんなに緊張すんの? あいつのことが好きだと認めた途端にこんなにドキドキするとか聞いてないよ、俺。こんなんで本当に思いを伝えられるのか?



 俺の中にある不安がどんどん大きくなっていく。


 いや、けど決めたんだ。俺は木葉が好きで、木葉に告白をすると。


 それがバレンタインの日に告白してくれた木葉に対する最大の返事になるはずなのだから。


 しかし、木葉に思いを告げるにあたって、どうしてもやらなれけばいけないことがある。


 それは、雅・静夏からの告白を断るということだ。


 木葉のことが好きだと自覚してしまった以上、俺は彼女たちとは付き合えない。彼女たちの思いに応えることができない。

「なるべく早く言ったほうが良いよな。もうすぐ期日だし……」


 誰に言うわけでもなく独りごちると、俺の呟きに言葉を返してきた奴がいた。


「なんの期日なんだ、遥斗?」


「なんだ須藤か」


「なんだってなんだよっ! 卒後祭以来の再会だというのに、冷たいやつめ!」


「はあ? 俺は冷たくねえよ! ……たぶん」

 どっちかと言ったら、俺はお前の彼女の実山さんの方が冷たいと思うぞ。まあ、彼女のおかげで俺は大切なことに気づけたということもある。が、しかし。あの時の実山三の言葉に俺は心底傷ついた!


「お前、たぶんって、何で自信ないんだ? ま、いいや。そんで、どうしたんだよ、浮かない顔して」

 須藤は俺の前の席に腰掛けると、こちらに向き直るように椅子を動かした。


「浮かない顔、か。なんて言うんだろうな。大切なことに気づけたけど、気づいたからこそ支払う代償がある、みたいなことからこんな顔になってるんだと思う」


「ん? ごめん、お前が何を言ってるのか、まったく理解できないわ」


「気にすんな、須藤。最初から理解してもらおうなんて思ってないから」


 だってこれは俺の問題なのだから。

 確かに俺は、卒後祭を通じて誰かを頼ることを学んだ。けれど、今は誰かに助けを求めるような状況ではない。自分で解決しなければいけない問題だ。


 まさか非リアの俺がこんな状況に立たされるなんて思ってもみなかった。



     ***



 あれは確か、中学の時だった。


 俺には好きな人がいた。


 流れるように綺麗な黒髪を腰の位置まで伸ばし、俺のような男子にも気さくに話しかけてくれる、そんな理想的な女子。



 ――花美静夏だ。



 今でこそクールな女子になっているが、中学の頃は明るく、クラスでも人気のある女子だった。

 そんな女の子が、自分とふたりっきりになった時に、ちょっとでも好意を寄せているような素振りを見せたらどうなると思う?


 もちろん惚れちゃうよね。もう、完全に好きになっちゃうよね?


 中学の頃の俺がまさにそれだった。


 黒髪ロングという理想的な風貌に、非リアの俺にも優しいなんて、女神にすら思える。


 だから俺は、そんな花美静夏に告白をした。中学二年生の頃の出来事である。


 以来俺は、女子に対して一歩身構えるようになってしまった。


 後からわかったことだが、花美静夏のあの時の行動は、当時彼女が属していたグループの悪ふざけだったらしい。俺はまんまとその悪ふざけの的にされてしまったのだ。おかげで、俺の中学生活の後半はほとんど嘲笑だった。


 しかし、そんな静夏も、今では――いや、実はその当時から好意を向けていたというのだ。驚きだ。


 たぶん、当時の俺が聞いたら泣いて喜ぶし、即行で告白していたかもしれない。


 でも、今は違う。


 彼女のことは好きだが、それは恋愛という意味ではない。中学の頃とは色々と性格が変わり、だいぶクールになった今の彼女とは、友人、という言葉が一番適していると思う。




 なあ、そうだろ? あの頃の俺。


 だからさ、終わらせないと。ここで。


 中学二年の頃に抱いていたあの気持ちを、今ここで終わらせないと。


 でないと、俺にも、それに静夏にも失礼だし、先に進めない。


 だから、俺は――。



     ***



「一体なんなのかしら。こんなところに呼び出して」

 昼休み。俺は屋上に静夏を呼び出した。


 三月も中旬を過ぎ、もうじき下旬だというのに雪が降っている。そんな日に屋上に呼び出されたら、静夏のような反応をしてもおかしくないだろう。


 寒さに耐えるように自身の両腕を抱く静夏。


 俺はそんな彼女を視界の中央に捉え、口を開く。

「答え。出たんだ」

 言った瞬間、彼女は抱いていた手を下ろした。先ほどまで感じていた寒さを忘れたように、真剣な眼差しを俺に向ける。


「そう、ようやく出たのね。遥斗の解が。約束していた期日より少しだけ早いんじゃないの? 本当に、その解でいいのか自問はした?」


「ああ。何度も何度も問い直した。でも、その度に同じ解が出た。だから、俺の答えはこれだ」

 静夏は頷き、一歩だけ俺に詰め寄った。

「それなら、遥斗の答えを聞かせてもらおうかしら」


「ああ」

 と、言おうとするが、いざ口を開こうとすると震えて中々開けない。この震えが寒さからくるものなのか、緊張ひいては怯えからくるものなのかわからない。


 もしかしたら俺は恐れているのかもしれない。俺の出した答えを告げたことによって、変わってしまう関係性を。ずっとこのまま答えを出さずにぬるま湯につかっていれば、今のように心地よい関係を続けていけるというのに。


 でも、俺は決めた。言う。


 こんなどうしようもない俺だけれど、せめてここだけは真意を見せたい。彼女たちの気持ちに正面から向き合って、正面から答えを返したい。これが、俺ができる最大の返事なのだから。


 俺は大きく息を吸った。氷点下まで冷やされた空気が鼻の奥に流れ込み、ツンとした痛みが走る。しかし、そんな痛覚は無視する。



「静夏。俺は……俺は……。お前とは付き合えない。お前の告白に応えることはできないんだ」




 言った。


 言ってしまった。


 ついに俺は、花美静夏の好意をフッてしまった。


 俺は静夏の顔に視線を当てることができず、僅かに下を向く。


「そ、そう……なの。なら、その理由を……聞かせてくれるかしら……?」

 つまりながら吐き出されるその言葉には、いつもの静夏のクールさはない。


「他に、どうしても大切な人がいるんだ。もう絶対に失いたくない大切な人が。そいつのことを考えるだけで胸が痛くなるし、ドキドキと鼓動が早くなったりする。けれど、その人は静夏じゃないんだ」

 自分でも残酷は返事だと思った。でも、これが正直な理由だ。


「それは…………私が中学の頃にしたことが原因だったりするのかしら……? あなたを深く傷つけてしまった、だから遥斗は、私のことを…………恨んで……」


「それはない。と言ったら嘘になるかもしれない。確かに、お前たちに嵌められたときは、正直恨んださ。でも、今は違うんだ。高校で再会して、萬部で一緒の活動をして、そんな一緒の時間を過ごしたらさ、もうそんな過去の恨み事なんてどっかいったよ。けど、そんなまっさらな状態でお前と過ごしても、俺はやっぱり別の人が好きなんだ」


「へ、へぇ……。そう…………」

 ぐすん、という鼻をすする音が聞こえた。


 俺は伏せていた視線を上げ、静夏を見やる。


「し、静夏。お前……」



 俺の眼前にいた静夏は、泣いていた。



 涙が一、二滴ぽろぽろと溢れているどころの問題ではない。整ったその顔をくしゃくしゃになるまで歪ませ、大粒の涙を流しながら泣いていた。



「み、見ないでくれるかしら…………。今、あなたに見られのは、その……ひどく不快……なのよ……。お願い……。見ないで……遥斗。自分でもこんなに涙が出るなんて……思ってなかったから…………」


「静夏……」

 俺は静夏に触れようと一歩だけ近づく。


 すると、


「ダメよっ!」

 鋭くも、脆い言葉が飛んできた。


「ダメよ……遥斗。あなた今言ったじゃない…………。遥斗には別に好きな人が居るって。なら、私に優しくしてはダメよ……」


「け、けど……お前、泣いて……」

 罵詈雑言を受ける覚悟はしていた。でも、泣かれるまでは思っていなかった。あのクールな静夏が泣くなんて想像できるか? 少なくとも俺には想像できなかった。


「いいの……。いいのよ…………」


「でも、俺もお前のそんな顔、見たくない……」


「なら、これから私のすることに、何も言わずに従ってちょうだい」


「へ? 一体なに――っ」

 言い終える前に、静夏は行動を開始した。


 静夏の体が、困惑する俺の胸に飛び込んできたのだ。俺の胸の位置に入ってきたせいで、静夏の顔がどんな状況なのか俺にはわからない。

「し、静夏……」


「しっ。黙ってと言ったでしょう……遥斗。ごめん、せめて、せめて今だけはこうしていさせて。私もあなたに泣き顔を…………見られたくはないのよ」

 いかなる時も冷静な静夏が、こうして俺の胸で泣いている。


 自分でも驚きな状況ではあるが、改めて俺の導き出した解の重さがわかった。


「ねえ、遥斗…………」


「どうした、静夏」

 雪舞う屋上で、静夏の体を胸で受け止めながら、俺は聞く。


「私、中学の時からずっと遥斗のことが好きだったのよ……」


「ああ、前も聞いた。ありがとな」


「気、変わったりしないのかしら?」


「しない」


「そう。なら……完全敗北なのね。でもね、遥斗。…………たとえあなたにその気がなくても、私は……遥斗のことが好きよ」


「どうして、そこまで俺のことが好きなんだ?」

 確かに俺は昔静夏のことが好きだった。でも、静夏はどうして俺のことを好きになったのだろうか。それは俺の中でずっと疑問だった。


 訊ねると、静夏は俺の胸の中でクスッと笑った。


「愚問ね、遥斗。あなた、気づいていないだけで、魅力に溢れた人なのよ。少なくとも私はそう思ってるわ。中学の時も、あなたは自分のことを冴えない男子だと思っているかもしれないけれど、それは違うわ。私は知ってる。仲の良い友達と好きなことの話で盛り上がっていた」


「それはただ単にアニメの話だったのでは?」


「そうね。確かにそうだわ。けれど、これと言って特に熱中するもののない私から見れば、あなたは活き活きと輝いて見えた。そこからだわ。私があなたに興味を持ったのは。あの日以降、あなたに話しかけに行き、あなたのことを知ろうと思った。そして近づいて分かった。あなたはただ優しいだけじゃなくて、いつも誰かのことを考えていることを」


「そんなに大した奴ではないと思うけどな……」

 俺は頬をぽりぽりと掻く。自覚がないことを褒められると、妙にむず痒くなる。


「いいえ、大した人よ。昔から誰かのことを思って、考えて、たとえ自分が不利になったとしても相手のことを上げる人だった。そんな遥斗だから、私にはないものを持っているあなただから、私はこうして涙が出るくらい好きになれたのよ」


「静夏……」


「結果的にはフラれてしまったけれど、この気持ちに嘘はないわ。私は遥斗のことが好きだった」


「ありがとう、嬉しいよ。けど、ごめん」



 俺は静夏の気持ちには応えられない。


 俺が好きなのはあの幼なじみだから。


 中学の頃の気持ちと決別し、俺はひとりの思いを断ち切った。


 身を裂かれるほど痛かったが、これが俺の誠意だ。


 かつての恋心は色あせ、そして風化し、今抱いているこの哀しみも、いつかは懐かしむことができるのだろうか。


 わからない。



 ただ、降り積もる雪はいつか溶けてなくなるが、静夏のこの涙と俺のこの気持ちは、おそらくは永遠になくならないだろう。


「謝らないでよ…………馬鹿」

 中学の頃の口調で、静夏はそう口にした。


 こんにちは、水崎綾人です。

 今回は、遥斗が中学の頃から抱いていた恋心に別れを告げるお話でした。自分の本心に向き合い、かつて好きだった相手の気持ちを断る。おそらく彼にとっては、いや、彼女にとっても辛かったと思います。

 ですが、これを誤魔化したままではよくありまあせん。彼の決断はまだ終わっていません。

 クライマックスですが、最後までお付き合いください。

 では、また次回

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