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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
最終章「隣の彼女は幼馴染み!?」
84/100

第84話「デートする休息」

 はあ……。


 俺は心の中で大きなため息を吐いた。


 卒後祭を二日前に終え、今日は久しぶりにゆっくりと休める日曜日。残りの仕事や、期限など面倒なことを考えずにゆっくりと休める一日。

 の、はずなのだが、俺に限ってはそれは違う。


 静夏の与えた期限まで、今日をいれて残り五日。それまでに答えを出さなければいけない。

 誰かを選ぶのか、誰も選ばないのか。


 ベッドに寝転がったまま、俺は頭を乱雑に掻いた。

「ああ~、まさか俺がこんなことで悩む日が来るなんてなあ。ギャルゲ主人公とかこんなキツイ悩み背負いながら選択してんのかよ、すげぇな、マジで」

 行き場のないストレスから、ついギャルゲ主人公を尊敬してしまったが、そんな感情を抱いたところで何の意味もない。


 ふと目だけを動かして窓を見る。


 視界に入ったのは、隣に建つ幼なじみ――木葉の家。


 あいつが引っ越してくるまでは何の変哲もない普通の民家だったのに、木葉が来てからというもの目に入るたびに少々意識してしまう。やはり、家というのは存在そのものではなくて、誰が住んでいるかという方が重要だ。


 それに隣に告白してきた相手が住んでいると考えると、それだけで胸が苦しくなる。


「こんなんで期日までに決められんのかよ……俺」

 と、嘆いた時だった

 俺の部屋の扉が突然、バタンと開かれた。

「おっにぃちゃああああああん! 一緒にゲームしようよ! ゲーム!」


 やって来たのは妹の楓だった。手にはテレビゲーム機と数本のソフトを持っている。見れば、そのソフトは対戦系のもので、楓がものすごく弱いゲームだ。


 俺は若干の面倒くささを覚えながら、楓を半眼で見つめる。

「いいけど、楓……それお前がめっちゃ下手なゲームじゃん。いいのか?」


「ふふん、舐めないでよ、お兄ちゃん。こう見えても楓はね、今まで隠れてずっと練習してきたんだよ? それにもし負けそうになっても、お兄ちゃんなら手加減してくれるって信じてるから、楓」

 今までボコボコにしてきたのに、どこから手加減してくれるという自信が湧いてくるのだろうか。


 とはいえ、このままベッドの上でダラダラと考え事をしていても解など出そうもない。ならいっそのこと、ゲームでもして気分を紛らわせた方が良いのかもしれない。


 ベッドから身体を起こした俺は、目をかるこすりながら首を縦に振る。

「しゃーない。いいぜ、相手になってやるよ、楓」

 ただし、手加減をするつもりはない。



     ***



 一時間後、俺の隣で楓は涙目になっていた。

「ひっく……ひぅ、お、お兄ちゃん、強いよ、強すぎるよ……」


「残念だが楓。勝負というのは常に非情なものなのだよ。例えゲームであってもそれは変わらないんだ。俺はこの短い人生の中でそう学んだ」


「高校生なのに、何でそんなに達観してるの、お兄ちゃん!?」


 まあ、もちろん嘘だけどな。


 俺の人生でまともに勝負をした時って、もしかしたら無いかもしれない。柏崎との一戦はあったが、あれをまともな勝負に加算して良いのだろうか。


 なんにせよ、俺の薄い人生では勝負が非情だとか、そんな超人じみた感想を抱くイベントは起こらなかった。


 コントローラーを握りながら、そんなことを思っていると、ポケットに入れていたスマホが振動しているのに気づいた。


 俺は楓に一言告げると、腰を上げ、廊下へ出る。


 スマホを取り出す。どうやら木葉からの電話のようだ。


 俺は慣れた手つきでスマホを操作すると、それを耳に当てる。

「はい、もしもし」


『ああ、遥斗。今、ちょっといいかしら?』

 快活で聞き取りやすい木葉の声が聞こえてくる。


 俺は大丈夫なことを知らせると、木葉が要件を話し始めた。

『実はね、みやびんと静夏とは話したんだけど、明日、萬部で卒後祭の打ち上げやらない?』


「打ち上げ?」

 打ち上げというのはあれだろうか。飲んだり食べたりして、楽しそうなやつのことか? これまでの生活の中で打ち上げなどというものに呼ばれたことのない俺は、いまいち何をするのかピンと来ない。


『そうそう、打ち上げ。まあ、そうは言っても飲み食いは最後の方にして、みんなで遊びに行くようなものなんだけど。遥斗は明日、大丈夫?』


「明日か」

 いかにも用事がありそうな返事をしてみるが、実際のところ俺にはまったく用事がない。スケジュール表をつけようものなら、スケジュールがなさすぎて新品のまま保管出てきてしまうくらいだろう。


『無理そう?』

 不安げな木葉の声が電話口から聞こえる。


「いや、全然問題ないけど。むしろ、無理そうな理由を探すのが無理だわ」


『じゃあ何でちょっと言い淀んだのよ!? 用事ありそうに聞こえるじゃないの! けど、なら明日大丈夫そうね』


「ああ、問題ないぜ」


『なら明日、十三時に神ケ谷駅前の噴水に集合ね』


「分かった、了解」

 見えていないことを承知で頷くと、木葉が『んじゃね~』と言って電話を切った。


 こんな優柔不断な状態で行ってもいいのだろうか、打ち上げ。


 でも、断る理由もないし、何より家にずっといると悩みが増幅しておかしくなりそうだ。


 ここは余計なことは考えずに、打ち上げに参加するべきだな。


「――と、その前に、もう一回、楓を負かすか」

 俺は自室に戻り、コントローラーを握る。



     ***



 翌日。雲一つない青空の下、俺は神ケ谷駅の噴水前に来ていた。


 時刻はまだ十二時四十五分。約束の時間よりも十五分ほど早い。


 当然のことながら誰もない。

 噴水の正面にあるベンチに腰掛けて、誰か来ないかな~、と周囲を見渡す。しかし、見知った顔はひとつも見つからなかった。目に映るのは、親子連れの幸せそうな家族、それから腕を組んで歩くカップル。カップルには是非とも爆発して欲しいものだ。心からそう思う。


 俺は来てきたコートのボタンを一つ外し、息を吐いた。


 三月も中旬を過ぎたからか、殊の外空気が暖かい。もちろん、コートなしでは寒いが、襟を立てて、首をすぼませながら歩くほど寒いわけじゃない。こんなふうに季節を感じていると、もうじき春がやってくるのだと実感させられる。


 暖かな陽光に体を預けていると、俺の視界に人影が入った。

 目だけでそちらを見やり、確認する。


 そこには黒髪を腰の位置まで垂らし、薄手の白いコートを着た少女が俺を覗き込むように立っている姿が見えた。

 俺は一驚し、体をびくりと震わせる。

「おわっ、なんだ、静夏か。あー、びっくりした。声くらいかけてくれよ」

 言うと、静夏は頬の横から垂れる髪を指先でいじりながら、体をもじもじとさせる。


「言おうとしたのだけれど、なんというか、空を見上げながら恍惚とした表情をしている人に話しかけるのは危ない気がして」


「いや、まあ話しだけ聞いてれば確かに危なそうだけど、知り合いなんだし声くらいかけてよ!」


「次、機会があったらそうするわね、遥斗。次にね」


「お、おう」

 次。はたしてその次というのはいつ来るのだろうか。それは俺にも分からない。


 続いて、雅と木葉が一緒にやってきた。なんでも、駅を越えたあたりで偶然見かけたので一緒にここまできたそうだ。


 雅は薄いピンク色のコートに、手袋を嵌め、更にはいつもストレートな髪をポニーテールにしている。珍しい雅の髪型に、俺は素直に驚いた。


 一方木葉は、ライトブラウンのコートに赤と黒のチェック柄のスカート、それから黒のブーツを履いていた。その整った容姿のせいか、とてつもなくおしゃれに見えてしまう。


 木葉は俺たちを見渡すと、

「全員揃ったみたいね。それじゃ、十八時までどっか遊びに行きましょうか」


「十八時? 十八時から飯なのか?」

 聞くと、木葉がきょとんとした顔をする。


「あれ、言ってなかったっけ? 十八時に薫先生が合流して、焼肉屋さんで打ち上げをするのよ」


「いやいや、聞いてない聞いてない。初耳だって、もう超初耳」

 てっきり、萬部の部員だけでやるものだと思ってた。けれど、思い返してみれば、木葉は『萬部』で打ち上げをすると言っていた。それってもしかして、先生も含まれてるって意味だったのか。なんというトリック。


 俺からの返答に、木葉は「あはは、ごめんごめん」と軽く謝ると、小さくウィンクをひとつ。


 問題も解決したことなので、俺たちは移動することにした。


 こんにちは、水崎綾人です。

 前回、莉奈先輩が新たな旅立ちを迎え、最終章の中の一区切りが付いたわけですが、萬部の彼・彼女らにはまだ大きな問題が残っています。いよいよそれに目を向けることになりそうです。

 では、また次回

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