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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
最終章「隣の彼女は幼馴染み!?」
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第77話「向き合う気持ち。俺が選択するべき道」

 足早に風山から離れた俺は、もやもやとした気持ちを抱えながら神ケ谷駅の方向へ歩いていた。


 日が沈み、闇色に染まった空を照らすように街の街灯が輝いている。三月の風がまだ冷たいせいか、皆心なしか歩く速度が速いように感じる。


 コートの襟を立て、顔を埋めるものや、マフラーをぐるぐるに巻きポケットに手を突っ込みながら歩いている者などみるだけで様々な人が歩いている。


 そんな中、俺は突然声をかけられた。


「遥斗くん」


 ビクッと肩を震わせ、一驚すると、俺はすぐさま声の聞こえた方に視線を向ける。


 駅の近くということもあり、混雑する人ごみの中からその人を見つけ出すのは容易なことではなく、発見するのには時間を要した。


 しかしながら、俺はしっかりと見つけることができた。


 黒い髪を寒風になびかせ、しっかりと着込んだ白のコートが特徴的な少女が、こちらに向かって手を振っていた。手にはピンク色の手袋がはめられており、俺に向かって手を振るその表情は笑顔そのものだった。


 俺は彼女の姿を見て、ほっと息を吐いた。知っている顔で安心したのだ。


 俺は彼女――小野雅のもとへと駆け足で近づく。


「よお、雅。どうしたんだ?」


「いえ、私は新刊が出たので買いに来てたんですよ、ほら」

 そう言って、雅は右手に携えていたビニール袋を持ち上げる。


 紫色のそれは、俺も知っているアニメショップの袋だ。大きさ的に漫画本といったところだろう。


「ずっと楽しみにしてたんですよ~。最近、一年に一回くらいしか新刊がでなくなっちゃってたんで、今日という日が本当に待ち遠しかってですぅ!」

 ぐふふ、と(とろ)けた笑い声を上げながら、雅が身をくねらせた。


 こんな雅を見るのは初めてかも知れないぞ!?


「ちなみにどんな内容なんだ?」


 一応聞いてみた。


「内容ですか。そうですねぇ……簡単に言うと、イケメンたちがヒロインをほったらかしにして、男同士でくんずほぐれずをする感じの…………はっ! すみません、変なこと言っちゃって」

 急に我に返った雅は、目にも止まらぬ速さで頭を下げた。


 意外にも雅は腐女子だったのか。いや、別に意外でもなんでもなかった気もするけど。前に一緒にアニメショップに行った時とか、そんな素振りがあったし、薄々そうなんじゃないかなとは思っていた。


 雅は顔を上げると、潤んだ上目遣いで俺を見上げる。

「あ、あの……。今の、ちょっと引きました、……よね? その、男同士がどうのこうのっていうの……?」

 怯えながら問うてくる雅。


 まあ、たしかに男同士がくんずほぐれずというのは、男の俺から見れば凄まじい世界ではある。けれど、それで引くかどうかと問われれば別問題だ。


 だから俺は返答する。

「いや、別に引きやしないさ」


「…………へ?」


「人の趣味は人それぞれだしさ、ほら、俺だって女の子同士がイチャイチャしてる百合とか好きだし、お互い様だと思うぞ」


 そう、断言しよう。


 俺は百合が大好きなのだ。もう、マジで好きすぎてやばい。アニメをチェックするときは、毎クール女の子同士のイチャイチャ系のアニメがないか探すもんね。もう本当に最高。


 俺の堂々たる宣言を前に、雅は目を丸くしてフリーズした。


「あ、……遥斗くんは女の子同士がイチャイチャしてるのが好きなんですか」


 自分で口に出して言う分には良いのだが、改めて人から言われるとちょっと恥ずかしいな。

「ああ。そうだけど」


 答えると、雅は胸の前で指を遊ばせ、ちらちらと俺に何かを伺うような視線を向ける。

「も、もしかして……その……、私と木葉ちゃんのイチャイチャとか想像したりもするんですか?」

 顔を朱に染め、ぶっ飛んだ質問をひとつ。


 木葉と雅の百合だと……。


 言われた俺は、不意に想像してしまった。


 茶色い髪を優しくかきあげながら、凛々しい瞳で雅をリードする木葉。それに対して、涙ぐみながらも抵抗できない雅。意外といいかも。


 …………って、何考えてんだよ、俺! 


 俺はブンブンと全力で頭を振って、妄想を打ち消す。


「ま、まさか。俺が好きな百合は二次元だけだっての。ははは……」


 あっぶねぇ。ちょっとやばかったぞ。


 ぎこちなく笑った俺を見て、雅は安心したように微笑した。

「そうですか。私も想像されてたらちょっと恥ずかしいですし、良かったです。あ、私も一応言っておきますが、男同士のカップリングの妄想は二次元のみですよ! 断じて、遥斗くんと須藤くんのことなんて妄想してませんからね!」

 人差し指を立て、雅が一歩俺に近づく。


「そ、そうだよな。よかったよぉ~、はははは」

 つか、須藤とのカップリングとか最悪すぎるだろ。例え、妄想の中でも死にたくなる。


 俺が雅の言葉に恐怖を覚えていると、雅はコホンと咳払いをひとつ。

「ところで、遥斗くんは今お帰りですか?」


「そうだよ。これから家に帰ろうかと思ってたんだ」


「風山くんと一緒ではないんですね」

 言いながら辺りを見渡す雅。


 俺は苦笑し、雅から目を背ける。

「ああ、そうなんだ。途中で帰る方向が違うってんで別れたんだ」


「はあ、そうなんで…………あの、遥斗くん、何か誤魔化してます?」


 俺は驚き半ば、雅に視線を戻す。

「へ? 誤魔化すって何で?」


「いえ、強いて言えば、遥斗くんが何か隠すときって、大抵目をそらして苦笑いをするんで、もしかしたらそうなのかなあ、と」


「お、おう……」

 俺のことに俺以上に詳しいんじゃないだろうか、雅は。


「何かあったのなら、話してみてくれませんか? たまには頼ってみてくださいよ」


 頼ることはたしかに大切だ。俺は高校生にしてそれを改めて理解した。


 けれど、今のこのモヤモヤとした感情は雅に話して良いものだろうか。自分でも理解できないこの気持ちを。


 でも、例え解決できなくても、誰かに話すことで楽になることもあるかもしれない。それだけでも、雅が差し伸べてくれた手を取るだけの理由になるのではないだろうか。


「み、雅――」


 言った瞬間、手袋のはめられた手で口を塞がれた。


 手袋からは甘い香りと、ほのかな温かみが伝わってきた。


「ここでは雑音も大きいので、場所、変えましょ」




     ***




 そう言われてやってきたのは、以前梨恋ちゃんと再会したあの公園だった。


 駅と学校の両方から近いということもあり、雅はここを選んだのだろう。住宅街でもあるため、車の走る音や大きな声で会話する人の姿もあまり見られない。


 夜の公園は異質なほどに森閑としていた。昼間に見る景色とは全く違い、ただ生えている木でさえどこか恐怖を誘う様相をしていると思えてしまう。


 公園の中央にある一本の太い電灯だけが、公園をうっすらと照らしている。


 俺と雅はシーソーの近くにある木製のベンチに腰掛ける。すっかり冷え切ったそのベンチに座ったせいで、俺の尻がきゅんと引き締まった。うわっ、冷てぇな……。


 ふと隣を見るが、雅は別段そんな印象は見せていなかった。いつもどおり、何食わぬ顔で冷えたベンチに腰を下ろしている。


 雅は白く濁った息を一つ吐くと、俺を見る。


 俺と雅の視線がぶつかった。


 瞬間、照れくささが襲い、雅から顔を背ける。それは雅も同じだったようで、彼女もまた俺から顔を逸らした。


「あ、あの、遥斗くん。それで、悩み事というのは……」


「ああ、そのことだよな、うん」


 俺は呼吸を整え、頭の中を整理する。あまり個人を特定されないように話そう。

「実はさ、今日風山と話しててさ、ちょっと自分の中で気になることがあったんだ」


「気になること、ですか?」


「そうだ。抽象的な言い方になるかもしれないけれどさ、普段は何気なく思ってたことが、いざ誰かに取られてしまいそうになると、どうしようもなく苦しく感じたんだ。ましてや、その理由が自己中心的なものだったりすると尚更」


 雅は顎に人差し指を当て、小首をかしげる。

「う~ん……。本当に抽象的すぎてわかりかねますね……。けれど、誰かに取られそうになったら、苦しく感じるっていうのは普通のことなんじゃないですか?」


「じゃあさ、その対象が例えば物じゃなくて人なら、どうだ?」


「人……ですか」

 眉をぴくりと動かし、雅は考える。


 そして、その口を動かした。

「それでも、やっぱり苦しくなるんじゃないですかね。普段は何気なく思っていても、誰かに取られそうになれば苦しくなる。それは物でも人でも当てはまると思いますよ。だって、何気なく思えるっていうのは、それとの距離が近いからじゃないですか。距離が近いっていうことは、安心にもつながると思います。だから、誰かに取られたりしたら苦しくなると、私は思います」


 ぎこちなく笑いながら、彼女はそう言った。


「そう……か。なるほどな」

 はたして、俺の中にあるこの感情が、雅の指すそれと同じなのかは分からない。でも、木葉(このは)の存在が当たり前で、尚且つ安心するというのは間違いではないように思えた。


「あの、遥斗くん。私から、ひとつ質問をしても良いですか?」


「ああ、構わないけど」


 雅は胸の前で手を握り、上目遣いで俺を見る。


「その……先ほど遥斗くんの言葉を聞いていて思ったのですが、私は……私は遥斗くんの言う『何気ない存在』に入っていますか?」


「へ……?」


 思いもよらない質問に、当惑する俺。



「失うのは嫌だなと、わずかでも思いますか?」



「そ、それは……。当たり前だ。雅だって大切だよ」

 俺は優しく笑い、そう告げた。


 雅は嬉しそうに微笑むと、俺の胸に額をトンと置いた。


 いきなりの行動に、俺はわかりやすくたじろぐ。

「お、およよよ、み、雅さん!? い、いいい一体どうしたんだ?」


「いえ、ただ嬉しかっただけです。遥斗くんにそう言ってもらえて」

 その声音は非常に穏やかなものだった。


 俺はたしかに雅のことも大切だと言った。


 しかし、それは部員であり、仲間であり、友人だから。それ以上の感情がないわけでもない。自分でも中途半端で嫌になる。


 雅の笑顔を見るだけで安心するし、心にも余裕が生まれたような気にもなる。それに何より、雅が笑うと俺も嬉しい。


 これは以前から感じていたものだ。


 けれど、バレンタインの日に雅の気持ちを聞いて以来、さらにそれが加速した。


 それはおそらく、彼女の気持ちを知っているという奢りから来ているのだと思う。


 できることなら誰も悲しませたくない道を選びたいがために、本心だけれど本音とはまた別の甘い言葉を吐いてしまう。


 俺のこれはやはり、『優しさ』ではなく『甘さ』なのかもしれない。


 河橋さんは、感じ方は人によって多種多様でありひとつの解答はないと言っていた。


 だがしかし、俺から見た俺自身は、やはりただ『甘い』だけのように思える。


 彼女たちの気持ちを知っているからこそ、俺はそれに甘えているだけに過ぎないのだろう。


 ならば、やはり向き合うしかない。


 自分の気持ちに。


 素直な気持ちに。


 止まっているだけでは進むことはできない。


 動かなければこのまま静止して死ぬだけだ。


 


 彼女らの気持ちに答えよう。そして答えを出そう。




 俺が誰を選ぶのか。




 それとも誰も選ばずにこのまま時が過ぎるのを待つのか。





 俺の目の前にある道はそれしかない。




 こんにちは、水崎綾人です。

 今回は遥斗が本格的に答えを出すことを決めました。今までは静夏や雅たちから答えは卒後祭が終わってからでいいと言われ、それに従ってきましたが、自分の意思で決めるのは今回が初となります。

 最初の頃に比べて成長したと思える遥斗くんですが、今後どういった答えを出すのでしょうか。

 では、また次回。

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