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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
最終章「隣の彼女は幼馴染み!?」
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第81話「幕上げる卒後祭」

 二時間ほどが経過し、卒業式が執り行われた。 

 莉奈先輩をはじめとする卒業生が、皆新しい道への期待を抱いているのか、心なしか、顔つきが普段よりも明るく、それでいて頼もしく見えた。

 卒業生だけではなく在校生の中にも、涙ぐむ生徒も多く、それだけで先輩たちの存在の大きさが分かった。

 歌われた別れの歌は、体育館いっぱいに響き、俺たちの心の中へ深く刻み込まれた。

 静夏は堪えていたようだが、木葉と雅は式中に涙していた。何度ハンカチを貸したことか。

 俺も目頭が熱くなるのを感じたが、なんとか耐え切り、式は三時間ほどで幕を閉じた。

 時間として考えてれば長かったが、俺にとってはあっという間の三時間に感じた。おそらく、莉奈先輩とのこれまでのこと、そしてこれからのことを考えていたからだと思う。

 式が終わったあとの俺たちの行動は素早いものだった。

 なぜなら、他の生徒と違って、俺たちは卒後祭のスタッフだからだ。卒業生よりも早く現場に赴き、会場の受付やそれぞれの持ち場などの配置につかなければならない。

 涙ぐむ木葉と雅に気を配りながら、多目的会館の送迎バスに乗り込み、会場を目指す。



     ***



 会場は、目を見張るほど綺麗に飾り付けられていた。

 俺と風山が下見に来たときも確かに綺麗ではあったが、物がなかったため寂しい空間という印象だったが、今は違う。

 白の壁に囲まれ、天井にシャンデリアがついているのはもちろんのこと、ライブができるように足下にもライトが設置され、更にはいたるところに花が設えてある。

「みなさん、持ち場についてください。最終確認をします」

 河橋さんがマイクを手に持ち、皆に呼びかけた。

 その声で俺たちは自分の担当する場所へと動く。

 スポットライト担当の俺は、会場後方の端へと足を向けた。学校で使っているものよりも新型のスポットライトのようだが、操作自体は変わらないようだ。これならば扱えそうだ。

 ちらと視線を動かすと、木葉たちが視界に入った。確か彼女らは三人揃って受付とか言っていたな。練習自体はさして大変でなくとも、本番で大変になるタイプの仕事なので、彼女らには頑張ってもらいたい。

 などと心の中でエールを送っていると、河橋さんがこちらにやってきた。

「調子はどうですか、奥仲くん」

「ああ、バッチリだ。スポットライトは新型みたいだけど、操作は変わらないみたいだし、大丈夫だ」

 言うと、河橋さんは微笑をひとつ。

「そうですか。では、不安な点は今のところないようですね」

「そうだな……。強いて言えば、河橋さんが緊張でぶっ倒れないかどうかが心配だったりするかな?」

 軽くふざけた調子で言ってみる。

 河橋さんにとって、今日という卒後祭は身体を壊してまで成功させようとしていた大きな行事なのだ。それに、河橋さんは生徒会長として壇上で挨拶をする仕事がある。そう思えば、緊張で倒れてしまうと考えても何らおかしくはないだろう。まあ、冗談のつもりなのだが。

 河橋さんは目を見開き、口を僅かに開く。

「んなっ! た、たた確かに緊張はしていますが、ぶっ倒れたりはしませんから安心してください。ただ、ちょっと吐き気がすると言いますか、胃痛がすると言いますか……」

「いやいや、それって充分やばいだろ! 大丈夫か!? 医務室、医務室に行ってこい!」

 俺が慌てながら彼女の身体の心配をしていると、河橋さんはぺろっと舌を出して悪戯な笑みを浮かべる。

「冗談です。さっきの皮肉への仕返しですよ」

 なんだよ、その冗談。本気で心配しちゃったじゃないか。

「お、おう、そうかいそうかい。驚かせやがって……」

「すみませんでした。けれど、緊張しているのは事実です。倒れはしませんけど、この上なく緊張しています」

 そう言った河橋さんの手先は、微かに震えていた。

 どうやら緊張しているというのは本当らしい。

「そっか。あんまり気休めにはならないかもしれないけど、今まで頑張ってきたんだ、きっと上手くいくさ。だから、過度に緊張しないでリラックスしていこうぜ」

「なんていうか、奥仲くんらしい言葉ですね。初めて会ったときは頼りなさそうな人だという印象でしたのに、まさかここまで助けられるとは思っていませんでした。あなたの言うとおり、リラックスしてみようと思います。緊張は過度にしていると、良い結果は産みませんからね」

「ああ、そうだな。――って、俺の最初の印象が何気にひどい!?」

 自分でも頼りがいのあるやつだとは思ってないけどさ、やっぱり他人からはっきり言われるとキツイものがあるよね。

 河橋さんは手をひらひらと振ると、やがてくるりと俺に背を向けた。

「まあまあ、最初の印象ですから。印象というものは随時更新されていくものです。今の奥仲くんへの印象は……まあ、これは別にいいでしょう」

「ちょ、気になる気になる!」

 そこで言葉を区切らないでくれよ!

 河橋さんはニッコリと笑う、

「さあ、こんなことを話していていは時間が勿体ありませんね。もうじき、本番が始まりますから」



     ***



 最終的な動きを確認したあと、三十分ほどで卒業生たちが到着した。

 卒業式の涙と喜びの匂いを残したまま、会場に次から次へと入ってくる。

 受付の彼女たちに目をやると、思ったとおり仕分けるのが大変そうだった。入ってくるのは卒業生だけではない。卒業生の保護者もだ。名前を聞いて、名簿にチェックを入れるという作業でも、後ろがつかえていればプレッシャーにもなって大変だろう。

 同情をしていると、制服に身を包んだひとりの卒業生が俺の方へと走ってきた。しかしながら、その走り方が特徴的だった。まるで鳥とも言わんばかりに両手を広げ、上体を低くしてこちらに走ってくるのだ。その姿は、飛行機ごっこをして遊ぶ子供のようだ。

 女子生徒はスポットライトの前で立ち止まると、下を向いていた顔をばっと上げる。

「遥斗くん! 君たちはなんだ! 卒後祭のスタッフをしているじゃないか! 私は聞いていないぞ! 君たちの先輩なのに、まああああああああああったく聞いてないぞ! びっくりちゃったよ」

 莉奈先輩だった。

 やっぱり、この先輩はどんな場所であろうともテンションは変わらないらしい。

 俺は頭を軽く掻きながら、人差し指をぴんと立てる。

「えっとですね。実は、先輩には内緒にしてたんですよ。ほら、言ったら先輩全部友達にバラしちゃうでしょ?」

 言われた先輩は、うぐっ、と言葉を詰まらせる。

「バラしちゃうとは失敬な。つい高ぶってしまって友達に話しちゃうだけだよ!」

「それをバラしちゃうって言うんですよ! まあ、だから先輩のためのサプライズみたいな感じで今回は卒後祭のスタッフをしていたんですよ」

「ほおおおおおおおっ! サプライズ! いいねいいね! サプライズ大好きだよ私!」

「そうですか、そいつはよかった」

 ここでサプライズは苦手だって言われたら、どうしようかと思った。

 と、胸中で安心していると、莉奈先輩が急に大人びた表情をする。

「本当にありがとうね。そういうふうに思ってくれてるだけで、私にとっては嬉しいんだよ、遥斗くん」

「莉奈先……輩? どうしたんですか、急に」

 あまりの変わりように質問すると、莉奈先輩は首を振り、いつもの調子を取り戻す。

「ううん、何でもないよ! ただ、みんながサプライズをしてくれたっていう気持ちが嬉しかっただけなんだよ! それじゃ、私は会食の席に戻ってるね、遥斗くん!」

 一息でそう言うと、莉奈先輩は再び両手を大きく広げ、走っていった。

 なんていうか、相変わらずもう何考えてるのか分かんない人だな。



 ほどなくして会場の電気がゆっくりと絞られていく。暗くなった会場では、ステージを照らすライトだけが唯一の光源となる。

 やがて、スポットライトの一筋の光が壇上を照らした。その光を操っているのは、スポットライトの担当こと、この俺だ。

 照らされているのは、フレームの細いメガネをかけ、端正な顔に確かな責任を宿した目をした少女――河橋夜雛(かわはしよひな)だ。

 彼女は今、ステージの中央に設置されているマイクの前に立ち、会場にいる全ての人を見渡す。そして、綺麗にお辞儀をひとつ。マイクに向かって口を開く。

「卒業生のみなさん、ご卒業おめでとうございます。神ケ谷高校生徒会長、河橋夜雛です。誠に僭越ながら、生徒会長として卒後祭の開会の辞を述べさせていただきます」

 言って、河橋さんは生徒会長らしい口ぶりで語り始める。それはとても緊張しているとは思えないほど流暢な口調で、言い間違いえや噛むことなくすらすらと口から吐き出されていく。

 一通り述べると、河橋さんは「最後に」と付け加えて、話を続けた。

「――この時間は盛大に楽しみ、良い思い出を作っていただけることを願いまして、開会の辞とさせていただきます」

 マイクから一歩退き、河橋さんはペコリと頭を下げた。瞬間、会場中から拍手が鳴り響いた。この盛り上がりだけを見ても、依頼を引き受けてよかったと思える。


 それに、これなら河橋さんが一番気にしていた『三年生の先輩に感謝の気持ちを伝えられるか』という問題はクリアできていると判断して良いだろう。なにせ、こんなにも先輩たちの笑顔で会場が満ちているのだから。


 こんにちは、水崎綾人です。

 少々更新時間にばらつきがありすみません。できるだけ、毎日同じ時間に更新するように心がけます。

 お話では卒後祭に入りました。莉奈先輩との最後の行事、是非とも見届けて欲しいと思っています。

 それでは、また次回。

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