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隣の彼女は幼馴染み!?  作者: 水崎綾人
最終章「隣の彼女は幼馴染み!?」
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第75話「手にした仲間と支払う対価」

「ほう、奥仲が協力を頼んだのは彼らか」


 しばらくすると、須藤と柏崎が会議室にやってきた。


 二人とも急いできてくれたようで、わずかに息が上がっている。俺が頼んだだけでここまでしてくれるなんて、ちょっとばかり嬉しさで涙がこぼれそうになった。


 薫先生は彼らを見ると、よし、とひとつ息を吐き、今現在陥っている状況を簡単に説明し始めた。


 たびたび面倒くさそうな表情をしていた彼らだが、何も言わずに最後まで説明を聞いていた。


 改めて薫先生が問う。

「それでどうだろう。君たちは本当に手伝ってくれるのかな? 正直、途中でバックれるようなことがあると困るので、そこははっきりとさせておきたいんだが」


 数秒間沈黙したあと、最初に口を開いたのは須藤だった。

「ま、珍しく遥斗が頼んできたんで、引き受けますよ、その仕事」


 続いて柏崎も発言する。

「俺もっすわ。兄貴の頼みなんで断れないっての」


 柏崎の口にした『兄貴』という単語に疑問を覚えたのか、会議室にいた全員の視線が俺の方に向けられる。


 俺は首をぶんぶんと左右に振り、身に覚えがないことをアピール。いや、本当は身に覚えあるんだけどさ。つか、兄貴って呼ぶのやめろって言ってんのに、言うこと聞かないんだよなあ、あいつ。もしかして俺のこと馬鹿にしてる?


 先生は彼らの返答を聞くと、ニコリと笑った。

「そうか。ならば助かるよ。それじゃあ早速で悪いが、仕事を割り振る。なにぶん期限が近づいているからかな」


 そう。


 卒後祭本番までは今日を含めて残り九日。しかし、卒後祭本番ギリギリまでに仕事を終わらせれば良いというものではない。


 実行スタッフの仕事は、卒後祭が行われる前には完遂されていなければならないのだ。そのため、俺たちに残された時間は非常に少ない。


「一番最初に片付けなければいけないのは、明後日までに教頭に提出しなければいけない卒後祭にかかった費用の報告書の作成だ。今日のところは下校時間まで全員でこれに取り掛かってもらう。だが、明日からは君たちをさらに分けて仕事を分担する。それはまた明日話すから、今は下校時間まで報告書の作成にあたってくれ」

 言われて、俺はちらと時計を見る。


 時計は十七時を回っていた。この学校の下校時間は十八時。ロスのないように頑張ったとしても仕事ができる時間は一時間もない。


 だが、そんなことを考えている時間もない。手を動かさなければ終わる仕事も終わらないというものだ。


 コの字型に並べられた会議室の長机の上には、今まで実行スタッフが使っていたパソコンがそのまま置かれている。


 俺は仕事を始めようと、眼前に置かれているパソコンに手を伸ばした。と、その時だった。


 薫先生が俺を呼ぶ声が聞こえた。

「奥仲。ちょっといいか?」

 見れば、先生はこっちに来いと言わんばかりに手招きをしている。


 はて。俺は先生に呼ばれるようなことをしたかしら? 瞬時に脳内で検索をかける。しかし、何もヒットしない。


 心当たりがないのに先生に呼ばれるとか怖すぎ。やだっ、怖い!


 などと心中で思っていても、呼ばれているのに無視するほど俺のメンタルは強くないので、怯えながらも先生の方へと足を向ける。


 教卓の椅子に座っていた薫先生は俺が近寄ると、廊下へと足を進めた。俺もその背中についていく。

「あの、先生。何か用ですか? 俺も仕事をしないと……」


「まあ聞け」

 そう言うと、薫先生はスーツの胸ポケットに手を入れる。しかし、豊満な胸のせいで胸が邪魔をして、胸ポケットに手を入れにくそうだ。


 俺は思わず照れくさくなり、視線を背ける。

「ん? どうした奥仲、急に目をそらして。…………はっは~ん、わかったぞ、奥仲。私の胸にドキッとしたのだろう?」


 悪戯な笑みを浮かべ、半眼で俺のことを凝視する薫先生。


 先生の言っていることは図星なのだが、ここで「はい、そうです!」と笑顔で言えるほど俺は素直な性格ではないと自負している。


 俺は平然を装い、鼻の下を人差し指で軽くこする。

「べ、べべ別にそんなことないですよ。たしかに先生の胸は木葉たちより大きくて魅力的だとは思いますけど、アラサーの胸で興奮だなんてそんな――」

 次の言葉を吐き出そうとした瞬間、俺のつま先が地面から離れ、身体が宙に浮いた。何の比喩でもなく本当に浮いていた。


 俺の胸ぐらを先生が掴み、そのまま持ち上げていたのだ。


 薫先生の妖艶であり、それでいて端正な顔がぐっと近づけられる。しかし、その面様は笑顔ではない。眉間に皺の寄った鬼のような顔だった。


「……奥仲。貴様、今。アラサーと言ったな」


 声音に含まれた怒気に、俺は確かな恐怖を感じる。


「……はひぃ」

 あまりの恐怖に声が出なかった。うわやべぇ、マジで怖ぇ……。


「女性に年齢のことをいうのは失礼だということを知らないのか?」


「あえ、えっと……っ」


「それに私はまだ二十八だ。アラサーだと? 二年も猶予があるのにアラサーか? 否、私はアラサーではない。いいか、奥仲」


 有無を言わせぬ瞳で睨めつけられ、俺は無意識のうちに首を縦に振っていた。


「そ、そうですね……」


 すると、先生は胸ぐらを掴んでいた手をぱっと離した。同時に、俺の身体に重力が戻り、足が再び地面と接する。


 先生はにこやかなに微笑むと、

「よし。奥仲は理解が早くて助かる。そうだ、私はまだアラサーじゃない。では、奥仲繰り返してみろ。リピートアフターミー、『前宮薫はアラサーじゃない』セイ」


 な、何を言ってるんだこの人。


 俺が抱いた一番最初の感想だった。


 繰り返さずに固まっていると、先生の鋭い眼光が俺を捉えた。繰り返さなければ命はなさそうだ。


 俺は渋々口を開く。

「ま、前宮薫はアラサーじゃない。……これでいいすか?」


「うむ。上出来だ。私はまだアラサーじゃない。そのことをくれぐれも忘れないように」


「は、はあ……」


 結局なんで俺は呼び出されたんだ?


 そんな疑問を抱えていると、薫先生は閑話休題とばかりに話を戻す。

「そうだ。こんな話をするために呼び出したのではない。これだこれ」

 と呟き、先生は再び窮屈そうな胸ポケットに手を伸ばす。取り出されたのは、一枚のメモ用紙だった。先生はそれを俺に差し出す。


「なんですか、これ?」


「河橋の電話番号だ」


「はい? なんで俺にそんなものを!?」


「実はな、これは河橋の希望でもあるんだ。本当なら私から進捗報告をしようと思ったのだが、河橋本人が君から進捗報告を聞きたいと言ってきたのだ」


 河橋さんが俺から……? でもどうして?


「なんでも、ここ数日一緒に仕事をしてきて、一番頼りやすいから、だそうだ。というわけで、河橋は君宛に電話番号のメモ書きを残しんたんだ。今日仕事が終わったら、あまり遅くならないうちに河橋に進捗を報告するように」


 俺は分かりました、と頷きながらメモ用紙を受け取る。


 しかし疑問がある。

「あの、河橋さんって体調不良なのに電話で良いんですか? メールとかの方が良いんじゃ?」

「私も同意見だ。しかしな、これも河橋の希望でもあるんだ。メールの文面で確認するよりも、電話で直接聞きたいらしい」


「そうなんですか。分かりました。連絡しておきます」


 俺はもらったメモ用紙をポケットに入れる。普段なら、女の子の連絡先をもらえば嬉しさで飛び跳ねそうになるものだが、状況が状況のために喜ぶこともできない。


 俺はくるりと踵を返し、会議室へ戻った。


 会議室内では、みんな真剣な顔で作業をしていた。それほどまで卒後祭を成功させたいのだ。河橋さんのためにも、卒業する先輩のためにも。


 俺もその輪の中に入り、仕事に取り組む。

 



 キーボードを叩くこと一時間。


 下校時間になってしまったため、やむなく作業は打ち切りになってしまった。しかしながら、人数が増えたということもあり、だいぶ進んだだろう。これならば、明後日までに提出しなければならない報告書は、期限内に完成できそうだ。


 薫先生に早く帰るように促され、俺たちは足早に学校を出る。


 風山とは玄関まで一緒だったが、部室に顔を出したいということで、途中で別れた。


 俺たち萬部と須藤、柏崎の六人で校門まで歩いていると、ふと人影が見えた。膝上十五センチほどのスカートに、マフラーを羽織った人影だ。


 よく目を凝らしてみると、その人影には見覚えがあった。


 カールされた茶髪に、お姫様のような高貴さがある僅かにつり上がった瞳、身体から溢れ出す上品さ。あれは――。


「あれ、美々香じゃん、どうしたんだよ」


 須藤が人影の正体を口にした。


 おう……やっぱり、美々香さんですか。須藤の彼女こと実山美々香さんですか。


 実山さんは、乙女らしい笑顔で須藤の質問に答える。

「須藤くんを待っていたんですわ」


「帰ってもいいって言っただろ? 無理して待ってなくても良かったのに」

 言うと、美々香さんは人を殺せそうなほど鋭い瞳で俺を睨めつける。

「誰かさんにデートを邪魔されたんですもの、そのお礼はしっかりしなくてはと思いまして」


 なんでこっち見るんだよ。怖ぇよ。こっち見んなよ!


 実際に口に出して言う勇気はないので、胸の中で思いっきり叫んだ。


 実山さんは肩から下げているカバンに手を突っ込みながら、俺に近づいてくる。な、なんでこっちに近づいて来るんだ……!?


 歩み寄ってくる実山さんに従って後ろに退く俺。


「なんで逃げるんですの、奥仲くん」


 異様な雰囲気に包まれた笑顔を向けられる。その笑みが俺の心に恐怖心を募らせる。


「何でってそりゃ実山さんが近づいて来るからだろ。……つか、この前は俺のことフルネームで呼んでませんでしたっけ!?」


 可愛らしく首をかしげる実山さん。


「はて、そうでしたっけ? 覚えてませんわねぇ」

 言いながら、カバンの中から素早く手を引き抜いた。かと思えば、カバンから取り出したモノを俺の鼻の穴へと差し込む。


 それがワサビのチューブだということに気づくのに、少々の時間を要した。


「ちょ、ちょ……実山しゃん……。これは一体……」


「ですから言ったではないですか。デートの邪魔をしたお礼をすると――」


 瞬間、実山さんはワサビのチューブを目一杯の力で握った。俺の鼻にワサビの塊が入ってくる。




「ぬがががががががががががががああああああああああああああああああっ!」



 今までに体験したことのない激痛が俺を襲う。


 ていうか、もはや痛みなのかすらもわからなかった。この感覚はなんだ!? 


 けれど、ひとつだけ分かることがある。それは、このままでは死ぬかもしれないということだ。


 俺はその場に倒れ、痛覚と判別していいのかすら怪しい刺激に耐えるために必死にもがく。


 そんな俺に、須藤は聞いてくる。

「な、最初はきついけど、ちょっとすると気持ちよくなるだろ?」


 何言ってんだ、こいつ! 俺の数少ない友人はとんだど変態だ。


「んなわけねぇええええええだろおおおおおおおおっ!」

 悲鳴にも似た俺の絶叫は、下校時間を迎えた校舎に響いた。


 俺はもがき苦しみながら、ひとつのことを学習した。

 誰かを頼ることは大事だし、必要なことだが、実山さんは怖い。


「ふう、これでお礼は済みました。すっきりですわ!」


 そうかい。そりゃ良かったな……。


 こんにちは、水崎綾人です。

 連日更新を目指しているのですが、なかなかそうはいかなくてすみません。

 なるべく毎日更新するように心がけますので、これからもよろしくお願いします。

 では、また次回

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