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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
最終章「隣の彼女は幼馴染み!?」
80/100

第80話「俺たちの先輩へ。この瞬間を永久に」

 あっという間に準備期間が過ぎ、気づけば当日を迎えていた。

 今日は、三年生の先輩が学校へ登校する実質最後の日。――卒業式だ。

 昨日までいつもと変わらなかった校舎が、今では『卒業おめでとう』の文字とともに華々しく飾り立てられている。体育館へと続く廊下は紅白の幕がかけられ、新たな門出を祝う道を示しているようにも見えた。



 ポケットの中でスマホが振動する。

 俺はスマホを取り出し、画面を見やった。

「ん? ……木葉か」

 ディスプレイには木葉からのメッセージが表示されていた。部室に来て、という内容だった。

 幸いいつもより早く学校に来ていたため、俺は部室を目指す。

 一体何なんだろう。

 見当もつかないメッセージに対しする疑問で、階段を上る足が微妙に重たく感じる。

 卒業式の飾りつけは、多くの部室が並ぶ特別棟にまで施されていた。いたるところに花飾りがつけられていたり、三年生の部活動での活躍を紹介したりなど様々されている。

 俺はそんな景色を横目で捉えながら、見慣れた萬部の部室の前までやってきた。

 いつもと同じ扉のはずなのに、心なしか焦燥感に駆られている自分がいる。

 俺はまだ卒業しないため、まだ何回も何十回もここ敷居を跨ぐことができるのに、どこか覚える物悲しさ。

 けれど、確実に言えることが一つだけある。

 今日で、萬部がひとつの区切りを見せるということだ。

 俺はたぶん、それを肌で感じて哀愁を感じていたのだと思う。

「ま、今更そんなことを思ったって仕方ないよな。呼ばれてんだし、早く行かねえと」

 俺は独り言ち、扉を開ける。



 するとそこには、見慣れた部室やメンバーの他に、一人だけ、久方ぶりに見る人がいた。

「おーっ、遥斗くんも部室に来たの! いや~、この時間にみんなに会えるなんて、光栄だね、嬉しいね! あっははははは~」

 莉奈先輩がいた。

 いつも微妙に着崩れている制服を、今日だけはビシッと着こなし、変わることのない元気な緑色の瞳が俺を見て微笑んでいる。

「せ、先輩……? なんでここに?」

 卒業生の登校時間は在校生よりもいくらか遅かったはずだ。それなのに、どうして先輩がこの時間にいるんだ?

 俺の問いに、莉奈先輩は照れくさそうに頬を掻く。

「いやいや実はね、部室に結構私物を残してることに気づいてたさ~。みんなの迷惑になるんじゃないかって思って、取りに来たんだ。そしたら、みんないるんだもん、驚いたよ~!」

「私物……」

 言われて、莉奈先輩の足下を見やる。

 そこにはパンパンに膨らんだビニール袋が三つと、一本の木刀。あの木刀は確か修学旅行で買ってきてたやつ。ていうか、木刀の隣にあるビニール袋の膨らみ方が異常なんですけど!? 

 ていうか、莉奈先輩が私物を片付けた後の部室を見てみると、結構すっきりするもんだな。この部室にあった物の六割以上は先輩のもだったってわけか。

 なんか、やっぱり寂しくなるよな。色々と。

 そう感じながら、おれは目を落とす。

 すると、莉奈先輩が俺の顔を覗き込んできた。

「おいおーい、どうしたんだい、遥斗くん。さっきから一体どこを見て――あ、分かった! この木刀を見てたんだな!」

「は? いや、違い――」

「なんだ、そうならそうと言ってくれよ、遥斗くん、水臭いじゃないか! 君がそんなに私の木刀を欲しかったなんて。あれ、『私の木刀』って言い方、なんか卑猥だね。まったく、遥斗くんは男子中学生か!」

「はあ!? 先輩! なんでそんなに暴走してんすか! 今日卒業式なのに! やっぱりあんたは変わらねーな!」

 何なんだ、この先輩は……。思いながら、俺は笑ってしまった。やっぱり、莉奈先輩はこうでなくては。

 莉奈先輩は俺に木刀を差し出す。

「そうだよ、変わらないのが私だよ、遥斗くん! てことで、これあげるよ」

「いいですか?」

「もちろん! まあ、なんて言うのかな、こういうのあまり恥ずかしくて言いにくいんだけど、みんなの中に少しでも私の記憶が残っててくれたらなあって思ってさ。だから、あげるよ」

 珍しく顔を赤く染めながら、莉奈先輩が言った。

 みんなの中に私の記憶が、か。考えていたことは、俺たちと先輩で一緒だったみたいだ。

「分かりました。それじゃ貰っちゃいますよ? 返してほしいって言っても返しませんからね」

 俺からの返答に、莉奈先輩は嬉しそうに大きく頷いた。

「うんうん! それじゃ今度時間ができたら、私が新しい木刀を持って遥斗くんに挑みに行くよ。それまでに剣の腕を上げといておくれ」

「木刀でリアルファイトっすか。分かりました。相手になりますよ」

 俺は木刀を受け取り、先輩と笑みを交わした。

 俺たちの会話を近くで聞いていた雅たちは、ぶーっ、と頬を膨らませている。かと思えば、彼女ら三人も莉奈先輩の方に駆け寄ってきた。

「莉奈先輩、私にも何かくださいよ! 先輩とは入部当初からの長い付き合いじゃないですか!」

「わ、私の莉奈先輩の何か欲しいです!」

「え、えっと、その…………私も欲しいのですが……」

 雅・木葉・静夏の三人に言い寄られ、莉奈先輩は「えへへ、仕方ないな~」と破顔しながら、すでに限界に達していそうなビニール袋を開ける。

 その姿はさながら、クリスマスプレゼントを袋から取り出すサンタクロースのように見えた。

 うちの先輩は、大事な先輩であり、俺たちに笑顔という名のプレゼントを運んでくれるサンタなのかもしれない。

 莉奈先輩は「んとね~」と袋をガサゴソとあさり、何かを取り出す。それを雅に渡した。

「そんじゃ、みやびんにはこれをあげよう。このトラさんパーカー! ちゃんと洗ってから着てね」

「ありがとうございます。でも、どうしてこれなんですか?」

 可愛いトラのキャラクターがプリントされたパーカーを広げて、雅が問う。

「みやびんの良いところは、おしとやかで礼儀正しいところだけどさ、たまには積極的になっても良いんじゃないかなって思って。トラになれみやびん、トラになるんだ!」

 がおー、というジェスチャーをした莉奈先輩に、雅は「ありがとうございます!」と頭を下げた。

 続いて、木葉にも私物を渡す莉奈先輩。

「木葉ちゃんにはこれをあげよう。この虹の模様のメガネケース! あ、メガネは入ってないよ?」

「莉奈先輩、ありがとうございます。どうしてこれを私に?」

 莉奈先輩は鼻の下を人差し指でこする。

「へへへ、木葉ちゃんが来てからさ、萬部には色々なことがあったんだ。遥斗くんも入ったし、静夏ちゃんも入った。それに前よりも依頼が格段に多くなった。みやびんと二人だけの部活も楽しかったけど、やっぱり人数が多い方が盛り上がるよね! だから、木葉ちゃんは『萬部』と『いっぱいの楽しい』をつなげてくれた虹なんだよ!」

 木葉は若干涙ぐみながら、

「あ、ありがとうございます……」

 莉奈先輩は黙って木葉の頭を撫でた。次いで、今度は静夏へと私物を渡す。

「静夏ちゃんにはね~。これだっ! 梅干の置物! 食べられないから注意してね」

 雅・木葉はまだまともなものだったが、梅干の置物とは……。

 莉奈先輩が静夏へと渡したそれは、目測で直径十五センチほどはある大きな置物だった。

 静夏はそれを受け取り、首をかしげる。

「どうしてこれを?」

「梅干を食べたら、みんな『酸っぱい~』ってなるでしょ? その時、人はたぶん素直な状態になると思うんだよ。いつものクールな静夏ちゃんもいいけど、たまには素直なデレデレの静夏ちゃんも見たな~って思ってこれにしたの!」

「ありがとうございます。大切にしますね、先輩」

 莉奈先輩に言われた言葉に、何か思い当たることがあったのか、いつもの静夏からでは想像もできないほどの優しい笑顔で莉奈先輩に頭を下げた。

「おおお! 静夏ちゃん、それ可愛いよ! やばいよ! 今の静夏ちゃんなら、遥斗くんもイチコロだ!」

「ちょ、何言ってんすか、先輩っ!」

 俺はすぐさま突っ込みを入れる。しかし静夏は莉奈先輩に言われたとおり、俺にも優しい笑顔を向ける。

 それは、中学の時に俺が好きだった花美静夏そのものだった。あの時の記憶が蘇り、心臓の鼓動が加速し、胸が苦しくなる。

 だが、俺はすぐさま首を振ってそれを打ち消した。落ち着け、落ち着くんだ、俺。



 深呼吸をしていると、ガラガラと部室の扉が開かれる。

 俺たちの目線はそちらに向けられる。

 部室に入ってきたのは、萬部の顧問である前宮薫先生だった。

「小野から莉奈が来ているって連絡があってな」

「ああ、薫ちゃん! この前ぶりだね」

 莉奈先輩が嬉しそうに駆け寄る。

「ああ。ところで、何をしてたんだ?」

「えっとね、みんなが私の私物を欲しいって言うから、プレゼントしてたんだあ~」

「ほう。なるほど。では、私も何かもらえるかな?」

 微笑しながら、薫先生が聞いた。

「薫ちゃんにも?」

「ああ。実のところ、萬部というのは私が教師になってから初めて担当することになった部活なんだよ。そして、その部活の初めての卒業生が君だ、莉奈。だからな、私としてもその思い出を残しておきたいんだ。どうかな、莉奈?」

 莉奈先輩は恥ずかしそうに目を泳がせたあと、首を縦に振って了承した。先輩はすぐさま袋に向き直ると、またもガサゴソと漁り始める。

「よし、薫ちゃんにはこれをあげよう! はい、孫の手」

「お、おい莉奈。これで痒いところに手が届くのはアリがいたのだが……。よりにもよって孫の手か。なぜこれを選んだのだ?」

「ふふん。ええっとね、痒いところ以上に、婚期に手が届きますようにって思って」

「莉奈、お前……って! 余計なお世話だあああああっ!」

 薫先生は半泣きになりながら、莉奈先輩の身体を前後に揺すった。だが、先生のその顔はどこか清々しく、孫の手を握る先生の手はとても優しかった。



 先生も落ち着いてきたとき、雅が提案する。

「あの、みんなで写真、撮ませんか? 今のこのときを収めておきたいし」

「写真か。良いな」

 薫先生はすぐさま了承した。

「良いね良いね、写真! このメンバーで写真撮るのって初めてじゃない!?」

 盛大に興奮する莉奈先輩を薫先生がなだめる。

 だが、確かに萬部で写真を撮るのは初めてだ。今の瞬間をずっと残せるのなら、俺もそうしたい。

 俺は雅に賛同する。同じく木葉も静夏も賛同した。

「あ、しかし、小野。一体誰に撮ってもらうつもりなんだ? 今の特別棟にはおそらく私たち以外人はいないぞ? もうそろそろ時間もなくなってしまうし、どうするんだ?」

 先生が聞くと、雅は腰に手を当てた。

「私のスマホで撮ろうと思ってます」

「いや、しかし、それでは誰かが撮影をしなければ」

「何を言ってるんですか、先生。ここは萬部ですよ。割となんでも揃ってるんです」

 言うと、雅は部室の奥底から三脚を取り出した。それはスマホもセットすることができる三脚だ。

「こんなこともあろうかと、私がつい先日持ってきました」

「なるほど。今度のこの部室は、君たちの荷物で大変になりそうだな」

 そうだ。莉奈先輩が卒業してからは、俺たちがやっていかなければならないのだ。

 先輩の背中を追って、自力で歩んでいかなければならない。

 この部室を俺たちの私物でいっぱいにするくらいに、精一杯充実した部活にしなければならない。

 雅はスマホを三脚にセットし、セルフタイマーを起動させる。ピッピッピとタイマーが時を刻む。雅はすぐさま俺たちの方へ走ってきた。


 瞬間、莉奈先輩を中心とし、それを囲むように並んだ俺たちの『瞬間』をカメラが捉えた。



 莉奈先輩がいたこの時間を、俺たちは確かに残した。

 これからは俺たちだけで進まなくちゃいけない。

 俺たちも新しく羽ばたかなければいけないんだ。


 こんにちは、水崎綾人です。

 色々なことがあったせいか、やはり萬部には思い出が詰まっていました。もちろん、薫先生もそれは同じだったようです。次回はいよいよ卒後祭本番を予定しております。

 では、また次回

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