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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
最終章「隣の彼女は幼馴染み!?」
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第86話「ゲームの果てに。彼女の思いはどこを見る」

 休日ということもあり、ゲームセンターは非常に賑わっていた。様々な筐体から発せられるBGMが混ざり合い、不協和音と化した音で店内は満たされ、行き交う人々も半身で動かなければ廊下を渡れないほどである。


「うっわ、すっごい混んでるな。やっぱり別のところにするか?」

 誘ったのは俺だったが、この混雑具合では別のところにした方が良いかもしれない。そう思った俺は、彼女らに聞いた。


 だが、俺の質問に答える者は誰ひとりとしていなかった。


 彼女たちの目はゲーム機に向けられている。その瞳はメラメラと燃えており、カラオケボックスでのバトルの続きをしようとしていることは、火を見るよりも明らかだった。


「あの……みなさん。もしかして、本気でさっきの勝負の続きをしよとしてます?」


 静夏が髪を翻しながら返す。

「当たり前でしょう。でなければ、ゲームセンターに来ることなどないのだから」


 どうやら続きをするらしい。


 俺は木葉に視線を移す。

「なんかやりたいゲームでもあったか?」


 聞くと、木葉は右手の人差し指を顎に当て、ぐるぐると視線を巡らせた。その姿はさながら、初めてゲームセンターに来た子供のようだった。

「んーっとね。やっぱりあれね。ゲームセンターと言ったら定番のクレーンゲームよ! あれなら誰が一番多く景品を取れたかで勝負ができそうだし」


「やりたいゲームよりも勝負出来そうなゲームかよ!?」

 とは言え、クレーンゲームというのは別に良いと思う。木葉たちがシューティングゲームやカードゲームをするようには見えないので、まあ無難なチョイスだろう。


 クレーンゲームで良いかと木葉が雅たちに確認を取る。無事に了承を得ることができたので、俺たちは混み合って動きにくい廊下を渡って、店内左端にあるクレーンゲームの筐体を目指した。


 クレーンゲーム機はピコピコと電子音を鳴らしながら、俺たちの到着を待っていた。


 クレーンゲームのコーナーには三つのゲーム機があり、それぞれ置かれている景品が違う。ぬいぐるみであったり、お菓子であったり、フィギュアであったりなど様々だ。


 木葉たちはどれをプレイするか吟味した後、ぬいぐるみのクレーンゲームをすることを決めた。

 彼女らの戦い混じって一緒にゲームをすることは憚れられたので、今回は後ろから眺めていることにしよう。

「ところで、今回の勝者は遥斗から何をもらえるのかしら?」

 静夏が無視できないことを聞いてきた。俺、何かあげるのか!?


「そうですね……。そういえば決めてませんでした。前回のカラオケのときは、遥斗くんが一番感動した歌っていう称号を貰えましたから、今回はどうしましょうか……」

 首をかしげ、頭を悩ませる雅。


 いや、ちょっと待ってよ。何で俺が払う代償をお前らが決めてんの!?


 一方木葉は、しばし腕を組んで考えた後、ピンと人差し指を突き立てた。

「勝った人は、遥斗から何でも一つだけ言うことを聞いてもらえるってのはどう?」


 流石に口を挟まずにはいられなかった。

「おいおいおいおい! なんだよその景品は! 俺の都合ガン無視じゃん!」

 何で俺の意見を聞かずに、俺がやる行為が決められてんだよ。


 だが、俺の言葉は彼女らには届いていなかったようだ。それが周囲の騒音のせいで物理的に届かなかったのか、意図的に無視されたのかは分からない。


「いいですね、それ! さっきのカラオケの時よりも燃えてきました!」


「乗ったわ、大空さん。ま、今回も私が勝つのだけれど」


 うん、勝手に話しが進んでしまっているようだ。


 どうやらこれで、俺は彼女らの中から現れる勝者の言うことを何でも聞かなければいけなくなったらしい。


 心の中で泣いていると、ゲームが始まった。一番手は木葉のようだ。

「ふふふ。見てなさい、あんたたち。こう見えても小さい頃は、結構クレーンゲームが得意だったりしたのよ」

 初耳である。まあ、当時の記憶が薄いからなのかもしれないが、俺には幼女木葉がクレーンゲームを得意だったという覚えはない。



「うりゃ! せい! とう! ぬんりゃぁ!」



 軽快にボタンを操作するが、アームは木葉の意思に反して景品を掴んでくれなかった。


 木葉は歯噛みしながら、筐体を睨めつける。

「なによ! アーム弱いじゃないの! これじゃ取れる景品も取れないわね」


「いえ、大空さん。あなた、アームの力うんぬんの前に、割と狙いからずれているところにアームを持っていったように見えたのだけれど。もしかして、あなた。言うほどクレーンゲームが得意じゃないのではなくて?」


「うぐ――」


 図星だったのかー。


 木葉は目を泳がせながら、後頭部を乱雑に掻く。

「な、何言ってんのよ。今のはあれよあれ。ちょっとミスしただけっていうか」


「あら、そう。ま、どちらでも良いわ。あなたが自らミスしてくれれば、こちらとしては嬉しいし」


「静夏、あんたね……」

 ぎりぎりと奥歯を噛む木葉。対する静夏はフン、と鼻で笑い、筐体の前へと移動。

「こんなの、さっさと一番になってみせるわ。遥斗への命令権は私のものよ」

 もう、なんなのこいつら、怖い! 命令権とか言わないでよ!


 俺の胸中の言葉など聞こえる訳もなく、雅はなに食わぬ顔でボタン操作を開始する。


「そこっ! んっ――! ちがっ!」

 などと、短い言葉が何度も口から漏れ出た静夏だったが、結局のところ何も取れなかった。


「なかなかやるわね、このゲーム機……」


「はははははは! あんた、あんなに大口叩いてたのに、なにやってんのよ! 私のこと言えないじゃな~い!」

 木葉が分かりやすく挑発する。静夏は舌打ちをし、木葉をジト目で見つめる。

「う、うるさいわね。まだ本調子じゃないだけよ。そんなことより、大空さんだってひとつも取れていないのだから、そうやって相手の失敗を笑うよりも自己の成功に繋がることのひとつでも考えてみたらどうなのかしら?」

 至極まっとうな意見だが、先に相手の失敗を笑った静夏が言っても説得力がなかった。それは木葉も同じように感じたらしい。手のひらを顔の前で振る。

「いやいや、静夏にそれを言われても響かないんだけど。先にしてきたのあんただし」

「そんなこと忘れたわ」

「記憶から消すんじゃないわよ!」

 本当、仲良いな、こいつら。


 そんな彼女らの間に割って入ったのが雅だった。財布から百円玉を取り出し、すでにゲームに参加する気は満々のようだ。

「まあまあ、みなさん。こんなところで揉めるのはよしましょうよ」


「とかなんとか言っておきながら、小野さん。あなただってUFOっキャッチャーをしようとするのね。自信はあるのかしら?」


「どうでしょうか。ですが、お二人の失敗を見てましたから、結構大丈夫かと」


 木葉が驚いたように目を丸くする。

「まさか、みやびんが最後まで黙ってたのって……私たちに先にやらせて様子を見るため……? だとしたら、意外とずる賢いっ」


「ひ、人聞きの悪いことを言わないでください! 順番が最後になったのは、もっと単純な理由で、お二人が先に筐体の前に立たれたからです! 断じて狙って最後になったわけじゃありません」

 頬を膨らませてそう怒る雅。確かに雅の言うとおり、雅が移動するよりも早く木葉も静夏もゲーム機の前に立っていた。


「なあ、雅。勝算はあるのか?」

 俺は雅に訊ねる。


 彼女は顎に手を当てると、横目でクレーンゲーム機を見据える。

「どうでしょうか。木葉ちゃんと花美さんがやっている間に気づいたことと言えば、アームが弱いことと、しっかりと一番奥までアームが動いていないことでしょうか。まあ、結局のところ、見ていれば分かる程度のことしかわかりませんでした。ですが、木葉ちゃんたちが失敗してくれたおかげで、ぬいぐるみが随分と取りやすい位置に来ています。あれを狙えばイケるかと」


「おおー。じゃあ勝算はあるのか」

 残り物には福があるみたいなやつだな。最後まで順番を待っていたからこそ出来たチャンスだろう。もしかしたら、このまま雅がトップ通過してしまうかもしれない。



「まさか……」

「私たちの失敗が小野さんのチャンスになっていたなんて……」

 視界の隅では、木葉と静夏が互いに下唇を噛んでいた。



 改めて視線を雅に向けると、彼女はすでにボタンに手を伸ばしていた。しかし――。

「あ、そこじゃない! 違います! ちょ! なんでぇぇぇ!?」

 見て学ぶのと、実際に触れるのでは勝手が違うようで、雅のプレイも何の収穫もなしに終わった。

「うぐぐ……。うまくいきませんでした……」


「小野さん。あなた、口で言う割には、大したことないのね。一時はどうなることかと思ったけれど、杞憂だったわ」


「ぬぅ……。ていうか、花美さんだって取れてなかったじゃないですか。そんな人に言われたくないですよ! だいたい、花美さんも口の割に大したことないじゃないですか」

 ぷいっと顔を背ける雅。


 静夏はうぐっ、と言葉を詰まらせるが、すぐにぎこちない笑みを作る。

「あ、あなたもなかなか言うわね。ちょっと驚いたのだけれど。意外と気が強かったりするのかしら」


「気が強いのかどうかは知りませんが、私は負けたくないんです。だって、何でも言うことを聞いてくれる権利だなんてそんな……」

 言葉が尻の方に行くにつれて、もごもごとこもって何を言っているのか理解できなかった。が、何か無茶なことをやらせたがっているように思えてしまい、自然と背筋が凍る。



 それからというもの、クレーンゲームをしては互いに他愛もない憎まれ口を叩き合い、を繰り返し、気づけば二時間近くクレーンゲーム機の前から動かなかった。


 俺たちのあまりの白熱さに、クレーンゲームコーナーを通りがかる人は皆一様に、変なものを見る目で通り過ぎていった。なんだかひどく恥ずかしい。


 結局、この二時間の間、誰ひとりとして景品を取ることはできず、ただコインだけを消費するというなんとも無駄な時間を過ごしている。


 つか、そろそろ移動しないと、薫先生が待ちぼうけをくらう羽目になるんじゃ……。


「ああああああ……。また取れませんでした……」

 もう何度目の嘆きだろうか。雅が筐体の前でなす術なくうなだれる。


 楽しみたいがためにゲームをするというのに、ストレスばかり貰っていては意味がないような気がするのだが。なんだよ、お金払ってストレスを買うって。もう意味わかんないよね。


 カラオケボックスのときと同じように、みんなの顔にも疲れが浮かんできている。まあ、無理もない。ただ立っているだけの俺ですら疲れているんだ。ずっと真剣にゲームしてれば、そりゃ疲れる。


 雅と交代した木葉は、もはや死んだ目でクレーンゲームを操作している。その瞳には、かつてのやる気は感じられない。



 だが――。




 木葉の操作したアームは順調にクマのぬいぐるみを持ち上げ、そのまま景品取り出し口へと放った。

 瞬間、時間が止まったように思えた。


 それは俺だけではなく、雅も、静夏も、もちろん木葉自信も。


 木葉は五秒ほどフリーズすると、ようやく景品取り出し口に手を伸ばした。そして、勝ち取った景品を手に取る。アイスクリームを片手に持った、可愛らしい茶色のクマのぬいぐるみだ。


 木葉は俺と雅たちを交互に見返すと、信じられないといった具合で口を開く。

「わ、私……取っちゃったみたい……ぬいぐるみ。……てことは……、私の勝ち……?」


 俺は「そうだよ」と言って頷く。


 すると、木葉は満面の笑みを浮かべ、獲得したぬいぐるみに頬を当てる。次いで、すぐさま雅と静夏の方に向き直り、勝ち誇ったように胸を張る。しかし、胸はない。

「ふっふん、どうよ。今回は私が一番よ!」


 雅は一度口を開いたが、やがて諦めたように息を吐いた。

「はあ……。そうですね。今回は私の負けです、木葉ちゃん」


 続いて静夏が言葉を放つ。

「まあ、前回は私が一位だったわけだし、今回くらい一位の座を譲ってあげても良いのだけれど」

「何であんたはそう負けず嫌いなのよ!」

「ところで、大空さん。あなた、遥斗への命令権を手に入れたわけだけれど、一体どんなことを願いのかしら? 場合によっては力尽くでやめさせるのだけれど」

 静夏の言葉に、木葉は「あ……」と小さく声をもらして固まる。

「遥斗に願う…………か」

 木葉はくるりと体を俺の方に向けると、俺の瞳を見据えた。だが、見据えていたと言ってもほんの一秒ほどで、木葉はすぐに俺から視線を逸らした。


「私は遥斗に…………。あ、ああ、そうだ。みんな、もうすぐ約束してた打ち上げの時間になるわよ。急いでいかないと遅れるかも」

 不自然なほど急に話題を変えた木葉。


 そんな木葉に雅が言う。

「え、木葉ちゃん、いいんですか? 今、お願いごと言わなくて。せっかく勝ったのに」


「それは……でも、私は…………。ううん、いいのいいの。実際、まだ何を遥斗にやらせようかなんて決まってないし、もうちょっとしてから決めるわ」


「そう、なんですか」

 腑に落ちないような面様の雅。


 それは俺も同じだった。


 どこかいつもの木葉とは違う気がする。なんだろう、この微妙な感覚。


 名状しがたい感覚に気持ち悪さを覚えたが、実際木葉の言うとおり約束の時刻まで時間がなかったので、ここで問い詰めることもできない。


 変な違和感を感じながら、俺たちはゲームセンターを後にした。



 こんにちは、水崎綾人です。

 先日は更新できなくてすみませんでした。

 さて、今回の話ですが、日常会の中に少々の陰りが見えてきたかと思います。楽しい日常も良いですが、彼、彼女らの中には避けて通れないものがあります。

 選択するのか、選択されるのを待つのか、選択されるために動くのか。それこそ選択肢は無数にあります。今回彼女がどんな思いでその選択をしたのか、今後の話も読んで頂ければ嬉しいです。

 では、また次回

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